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分圧とは?〜意外と単純なドルトン分圧の法則〜

基礎知識

ダイビングライセンスのお勉強では、物理学のお話がしばしば登場します。

ライセンス:正式名称はCカード(certification card)ですが、一般的に通りが良いライセンスという表現を使用しています

物理学とは中学生以来仲違いをしたという方もいらっしゃるかもしれませんね。
フレミング左手の法則だけは、詳細は覚えていなくとも存在だけは印象に残っている方も多いのでは。

それにしても、フレミングだけでなく、パスカルにアルキメデス、ボイルにシャルルにアモントン、物理学には人の名前がついた法則が多数登場します。
変な法則見つけるなよ……そうやって恨んだ経験があるかもしれませんね。

とはいえ彼らが物理学の基本的な法則を発見してくれたからこそ、今日の宇宙開発の様な超巨大プロジェクトが実現できています。
そして、彼らが物理学の基本的な法則を発見してくれたからこそ、僕らは安全にダイビングを楽しむことができると言っても良いでしょう。

今回ご紹介するのはドルトン(ダルトン)分圧の法則です。
また知らない人の名前が出てきたからといってアレルギー反応を起こさないで下さいね。

法則の内容を理解していれば名前まで覚える必要はないと思いますが、プロレベルのテストなどでは名前を問われることもあるので、念のため名前もご紹介しておきます。
ちなみに、ドルトンなのか、ダルトンなのか、発見者John Daltonをどう発音するかという問題なので、どちらでも構いませんが、一般的にはドルトンと表記することの方が多い様です。

このドルトン分圧の法則、法則というからには何やら大袈裟なものかと思ってしまいますが、実はいたって簡単。
数ある法則の中で最も簡単と言っても過言ではないので、気負わずに見て行きましょう。

なぜ重要なの?

物理の授業が退屈なのは、こんなこと勉強して何になるの?と思ってしまうからですよね。
先に明確にしておきましょう。

分圧の法則を知ることで……

酸素中毒にならずに済む
スキンダイビング(素潜り)時に失神せずに済む

様になります。

両方とも、嫌ですよね?

もちろん知っているだけで防ぐことはできませんが、今回学ぶことを活かせば、両者とも防ぐことができるようになります。
そう、分圧の法則は、いたって簡単な法則である一方で、安全にスキューバダイビングやスキンダイビングを楽しむうえで、非常に重要な法則なんですね。

分圧とは

はじめに、分圧についてご説明します。

陸上では空気、水中では水など、我々を取り囲んでいる物質には、圧力という力が存在します。
普段我々が生活している場所では1気圧という力が空気の圧力として働き、我々は常にその力で押されています。
具体的には、1気圧は約1013hPa(ヘクトパスカル)、これはざっくり言うと、1㎠あたり1kgの力で押す力、つまり、我々は知らず知らずのうちに、1㎠あたり1kgの力で押されながら生きていることになります。

そして、水深が深くなればなるほど水圧によって我々の身体にかかる圧力が増すことは、ダイバーの基礎中の基礎ですね。

さて、空気は「空気」という物質ではなく、様々な物質が混ざりあった混合気体です。
その割合は、窒素が約78%、酸素が約21%、残り1%に二酸化炭素やアルゴンなど、様々な気体が混ざっています。
空気の組成について忘れてしまったという方はこちらから。

この空気から、ある物質、例えば酸素だけを取り出した場合の圧力を、その物質の分圧と言います。
酸素の分圧なので酸素分圧、窒素の分圧であれば窒素分圧とも呼びます。

尚、混合気体の圧力、地上の空気であれば1気圧のことを、全圧と呼びます。

ドルトン分圧の法則とは

ドルトン分圧の法則は、ある物質の分圧がどれほどになるのかを求めることが出来る法則です。

どれほど複雑な法則かというと…

全圧=分圧の和

空気であれば酸素分圧+窒素分圧+アルゴン分圧+……と、全ての物質の分圧を足したものが、全圧です。

厳密には、理想気体において成り立つ法則。(理想気体が何かということについては専門的になるので割愛します。)

当たり前だろう、って?
直感的には当たり前と思ってしまいますが、科学の世界は証明があってこそ真実らしいと認められるもの。

ドルトンがこのことを証明したために、仰々しくもドルトンの法則と名付けられています。

実際に分圧のことを考える際には、分圧を足したものが全圧、という使い方は、あまりしません。
分圧を足したものが全圧であれば、ある物質の分圧は以下の様に表すことができます。

分圧=全圧×その物質の存在割合

これも、直感的に理解出来るのではないでしょうか。

例えば、地上での空気の圧力は1気圧。
酸素分圧は1気圧×0.21で0.21気圧です。

なぜ分圧が重要なの?

物質には様々な性質があり、酸素には酸素の特有の性質が、窒素には窒素特有の性質があります。
そして、この性質についてを考える際、その物質の分圧をもとに考えて行く必要があります。

ダイビングにおいて分圧が登場する主なシーンは3つです。

エンリッチドエア(ナイトロックス)

エンリッチドエアは、酸素濃度を高めた空気です。
正確に言えば、酸素濃度を高めている時点で空気ではないので、酸素濃度を高めたガスですが……。

水中で圧縮空気(ガス)を吸うと、体内に窒素が蓄積します。
窒素を蓄積し過ぎてしまうと、減圧症を引き起こす可能性が高まります。

体内にどれだけ窒素が蓄積するかは、窒素分圧が影響しています。
そこで、窒素分圧を下げる=窒素を減らすために生み出されたものがエンリッチドエアです。

ちなみに、酸素が多いということからエンリッチドエアには誤解がある部分もあります。

酸素中毒

エンリッチドエアにも関わりますが、水中で圧縮空気(ガス)を吸うと、酸素が毒性を帯びる危険性があります。
これには酸素分圧が影響しています。

酸素中毒は酸素によって意識障害やけいれん、最悪の場合死に至る中毒で、酸素分圧の高いガスを吸うことで発症します。
そのため、酸素分圧は1.4気圧まで、どんな場合であっても1.6気圧までにすることが必要とされます。

通常の空気であれば水面での酸素分圧は約0.21気圧。
水深40mでも5気圧×0.21で1.05気圧です。

しかし、エンリッチドエア、例えば一般的に利用されている酸素濃度32%のものであれば水深40mでは5気圧×0.32で1.6気圧。
アウトです。

この様に、エンリッチドエアを使用する場合には、最大水深について通常よりも浅いところまでしか潜ることができなくなります。
同様に、もちろん正しいトレーニングなしにはあってはならないことですが、通常の空気であっても、水深57mまで潜降すると、6.7気圧×0.21で酸素分圧が1.4気圧に達し、酸素中毒の危険性が出てきます。

ハイパーベンチレーション

厳密にはスクーバダイビングでなくスキンダイビング(素潜り)でのお話ですが、息を止めていられる時間を延ばすテクニックに、ハイパーベンチレーションというものがあります。
ハイパーベンチレーションを行ってスキンダイビングを行うと意識喪失を引き起こしてしまう可能性があるため、原則的に行ってはいけない、悪魔のテクニックです。

なぜハイパーベンチレーションを行うと意識喪失を引き起こすかと言うと、人間が苦しいと思うことには二酸化炭素分圧が関係している一方、意識を保つためには酸素分圧が関係しているという点が関係しています。
詳細はハイパーベンチレーションについての解説からどうぞ。

おわりに

分圧の法則は、その他の法則に比べても直感的に理解することができることがお分かり頂けたのではないでしょうか。
比較的簡単な法則である一方、重要な法則だという事も分かりましたね。

呼吸に関係する法則ですが、空気は無味無臭。
酸素分圧の上昇や二酸化炭素分圧の上昇を五感で感じることはできません。

だからといって、何も考えずに呼吸を行っていると様々なリスクを引き起こします。

空気であっても水中では特殊なガスと言えます。
そんな特殊なガスを吸って活動するダイビングを安全に行うために、分圧の法則を正しく理解しておきましょうね。

どうしても気になった方へ

冒頭で

フレミングだけでなく、パスカルにアルキメデス、ボイルにシャルルにアモントン

と様々な物理法則に触れました。
これらについて気になってしまった方のために、簡単に触れて終わりたいと思います。

フレミング左手の法則

電気と磁力の話です。
ダイビングには関係ありません。(笑)

フレミング右手の法則

左手の法則の方が圧倒的に有名ですが、右手の法則もあります。
電気と磁力の話です。
ダイビングには関係ありません。(笑)

パスカルの原理

密閉容器の中に液体や気体などの流体が入っていた場合、その圧力はどの部分で観測しても同じであるという原理です。
ちなみに、圧力の単位であるPa(パスカル)も、同じ人の名前にちなんでいます。

アルキメデスの原理

浮力の仕組みを説明した原理です。
ダイビングにも深く関わっていますね。

ボイルの法則

温度が一定の場合、気体の圧力と体積は反比例することを示した法則です。
深く潜れば空気は圧縮され、浮上すれば空気は膨張することはボイルの法則で説明できます。

次のシャルルの法則と併せて、ボイル・シャルルの法則として紹介されることもあります。

シャルルの法則

圧力が一定の場合、気体の温度と体積が比例することを示した法則です。
熱気球が膨らむことは、シャルルの法則で説明できます。

ダイビングとの関わりでは、プロレベルになると、温度まで考慮に入れた問題が出てくるため、使用する機会が出てきます。

尚、ドルトンか、ダルトンか、の様に発音の問題で、シャールの法則と呼ばれることもあります。

アモントンの法則

体積が一定の場合、気体の温度と圧力が比例することを示した法則です。
タンク(シリンダー)のバルブを勢いよく開放したとき、バルブ付近は非常に冷たくなりますが、この現象はアモントンの法則で説明できます。

ゲイ=リュサックの法則(第2法則)とも呼ばれるほか、ボイル・シャルルの法則からも導かれることから、現在国内の教科書などで見かけることはあまりありません。

なぜかダイビングの教材には登場することもありますが……

ちなみに、摩擦に関する法則についても同じアモントンさんにちなんでアモントンの法則(アモントン・クーロンの法則)と呼ばれています。

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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