【やりすぎ厳禁】ハイパーベンチレーションとは?
ハイパーベンチレーション。
なんだかかっこいい響きですよね。
ハイパーベンチレーショーーーンッ!
とか言いながらベンチプレスを上げたら、いつもより10kgぐらい多く上げられそう。(笑)「あ、歌にある!」と思った方、RADWIMPSファンですね?
ちなみにRADWIMPSのハイパーベンチレイションは、「携帯電話」というアルバムの中に収録されていますね。
RADWIMPSはさておき。
ダイビングにおいて、ハイパーベンチレーションは、正しく意味を理解しておかないと危険な場合もあるのでしっかりと覚えておきましょう!
ハイパーベンチレーションを英語で書くとHyper Ventilation。
Hyperは、超●●や、過度に、という意味があります。
Ventilationは換気という意味です。
つまり、ハイパーベンチレーションとは、直訳すると「過換気」という意味になります。
似たような言葉に「過呼吸」というものもありますが、こちらは強いストレスを受けた時に、自らの意識とは関係なく浅く早い呼吸になってしまうことです。
ハイパーベンチレーションは、自らの意思で、通常以上に体内の換気を行うことです。
しっかりとした換気と言うと、真っ先に思いつくのが深呼吸ですが、深呼吸をするときはゆっくりと行いますよね。
この深呼吸を素早く何度も行うことがハイパーベンチレーションだと思ってもらってOKです。
どんな時に使うの?
ではハイパーベンチレーションは、どんな時に使うのでしょうか?
それは、スキンダイビング(素潜り)の時です。
スキンダイビングは当然息を止めて行います。
少しでも長く水中にいるためには、長い時間息ごらえをする必要がありますよね。
実はハイパーベンチレーションは、それだけで息ごらえの時間を長くする、魔法の方法なのです!
でも、だからと言って嬉々として使ってはいけません。
魔法には代償がつきもの。
ハイパーベンチレーションのやり過ぎは、意識障害や意識喪失を招くので、注意が必要です。
息が長く続く仕組み
ではなぜハイパーベンチレーションによって息を止めていられる時間を延ばすことが出来るのでしょうか?
実はハイパーベンチレーションは、
息を止めていられる時間を延ばす
のではなく、
苦しいと感じるのを遅くする
だけなのです。
これには人間が”苦しい”と感じる仕組みが深く関係しています。
では、人間が”苦しい”と感じるのはどんな時でしょう?
脳が「酸素が足りない」と感じて「苦しいから呼吸しなさい」という指令を出していると思いますよね。
実は、違います。
脳が”苦しい”と感じるのは、
体内に酸素が足りないとき
ではなく、
体内の二酸化炭素が多いとき
なんです!
息を吸い込むと、身体の中に酸素が取り込まれます。
呼吸をしていてもしていなくても、身体は酸素を消費し、二酸化炭素を生み出します。呼吸をしていれば、常に二酸化炭素を排出し続けるので苦しいとは感じません。
しかし、息を止めていると、身体の中に二酸化炭素が蓄積し、この時に脳は”苦しい”と思うのです。
ハイパーベンチレーションで何をしているかと言うと、身体に残った二酸化炭素を出来るだけ吐き出そうとしています。
息を止めた時点での、身体の中の二酸化炭素の量を減らすことで、苦しいと思い始めるまでの時間を長くする→長く潜って居られる、のです。
苦しいと思い始めるまでの時間を人為的に延ばしているので、逆に言うと、苦しいと思い始めた時には普段苦しいと思った時以上に酸素が不足している状態です。
なんだかドーピングの様な、危険な香りがしてきましたよね??
意識喪失を引き起こす仕組み
ドーピングには様々な代償がありますが、ハイパーベンチレーションによる代償は意識喪失(障害)です。
実は、水中で活動している間に意識喪失を引き起こすことはあまり無いのですが、だからと言って安心して浮上をすると、水面付近で突然意識を失ってしまうのです。
意識喪失、つまりは脳の酸素不足が限度を超えた状態です。
先に説明した通り、ハイパーベンチレーションは”苦しい”と思うまでの時間を人為的に延ばしているので、脳の酸素不足に気づきづらくなってしまいます。
だから気づかずに限度を越え、意識喪失を引き起こす、というのは理解できるかと思うのですが、ではなぜ水中では無く水面で意識喪失を引き起こすのでしょう?
これは、脳に意識障害を引き起こす原因として、酸素の量ではなく圧力が影響していることが原因です。
空気(ある気体)の中の、特定の物質の圧力を分圧と言います。
この分圧はその物質の存在比率に比例するので、例えば陸上(1気圧)の空気中では
酸素分圧:約0.21気圧
窒素分圧:約0.78気圧
二酸化炭素分圧:0.0004気圧
です。
※空気の組成がわからない!という方はこちら!
水深10m、2気圧の場合、空気を構成する物質の分圧は
酸素分圧:約0.42気圧
窒素分圧:約1.56気圧
二酸化炭素分圧:約0.0008気圧
です。(※タンクの中の空気です。肺の中の空気は酸素を消費しているのでこれとは異なる数値となります。)
ハイパーベンチレーションによって、苦しいと思うのが本来よりも遅れた時、それは水中なので水圧によって酸素分圧は比較的高い状態です。
しかし、苦しいと思って浮上を開始すると、水深が浅くなるのに伴って水圧は減少、酸素分圧も同時に減少し、水面付近で限界を超える、というわけです。
先程の図をもう一度見てみましょう。
これは、周囲の圧力が一定の場合を示していると言えます。
これに、スキンダイビングによる水圧の変化も加味すると……。
この、浅い所で意識喪失を起こしてしまうことを
シャローウォーターブラックアウト
と言います。
ハイパーベンチレーションのルール
ここまでご説明した通りの危険性があるため、各指導団体はスキンダイビングの際
『過度なハイパーベンチレーションは、行ってはいけない』
と定めています。
過度、と言われても具体的な回数とかは……と思いますが、そもそもリスクが高いので、具体的な回数を示して、その回数で事故が起きてしまった場合に責任追及されることを避けるため、この様な表現になっているものと思われます。
基本的にはハイパーベンチレーションは行わない方が賢明と言えるでしょう。
実際に、フリーダイビングの世界では、明確に禁止されているのだとか。
それでもどうしても、どうしても気になった場合は、陸で試してみましょう。陸でも十分に実感できます。
陸上であれば、周囲の圧力の変化が無いことに加え、万が一何か起きてもすぐに呼吸を再開できるので、水中よりは安全と言えるでしょう。
そして、どうしても、どうしても、どうしても、どうしても、スキンダイビングで試してみたいと思ったとしても、3回程度までに留めておくことをお勧めします。
ここまで読んで頂いた方は充分に理解していると思いますが、リスクが高いので、絶対に自己責任でお願いしますね。
3回だけハイパーベンチレーションしたらブラックアウトした、と言われても、一切責任は負えませんのであらかじめご了承くださいませ……。
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