【勘違い】ナイトロックス(エンリッチドエア)は酸素が多いから身体に良い??
近年、日本国内でも様々なダイビングスポットで導入が進んでいるナイトロックス。
エンリッチド・エアと呼ばれることもありますね。
ざっくり言うと
通常よりも酸素が濃い空気
です。
酸素濃度が違ったら、もはやそれは空気では無い、というツッコミはナシでお願いします(笑)
さて、酸素濃度が高い、と言われるとなんだか高級な気がして、それが良いことの様に聞こえてしまいますが実はそれ、大きな勘違いなんです!
ナイトロックスの功労者は酸素では無い?
そもそもナイトロックスは、少しでも水中に居られる時間を長くしたい、という想いから誕生した発明です。(証拠はありませんがきっとそうでしょう笑)
長くというのは、タンク(シリンダー)の中の空気の量の話ではありません。
ダイビングを行うと体内に窒素が蓄積し、一定量を超えてそのまま浮上してしまうと減圧症を発症してしまうので、タンクの中の空気に余裕があったとしても、潜っていられる時間は制限されます。
しかし、ナイトロックスを使用することによって、同じ水深であれば空気よりも長い時間潜っていることが可能です。
ただし酸素中毒の危険性が増すため、潜水可能な最大水深は空気に軍配が上がります。
勘違い① 酸素が多いから長く潜っていられる
息を止めれば苦しくなる、それは酸素が足りないから。
そんな発想から酸素濃度が高いために潜水時間が長くなる、と思ってしまいますがこれは誤り。
息を止めたときに苦しくなるのは、酸素では無く二酸化炭素が深く関わっています。
また、吐いた息にも酸素が含まれることからもわかる様に、通常の空気を呼吸している時にも、空気中の酸素を全て使い切ることはできません。
酸素濃度が高くなったからといって、使い切ることのできる酸素量が変わるわけではないので、酸素が多いから長く潜れるという話では無いのです。
そもそも、長い、短いは息が苦しいかどうかの話ではなく、窒素に関係しての話でしたよね。
そう、ナイトロックスで潜水時間を長くできるのは、窒素が少ないことに起因します。
つまり、ナイトロックスは、
×酸素を増やしたい
○窒素を減らしたい
という発想で作られています。
窒素を減らすためには、その分、他の気体を混ぜる必要があります。
窒素を減らせればなんでも良かったわけですが、当然、人体に悪影響が無いものでなくてはいけません。
また、窒素以外の気体に関しても体内に溶け込むと減圧症の原因となり得ます。
例えばテクニカルダイビングの世界ではヘリウムガスを使用することがありますが、ヘリウムも減圧症の原因となるため、減圧理論に基づいて体内に溶け込む量を計算しながら潜ります。
つまり、人体で消費される気体でなくてはいけません。
体内に溶け込むのではなく消費され、人体に悪影響が無い、ということで、酸素を増やす以外の選択肢は無さそうですよね。
ちなみに、実際の製法としては酸素を付加する方法だけでなく、窒素を抜いて製造する場合もあります。
勘違い② 酸素が多いから身体に良い
ナイトロックスのメリットとして、
疲れづらい
というものが挙げられることがよくあります。
確かに、スポーツ選手が酸素カプセルに入って怪我の治りや疲労回復を促進する、みたいな話を聞きますよね。
ナイトロックスでも同様の効果が期待できる、と言われても納得できる気がします。
しかし、酸素が怪我や病気の治療に効果的であることは、病院で高気圧酸素治療が行われていることからも明らかですが、疲労回復に効果があるかどうかの医学的根拠については、議論が交わされている最中というのが実情です。
多くの酸素カプセルは、内部をナイトロックスとほぼ同じ酸素濃度の気体で満たし、水深5m相当の気圧に加圧するそうなので、それでも効果があるとすれば、水深10mや15mで吸うナイトロックスには更に大きな効果が期待できるのかもしれません。
一方で、水深18m相当のチャンバー内でナイトロックス(窒素36%)を吸っても、疲労などに変化が見られないことを示す研究結果も発表されています。
ナイトロックスの方が疲れづらい、というダイバーが多いのは事実ですが、プラセボ(思い込み)の域を出て効果があるかどうかは、不透明な部分が多いのです。
思い込みだとしても疲れないのであれば、それはそれで良いかもしれませんが。(笑)
エンリッチドエアだからと言って限界ギリギリまで潜ってしまっては意味がありませんが、正しく使えば減圧症のリスクを下げることのできるエンリッチドエア。
皆さんも1度チャレンジしてみては!?
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