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海の生き物と接する際の心得

基礎知識

ダイビングの大きな楽しみのひとつは生物観察と言って良いでしょう。

生き物を観察する時にはストレスを与えないように……。
海の中にお邪魔させて頂いているという気持ちを持って……。

海の生き物やその生態系を大切にしながらダイビングをしようことは理解できるかと思いますが、具体的にはどのような行動を取ったら良いのでしょうか。

今回は、生物観察において意識すると良い点をまとめてみたいと思います。

生き物と接する際の基本姿勢

まずは生き物と相対する時にダイバーが心得ておきたい基本姿勢をご紹介していきます。

中性浮力をとる

常に中性浮力をとり、不意に水底を蹴ってしまうことが無い様にしましょう。
水底には多くの生き物が隠れているだけでなく、サンゴなどを折ってしまうことにも繋がります。

一見植物の様に見えるものも、実はソフトコーラルと言って軟らかい骨格を持つサンゴの仲間であることがしばしば。(もちろん植物であれば良いというわけではありません)
フィンで蹴ってしまうと、大きな影響を与えるだけでなく、場合によっては死滅してしまいます。

着底する場合には、着底する場所に何も無いことをしっかりと確認してから着底しましょう。
中性浮力がとれずに手をバタつかせたり、意図に反して着底してしまうとダイバー自身が危険な目に遭う可能性もあります。

自ら進んでウニやオニダルマオコゼ(水底に潜み、強い毒針を持つ)に刺されに行く方はいないと思いますが、不幸にも刺されてしまうケースは、ほとんどの場合が中性浮力を取れず、自らの意図に反して触れてしまって発生します。

触らない

生き物には触らないことが大原則です。
素手で触ることはもちろん、グローブ越しや、指示棒を使って触ることも避けましょう。

当たり前ですが、生き物に触るということは、生き物に対して最も負荷を与える行為です。

生き物に触らないことも、ダイバー自身の身を守ることにも繋がります。

魚や甲殻類など、多くの生き物は触るどころか少し近付いただけで即座に逃げるため、触ることすら難しいことが多いでしょう。
逆に、近付いても逃げない生き物にはそれ相応の理由があります。

毒針を持っているために逃げない可能性もあり、触れそうな生き物ほど危険だと考えるのが良いでしょう。

また、生き物の中には岩などに付着して、一見植物の様に動かないものもいます。
ハネガヤの仲間の様に、これらの生き物にも毒針を持つものがいるため、海の中ではあらゆるものに触れないと考えるのが良いでしょう。

追い回さない

ホラー映画ではありませんが、得体のしれない、場合によっては自らよりも遥かに大きな怪物から追いまわされたらどの様に感じるでしょうか。
これを少し想像するだけでも、海の生き物を追い回すことが彼らにどれほどストレスをかけるか、ご理解頂けるのではないかなと思います。

また、追い回された結果、自身の安全を確保していたはずの場所から出てしまい、他の生き物から攻撃を受けてしまう可能性もあります。

中にはサメやクジラ、マンタなどの様に、人間と同等か、遥かに大きな体を持つ生き物もいますが、だからといって追い回して良いはずもありませんよ。

餌付けしない

餌付けをしてはいけない理由としては、餌付けされることを覚えた生き物は、自ら餌をとることができなくなってしまう可能性があるためです。

継続的に餌付けをされていれば、それらの生き物が絶えてしまう可能性はなくなるかもしれませんが、今度は、本来であれば食べられる側であった生き物が増えすぎることになります。
そうすると、生態系のバランスが崩れてしまいますよね。

意図的に持ち込んだ餌だけでなく、人為的に岩をひっくり返すことで、岩の裏に潜む生き物を餌とする生物が集まって来ます。
これも広義には餌付けと言えるので、気をつけましょう。

とはいえ、餌を与えると多くの生き物が集まって来る事も事実。
特に体験ダイビングなどでは餌を与えて魚を集めている光景が見かけられます。

お客様の満足度向上と環境保護、難しい問題です。

獲らない

スキューバダイビングでの狩猟は、特別な許可がある場合を除いて法律で禁止されています。
違反した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金の対象となります。

また、スキューバ器材を使用していない場合でも、密漁した物によっては3年以下の懲役または3000万円以下の罰金を課される場合があります。

ちょっとだけ、でも密漁は密漁です。
絶対にやめましょう。

乱暴に探さない

お目当ての生き物を探すために、海藻やソフトコーラルを無理にかき分けたり、手当たり次第に岩をひっくり返したり……。

ソフトコーラル:サンゴの仲間の中で柔らかい骨格を持つもの。ヤギやトサカ、イソバナなど。

ソフトコーラルの様にかき分けられている物自体が生き物であるほか、知らず知らずのうちに、お目当ての生き物以外を触ってしまって、負担をかけている場合もあります。

岩をひっくり返してそのままにしてしまうと、岩の裏に隠れていた生き物たちは、恰好の捕食対象とされてしまうでしょう。
岩をめくる必要がある場合はそっとめくり、お目当ての生き物が居なかった場合にはすぐに戻す。
お目当ての生き物がいた場合も、観察したらすぐに戻すようにしましょう。

ソフトコーラルなどをかき分けて生き物を探す場合も、指示棒などを使って、極力負担がかからないように、間違っても無理な力がかかるような探し方はしないようにしましょう。

生物観察で気をつけたい点

ここからは、生物観察をさらに実りあるものにするための姿勢と、お互いに楽しく生物観察するための姿勢についてご紹介していきます。

知識をつけよう

漠然と眺めるだけ、名前を教えてもらうだけ、というスタイルから一歩踏み込んで、生き物に関する知識を得る様にしてみましょう。
もちろん本格的に勉強する必要はありませんが、ちょっとした知識を持って観察するのと、全く知識がない状態で観察するのでは、同じ光景でも得られる情報量に格段の差があります。

また、ダイバーが目にしている光景は、実は貴重な瞬間であることもしばしば。
気にも留めない、どこにでもありそうな光景が新たな発見に繋がることも珍しくありません。

様々な光景をじっくりと観察し、あらゆるものに疑問を持ちながら生物観察を行うことで、新たな興味が湧いてきますよ!

最近ではダイバーが撮影した写真から新種が発見されることもしばしばあります。

神奈川県立生命の星・地球博物館が運営する「魚類写真資料データベース」の様に、市民科学を促進する取組みも存在します。
珍しい生き物ではなくても、貴重な研究資料となる場合があるので、積極的に活用すると良いでしょう。

ScubaMonstersでも、皆さんの知識を広げる情報発信に加え、市民科学促進の一助となる様な企画を展開しています。
是非チェックしてみて下さいね!

周囲のダイバーに配慮しよう

自分だけでなく、周囲のダイバーが気持ちよく生物観察を行えるように気を配りましょう。

人気とされる生き物の多くは、一度見つかるとあまり動かないものが多いですが、自分が観察し終えたからといって、その生物の真上を通過したり、フィンで蹴とばす様なことが無いようにしましょう。
生き物に負担がかかるだけでなく、その生物を楽しみにしていた他のダイバーが観察できなくなってしまいます。

他のダイバーが観察している時に割り込んだり、逆に自分だけで生き物を占領することも、周りのダイバーとのトラブルの原因です。
ゆずりあって生物観察を行いましょう。

また、周囲のダイバーの近くを通る場合、何か生物を観察しているのかどうか、気を配って見ましょう。
生物を観察しているダイバーの近くを不意に通過してしまうと、観察対象だった生物が逃げてしまうことになります。

目印に気を配ろう

多くのダイバーがダイビングを行うダイビングスポットでは、人気の生き物の居場所に目印がしてある場合もあります。
木の棒が不自然に刺さっていたり、貝殻で円形の囲いが作ってあったり、岩がひとつだけ不自然にめくれていたり……。

これらは目印の可能性が高いのですが、知らなければ気付かずに蹴とばしてしまったり、真上を通ったりしてしまいますよね。
悪意がないとはいえ、目印をつけた側からすると、残念でなりません。

目印を知ることができれば、自分もその生物を観察できる可能性が高まります。
自分がこれから通る所に目印らしきものはないか、少しだけ気を配って見ましょう。

採集や駆除、人工繁殖は考え方次第

生き物との向き合い方と一口に言っても、考え方は人それぞれです。

例えば採集。
虫とりは良くて、魚やウミウシを採集してはいけないと言う道理はありません。
研究を行う場合も、採集しなくては研究が成立しません。

一方で、ダイバーから人気の生物が採集されている様子を見ると、やめて欲しいと思ってしまう気持ちも理解できます。

例えば駆除。
サンゴを守るためにオニヒトデを駆除する場合や、磯焼けを防ぐためにウニを駆除する場合などが挙げられるでしょう。

サンゴを守ろうという考え方は理解できます。
一方で、オニヒトデは駆除しても良いのか、オニヒトデの発生も自然の摂理のひとつである可能性はないのか。

様々な考え方ができるでしょう。

他にも、サンゴの植樹や魚の放流(もちろん本来の生息域以外への放流ではなく)、自然環境下で人為的に繁殖を促進する行為、ホエールスイムなど、賛否両論、場合によっては侃々諤々の議論となることもあります。

人それぞれ考え方は違う物です。
正しさというものに確固たる正解はなく、個人個人の立場や考え方次第なのではないでしょうか。
そして大事なことは、自らの考え方を他人に押し付けてはいけない、ということなのではないかと思います。

生き物への向き合い方だけでなく、人間との向き合い方も、楽しくダイビングを行う上で非常に重要な要素です。
自分とは異なる考え方だからといって過度に干渉すること無く、それぞれがダイビングを楽しんで行きたいものですね。

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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