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なんだかとにかく楽しい!?それ、危険ですよ!【窒素酔い】

基礎知識

ダイビングライセンスを取得してから少し経験を積むと、より深くに行ってみたくなるというのが多くのダイバーの自然な流れでしょう。
エントリーレベルのライセンスは水深18mまでしか潜れませんが、その次のステップアップをすれば、水深30mまで潜れるようになれます。

ライセンス:正式名称はCカード(certification card)ですが、一般的に通りが良いライセンスという表現を使用しています。

深場にしか生息していない生物もおり、筆者の個人的な意見にはなりますが、中でもハナダイの仲間は深場ならではの美しい魚の代表格。

その美しさに惹かれ、ハナダイばかりを追いかけるというダイバーもちらほら。
Scuba Monstersでも、ハナダイに関する記事がいくつも存在します。
ハナダイが登場する記事

そんなに美しいなら見てみたいと思いますよね!

初めての深場で、初めて見る美しいハナダイたち……。
楽しい……。
もっとここに居たい……。

初めて深場でハナダイを見た時、もしかするとこんな状態になるかもしれません。

これって普段は行かない様な場所に行っているから?
ハナダイ達があまりにも美しいから?

実はそれ

窒素酔い

の症状かもしれませんよ!!

窒素酔い自体が身体に悪影響を与えることはありませんが、そのままにしておくと非常に危険です。

窒素酔いとは

「酔い」とある通り、窒素酔いになると、お酒に酔ったのと似た症状を引き起こします。
窒素中毒やガス昏睡と呼ばれることもあります。

お酒の場合は泣き上戸、笑い上戸、絡み酒、などなど色々なタイプの人が居ますが、窒素酔いの症状は概ね以下の通り。

  • とにかく楽しい(多幸感)
  • 笑いが止まらない
  • 物事を楽観視する
  • 自信過剰になる
  • 判断力が低下する
  • 思考能力(計算力など)が低下する
  • 細かい作業が出来なくなる
  • 視野が狭くなる

これがお酒の席なら絡み酒なんかよりよっぽど良いわけですが、窒素酔いが起きるのは水の中。
なんだか楽しい、もっとここに居たい、まあ大丈夫だろう、もう少し深くに……もう少し長く……。

この様な、

多幸感→判断力の低下

が非常に危険なコンボだということは想像出来るのでは無いでしょうか。
窒素酔いそのものが健康に悪影響を及ぼすことは無いとされていますが、このコンボによって窒素酔いが事故の引き金になり得るということですね。

窒素酔いの原因

では、どんな時に窒素酔いを引き起こすのでしょうか?

ずばり、

深場

です。

実は、窒素には麻酔作用があることがわかっており、この窒素の麻酔作用が窒素酔いを引き起こすとされています。

でも、我々は普段から窒素をたくさん吸っていますよね?
えっ?空気ってほとんどが酸素なんじゃないの!?という人はこちらから復習してくださいね!

窒素は窒素でも、高圧の窒素を吸うことで、麻酔作用が現れるのです。

ちなみに、酸素も普段は生きていくのに必要不可欠な気体ですが、高圧の酸素は酸素中毒を引き起こします。

どのくらいの水深から影響があるの??

一般的には窒素分圧で3~4気圧、水深にして30m程度から症状が出るとされています。

ただし、外部環境よって水深30mはおろか水深20m程度でも窒素酔いが現れることもあり、具体的には、

  • 低い水温
  • 暗い海(視界不良)
  • 激しい運動

といったものが窒素酔いを助長する要因に挙げられています。

また個人差も大きく、水深30mで窒素酔いになる人もいれば、水深40mでも全く影響を受けないという人もいるほか、経験によってある程度耐性ができることも知られており、少しずつ身体を慣らすことで、窒素酔いになりにくくなると言われています。

逆に筆者の経験上は、ダイビング経験が少ないうちはダイビングをすること自体に適度な緊張感があるためか、窒素酔いを感じたことが無いという人が多い様にも感じています。
緊張する相手とお酒を飲むと酔っぱらわない、というのと同じ話かもしれませんね。

なんだ捉えどころのない話になってしまったので参考までに、筆者の個人的な感覚ではありますが、具体的な水深との関係は以下の通りです。

  • 水深25m
    生中1杯!飲んだけどまだまだ大丈夫。
    ただし、細かい作業に若干のミスが増える。(クエストのペンをホルダーにしまう時など)
  • 水深30m
    生中2杯目!!酔いの症状が出てくるものの、まだ正気。
    一方で、視点を素早く動かすと、若干視野の認識が遅れる。
  • 水深35m
    生中3杯目!!!!本格的に酔って来て、冷静さを保とうと意識し始める。
  • 水深40m
    生中4杯目!!!!!!完全に酔っ払い。
    多幸感は無いものの、視野は狭くなり、細かい作業が明らかに上手くいかない。

生中1杯でどれだけ酔うかも人によるので、あまり参考にならないかもしれませんが。(笑)

しかし、それだけお酒を飲んだ状態に似ているということで、窒素酔いの俗称として「マティーニの法則」という呼び方も世界的に有名です。

  • 水深15mごとに1杯分
  • 水深20m以降、10mごとに1杯分

など諸説ありますが、深く潜れば潜るほど強く現れる窒素酔いを、マティーニでの酔い方で表現しています。

マティーニといえば、カクテルの王様とも呼ばれ、ジンとベルモットを概ね3:1で割ったカクテルで、アルコール度数は30度~40度。

そんなお酒、1杯飲んだだけでノックアウトだという方も多いですよね。
この、マティーニの法則という言葉とマティーニの度数の強さから、過度に怖がられることもある窒素酔いですが、マティーニの法則と喩えるのは欧米でのお話。

ご存じの方も多いかもしれませんが、欧米系の方々はアジア系の我々に比べて圧倒的にお酒が強いんです!
アジア系の我々の感覚に合わせるなら「カシオレの法則」といったところでしょうかね。(笑)

窒素酔いの対処法

窒素酔いの対処法は非常に簡単で、

水深を上げる

これに尽きます。

自覚症状はある場合は自分で、本人が正常な判断をできていない場合にはバディの助けを借りて、水深を上げることですぐに窒素酔いの症状は消えてくれます。
お酒とは違って二日酔いになることは無いのでご安心を(笑)

逆に言うと、一度窒素酔いになってしまうと、その水深にいながらにして窒素酔いを解決する方法はありません。

窒素酔いの影響で本人は正常な判断をできなくなるというところが重要な点なので、バディなど周囲の人とお互いに様子を確認し合うことが非常に重要ですね!

窒素酔いの予防法

もうおわかりかと思いますが、

深場に行かない

これに尽きます。
深場に行かなければ窒素酔いにはなりません。

でも深場の美しいハナダイ、見に行きたいですよね。
深場の沈船だって見に行きたいですよね。

そのためには、窒素酔いというものの存在を理解し、症状を感じたらすぐに引き返すと決めておくことが重要でしょう。
また、耐性をつけることも可能と言った様に、少しずつ身体をならすということも重要ですね。

テクニカルダイビングの世界

では水深45m、50m、さらには100mの大深度潜水を行う場合もあるテクニカルダイビングの世界ではどうしているの?
こう思った方は鋭いですね。

深場に行けば必ず窒素酔いになる。
対処法は深場に行かない事しかない。

じゃあどうするの??

彼らは血のにじむ様な努力の末、水深100mでも窒素酔いにならない、人間離れした耐性を獲得……しているわけではありません。(笑)

窒素に麻酔作用があるなら窒素を使わなければいい、という発想の大転換を行っているのです。
具体的には、ヘリウムガスを用いることで、窒素酔いから解放されています。

風船に入れる、吸うと声がおかしくなる、あれです。(笑)
じゃあみんなヘリウムを使えば良い、と、そう簡単な話でもなくヘリウムガスは、

とにかく高いんです!!

さらに、空気の約6倍も熱を伝えやすい(熱が奪われやすい)ので、保温対策も考えなくてはならないですし、ヘリウムも身体に溶け込むので、窒素だけでなくヘリウムも考慮に入れた減圧計算を行わなくてはならないですし……。
なんてったってエキジット後、みんな声がおかしくて異様な光景になるでしょうしね!(笑)

まとめ

少し脱線してしまいましたが最後にまとめです。

深場に行くと窒素酔いを引き起こす

少しでも窒素酔いを感じたら浅場へ引き返す

バディ同士お互いの安全を確認することが重要

深場に訪れる際には、これらのことを頭に入れた上で、常に控えめなダイビングを行いましょう。
もちろん、窒素酔いのリスクだけでなく、減圧症のリスクが高いこともお忘れなく!

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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