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酸素が毒!?ダイビングのタンクが酸素ボンベでは無い理由と酸素中毒

基礎知識

ノンダイバーの方が最も間違えやすいダイビング用語。
それは「酸素ボンベ」では無いでしょうか。 

もしダイバーの方がタンク(シリンダー)の事を酸素ボンベと呼んでいたら……。
めちゃくちゃ恥ずかしいので今すぐやめましょう!

もちろんタンクの中には空気が詰められているので、酸素ボンベは大きな間違いです。

でも、我々が生きていくのに必要なのは空気と言うより酸素です。
だったらタンクいっぱいに酸素を詰めた方が、長い時間潜っていられそうじゃないですか?

ということで、今回はタンクの中が酸素では無い理由をご紹介していきたいと思います。

酸素だって毒になる。酸素中毒とは?

結論から言うと、酸素は毒になります。
ある条件下で酸素を吸うと、酸素中毒という中毒症状を引き起こしてしまうのです。

あ、知ってる!酸素は体内で活性酸素になって、それがお肌に悪いとかなんとか……。
違います。(笑) 

酸素中毒は、肌荒れなんて生易しいものではなく、めまいや吐き気、頭痛に始まり、意識喪失、けいれんまでも引き起こしてしまいます。

水中で意識を喪失したら……。
考えるだけでも恐ろしいですが、通常のダイビングで酸素中毒となることはありえないのでご安心を。

酸素中毒を引き起こす原因は「ある条件で酸素を吸うこと」と言いましたが、その条件というのは、高気圧の酸素を吸うことです。

ダイビング中に吸っている空気の圧力も周囲の圧力と同じなので通常よりも高気圧です。
そう言われると心配になってしまうかもしれませんが、ここでの高気圧というのは酸素分圧で1.5気圧前後です。(1.4~1.6気圧で影響が出はじめると言われています)

酸素分圧で1.5気圧ということは、100%酸素を水中で吸うとすれば、水深5m付近で酸素中毒を発症する計算になります。
水深5m、我々ダイバーにとってはすぐそこですよね。

だから、ダイビングに100%の酸素は使うことが出来ないんですね! 

空気でも酸素中毒になる?

ここで、勘の良い方は逆のことを考えたかも知れませんね。
通常の空気で酸素分圧が1.5気圧になったら酸素中毒になるのでしょうか。

答えは、なります。

こちらの記事でご紹介した通り、空気は約80%が窒素、約20%が酸素です。

そして、こちらの記事でご紹介した通り、ある気体の分圧は全圧に構成比を掛けることで求めることができます。

例えば地上での気圧は1気圧。
このとき酸素だけの圧力、酸素分圧は1気圧×20%で約0.2気圧です。

ということは、周囲圧が7.5気圧になった時、酸素分圧は1.5気圧になりますね。
水深にして65m。 

我々、通常のダイビングでは縁の無い世界ですね!
これで少しは、酸素中毒への恐怖は薄れましたか??

ナイトロックスとは

通常の空気を吸って、通常の範囲内でダイビングを行う分には酸素中毒のリスクはかなり低いのであれば、ダイバーには必要の無い知識かと思われてしまうかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。

ライセンスを取得する時点では確かに酸素中毒とは無縁なのですが、この先ステップアップをした時に、酸素中毒の危険性を頭に入れなくてはならない場面が来ます。
それはナイトロックス(エンリッチドエア)の使用です。

ライセンス:正式名称はCカード(certification card)ですが、一般的に通りが良いライセンスという表現を使用しています。

詳しい説明はここでは割愛するとして、簡単に言うと空気よりも酸素の割合を増やした特殊なタンクです。
通常の空気が酸素21%なのに対して、ナイトロックスでは32%や36%と言ったものが一般的です。

海外では当たり前、最近では日本でもかなり一般的になってきています。

慢性酸素中毒と急性酸素中毒

ここで、少しだけ酸素中毒について掘り下げてみましょう。
ひとくちに酸素中毒と言っても、大きく分けてふたつの酸素中毒があります。

ひとつは中枢神経(脳)で発生するもので、急性酸素中毒と呼ばれます。
一般的なダイビングで酸素中毒と言うと、多くはこちらのことを指しています。

この急性酸素中毒を防ぐために、酸素分圧は1.4気圧、やむを得ない事情がある場合でも1.6気圧以下にするように定められています。

1.4気圧というと通常の空気であれば水深57mなので心配する必要はありませんが、32%のエンリッチドエア(EAN32)で水深33m、36%のエンリッチドエア(EAN36)では水深28mでこの分圧に達してしまうため、注意が必要です。
ちなみに、水深40mで酸素中毒を引き起こさないと考えられるギリギリの酸素濃度は28%です。

もうひとつの酸素中毒として、中枢神経以外、主に肺で症状が現れるものがあり、こちらは慢性酸素中毒と呼ばれています。
1.4気圧に達しないレベルの酸素であっても、長時間吸い続けることで発症してしまいます。

酸素分圧ごとに1本のダイビングの最大時間と24時間以内の合計最大時間が定められており、ダイブテーブルの様に計画を立てることができるようになっています。

例えば通常の空気で水深40mまで潜った時、酸素分圧は1.05気圧です。
少し多めの酸素分圧1.1気圧だとしても、1本あたり最大240分、24時間以内は合計270分までは安全とされているため、大きな問題はありません。
そもそも、最大水深40mのダイビングを1日に合計270分もしていたら、酸素中毒の前に、減圧症になってしまいます……。

急性酸素中毒を避けるためのギリギリの酸素分圧である1.4気圧だとしても、1本あたりは最大150分で24時間以内は合計180分まで。
50分ダイビングを3本までが限界ですが、こちらも、その前に減圧症の問題が発生してしまいますね。

酸素分圧が0.5気圧以上、つまり通常の空気で水深13mになるとわずかながら影響が出始めるとされていますが、具体的な数値が提示されている酸素分圧0.6気圧でも、24時間以内の合計最大潜水時間は720分(12時間!)なので、やはりあまり心配する必要はないと言えるでしょう。

これらのことから、減圧停止を前提としたダイビングを行うテクニカルダイビングであれば話は別ですが、通常のダイビングであれば、慢性酸素中毒の心配はまず無いと考えて問題ありません。

さいごに

通常のダイビングで酸素中毒の心配をする必要はありません。

しかし、ナイトロックスを使用する場合には少しだけ注意が必要です。
もちろんナイトロックスを使用するための講習の際に、詳しく勉強するので過度に心配する必要はありません。 

ライセンスを取得する段階で酸素中毒について詳しく覚えておく必要はありませんが、まずはナイトロックスのタンクを間違って持って来る事だけは無い様にしてくださいね!

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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