ダイビングでは海の生き物を観察することが大きな楽しみのひとつです。
みなさんは海の生き物と聞いて、どんな生き物を想像するでしょうか。
魚、エビ、カニ、イカ、タコ、貝類……。
多くの方はこれらの生き物を想像することでしょう。
実は海の中、特に動物に関しては、陸上に比べて遥かに多様な生き物が棲んでいると言えます。
ここでの多様というのは、種の数ではなく、分類上幅広い動物という意味です。
京都大学フィールド科学教育研究センター(※PDF)によると、動物界に34ある門のうち、海産種がまったくいないのは有爪動物門のみで、残り33の門は少なくとも1種は海産種を含んでいるのだとか。
さらに、全てが海産種で構成される門は17にも及びます。
分類の世界では界、門、綱、目、科、属、種の順にピラミッド式の分類階級が存在しますが、門というのは上から2番目です。
どのくらい上位の階級かと言えば、ヒトも魚も脊索動物門です。
つまり、ヒトと魚の違い以上に全く異なる特徴を持った様々な動物が棲んでいるということです。
尚、日常生活で魚類、哺乳類などといった呼び方で使用される「類」は「綱」とほぼ対応しています。
分類階級について詳しくはこちらから。
実は、水中で見かける物は岩以外ほとんど全てが動物であるといっても過言ではありません。
もちろん海藻などの植物も生息していますが、ダイバーが目にする機会で考えると、植物の様に見えるものも大抵が動物でしょう。
では、海の中にはどの様な生き物が生息しているのでしょうか。
海に棲む動物
ここからは、JAMSTEC (海洋研究開発機構)が公開している海洋生物データベース、BISMaLの情報を元に、ダイバーにとって馴染み深い生き物をご紹介していきます。
脊索動物門
一般的に動物と言われて思い浮かべるものは大抵、脊索(せきさく)動物門に属しています。
背骨が存在する動物たちと思ってもらってOKです。
魚類(条鰭綱・軟骨魚綱)


かつては魚綱とされていましたが、現在はサメとエイの仲間からなる軟骨魚綱と、硬骨魚(サメ・エイ以外の魚)からなる条鰭(じょうき)綱に分かれています。
海の生き物と言ったら真っ先に思い浮かぶ仲間ですね。
哺乳綱


いわゆる哺乳類です。
イルカやクジラ、アザラシやアシカ、ラッコなどが属するグループです。
海獣という呼ばれ方をすることもありますね。
哺乳類のほぼ全ての生き物は、ダイバーなら一度は出会ってみたい生き物と言えるかもしれません。
爬虫綱

ウミガメ、ウミヘビが属するグループです。
ちなみに、ウミヘビという名がつく生き物は魚類(条鰭綱)と爬虫綱双方に存在し、猛毒を持つとして恐れられているのは、この爬虫綱に属する本物のヘビです。
魚類のウミヘビは、あくまでヘビに似ているというだけで、毒は持ちません。
鳥綱

一生の大半を海の中で過ごす鳥は存在しませんが、海の鳥と言えば多くの人がペンギンを真っ先に思い浮かべることでしょう。
身近なところではカワウの仲間が餌を求めて水中に飛び込んでくるシーンをダイビング中に見かけることもあります。
ホヤ綱

東北の名産品として有名なホヤ(名産品はマボヤ)ですが、ダイバーにとっては恰好の被写体です。
タリア綱

クラゲにも似たサルパの仲間が属するグループです。
両生綱

意外かもしれませんが、海に棲む両生類は現在のところ見つかっていません。
汽水域(海と川の境目)に棲む両生類は発見されています。
過去(三畳紀前期・約2億5千万年前)にはトレマトサウルス科という両生類が海に生息していたことを示す化石が発見されています。
その他
ナメクジウオ綱、尾虫(びちゅう)綱、ヤツメウナギ綱、ヌタウナギ綱、Petromyzonti綱が脊索動物門に属しています。
節足動物門
エビやカニなどのほか、いわゆる虫と呼ばれる生き物が節足動物門に属しています。
海の生き物の場合、甲殻類を指すと思って良いでしょう。
軟甲綱


エビやカニ、ヤドカリ、シャコなどや、浮遊系ダイビングで人気のタルマワシの仲間が属するグループです。
甲殻類と言った場合にはほとんどがこの軟甲(なんこう)綱に属する生き物だと思って良いでしょう。
節口綱

ダイビングで見られる機会は少ないかもしれませんが、生きた化石として知られるカブトガニが属などが節口(せっこう)綱に属しています。
顎脚綱
カイアシ類(学名からコペポーダとも)やフジツボが属するグループです。
カイアシ類の中でも寄生性のあるものは、一部のダイバーから人気を得ています。
また、一見貝の様にも見えるフジツボは、広い意味では甲殻類なんですね。
外顎綱(昆虫綱)
地球上で最も反映している生き物と言われることもある昆虫ですが、海への進出はほとんどできていません。
ウミアメンボやウミユスリカなど、ごく一部の例を除き、海に棲む昆虫は見つかっていません。
その他
蛛形(ちゅけい)綱、ウミグモ綱、鰓脚(さいきゃく)綱、カシラエビ綱、貝形虫(かいけいちゅう)綱、ムカデエビ綱、内顎(ないがく)綱、ムカデ綱、倍脚綱、エダヒゲムシ綱、コムカデ綱が節足動物門に属しています。
軟体動物門
イカやタコ、貝に加え、ダイバーに人気のウミウシが軟体動物門に属しています。
頭足綱


イカやタコ、オウムガイの仲間などが頭足(とうそく)綱に属しています。
イカやタコの仲間の祖先はオウムガイの様に貝殻を持っていたと考えられており、現在でも貝殻を持つタコの仲間が発見されています。
腹足綱


サザエに代表される巻貝や、ウミウシの仲間が属するグループです。
頭足綱の中で貝殻を捨てたものがイカやタコ、残したものがオウムガイであるように、腹足(ふくそく)綱の中で貝殻を残したものが巻貝、捨てたものがウミウシと言えるでしょう。
ちなみに、平たい形状から一枚貝とも呼ばれ、二枚貝の変形かの様に思えるアワビは、巻貝が変形した生き物です。
二枚貝綱

その名の通り、ホタテに代表される二枚貝の仲間が属するグループです。
ちなみに1枚の貝殻に乗せて提供されることが多いため、一枚貝、ひいてはアワビに近い仲間と思われることもあるカキは二枚貝です。
その他
尾腔(びこう)綱、溝腹(こうふく)綱、多板綱、単板綱、堀足(くっそく)綱が軟体動物門に属しています。
扁形動物門
その名の通り平らな体を持ち、循環器官や呼吸器官、さらに血管やエラまでも持たない動物です。
寄生虫として有名なサナダムシなども扁形動物門に属しています。
有棒状体綱
一部の種がウミウシに非常に似る、ヒラムシなどが有棒状体(ゆうぼうじょうたい)綱に属しています。
ウミウシに擬態をしているのか、進化の過程で偶然似通った見た目になったのかは判明していません。
その他
条虫綱、単生綱、吸虫綱が扁形動物門に属しています。
棘皮動物門
ヒトデやウニ、ナマコなどが棘皮(きょくひ)動物門に属しています。
ヒトデ綱
棘皮動物門の特徴である、五放射相称(五角形。同じ形が規則正しく、体の中心から5つの方向に並んでいること)が最も分かりやすい生き物ですね。
ウニ綱
一見すると五角形には見えませんが、ヒトデを丸めたような体の構造をしています。
ウニと言うとトゲのイメージが強いかもしれませんが、トゲがない(極めて短く、毛の様に見える)種類もいます。
ナマコ綱

どこからどう見ても五角形には見えませんが、ウニを横倒しにして細長く伸ばした様な身体の構造をしています。
身の危険を感じると内臓を噴出して危機から逃れようとすることが有名です。
ナマコに限らず生き物には触れるべきではありませんが、面白がって内臓を出させようとしないようにしましょう。
クモヒトデ綱
クモヒトデやテヅルモヅルの仲間が属するグループです。
クモヒトデは、普段あまり目にする機会はないかもしれませんが、岩や土嚢の下などにはほぼ間違いなくいると言っても良いでしょう。
ウミユリ綱
一見植物の様に見える、ウミシダやウミユリの仲間が属するグループです。
刺胞動物門
クラゲやイソギンチャク、サンゴが刺胞(しほう)動物門に属しています。
刺胞と呼ばれる毒針を持っています。
鉢虫綱

ミズクラゲやエチゼンクラゲなど、ポピュラーなクラゲが鉢虫(はちむし)綱には多く属しています。
箱虫綱
アンドンクラゲやハブクラゲなど、クラゲの中でも毒性の強いものが箱虫(はこむし)綱には多く属しています。
十文字クラゲ綱
海に漂うイメージが強いクラゲですが、十文字(じゅうもんじ)クラゲ綱に属するものは浮遊生活をせず、藻や海藻などに付着して生活しています。
ヒドロ虫綱

カツオノエボシやハナガサクラゲなどの様にクラゲの見た目をしたものから、ファイヤーコーラルという通称で知られ、サンゴの様な見た目をしたアナサンゴモドキの仲間、さらに、ヒドラの仲間の様に他の動物や海藻に付着して生活するものもこのグループには含まれます。
花虫綱


イソギンチャクやサンゴが属するグループです。
サンゴには一般的にイメージされる、硬い骨格を持つハードコーラルと呼ばれるもののほかに、硬い骨格を持たないソフトコーラルと呼ばれるものがあります。

ソフトコーラルの多くは一見植物にも見えますが、花虫(かちゅう)綱に属する動物です。
その他
ポリポディウム綱、軟胞子虫(なんほうしちゅう)綱、粘液胞子虫(ねんえきほうしちゅう)綱が刺胞動物門に属しています。
有櫛動物門
クシクラゲの仲間が有櫛(ゆうしつ)動物門に属しています。
かつては刺胞動物門と有櫛動物門とを合わせて腔腸動物門と呼ばれていました。
名前にもクラゲとつくように、クラゲの仲間と扱われることも多いですが、刺胞動物ではないので毒針は持ちません。
無触手綱
ウリクラゲの仲間が属するグループです。
他のクシクラゲの仲間を丸のみにして餌とする食性を持っています。
有触手綱

ウリクラゲの仲間以外の全てのクシクラゲの仲間が属するグループです。
環形動物門

ミミズやゴカイの様に環状の柔らかい体節に分かれている動物です。
カラフルな被写体として人気のイバラカンザシも環形(かんけい)動物門に属しています。
多毛綱、貧毛綱、ヒル綱が環形動物門に属しています。
海綿動物門
魚やエビ、カニ、ウミウシなど様々な生き物の隠れ家ともなる生き物です。
スポンジの様な骨格を持ち、実際にスポンジとして利用もされています。
石灰海綿綱、尋常海綿綱、六放海綿綱、同骨海綿綱が海綿動物門に属しています。
苔虫動物門
一部のウミウシが餌とすることで知られるコケムシが属するグループです。
植物やソフトコーラルの様な見た目をしていますが、れっきとした動物です。
裸喉(らこう)綱、被喉綱、狭喉綱が苔虫動物門に属しています。
箒虫動物門
ムラサキハナギンチャクの根元に見られるホウキムシが属するグループです。
ひとつの門を形成していますが、箒虫動物門に属する生物は極めて少なく、世界でも2属10種程度、日本では1属2種のみ(ホウキムシ、ヒメホウキムシ)が報告されています。
その他
これまでご紹介して来た生物のほか、ダイビング中に目にする機会は少ないですが、以下の門に属する生物が海には生息しています。
- 平板(へいばん)動物門
- 菱形(りょうけい)動物門
- 直泳(ちょくえい)動物門
- 顎口(がくこう)動物門
- 紐形(ひもがた)動物門
- 腹毛(ふくもう)動物門
- 輪形(りんけい)動物門
- 鉤頭(こうとう)動物門
- 類線形(るいせんけい)動物門
- 線形(せんけい)動物門
- 動吻(どうふん)動物門
- 胴甲(どうこう)動物門
- 鰓曳(えらひき)動物門
- 緩歩(かんぽ)動物門
- 星口(ほしくち)動物門
- 有鬚(ゆうしゅ)動物門
- 有輪(ゆうりん)動物門
- 腕足(わんそく)動物門
- 毛顎(もうがく)動物門
- 半索(はんさく)動物門
- 珍無(ちんむ)腸動物
- 内肛(ないこう)動物門
生活型による生物の分類
ここまでご紹介してきた分類学上の分類以外に、水生生物を分類する方法として、どの様な生活を送っているかに応じて分類する方法があります。
ニューストン、プランクトン、ネクトン、ベントスという分類がこれにあたります。
プランクトンという言葉は普段の生活でもよく耳にしますね。
ニューストン
基本的に水面で生活する生き物です。
プランクトン
中層で生活する生き物のうち、遊泳能力がない、もしくはほとんどなく、水中に逆らって移動することができない生き物です。
プランクトンと言うと顕微鏡を使って観察する様な小さい生き物を想像しがちですが、この分類に大きさは関係ないため、エチゼンクラゲの様な巨大な生き物もプランクトンに含む場合があります。
ネクトン
中層で生活する生き物のうち、遊泳能力がある生き物です。
ベントス
水底で生活する生き物です。
海に棲む植物
ここからは海に棲む生き物のうち、植物について見ていきたいと思います。
水中で生活する植物は大きく分けて2つのグループに分けられます。
海藻と海草、どちらも読み方は「かいそう」ですが、異なる特徴を持っています。(海草は区別のために「うみくさ」と読むこともあります)
海藻

根、茎、葉の区別が無い場合が多く、種ではなく胞子によって繁殖を行う植物です。
地域や環境にもよりますが、ダイビング中に見かける植物の多くは海藻だと思って良いでしょう。
ノリやワカメ、ヒジキやモズクなど、食用になるものも多いです。
海草


陸上でイメージされる植物同様、根、茎、葉の区別があり、種によって繁殖を行います。
種によって繁殖するため水中で花を咲かせ、その花は被写体として人気です。
最後に
こうして改めて海の生き物を並べてみると、想像以上に幅広い生物が海に息づいていることを感じていただけるのではないかと思います。
様々な生き物が複雑に絡み合って生態系が育まれているからこそ、我々ダイバーはダイビングを楽しむことができています。
イルカやクジラ、人気の魚やウミウシ、ウミガメ、わかりやすい生き物ばかりに注目しがちですが、ふと足元を見てみましょう。
普段は風景の一部に見えていて、そこに生き物が生息しているとは思いもしなかった場所にも、数多くの生き物が生息しています。
そして、彼らも海の生態系の重要な一部です。
人気の生き物だけでなく、海の中全体に気配りができるダイバーでいたいものですね。
海の生態系に我々ダイバーは本来組み込まれていません。
ダイビングを行う以上、海の世界に影響を与えることは避けられません。
しかし、自らの目で海の世界を観察することがどれほど素晴らしいことか、ダイバーの皆さんならよくご存知でしょう。
負荷を与えるから潜ってはいけない、と言うのは極論で、自分の目で見るからこそ得られる知見が、海の世界を守ることにも繋がるでしょう。
少なくとも、「楽しいダイビング」という海の恩恵を受ける以上、海の世界にお邪魔させて頂いているという気持ちを忘れずにダイビングを行っていきましょうね。