ダイビングは海でするもの。
大抵の人はそう思っていますよね。
もちろん、9割9分は海で行うものと言っていいでしょう。
一方で、実は淡水で潜る機会も無いとは言い切れません。
ほぼ全ての皆さんが経験している淡水の場所もありますよね。
そう、プールです。
またプール以外にも、なかなか行う機会は少ないですが、湖でのダイビングや、川でのダイビングを行っている場所もあります。
さて、淡水でのダイビング、ダイビングを行う上で何か特殊な技術が必要という事はありません。
それはそうですよね、講習で初めて潜るプールの方が難しかったら困ります(笑)
ダイビング自体の技術は海水でも淡水でも全く変わりませんが、実は海水と淡水では性質が異なるため、少し気をつけなくてはならない点があるんです。
ということで、今回は海水と淡水の違いについてご説明して行きたいと思います!
もちろん、その違いから起きる影響についても解説していますよ!
海水、ザックリいうと『淡水+塩』です。
当たり前ですね。
厳密には食塩(塩化ナトリウム)以外にも色々入っていますが。
全てはこの塩が出発点です。
密度(重さ)の違い

海水には食塩が溶けているという事は、同じ量の淡水と比べれば重たいはずです。
食塩にも重さがありますからね。
淡水の密度は皆さんもよくご存じの通り、1ℓペットボトルがちょうど1kg、つまり1000kg/㎥です。
一方海水はというと、1025kg/㎥、つまり、25kg分が食塩(など)の重さということですね!
ちなみに、実際の海水は1020~1035kg/㎥程度で、水温、塩分濃度(一定では無いんですよ!)、圧力から物凄く複雑な計算を用いて求めるのだとか。
この密度の違いが最も影響するのが浮力です。
浮力の違い

浮力の仕組み、覚えていますか?
こちらの記事でもご説明した通り
浮力=その物体が押し退けた周囲の物質の重さ
です。
一番想像しやすいもので言うと、1ℓのペットボトルを淡水に沈めると、同じ体積の淡水の重さが1kgなので1kg分の浮力が生じます(ペットボトルが水圧で潰れないとした場合)
これが海水の場合、同じ1ℓのペットボトルでも1.025kg分の浮力が生じます。
つまり、淡水に比べて海水の方が浮力が強い、物を浮かせる力が強いということですね!
その極みが死海、と言われれば納得できるかと思います。
ではこの浮力の違いはダイビングにどの様な影響を与えるのでしょう?
淡水に比べて海水の方が浮力が強いという事は、それだけウエイトが多く必要になります。
普段、海で潜ることが圧倒的に多いので「淡水ではウエイトを減らす」と表現することの方が多いですね。
具体的には2kg程度差が出るはずです。
この2kgという数字がどうやって出てくるのかと言うと…
人体の密度はザックリいうと水とほぼ一緒です。
つまり、体重60kgの人なら60ℓということです。
海水と淡水では1ℓあたり0.025kg浮力が違うので、60×0.025=1.5kgの差という事になります。
丸裸ならこれで良いのですが、ウエットスーツや器材、タンクの体積まで考慮に入れると、約2kgということです。
もちろん個人差があるので、必ず適正ウエイトのチェックは行ってくださいね!
圧力の違い

海水の場合、水深10mごとに1気圧ずつ圧力が増していきましたよね!
こちらの記事でご説明した通り、気圧や水圧は自分の頭の上に乗っている空気や水の重さと言っても良いと思います。
海水と淡水で密度が違う、つまり重さが違うという事は、圧力にも影響してきます。
海水の場合、水深10mごとに1気圧と非常に計算しやすかったのですが、淡水の場合は10.3mごとに1気圧増加します。
なんともキリの悪い……。
どちらもキリが悪いですが、小数が出て来ないですよね。
つくづく単位って、うまく出来てるなーと思います。
話を戻しましょう。
海水で水深31mまで潜ったとします。
水深計やダイブコンピューターは4.1気圧の圧力を検知して31mと表示を出します。
これが淡水で水深31mだと、水深計やダイブコンピューターが検知する圧力は約4気圧。
つまり、30mと表示され、実際の水深よりも浅い表示となってしまいます。
何が問題かというと、減圧症にならないためのダイブテーブル(プラナー)での計算です。
実際には31mまで潜っているのに、30mで計算してしまうと、1m分、計算以上に窒素が溜まっていることになってしまいますよね。
なので、淡水で潜る際には特別なダイブテーブル(プラナー)を使いましょうということになっています。
ただ、勘のいい方は気づいたかもしれません。
これは(水深計を使って)水深から圧力を計算し、その圧力から減圧計算を行うダイブテーブル(プラナー)だから起きること。
ダイブコンピューターであれば、圧力から直接減圧計算を行うので、危険な計算がされるというわけではありません。
強いて言うなら、ダイブコンピューターに表示されている水深と実際の水深が違うのが少し気持ち悪い、という程度です。
浸透圧の違い
密度、浮力、圧力、ここまでは比較的なじみのある言葉だったと思います。
ここにきてあまりなじみのない言葉が出てきました。
浸透圧とは、
半透膜を挟んで液面の高さが同じ、溶媒のみの純溶媒と溶液がある時、純溶媒から溶液へ溶媒が浸透するが、溶液側に圧を加えると浸透が阻止される。この圧を溶液の浸透圧という(岩波理化学辞典・同生物学辞典等)。
Wikipediaより
何やらよく分かりませんがザックリ噛み砕くと、一部の物質だけ通す膜を隔てて、左右で液体の濃度が違うと、濃い方から薄い方に動こうとする力が働き、この力を浸透圧と言います。
まだ少しわかりづらいですかね……。
実際の生活で説明してみましょう。
コンタクトの保存液を切らしてしまって、仕方が無いからひとまず水道水で保存。
翌日、上手く入らない!!
こんな経験はありませんか?
これは、本来身体と同じ塩分濃度の水分が含まれているはずのコンタクトレンズを水道水で保存することで、コンタクトレンズ内の塩分濃度が薄くなってしまっていることが原因です。
身体の塩分濃度の方が濃くなるので、身体の外側に向けて力が働き、目に入りづらいということですね。
尚、あたりまえですが、コンタクトレンズを水道水で保存すると、同様に水道水との塩分濃度の違いから変形してしまう可能性があるほか、雑菌が目に悪影響を与える原因にもなるので、絶対にやめましょう。
話をダイビングに持って行きます。
そもそもダイビングにコンタクトレンズを使って良いのか悪いのか賛否両論ですが、筆者個人としては普段からソフトコンタクトを使っているならOK派です。
水中で目をあけると海水でも淡水でもコンタクトレンズに雑菌がついてしまうため、基本的には目はあけないほうが良いのですが、どうしてもあけてしまうタイミングがあったりもします。(※目をあけた場合には必ずすぐに新しいコンタクトレンズに変えましょう。)
さて、海水、淡水、身体の塩分濃度はというと、海水(約3%)>身体(0.9%)>淡水(0%)です。
したがって、海水中で目を開けた場合には周囲の海水から身体側に向かって浸透圧が働き、コンタクトレンズは押さえつけられる形になります。
一方淡水の場合は、身体から周囲の淡水に向かって浸透圧が働き、コンタクトレンズは浮かされる形になります。
つまり、海水では思っているよりも外れづらい一方で、淡水では非常に外れやすいということです。
もちろん海水と淡水を比較した場合の話で浸透圧は非常に弱い力です。
目をあけたまま動いたりすればすぐに外れてしまいます。
ただ、プールの方がコンタクトレンズが流れやすい、というのを知識として持っておいても良いと思いますよ!
ちなみにコンタクトレンズの保存液を切らせてしまった場合、自力で生理食塩水を作って保存するのが応急処置になります。(あくまで応急処置で、安全性は保障できませんので自己責任でお願いします。)
生理食塩水、つまるところは0.9%の食塩水ですが、500mlの水に対して4.5gの食塩です。
実はペットボトルのキャップすりきり1杯の食塩水が約4.5gなんですよ!
市販の水や沸騰させて冷ました水(雑菌や塩素の影響を防ぐため)500mlにペットボトルキャップ1杯の食塩で出来上がりというわけです。(だからと言って500ml使い切るまでこれで行く、なんてしないでくださいね!!)
氷点の違い
水が凍るような場所でのダイビングを行うことはあまり無いとは思いますが、クリオネがどうしても見たい場合などは流氷の下を潜ることになります。
実は、海水と淡水では凍りかたも違うんです。
物質は、混ざりものがあると凍る温度が下がります。
氷に塩を振ると、なぜだか溶けていくという実験を見たことがある人もいるでしょう。
もしかすると高校の化学でmol凝固点降下という言葉を習ったことを覚えているかもしれませんね。
海水は淡水+塩なので、混ざりものと言えます。
淡水が凍る温度は0℃ですが、海水が凍る温度は-1.3℃。
つまり、水温0℃以下でダイビングということがあり得るわけです。
さて、我々が吐く息には水蒸気が含まれています。
水温0℃の状態でレギュレーターから息を吐くと、息に含まれる水蒸気が凍ってしまい、レギュレーターが不具合を起こしてしまう可能性があります。
吐く息だけでなく、結露によって水滴が発生し、それが凍ってしまう可能性も考えられます。
したがって、極端に水温が低い場所で潜る場合には「寒冷地対応」とされているレギュレターを使わなくてはいけません。
また、水温が2℃や3℃あったとしても注意が必要です。
気体は圧力が下がると温度も下がります。(詳しい説明は割愛させて下さい)
タンク内の高圧な空気がファーストステージで10気圧程度に下がる時、またその空気がセカンドステージで周囲圧に下がる時、空気周辺の温度が下がるということです。
すると、水温は0℃に届いていなくても、ある一部分だけが氷点下となってしまい、レギュレーターが凍ってしまうということがあるので、お気を付けを。
まとめ
海水 | 淡水 | |
---|---|---|
密度 | 1025kg/㎥ | 1000kg㎥ |
ウエイト(浮力) | 淡水+2kg程度 | 海水-2kg程度 |
圧力 | 10mで1気圧 | 10.3mで1気圧 |
コンタクト(浸透圧) | 淡水よりは外れにくい | 外れやすい |
氷点 | -1.3℃ | 0℃ |
海水=淡水+塩で、この塩が混ざっていることが全ての原因とお話ししました。
実は、こちらの記事でご紹介した通り、海の塩分濃度は一定ではありません。
しかし、通常は塩分濃度で0.3%程度、最も塩分濃度が高い地中海と、最も塩分濃度の低い北極海を比べても0.5%程度の差なので、ウエイトや水圧に影響を与えるほどの違いはありません。
したがって、塩分濃度の濃い海で潜るからウエイト変えなきゃ、なんてことは起きないのでご安心を!