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分類学を知ると魚の知識が増える??

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ダイビング終わりのログ付け。

大きな楽しみのひとつですよね。

ログ付けではその日のダイビングの記録として、潜水時間などだけではなく、観察した生物を記録する場合がほとんどでしょう。

1本目でみたカエルアンコウ可愛かったよね!

いやでもあれはベニカエルアンコウじゃない?

といった会話や

キンギョハナダイの周りに居た薄いピンクで背鰭が1本の伸びる魚って??

あ、それ、見た目は違うけどキンギョハナダイのオスだよ!

みたいな会話はよくある光景でしょう。

ここで疑問を持つ人もいるのでは無いでしょか?

見た目上、ものすごく似ているものが別種とされていたり、逆に雄雌で見た目が全く異なるのに同種とされていたり…

ご存じの通り、『種』というのはあらゆる生物をいくつかの層で分類していった末の、最後の分類です。

今日見た生物がなんという名前の『種』なのかは気になるところですが、そもそも『種』とは?分類学とは?ちょっと気になりませんか??

今回は、中学の生物の授業を思い出しつつ、生物の分類について見て行きたいと思います。

分類学とは

雑然としたものを理解するときに、似たもの同士をグループ化していく、これは誰もが持っている感覚でしょう。

分類学とは、世の中に存在する生物にこの考え方を用いた学問です。

というと、至極当たり前の様に聞こえてしまいますが、ここからが難しいところ。

分類と言っても、最初から各生物にタグが付いているわけでもなく、そのタグを決めるのは人間です。

一方で、人間でも個体(個人)ごとに顔や身長体重は異なりますよね?

でも身長が違うからって全部を別種にしてしまっては、それこそ生物の種類は無限になってしまい、正しい理解はできません。

つまり、個体ごとに異なる特徴も含めて数多くのタグのうち、どれを分類に採用するのか、これを決めるのも人間です。

そして、このタグの選び方ひとつで分類が変わってしまうところが分類学の面白さであり難しさなのです。

例えば鳥類と爬虫類。

多くの方は全く異なるグループだと思うでしょう。

そもそも鳥類は『飛ぶ』という点で他には無い特徴を持っていますからね…

しかし近年、鳥は爬虫類であると扱われることがあります。

いわゆる爬虫類と鳥類の特徴を精査していくと、鳥類、爬虫類、というグループ分けは同列に扱えない、ということだそうです。

同じ爬虫類に属するヘビ、カメ、ワニ。

鳥とヘビの差は、これら3グループの差と同じレベルで、さらに、鳥とワニの差は、ヘビとカメの差よりも小さい、ということが分かってきたのです。

つまり…

これまでは

生物
―鳥類
―爬虫類
――カメ
――ヘビ
――ワニ

と考えられており、普通は何の異論もありませんが、厳密に捉えていくと

生物
―爬虫類
――カメ
――ヘビ
――ワニ・鳥類

と考えた方が合理性がある、ということです。

この様に、分類の上流ですら常識を覆す様なことが起こる分類学。

種のレベルまで行くと、分類が見直されるのは日常茶飯事です。

また、近年は見た目や骨格、体内器官だけでなくDNAのレベルで研究することが可能となり、これまで別種とされていたものが同種になったり、同種とされていたものが別種となったり…

何が言いたいかと言うと、分類学はかなり流動的で、ある日突然分類が変わっても文句を言わないでくださいね、といったところです(笑)

種とは

ヒトとチンパンジー。

別種ですよね。

ではハタタテダイとムレハタタテダイ、これも別種です。

ハタタテダイ Photo by Vin CC BY-SA 2.1 JP

ムレハタタテダイ Photo by Vin CC BY-SA 2.1 JP

いやいや、同種で良くない?と思ってしまいますが、種が種として認められる条件とはどこにあるのでしょうか?

簡単に言うと

自然界で繁殖可能なグループ

が種です。

厳密には、種の定義の仕方だけでも30近くあるそうなので、細かいツッコミは受け付けません(笑)

例えばレオポンという動物をご存知でしょうか?

これは、ヒョウの父親とライオンの母親から生まれた種です。

あくまで動物園内という閉ざされた環境で、かつ人間の手助けもありながら生み出されたこの動物。

繁殖能力も持たないとされており、これを新種とは呼びません。

我々が普段潜っている海でも、自然界ながら同様の例は存在します。

どうみてもAとBの交雑種だな、という魚やウミウシは存在します。

有名どころではイシダイとイシガキダイの交雑種でしょうか。

しかし、その交雑種が交雑種同士で子孫を残さない限り、新種とは認められません。

ちなみに、イシダイとイシガキダイの交雑種は比較的容易に誕生しますが、レオポン同様繁殖能力は持たないとされています。

また、自然界において繁殖可能な二種であっても、生息範囲が大きく異なるために独立した別種とされる例も多くあります。

最も有名な例はニホンザルとタイワンザルで、本来であれば関わりのないこの2種、同じ範囲に解き放つと容易に交雑種が発生します。

本来生息しない下北半島や伊豆大島でタイワンザルが野生化してしまい、ニホンザルとの交雑種が問題視された結果、下北半島では全頭駆除という措置が為されています。

では先ほどの魚の例の様に、自然界で、人の手を加えることなく発生した交雑種が、偶然繁殖能力を獲得し、交雑種同士で繁殖を行い、これが数世代に渡って受け継がれたら…

これこそが新種誕生の瞬間です。

これからは交雑種らしき個体を発見したら

進化の瞬間を目撃しているのかもしれない

と思ってもらってOKです(笑)

分類学用語

中学生の時に習ったかもしれませんが、分類学では似たような特徴を持つ『種』のまとまりを『属』、似たような特徴を持つ『属』のまとまりを『科』というように、ピラミッド式にグループ分けが為されています。

よく用いられる基本的なものとしては

界―門―綱―目―科―属―種

という並びです。

例えばダイバーに人気のクマドリカエルアンコウ。

この種は

動物界―脊索動物門―条鰭綱―アンコウ目―カエルアンコウ科―カエルアンコウ属ークマドリカエルアンコウ

という分類になっています。

それぞれの階級に厳密な定義はありませんが、ニュアンスを掴むために一例と共にご紹介します。

種の定義はすでにご紹介した通りなので割愛します。

尚、研究が進むにつれて、別種とは言えないものの、少しだけ違う、といったグループが発生してしまうことがあります。

そんな時は種の下位分類として『亜種』という物を置くこともあります。

※植物の場合は『変種』『品種』という言葉を使う場合もあります。

例えば多くのダイバーになじみ深いスズメダイ。

素人目には同じに見える魚でも、日本国内だけで4つのタイプが存在するのだとか。

そのため、伊豆諸島に生息する非常に体高の高いスズメダイをミヤケスズメダイと呼び、スズメダイの亜種とする、とされていた時期もありました。

結果的に2013年の研究で、亜種とまでは言わず、地域変異に過ぎない、との結論が出ましたが…

まぁ人間だって、アジア地域のヒトは体高が低く、ヨーロッパ地域のヒトは体高が高い傾向にあるので、種なんてそんなものです。

ある日突然、アジア人とヨーロッパ人が別種、とされる可能性だって完全には否定できません。

戦争の火種になりそうなので、人間だけは特例的に同種としそうですが…

話が逸れて来たので戻しましょう(笑)

似たような特徴を持つ種がまとまったグループです。

属までは姿恰好が非常に似た種同士も含まれるため、属名を覚えて得をするという機会はあまり無いかもしれません。

但し、生物の名前を決定するのには非常に重要な意味を持つグループです。

生物の名前、名前と行っても普段使用される和名ではなく、全世界共通で通用する学名を決定する際、必ず

『属名』+『種小名(種の名前)』の2つで1セットにしよう

という決まりがあるためです。

例えばクマドリカエルアンコウは

Antennarius maculatus

という学名ですが、Antennariusは『カエルアンコウ属』で、maculatusがクマドリカエルアンコウ固有の名前です。

なぜ重要かと言うと、属をまたげば種小名は同一のものが存在します。

例えばjaponicusという種小名、日本の、という意味が込められていることは容易に想像がつきますが、この種小名を持つ生物は、海にいる生物だけでも

  • クルマエビ
  • イセエビ
  • アケウス(甲殻類)
  • ノコギリヨウジ
  • マアジ

などが挙げられます。

範囲を淡水魚や両生類、植物にまで広げると、japonicusはいくらでもいます(笑)

ただし、ひとつの属にjaponicusは1種のみです。

尚、属名が重複することは基本的にありませんが、動物と植物の間では学名をつける際の規約が異なるため、数千の属名が動物、植物双方で使用されています。

また、学名を『属名』+『種小名(種の名前)』でつける都合上、新種として認定するためには必ず『属』を決定することになります。

ちなみに、『種』同様、『属』の下位分類として『亜属』を置くこともあります。

また、植物の場合には『種』と『属』の間に『節』『列』『系』を置くこともあります。

覚えておくと役に立つのがこの『科』です。

なんとなくフォルムが似ているなーぐらいのグループです。

ネコ科、イヌ科、と言う様に、○○の仲間、といったニュアンスでもあります。

それぞれの科の特徴を理解しておくとログ付けの際

『ハゼ(科)の仲間だと思うんですけど』

『スズメダイ(科)の仲間だと思うんですけど』

と尋ねることができ、答える側も候補をかなり絞ることが出来るので、生物名を特定するのに非常に役立ちますよ!

尚、『科』の下位分類に『亜科』、上位分類に『上科』を置くこともあります。

また、『科』と『属』の間に『族』や『連(植物の場合)』を置くこともあります。

このあたりから、我々が使用するには大きすぎるグループ分けになってきます。

特に海水魚の場合、いわゆる魚の形(こどもが描くような)をした魚はほぼ例外なくスズキ目です。

こちらも下位分類としては『亜目』、その下に『下目』、さらにその下に『小目』を置くことがあり、上位分類として『上目』、その上に『巨目』を置くことがあります。

生物の大きなグループわけとして哺乳類、爬虫類といった言葉を使いますが、この『類』にほぼ対応するのが綱です。

ただし、鳥綱(鳥類)は近年爬虫綱(爬虫類)の一部とみなされたり、魚類に対応して魚綱という綱は存在しなかったり、完全に対応するわけではありません。

ちなみにいわゆる魚類は、軟骨魚綱、肉鰭綱 、条鰭綱 などからなります。

類という分類は比較的人間生活に密着した分類と言うことができ、海産物を魚介類、魚を全部魚類、と言うあたりからそのことが伺えると思います。

こちらも『亜綱』、『下綱』、『上綱』などを使用する場合もあります。

ここまで来るとかなり大きなグループで、生物全体でも100程度と言われています。

どれぐらい大きいかと言えば、ヒトと魚は同じ脊索動物門です(笑)

簡単に言うと、背骨を持つ動物は全部脊索動物門というわけですね。

逆に言うと、背骨を持たない動物の方がよっぽど様々な門に分類されます。

こちらも、『亜門』、『下門』、『上門』などを使用する場合もあります。

ここまで来れば動物はみんな一緒です(笑)

二界説から三界、果ては八界や十界以上まで様々な説が唱えられています。

最も有名かつ分かりやすいのは

動物界・植物界・菌界

の三界説でしょう。

これで海の生物も含めて動物はすべてヒトと同じカテゴリーに入ることが出来ました。

必要に応じて『門』までの間に『亜界』、『下界』、『上枝』『枝』、『亜枝』、『下枝』を設けることもあるのだとか…

ドメイン

ここまで来ると専門的過ぎて、もはやよくわからなくなってきます。

1990年頃から提唱されている界の上位分類だそうで、生物全体を真正細菌、真核生物、古細菌の3つに大別するんだとか。

図鑑の掲載順序

最後に図鑑での掲載順序についての豆知識。

図鑑ではもちろん、ここまでにご紹介した分類ごとに生物が掲載されています。

複数の図鑑を持っている方は気づいているかもしれませんが、どの図鑑も掲載順はほとんど同じではありませんか?

実は、図鑑ではより進化の進んだ種を後ろの方に掲載します。

魚の図鑑の場合、ほぼ間違いなく1ページ目はジンベエザメ。

これは、ジンベエザメと言うより、サメの仲間が実は最も原始的な魚だからなんですね。

逆に、魚の図鑑の最後のページはほぼ間違いなくマンボウ。

これは、マンボウの属するフグ目が、中でもマンボウの属するマンボウ科が最も進化の進んだ魚だから。

ボケーっとして見えるマンボウ、実は進化の最先端を行ってたんですね!笑

ちなみにウミウシの図鑑などでよく目にする『sp.』というのは○○の一種、という意味で、新種とは思われるものの、学名が確定していないものに用いられます。

ただし、学名が無い=和名が無い、というわけでもありません。

マダイ、マアジ、マサバ、マハゼ、など、『マ』には『The』の様なニュアンスが込められていますが、コチの世界では不思議な現象が起きています。

Theコチとも言えるマゴチ、実はまだ学名がついていないんです。

以前は、現在ヨシノゴチと呼ばれている種と同種とされ、Platycephalus indicusという立派な学名がついていたのですが、研究が進むにつれヨシノゴチと2種に分けられ、双方とも研究途上ということで、学名がペンディングになっているんですね。

今回はいつも以上に盛りだくさんな内容でお届けしました。

分類学や学名の細かな部分までを知る必要は全くありませんが、さわりだけでも知っておくと、図鑑で調べる際や誰かに生物名を尋ねる際に役立ち、結果として自分の生物知識を広げることに繋がりますよ!

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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