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春濁りって何?

海について

徐々に暖かい日が増え、桜をはじめとした花々が萌える春。

卒業、入学、進級、転勤、出会いと別れの春。

寒い冬のあとに待ち構える春は、どこか気分が晴れやかになる様な。
1年のうちで好きな季節に挙げる方も多いのではないでしょうか。

さて、そんな春ですが、ダイバーにとっては手放しで喜ぶことが出来ない季節だということも事実。

春になると本州太平洋側各地のダイバーを悩ませる存在、それが春濁りです。

春濁りって何?

読んで字のごとく、春になると海水が濁ってしまう現象です。

年によって時期は少し前後したり、場合によっては発生しなかったりもしますが、概ね3月後半から4月にかけて発生します。

春濁りの季節の海水は独特の緑色となり、残念ながら抜ける様な透明度は期待できません。
場所やタイミングによって変化はあるものの、透明度は3mから7m程度になってしまいます。

透明度:水平方向にどれだけ見通すことが出来るかは、正しくは透視度と言いますが、一般的に使用される、透明度に統一しています。

透明度が落ちるというと、どうしてもネガティブな印象になってしまいますが、遠くを見渡すことが出来ない分、手元の小さな生物を発見しやすいことも事実。

各地の海で、春ならではの生き物や春ならではの生態行動などがあるので、夢中になってバディやチームとはぐれてしまうことには気をつけながら、楽しみましょう。

万が一はぐれてしまった場合にそなえて事前にブリーフィング(打ち合わせ)を行い、実際にはぐれてしまった場合には落ち着いて行動しましょう。

春濁りの原因は?

ずばり

植物性プランクトンの大発生

が原因とされています。

夏から秋にかけて、海の表層と深海では水温の差があるため、海水の密度(重さと思ってOK)にも差が出来ます。

通常、冷たい水ほど重たくなるので、下へ下へと沈み、暖かい水ほど表層に留まります。
※真水の場合で、水温4℃を下回ると少し軽くなります。氷が水に浮かぶのもこのためです。

追い焚きしたお風呂で、底の方に冷たい水が溜まっているのを経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
この水温差によって出来た水の層の境界をサーモクラインと呼びます。

この様に秋までの間は水が水温によって層に分かれているのですが、冬に表層の水温が下がると、この層が出来にくくなります。

そのため、冬の海は、表層と深海で水の循環が起きやすいと考えられています。

さらに、冬には北西から季節風が吹くため、太平洋側では沖へ沖へと風が吹きます。
その結果、深海から栄養を蓄えた海水が表層に湧き上がって来ると言われています。

この様に冬の間、栄養豊富な海水が表層にまで湧き上がっている所に、春のうららかな日差しが降り注ぐことによって、水温が上昇し、植物性プランクトンが一気に繁殖するのです。

植物性プランクトンは、ごく小さなものとはいえ、大量に発生することで透明度を落としてしまうというわけですね。

さらに、春は大陸から黄砂が日本に飛来するシーズンでもあります。

この黄砂が日本の陸地を超えて太平洋に降り注ぐ。
黄砂には砂漠のミネラルが豊富に含まれており、そのミネラルが海の栄養分となり、植物性プランクトンの繁殖を下支えしているとも言われています。

さらにさらに、冬は海藻のシーズンでもあります。

多くの海藻は冷たい水を好むので、冬のうちに水底にはびっしりと海藻が繁殖します。

この海藻が、春の水温上昇と共に枯れ、水中に溶け出すことで浮遊物となり、これも濁りの一因となっています。

春濁りの知られざる恩恵

どうしてもネガティブなイメージを持たれがちな春濁りですが、豊かな海でいてくれるためには非常に重要な現象です。

植物性プランクトンは食物連鎖の最底辺を支える存在です。
植物性プランクトンを動物性プランクトンが食べ、その動物性プランクトンを小魚が食べ、その小魚を大きい魚が食べ…
ということですね。

つまり、春濁りが発生しなければ、食物連鎖の上位にいる生物が減ってしまうことにも繋がるということです。

春濁りがあるからこそ、夏にカラフルな魚たちや、迫力満点の魚群などを観察することが出来るわけですね。

自然界で発生する全ての現象には意味があり、我々ダイバーはその恩恵にあずかっています。

春濁りも四季折々の海の顔のひとつとして、その季節にしか見ることの出来ない海の姿を楽しんでみてくださいね。

(写真:城ケ崎インディーズ 矢北拓也)

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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