水中遺跡・水中考古学をダイビングで楽しもう〜水中考古学入門3【実践編】〜
水中遺跡は、気づくことさえできれば、きっと見えてくる。
今回は、実際に遺跡・遺物を見つけるにはどうしたらいいか、水中考古学博士の佐々木ランディさんに聞いた。
具体的にどういったものなのか聞くと「見たことあるかも!」「もしかしてあれって……」と、心当たりのあるダイバーも少なくないはずだ。
実際に見つけたらどうすれば良いかも含めて、ご紹介していく。
ランディさんと一緒に、水中考古学の世界へ潜ろう。
佐々木 ランディ
水中考古学博士。1976年、神奈川県生まれ。高校卒業後に渡米。サウスウェストミズーリ大学卒業後、テキサスA&M大学大学院にて博士号(人類学部海事考古学)取得。同大学で「水中考古学の父」と呼ばれるジョージ・バス氏に師事した。文化庁「水中遺跡調査検討委員会」や一般社団法人うみの考古学ラボなど、水中考古学の普及のための活動を続けている。2022年より帝京大学文化財研究所 准教授。
著書に『水中考古学〜地球最後のフロンティア〜』(エクスナレッジ)、『沈没船が教える世界史』(メディアファクトリー新書)など。
どんなものが遺跡・遺物?
ーー実際にダイビングで水中遺跡を見つけてみようと思ったら、どういったものが、どういったところに多いですか?
ランディさん:
人と海の関係を示すものなので、実は陸に近い実は陸に近いところが多いですね。
潮が引いた時に見えるような場所にたくさん遺跡があるんですけれども……。
ーー初心者にも分かりやすい遺跡・遺物を教えていただけますか?
ランディさん:
例えば、岩肌を削って船を入りやすくしたような船着場跡や、木の杭を岩に突き刺して船を停めるために使った岩礁ピット、船を係留するために掘られたはなぐり岩などが結構残っていますね。
少し岩場を削ったり、港を改変したような跡が残っていたりと、不自然な地形が見られることがあります。
今ではもう港として使われていないところも江戸時代には小舟が付けられたりしていました。
探してみると、結構色々なところにあるんです。
また、構造物にも注目ですね。
ランディさん:
石切場も海の近くにありました。
切り出された石や石を切り出そうとした痕跡が残っていることもあります。
ランディさん:
陶磁器が2〜3点パラパラ落ちているところも注目です。
その下からたくさん壺が出てきたり、沈没船が砂に埋もれていたりっていうこともありますので。
ランディさん:
あとは、バラストです。
船のバランスを取るために使った石なんですが、同じような大きさの丸い石が溜まっているようなところがある。
そのバラストを退けてみると、船の部材が出てくることがあります。
そして、鉄。
鉄って、海の中で錆びると、ぷくぷく膨れ上がっちゃうんですよ。
周りの砂や海水などを取り込んで、コンクリートの塊っぽく見えたりします。
ランディさん:
中身の鉄は全部溶けて抜けちゃってるんですよね。
鉄分は天ぷらの衣のような感じでボコボコとした形で残ります。
不思議な形のものが、実は鉄のアンカーだったりする。
マルディグラ難破船の船尾(メキシコ)。写真:R.Sasaki
「Archaeological Excavation of the Mardi Gras Shipwreck (16GM01), Gulf
of Mexico Continental Slope(※PDF)」P160より画像引用
ランディさん:
ぱっと見ただけでは、遺物だなっていうのがわからないようなものが多いですよね。
ただ、不自然だなと思ったり、普通と違った形のものがあった場合、よく見てみてください。
注意深く見ると、実は色々なところで発見があるはずです。
ーーイメージが具体的になってきました。探してみようと思います!探しやすい海域などあるのでしょうか?
ランディさん:
水中遺跡は浅いところが多いですね。
沈没船も基本的に水深50mより浅いところにあるのが9割かなと思いますね。
沖ではあまり沈む理由がありません。
座礁したり乗り上げちゃったり。
あとは、沖で何か事故やトラブルがあっても、すぐ沈まなくて陸の方に行って助かろうとしていたら、そのプロセスで沈んだりとかっていうことが多いので。
実は、本当に陸に近いところが多いです。
ーーファンダイビングでも見つかる可能性は高そうですね。
ランディさん:
エントリー前に海岸を歩いてみて、陶磁器のかけらが落ちていたりしたら、「何かあるかもしれない」というヒントになるでしょう。
水中遺跡を見つけたら
ーーもし、実際に水中遺跡を見つけたらどうしたらいいでしょうか?
ランディさん:
何かあるからって引き揚げたりしないで、その場に残して写真で記録を取りましょう。
あと、その場所に戻れるように位置も記録します。
無理に引き揚げると、割と最近のものの場合、化学薬品がどばどば出てきてしまうということも考えられますので……。
ーー破壊せず、記録を残す。
ランディさん:
そして、役場に連絡です。
市区町村の役場にある教育委員会・文化財担当に連絡します。
これは、ダイビングショップさんの方に頼んでやってもらった方がいいかもしれませんね。
もちろん、すでに知られている遺跡の可能性もありますが。
ーー役場!!ちょっとハードルを感じますね。
ランディさん:
そうかもしれませんね。
そういう時は、お気軽にスクーバモンスターズ公式LINEでご相談いただければと思います。(笑)
また、写真と場所をお送りいただければ、大体〇〇世紀頃のものだよ、中国系のものだよ、とかもお答えできると思いますし。
ーーそれは楽しそうです!個人的には、岩礁ピットなのか、ただの穴なのか、見極めが付くのだろうかと……。
ランディさん:
それも送ってもらえれば、お答えできますよ。
ーー遺跡・遺物を「探してみよう」というのは、新しい提案ですね。
日本の水中遺跡
ーー日本の水中遺跡はまだ発展途上だと考えられると思いますが、その中でも特筆すべき水中遺跡を教えてください。
ランディさん:
日本にも、元寇の証拠が残る鷹島海底遺跡(長崎県)、旧石器〜縄文時代の痕跡が残る曽根湖底遺跡(長野県)、遭難したオスマン帝国(現トルコ)の沈没船が眠る紀伊大島樫野崎沖(エルトゥールル号沈没地点)(和歌山県)など、世界的に有名な水中遺跡はたくさんあります。
今、私が調査を行っているのは、京都府丹後や福島県檜原湖、山梨県本栖湖などです。
まだ始まったばかりですが、数年かけて調査を続けていきます。
将来的には、論文などにまとめる予定です。
ーー一方で日本には、ダイビングで見られる水中遺跡が何スポットもあります。
ランディさん:
かつて伊豆石の石切場として栄えた伊豆半島の石橋や黄金崎では石垣用と思われる石が見られますし、根府川では関東大震災で沈んだ駅のプラットフォーム、熱海には沈没船が沈んでいます。
唐津では海底に茶碗が沈んでいるダイビングポイントもありますし、本栖湖では土器も。
また、沈没船もUSSエモンズや戦艦長門といった戦跡が見られる場所もありますね。
ーーランディさんが興味があるダイビングスポットはありますか?
ランディさん:
根府川の関東大震災で沈んだプラットフォームは見てみたいです。
面白そうですよね。
また、レックダイビングは、やはり鉄の船が多いですね。
もし、木製の船のレックダイビングをやっているところがあれば、実は古いものの可能性もあります。
木製の船って、小型で小さいので……、実はその歴史的重要性に気がついていない場合も多いと思います。
木製の船でレックダイビングをされているダイビングショップさんがいらっしゃれば、教えてください!
おわりに
もし、「水中遺跡かも?」と思うようなものがあれば、役場にいきなり連絡するのはハードルが高くても、ぜひ、スクーバモンスターズ公式LINEにご相談を。
きっと、見つけるだけでも楽しいと思うが、それが新たな発見に繋がるとすれば、その喜びは何倍にもなるだろう。
世界に比べれば数で劣る日本の水中遺跡だが、その状況下にあってもなお、今、日本には歴史を生で感じられる水中遺跡に潜れるダイビングスポットが多くある。
それらのダイビングスポットで潜ってみるもよし、日頃潜っているダイビングスポットでじっくり水中遺跡探しをしてみるのも良し。
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