今日は12月23日、天皇誕生日ですね。
日々、ご公務で全国を飛び回っておられる天皇陛下ですが、実は生物の研究者としての顔をお持ちであると知ってましたか?
2016年には、皇居に生息しているタヌキがどんなものを食べているのか、5年間にわたって調査した結果を論文にして発表されたことがニュースになりました。
論文を書くというのはとても大変な作業で、研究分野によって異なりますが、先行研究の徹底的な調査・現状課題の把握・仮説の設定・調査や実験の設計・結果のまとめ・考察を論理的に破綻なくまとめ上げなければなりません。
大学や研究機関に勤めるプロの研究者でも、1本の論文を書くのに年単位の時間がかかることはざらにあります。
譲位の話題が世間で大きく取り沙汰されたとき、僕たちは陛下の激務ぶりを知ることになりました。
あれだけの公務をこなす日々をお過ごし中、陛下がお書きになった論文の数はなんと34本!(2018年12月現在)
そのほとんどがハゼに関する研究で、ハゼの分類に関しては第一人者とも言えるほど。
大学教授レベルのご見識をお持ちなんです。
この記事では、天皇皇后両陛下とゆかりのあるハゼたちを紹介します!
皇后陛下が和名を提案したハゼ
美智子様が天皇陛下に提案して、そのまま和名になったハゼがいます!
どれもとても素敵な名前なんですよ♪
アケボノハゼ
紫から赤へのグラデーションがキレイな大人気のハゼですね。
水族館ではハタタテハゼの群れに混じっている姿をよく見ます。
この模様を夜明けの空になぞらえて「曙」と名付けるなんて、僕たち一般人には到底思いつきませんよね。
初めて聞いたときは天皇陛下が付けられた名前だとは知らず、いい名前だなと思っていましたが、なんと雅な。
もうさすがとしか言いようがありません。
ギンガハゼ
夜空に輝く星のように見えることからでしょうか、「銀河」という名を付けられました。
黄色い体色に水色の水玉模様が散りばめられた美しさは決して名前に負けていませんね。

引用:☆e.Diving日記☆
ニチリンダテハゼ
背ビレの「日輪」模様が特徴的なハゼ。
大きな目玉に見せかけて襲ってくる敵を驚かせる擬態なのかな〜なんて考えてしまいます。
白とオレンジのストライプも美しく、カメラ派なら一度は撮ってみたい被写体ですね!
ヤシャハゼ
長い背ビレが目を引くヤシャハゼ。
これを刀に見立てたのでしょうか、鬼神の一人「夜叉」の名を付けられました。
その勇ましい姿と鮮やかなオレンジ色に見惚れてしまう、ダイバー憧れのハゼの一種です。
ハタタテシノビハゼ
紅白のまだら模様がおめでたいハゼですね。
シノビハゼという名前を聞いてからなら、確かにすっと伸びる細い背ビレがまるで「忍刀」のように見えますが、何も言われずに写真を見せられても常人の僕には思いつかないネーミングです。
うーん、粋。
天皇陛下が発見されたハゼ
ホシマダラハゼ
最大45cmほどにもなる日本最大級のハゼ。
マングローブの生える海域や湿地に住んでいます。
絶滅危惧種(絶滅危惧Ⅱ類)。
イワハゼ
沖縄の河川など淡水域に生息します。

引用:西表の川のお魚たち
ハスジマハゼ
沖縄の海岸から河口域に住んでいます。
水深2m以浅にいるので、もはや器材は不要ですね。
スナゴハゼ
種子島から沖縄の河口域やマングローブ林に多く生息しています。
ウチワハゼ
奄美大島から沖縄のマングローブ林に生息しています。

引用:奄美大島のハゼたち
ハゴロモハゼ
奄美大島から沖縄の河口域に住む共生ハゼです。
オレンジやブルー、金色の体色はまさに「天女の羽衣」をまとったように美しいですね!
天皇陛下が命名されたハゼ
キマダラハゼ
伊豆や相模湾、鹿児島の浅場で生息が確認されている種です。
シマシロクラハゼ
新潟県や長崎県で生息が確認されている種です。

引用:Sea Again
ヒメトサカハゼ
天皇陛下が即位なさってから初めての論文で報告した種です。

引用:宮内庁
コンジキハゼ
西表島、石垣島、宮古島、種子島にかけて住む種。
体長30cm以上になることもあります。
環境省のレッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種(絶滅危惧ⅠA類)です。
クロオビハゼ
沖縄諸島、石垣島、西表島の内湾奥3〜25mに生息する共生ハゼです。
目尻から尾ビレまで伸びる黒い筋が特徴的ですね。

引用:マンぶーンの生活 3~ど
ミツボシゴマハゼ
奄美諸島より南の汽水域や内湾、淡水性湿地にも住みます。

引用:マンぶーンの生活 3~ど
天皇陛下の名前が学名についているハゼ
天皇陛下のお名前「あきひと」がそのまま学名についているハゼもいます。
学名に自分の名前がつくというのは大変な名誉なんですよ!(詳しくは次の章を読んでね)
コクテンベンケイハゼ Priolepis akihitoi
水深20〜40mの岩穴や岩の亀裂に住みます。
尾ビレの上方に黒い点があるのが特徴(※1)。
Platygobiopsis akihito
インドネシアの沿岸部に住むハゼの仲間。
Exyrias akihito
石垣島や西表島、フィリピン、インドネシアに住んでいます。
和名はまだなく、インコハゼsp.と呼ばれています。
派手な見た目に惹かれるカメラ派ダイバーも多いのだとか。
婚姻色になると妖艶さを増します。

引用:マンぶーンの生活 3~ど
Akihito futuna
南太平洋に浮かぶフランス領フツナ島に住むハゼです。
Akihito vanuatu
こちらも南太平洋に住む種。バヌアツ島に生息しています。

引用:FishBase
偉大な功績をたたえて学名に名前がつけられる
学名とはなにかというと、生物の本名のことです。
たとえば、ネコの学名は Felis silvestris (フェリス・シルベストリス)といいます。
生き物の名前は言葉によって変わりますよね。
ネコであれば、英語では cat、スペイン語では gato、中国語では猫と書いてマオと呼びます。
それぞれの言語で異なる呼び方をしていたのでは、国際的な会議などでネコの話題をするときに非常に混乱するわけです。
なので、学名という統一した呼び方をつけ、わかりやすくしようと決めました。
学名にはラテン語が使われます。
なぜラテン語なのかというと、ある言語だけえこひいきするわけにはいきませんから、もう使われることがなくなったラテン語を使うのが平等だということになったわけです。
学名は一度決まるとよほどのことがない限り変わりません。
この先ずっとその学名が使われ続けます。
なので、非常に重要。
その学名に自分の名前がつくのは全人類に誇れる名誉なのです。
天皇陛下は、5種ものハゼにそのお名前 “Akihito” が使われています。
陛下の長年のハゼ研究に対する貢献が国際的に認められ、その功績に対するリスペクトとしてお名前がつけられたのです。
これを「献名」と言います。
特に Akihito futuna と Akihito vanuatu のように、上の名前に人名がつけられるのはものすごいことなんです!
学名は、属名+種小名の2つを合体させて作ります。
ネコの例では Felis が属名で、silvestris が種小名です。
後半の種小名に人名がつくのはわりとよくある話です。
マニアの人がある生き物について収集しているうちに新種を発見したようなケースでは、命名者(多くは学者)が敬意を表して種小名に発見者の名前をつけることが多くあります。
しかし、属名に人名がつくのはとても珍しいことです。
今まで知られていたどのグループにも当てはまらない、全く新しいグループを発見しなければ属名を新しくつけることはできませんが、そのようなケースにはなかなか巡り会えません。
研究者の誰もが納得できる、相当の実績を持った人物でなければ属名にはなれないでしょう。
こうしたことからも、天皇陛下は学者からも尊敬される一流の科学者としての顔をお持ちだということがわかります。
まとめ
天皇陛下と皇后陛下は多くのハゼを発見・命名してこられました。
それらのハゼには思わずハッと息を飲む美しい名前が授けられました。
天皇陛下がお付けになったのかはわかりませんが、ハゼには他にも奥ゆかしい名前をつけられた種がたくさんいます。
シコンハタタテハゼ、モエギハゼ、ホムラハゼ、オイランハゼなどなど。
ハゼの仲間がこれほど愛されるのは、見た目の美しさに加えて、聞いただけで人を惹き付ける美しい名前を持っているからなのかもしれませんね!
<参考>瀬能宏(2004)『決定版 日本のハゼ』平凡社
ハゼに興味を持ってくれた方はこちらの関連記事もぜひお読みください!



※1
みなさん、すみません!白状します!
コクテンベンケイハゼの素材がなかったので、下のベンケイハゼの写真を加工しました……
でも、違和感ないですよね?それくらいコクテンベンケイハゼとベンケイハゼはそっくりなんです!
だから、許してください★