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なぜダイビングではゆっくり呼吸しなきゃいけないの?〜呼吸死腔の話〜

基礎知識

普段の生活で、呼吸を意識する瞬間は少ないでしょう。
むしろ、意識してしまうと逆に上手く呼吸が出来なくなってしまうこともあるかもしれませんね。

さて、ダイビングでは必ずと言っていいほど「ゆっくり呼吸してくださいね」と言われます。
ただでさえ慣れない口呼吸なのに、ゆっくり呼吸することを意識してしまうと、逆に上手く呼吸が出来なくなってしまうことも。

なぜ、わざわざゆっくり呼吸することを強調するのでしょうか。

呼吸をしているのはどこ?

呼吸は、人間を含めた生物にとって生きていくために必要不可欠な行為です。
我々人間を含めた哺乳類は、鼻や口から吸って、同じく鼻や口から吐いていますね。

そのため、鼻や口で呼吸をしているという意識が強いと思いますが、そもそも呼吸とはどの様な行為でしょうか。

それは、体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出すること。(哺乳類の場合)
では、酸素を取り込んでいる場所はどこかというと、肺です。

至極当然の話なのですが、少しだけ深堀をしてみます。

肺以外は余計な場所

息を吸った時、鼻や口から気管を通って肺へと新鮮な空気が送り込まれます。
そして、息を吐くことによって、二酸化炭素を多く含んだ空気を吐き出しています。

この時、どうしても気管には空気が残ってしまいます。
そして、次の呼吸では、この気管に残った空気も一緒に吸うことになります。

通常の呼吸を行っていれば、二酸化炭素を多く含んだ、気管に残った空気を多少取り込んだとしても、問題ありません。
しかし、浅い呼吸を行ってしまうと、気管に残る二酸化炭素を多く含んだ空気が段々と増えて行き、十分な酸素を取り込むことが出来なくなってしまいます。

肺が口元にあればこの様な問題は発生しませんが、実際には気管を通して呼吸を行っています。
つまり、普段の生活ではあまり問題になることはありませんが、気管は肺でのガス交換(酸素を取り込み、二酸化炭素を排出すること)に寄与しない、余計な場所と言えるのです。
そして、この様に肺でのガス交換に寄与しない場所のことを呼吸死腔と呼びます。

ダイビングは呼吸死腔が多い

ダイビングの場合、この呼吸死腔が通常よりも大きくなります。
通常であれば呼吸死腔は気管から口や鼻にかけての空間だけですが、ダイビングの場合、レギュレーターのセカンドステージ部分も呼吸死腔となります。
そのため、しっかりとガス交換を行うことができるよう、ゆっくり大きな呼吸をする様に意識づけがなされるわけですね。

スノーケルを使用しての呼吸でも同じことが言えます。
また、スノーケルの場合は呼吸死腔が大きくなるだけでなく、水圧の影響も生じます。

空気などの気体が移動するためには圧力の差が必要になります。
人間が呼吸を行う時、横隔膜が下がることによって肺などの気道内の圧力がわずかに下がるため、外部から空気を取り込むことができるんですね。

水面に顔をつけてスノーケルで呼吸をする場合、わずかですが口元は水面下に沈みます。
ほんの10cm余り、圧力にして0.1気圧程度ですが、口元の圧力は普段よりも大きくなります。

空気を吸い込むためにはこの圧力よりも気道内の圧力を下げなくてはならないため、普段よりも空気を吸い込むのに余分な力が必要になります。
そのため、スノーケルでの呼吸でもゆっくり大きな呼吸をすることが必要になります。

ちなみに、個人差があるものの、横隔膜の筋力を考えると、人間がスノーケルの様な筒などを使って水面下で呼吸できるのは水深60cm程度が限界なんだとか。
忍者が用いる代表的な忍術として水とんの術というものがありますが、呼吸死腔の話と相まって、非常に危険な術ということがわかりますね……。

スノーケリングに限って言えば、少し脱線ではありますが、最近はフルフェイスのスノーケルが人気を博している様です。

ご想像の通りフルフェイススノーケルは通常のスノーケルとは比べ物にならないほどに呼吸死腔が大きくなります。
手軽に使用するためのフルフェイスである一方で、通常のスノーケル以上にゆっくり大きな呼吸が必要になる、いわば、トレーニングが必要になる器材であると言えるでしょう。

おわりに

ここまで、ダイビング中にゆっくり大きな呼吸が必要となる理由をご説明してきました。
とはいえ、よほど浅い呼吸をしない限り、過度に意識をしなくても苦しくなることは無いと言って良いでしょう。

ゆっくり大きな呼吸を意識づけする理由として、呼吸死腔の話以上に、呼吸を止めないことへの意識づけの方が重要なウエイトを占めていると思います。

ダイビング中、絶対に呼吸を止めない。
非常に重要なことですが、その理由については以下の記事をご覧いただければと思います。

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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