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アカハタ【ダイビング生物情報】〜安易な餌付けとその危険〜

生物について

今回は、アカハタの絵合わせのポイントから観察時期や生息場所、生態行動、観察の注意点、そして、食味まで、アカハタについて播磨先生に詳しく解説していただきます。

有用水産物のため初期生活史が解明されているアカハタですが、播磨先生の観察結果によると、一般に知られている生態に違和感がある点もあるそうです。
また、餌付けとその危険について警鐘を鳴らすスペシャルコラムもぜひ合わせてご覧ください。

アカハタDATA

標準和名:アカハタ

学名:Epinephelus fasciatus (Forsskål,1775)

分類学的位置:スズキ目スズキ亜目ハタ科ハタ亜科マハタ属

種同定法:D XI,15~17; A Ⅲ,7~8(通常8) ; P118~20 ; PR102~120 ;LLp 55~60

分布:沿岸の岩礁やサンゴ礁(水深2m~160m)、富山湾、山口県(日本海)、九州北岸、瀬戸内海(稀)、伊豆諸島、小笠原諸島、硫黄島・南硫黄島、相模湾~屋久島の太平洋沿岸、琉球列島、南大東島; 朝鮮半島南岸、台湾南部、香港、海南島、西沙群島、中沙群島、南沙群島、インド―太平洋
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)
※本稿では『日本産魚類検索』に従いマハタ属としたが、新たな研究成果として分類学的位置を「スズキ目スズキ亜目ハタ科ハタ亜科アカハタ属」とする最新の論文が発表されていることを付記しておく。次の『日本産魚類検索』改訂版の表記に期待したい。

アカハタの識別方法:
上記の注釈の通り、アカハタは新しいグループ(属)になる可能性があるため、分類学者ではない筆者が言及することは難しく、この属に何種類いるのかは言及するのは時期尚早であることを書き残すに留めたい。

これらのハタの仲間は、体色の特徴が明確に異なるため、体色を用いて種の識別が行われている。
アカハタの特徴は、生時の体色が淡色〜赤色で、5本の濃い紅色帯があることである。
背鰭棘部背縁は黒く、標本になり退色が起きても、背鰭棘部背縁の黒色部は明瞭に残る。

英名は、Banded reef-cod・Black-tipped grouper等10種類前後が使われている。
「背鰭棘部背縁が黒い」という学名由来と思われるものをはじめ、多様である。
標準和名は、東京や神奈川県三崎での呼び名が語源とされている。
赤い色のハタの仲間という意味で『帝国博物館天産部魚類標本目録.帝国博物館』(石川千代松・松浦歓一郎)に、1897(明治30)年の時点ですでに記載があるという。
分布が確認されている地域では、古くから食用魚として普通に利用されていたようで、地方名がとても多く確認されている。
その中で、他種との混同がおきそうな名称は、鹿児島での呼び名であるアカメバルや、備中国笠岡のアラである。
それ以外の地方名は、割愛させていただく。
詳しく調べたい方は、『日本産魚名大辞典』を確認してほしい。

ダイバーのための絵合わせ 

ダイバーを含む一般の人にとって区別がむずかしいのは、アカハタとアカハタモドキであろう。

アカハタの体色は淡い色から5本の太いヨコジマ模様がわからないほどに濃いあか色まで、個体差が非常に大きい。
また、産地や水深によっても差が大きいことに加え、水族館などの施設では飼育時間の経過とともに体色が淡く薄くなる傾向にある。

体色の薄いアカハタ(撮影地:大瀬崎、水深:6m)
体色の薄い個体(撮影地:大瀬崎、水深:6m)

ヨコジマ模様がわかりづらい個体は、アカハタモドキとの混同が起きる可能性もあろう。

しかし、背鰭棘部背縁が黒いという特徴は個体差がなく、アカハタに共通した特徴で、アカハタモドキには無い特徴である。
背ビレの針の様な骨の部分の縁がくろ色のフチドリ模様になっていればアカハタと判断して良いだろう。

アカハタモドキには、その様な特徴は見られない。

また、筆者はダイビング中にアカハタモドキを見た事はない。
同じ海域では、浅い場所がアカハタの生息域で、それよりも深い場所がアカハタモドキの成育環境になっているのではないかと言われている。
そのため普通のファンダイバーがアカハタモドキを見る事は、ほとんどないだろう。

神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」にも、標本写真が2個体あるだけで、アカハタモドキの生態写真は登録されていない。
もしアカハタモドキの生態写真を撮影できたなら、是非登録の連絡をしてほしい。

2種の違いをわかりやすく解説しているYouTubeを見つけたので、リンクを貼っておく

アカハタの観察方法

筆者は、主に相模湾から伊豆半島を挟んで駿河湾沿岸、沖縄本島・久米島・東南アジアで本種を見つけた事がある。

観察時期

観察できる場所では一年中見る事ができる。

観察できる個体数は、相模湾から伊豆半島を挟んで駿河湾沿岸が最も多い。
観察できる環境も、湾内の泥砂地にある漁礁から比較的潮の通りが良いゴロタ場・陸上の切り立った岩がそのまま水中に続く地形・岸からかなり離れた場所の離れ根まで、ほぼ浅い水深のハタ類の生息域を独占している状態に見える。

ゴロタ:大きめの岩や石のこと。

一方で釣り人の多いエリアでは、そのプレッシャーが強いためか、ほとんど見られない。
岸釣が禁止でない場所では岸から離れて釣道具では届かない場所に多く見られる事から、ほとんどが、本来の成長をする前に釣り切られてしまうのだろう。

岸からの釣りが全面禁止になった伊豆・大瀬崎では、急速に個体数が増えている。
同じように、岸から釣りが禁止の沖縄本島・眞栄田岬でも、安定して本種が見られる。

生息場所

相模湾から伊豆半島を挟んで駿河湾沿岸では、ハタ類が生活できる環境で、水深30m位より浅い水深であれば、内湾の内湾性の環境から、離れ根、潮の通りが良い場所まで、アカハタの隠れられる場所がある環境ならどこでも見つかる。
この地域では、この環境での優占種であると思われる。

離れ根:陸から孤立している根。根は岩礁や岩など、水底から大きく隆起した場所のこと。

沖縄本島では、潮の通りが良い環境のリーフエッジの水深3mから5mに多く見られる。
それ以外の環境には、ほとんど見つからない。
また、体色は伊豆に見られるタイプに似ている。

リーフエッジ:サンゴ礁と概要との境目
沖縄型の体色、性別不明(撮影地:眞栄田岬、水深:6m)

久米島では、イーフビーチ南岸の礁縁の礁斜面の水深5〜12mのみに系群を構成しているのが見られる。
『日本の海水魚』に小笠原で撮影された白みが極端に強くなったアカハタが掲載されているが、体色はそれに近い。

東南アジアでの観察場所は、潮通しが良い外洋に面した礁縁の礁斜面の小さな水路がある環境で、その中の水深2mから3mほどの、本種の成育環境としては極端に浅い場所のみでしか見た事が無い。
サイズも10cm程度と小さく、『日本の海水魚』の小笠原で撮影されたものよりも、体色が白に近い。
また、頭部の褐色はより強い印象がある。

それぞれの繁殖地で生殖分離がおきていて、体色パターンにバリエーションが生れているのでは、と考察する。

生態行動

有用水産物なので『アカハタ種苗生産試験』など、産卵から初期生活史は解明されている。

着底後2カ月ほどの幼魚(撮影地:大瀬崎「仮称)サンゴ幼稚園」漁礁、水深:10m) 

産卵期は初夏から盛夏にかけてであることが解っている。
また、産卵適水温は18℃以上31℃までという事も解っている。

この水温帯の海で、成長した個体なら、十分産卵ができる事が調べられている。
この水温帯が適正なら、かなり広範囲で繁殖が可能な適応力の強い種と言えよう。

産卵に参加できるサイズは、雌で平均体長27cm、雄で平均体長32cmだというが、筆者は大変違和感をもっている。
生息地域で行動を観察したところ、オスに変換するサイズはまちまちではないかと感じている。

雄と思われる個体。体色による性差は見受けられない(撮影地:大瀬崎湾内、水深:5m)

ハタ類は、雌として繁殖に参加してから、その中の一部が雄に性変換する事が知られている。
アカハタは雌性先熟の繁殖様式と思われている研究が多いが、筆者の観察結果では、異なる結果になっている。

水中で観察していると、ハーレム様式での繁殖行動をする様に感じている。
このハーレム様式での繁殖行動は、ハタ類の基本的な行動様式である。

この様式では、雄同士が雌をめぐって激しい争いをする事はない。

筆者の観察では大型に成長するハタの仲間に見られる行動に近い印象が強い。

成長スピードは遅く、大瀬崎での観察では、孵化後1年程度でも体長10cm程度までにしか成長しなかった。

1年たった程度の幼魚。体長10cm未満。成熟個体より模様がはっきりとしている( 撮影地:大瀬崎湾内、水深:2m)

繁殖に参加できるサイズに成長するには、3年以上かかると言われている。

伊豆大島産成長中と思われる個体(撮影地:伊豆大島、水深:18m)

その遅い成長スピードから、養殖に向く魚類とは言い難い。
また、釣りや漁などで乱獲すると、個体数の復活はかなり厳しい。

最低でも、繁殖に参加したであろうサイズよりも小さな個体は、キャッチ&リリースすべきであろう。
(本来のキャッチ&リリースは、オオクチバス・コクチバス等のゲームフィッシュで使われるような釣った魚の全てを放すという意味ではない。海外釣り先進国では、すべてライセンス制であり、捕まえたものの中からリリースするルールが細かく決まっている)

雌雄のサイズ差は、大型の雄により第二位以下の雌に成長抑制が起きていると見る方が、魚類生態学的には妥当と思われるので、正式に潜水調査・研究を行うべき事例であると提言する。

サンゴ礁の海での個体ほど、抑制が顕著であるように思えるほど、大型に成長した個体がサンゴ礁では少ない。
(生息域によっては、繁殖参加できるサイズが違う可能性も考えられる。)

養殖において成長サイズの問題を解決することは大量生産に欠かせなく、性変換の仕組みの抑制が安全にできないと、養殖は難しい種だろう。

食味

アカハタはとても美味しい魚と言えるだろう。
今まで筆者が食べた印象では、東伊豆産が最も美味しかった。

特に、産卵期前の春は白身にうっすらと脂がのり、刺し身に甘味がある。

お勧めは、頭とあらを焼いてから出汁をとり、醤油・酒・そして、昆布出汁を加えたものに軽く身をくぐらせてポン酢で食べると、絶品である。

しかし久米島産は、刺し身にしてもそこまで味が無く、とても淡白であった。
刺し身なら、鮮度が良くコリコリした身を楽しむのが良いだろう。

マース煮(塩煮)も有名であるが、他の魚と比較して、特にアカハタのマース煮を食べたいと思うほどとは感じなかった。

素揚げにして塩を振り食べたのが、一番美味しかった思い出がある。
ただし、鰭・骨・頭は大変硬いので、気を付けて食べる必要がある。

マレーシアボルネオ島でも食べたが身が硬く、日本産と比べてかなり劣るものであった。

観察方法

相模湾から伊豆半島を挟んで駿河湾沿岸では、普通に岩の上などに見られる。
アカハタが危険に感じない距離までなら、簡単に近寄ることができるだろう。

最近、伊豆・大瀬崎では、誰かが餌付けをしてしまい、全く警戒心を持っていない個体が生れてしまった。
この場所ではまったく人を恐れないので、さらに容易に観察できる。
(これについては、コラムにて) 

沖縄本島では、眞栄田岬のビーチエントリーポイントから水底までつづく、チェーンロープのそばにいる事が多い。
連日、たくさんのダイバー・体験ダイバーに遭遇しているために、あまり逃げないで居てくれる。
それ以外の場所では、一瞬で隠れて潜んでしまう。

久米島の観察エリアは、ダイビングポイント外なので難しいだろう。

東南アジアでは、外洋側でロングショアカレントが起きる場所の礁縁の礁斜面で隠れている事が多いので、根気よく探さないと難しいだろう。

ロングショアカレント:海岸と平行に流れる強い流れ

観察の注意点

浅い水深から見られる場所なら、体験ダイビングのレベルから見られる。
しかし、現地ガイド・インストラクターにとっては決して珍しい魚でないため、事前に見られるか、リクエストが必要であろう。

前述の通り不用意に餌付けされた個体がいる場所では人慣れし過ぎている為、気を付ける必要がある。

観察ができるダイビングポイント

太平洋岸なら房総半島から南部のダイビングスポットで普通に見られる。

日本海側では、山口県から南部の対馬海流域にあるダイビングスポットで見られるだろうが、太平洋岸より少ない。

南西諸島では、個体数が少ない。

小笠原諸島では、南西諸島より個体数が多い。
他の観察地と比べて体色に大きな変化があるバリエーションなので、小笠原諸島に潜りに行くときは、是非その点に注目して探してほしい。

生態を撮影するには

アカハタの成魚サイズを正確に標本撮影するには、35mm換算35mmから24mm程度の画角が必要であろう。

必然的に外付けストロボが必要となるが、入門用が1灯あれば十分である。

この条件が満たされなら、コンパクトデジタルカメラでも、入門クラスのミラーレス一眼レフでも、十分に撮影できる。

今回の記事に使った映像は、入門用のTG-6とINON・S-2000(旧型ストロボ)の組み合わせで撮影した映像と、GoPro・HERO10に水中ワイドクローズアップレンズのUCL-G165 SDと、FIX NEO Premium 3000DX SWRII FSを取り付けて撮影したものがある。

餌付けされた個体なら初心者でも撮影できるが、自然な姿ではない。

野生個体を驚かさないスキルを身に着ければ、色々な生物を撮影できる様になるので、餌付けされていない個体で練習することをおすすめする。

SPECIAL COLUMN

餌付けとその危険

ダイビングが、海の観光の一つとして位置づけを得た頃から、日本だけでなく、世界中で餌付けが行われてきた。
よく考えた方法論でされている物から、表面的な部分だけを真似て行われている物まで多様である。

筆者個人は、餌付けには、賛成でも反対でもない。
しかし、“安易な”生物の事を考えていない餌付けには断固反対である。

餌付けをする事で、その生物の食性生態を観察できる。
飢えた状態の生物保護につながり、繁殖と個体数の維持に役立つケースもある。
良い例が佐渡島のコブダイで、餌付けがされなかったら、貴重な世代交代までの生態解明は記録撮影されなかっただろう。
コブダイの餌付けに関しては、コブダイの記事をお読みいただきたい。
最近では、房総半島・伊戸のドチザメの様に漁業被害を軽減し、同時にダイビング観光を促進する好例もある。

一方で、伊豆・大瀬崎で近年起きている事例を、大瀬崎でウォッチャーをしてくれているダイビングインストラクターから聞いた。
彼は怒りにまかせて筆者に大瀬崎の現状を伝えてくれた。
安易な餌付けが何をもたらすかを知ってもらいたいのと、ウォッチャーの彼をはじめ、多くの人々に正しく餌付けを行う方法論としての考え方を書き残したいと思い、筆をとることにした。

大瀬崎では2020年8月から、湾内をはじめ全てのダイビングポイントと、大瀬神社境内の海岸の全てで、岸からの釣りが禁止された。
これにより、ちどり側桟橋奥以外の場所が、全面的にダイバーにとって潜りやすい環境となった。

これに先だって、2017年には漁協によって、ダイバーからの入水料を用いて水中に漁礁の設置が開始された。
さらに、2020年からは良い漁礁の研究が目的で、東海大学海洋学部の研究員の力を借りた、通称サンゴ幼稚園という漁礁が生まれている。

これらの良い影響が、大瀬の湾内で見られるようになった。
ここ数年で、多様な生物が見られる豊かな保護区並になったのだ。

それに伴い、悪い事も起きているのが近年の状況である。
夜中に静かになった大瀬崎に、密漁の釣師が現れる様になった。
ダイバーが潜る時間は漁も禁止になっているのに、隣村から漁区を越境して刺し網をいれる密漁漁師も現れている。

筆者も大瀬神社内のポイントで、網を上から落とされた。
危なく魚のように絡まるところであった。
もし絡まったら、現在は水中拘束から逃げる為のナイフ・ハサミ等を携帯しているダイバーは少ないため、一大事である。

それだけ、釣場として解放されている所や漁区内で、捕獲のし過ぎによって魚が枯渇しているのである。
長年、叫ばれている問題である。
考えて採る、が行われていない現状である。

さて、今回はこの貴重な保護区並になった大瀬崎湾内でダイバーが起こしている問題である。
先に書くが、大瀬崎では餌付けは禁止ではない。
筆者も正しい方法を模索しながら、現在も体験ダイバーやオープンウォーター講習中に、魚に興味を持ってほしく、餌を少量与える。
それによって、種ごとの食べ方の違いを観察する事ができる。
餌に使うのは、魚が本来食べているものに限定している。

しかし新漁礁周辺で、甘い考えでアカハタにフィッシュソーセージで餌付けをしてしまった人間たちがいる。
日本のファンダイビング創成期には沖縄を中心に各地で、フィッシュソーセージを使った餌付けが盛んに行われてきた。
盛んになって数年後、魚たちに異変がおきた。
背骨が曲がってしまった魚や皮膚病の魚が見つかるようになり、適応できた特定の種類だけが急速に個体数を増やした。
人間には害が無くても、体が小さい魚達には、フィッシュソーセージに使われている添加物の影響は大きく深刻であった。
現在では、その反省によりフィッシュソーセージを使った餌付けをする事は無くなった。
大瀬崎でも、この件の情報を得た良心的なダイビングサービスは、店頭販売をやめた。
自分の記憶をさかのぼると、25年以上前の事である。

フィッシュソーセージで餌付けを行うべきでないということは、既にダイビング業界の一般常識になっていると筆者は考えていた。
しかし、去年の夏ぐらいから大瀬崎では何者かによってフィッシュソーセージによる餌付けが行われていると言うのだ。

フィッシュソーセージによって手なずけられたアカハタは、ダイバーを怖がらなくなってしまった。
中には、人の指をフィッシュソーセージと間違えて噛みつきケガをさせる個体まで登場してしまった。
ちなみに噛まれたダイバーはベテランで、グローブをしていなかったそうだ。
たいしたケガで無くて良かった。

餌が欲しくて人に危害をくわえてしまう例は、他の場所でも知られている。
しかし、その様な場所ではダイビング前に必ず状況説明をして、参加ダイバーのケガを防止する事に努めている。

千葉県の伊戸を例にすると、ドチザメが人に慣れ過ぎた為、ガイドダイバー以外は現在、餌の小魚をあげる事は禁止になった。
グローブの着用をお願いして、水中で光る物はなるべく付けない等のお願いも最初にある。
伊戸では餌として小魚を与えている様に、餌の種類も、きちんと考えていることをお伝えしたい。

コブダイの例では、安易な餌付けを防ぐため、餌の種類とあげ方まで見せない所がある。
そして、毎回餌を与えるということもしない。
海外では、ファンダイビングと違う時間帯に与えている所もある。

魚にフィッシュソーセージを与えているのを見たユーチューバーダイバーが、同じ行為を動画に撮って公開している。
ユーチューバーダイバーの前で、フィッシュソーセージを与えるのを見せた人間がいる事が想像できる。
本人は無頓着なだけであろうが、それを広げてしまえば、知らないで楽しそうと思って同じ行動をするダイバーが生れてしまう可能性は捨てきれない。

まさに、負の連鎖である。

ここでは「正しいとは何か?」を考えてほしい。

最近(筆者が気が付いたのは8年前)、沖縄県眞栄田岬の青の洞窟付近を中心に、沖縄本島ではフィッシュソーセージの影響が浸透して、新餌が登場した。
沖縄の伝統食の麩である。

確かに、添加物は製造過程で入れられていない。
しかしこれは、水産養殖の勉強をした人だったら誰でも不思議に思うだろう。
麩を食べられる魚は草食性か、雑食で麩の成分を分解できる生物だ。
これを大量にまいて、餌付けすると、どうなるか。
生態バランスは崩れるに決まっている。
誰も、たった一人も、気が付かないレベルなのだろうか。

麩の主原料のグルテン(たんぱく質)は、小麦粉に水を加えて練り、でんぷんを洗い流したものだ。
麩を食べられる雑食性のオヤビッチャ属のスズメダイの仲間はグルテンに反応しているのだろう。
また、現在は、草食性のイスズミの仲間・アイゴの仲間が群れて麩を食べているため、グルテン以外に残っているでんぷん質などにも反応していることが確認できる。

そして、オトメベラが続き、チョウチョウウオ類で雑食性の傾向のある物も集まり始めている。
どの魚も人に慣れ切っており、オヤビッチャ属のスズメダイやオトメベラは、元々警戒心が薄いので驚かないが、草食性の魚類があそこまで人に寄って来るのは異常である。
それらの魚類は明らかに個体数が多く、異常にアベレージサイズが大きく、肥満である。
これは、海藻類の食害も心配なレベルである。

よく見ると、オトメベラや他のベラ類に、白点病より大きい、白いミズタマの病態か、皮膚病か、見たことの無い白斑が見られる個体がいる事に気が付く。
フウライチョウチョウウオの白い体色が灰色がかってくすんでいる個体もいる。
添加物が使われていない麩であっても、本来魚たちが食べている物と違う物を過剰摂取させている事に変わりない。
麩の主原料の小麦を作る段階での農薬使用の問題も気になる。
小麦粉においては、乳幼児期に食物アレルギーが起きている事を考えると、それより小さい生物に影響が出ているであろうことは、書くまでもないだろう。
これが健全な状態ではない事は明白だ。

何故、養殖に使われる餌や廃棄になる小魚等を使わないのか。
単純にコストや発する臭いその管理の容易さなど、用意する側の都合しか見えてこない。
いつになったら、本来の環境を見せながらダイビングを楽しむ様になれるのだろうか。
日本は海外に比べ、見せるべき独特の環境が存在する素晴らしい海が、北から南まで続いているというのに。

こんなことを書くと、環境問題について無用に騒ぎ立てるような人に思われるかもしれないが、表面的な本質とはほど遠い環境保護活動に同調する気持ちは、微塵もない。
また、行政は、産業は、もっと自然破壊をし続けているではないか。
そう考える人もいるだろう。

簡単に答えはでないが、それでもダイビングにたずさわる仕事人として、考えてほしい。
身近な自分を食べさせてくれる生物の本来の姿は、どういう物なのかーー。


【以下、2023年12月追記】
2023年度より、青の洞窟のある眞栄田岬では、餌付けが全面禁止になり、良い影響をもたらしている。

砂辺やゴリラチョップなどをガイドをする日本人経営ショップ・米兵ダイバー等に広く浸透したせいか、急速に餌をあたえるダイバーが減っているのだ。

しかし、眞栄田岬では、違法営業を疑われる中華系ショップが、餌付けポイントでない場所でフィッシュソーセージを持ち込み、餌付けを行う行為が目立つ。

また、YouTubeをはじめとするSNSで知った一般観光客が、パンなどを万座のビーチポイントまで、広げてしまっている。

一度、間違いを広げてしまうとそれが消えるまでには、どのくらいの時間がかかるのだろうか?

残念で仕方がない。

参考文献

播磨伯穂

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沖縄アイランドダイビングサービス、ゼネラルマネージャー・インストラクター・ガイド。 H.T.M.マリンサービス代表。 元日本ペット&アニマル専門学校講師。 ...

プロフィール

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