アヤトリカクレエビ【ダイビング生物情報】〜イソギンチャクに潜む擬態名人〜
宿主となるイソギンチャク類そっくりに色や模様を変える、擬態上手なアヤトリカクレエビ。
さらに、イソギンチャクの周りをクルクル回る様に移動するため、一瞬目を話しただけで見失ってしまうことも……!
ダイビング中に発見した際には、目を離さないようにしましょう。
そんなアヤトリカクレエビが生息する時期・場所とその行動、そして、観察の注意点や撮影方法まで、アヤトリカクレエビについて解説します。
アヤトリカクレエビDATA
標準和名:アヤトリカクレエビ
学名: Izucaris masudai Okuno, 1999
分類学的位置:テナガエビ科カクレエビ亜科アヤトリカクレエビ属
分布:伊豆半島、伊豆大島
生息環境:岩礁、礁壁、礁斜面、転石帯、(ナシジイソギンチャク類)
生息水深:15m以深
(本記事では、『海の甲殻類』に従った)
筆者分布調査によると、千葉県房総半島南部以南に分布が確認されている。
アヤトリカクレエビの識別方法:
上記の分類学的位置から分かる通り、1属1種の生物であり、ウスアカイソギンチャクやナシジイソギンチャクを宿主としている。
体は平たく、丸みを帯びる。
宿主の色や模様に擬態をし、体色は山吹色やだいだいいろ、宿主によってはしろい個体も見られる。
はさみ脚は左右で大きさが異なり(左右不同)、左はさみ脚が大きい。
額角は長く、基部で側方に広がり、眼窩を覆う。
体幹には、不規則な暗色の縦線を持つ。
この縦線の太さや数、長さや細かさ等も宿主の模様に良く似ている。
この体幹に入る縞模様が個体によって変わることから、交互に糸を取る度に形を変える「あや取り」に見立てて和名が提唱された。
ダイバーのための絵合わせ
体の色は主にだいだいいろで、暗色の縦線が入る。
ハサミ脚は左のはさみ脚が大きい。
この様な特徴を持ち、ウスアカイソギンチャクやナシジイソギンチャクに棲んでいれば、アヤトリカクレエビと思って良いだろう。
宿主となるイソギンチャクに擬態するため、特に縦線は、個体によって変異が激しい。
前述の通り1属1種であり、水中でも他の生物と混同することはないと考える。
アヤトリカクレエビの観察方法
観察時期
千葉県房総半島南部以南で通年見られる。
生息場所
ナシジイソギンチャクやウスアカイソギンチャクを宿主としている。
生態行動
甲殻類の仲間には、宿主が特定されている物が多く存在する。
今回のアヤトリカクレエビもその一つである。
これらのエビ類は宿主が決まっており、アヤトリカクレエビの場合は、ウスアカイソギンチャク及びナシジイソギンチャクを宿主としている。
そのため、体色や模様を宿主の模様に似せ、見事に擬態している。
ちなみに、ウスアカイソギンチャクやナシジイソギンチャクは八放サンゴの仲間であるヤギ類の上に付着をする。
これらのイソギンチャクはヤギ類の軸上で縦分裂を繰り返す。
そして、ヤギの軸上を覆い尽くしてしまうとヤギは死んでしまうのである。
アヤトリカクレエビは、このイソギンチャク類に擬態して生活をしている。
アヤトリカクレエビと標準和名が付く前は、仮称として「クルクルカクレエビ」と呼ばれていた。
これは、観察や撮影をしようとすると、イソギンチャクの周りを「クルクル」と回る様に反対側へと移動してしまうためである。
今では、標準和名があるのでこの仮称を使うのは当然妥当ではない。
宿主から移動することは稀なので一度観察されると同じ場所で長い間観察することができる。
しかし、時折姿が見られなくなる時があり、再度、日を改め観察に行くと同じ宿主で普通に見られる。
この事から、イソギンチャク内に入る事が出来ると考えられる。
しかし、イソギンチャクを開いて中を確認する事は出来ないので、真偽のほどは不明だが、筆者はその可能性が非常に高いと考えている。
観察方法
決まった宿主を持つ甲殻類の場合、その特定の宿主を注意深く観察する事が重要になる。
上手く宿主の模様に擬態している為、一度発見したら生物から目を離さない事をお勧めする。
決して、宿主にダメージを与える様な探し方(指で触ったりする事など)はしないようにして欲しい。
観察の注意点
オープンウォーターレベルから十分観察が可能である。
しかし、宿主が何処に生えているかで観察する環境が変わってくるので注意が必要である。
壁の中段からムチカラマツが生えており、そのイソギンチャクに付いているのならば中性浮力の技術が必要になるだろうし、筆者の観察地、伊豆大島では水深20mを越える水深に多く宿主がある為、アドバンス以上のレベルが必要になる。
観察ができるダイビングポイント
- 房総半島(館山周辺)
- 三浦半島
- 葉山
- 伊豆半島(伊豆海洋公園・大瀬崎等)
- 伊豆諸島
- 紀伊半島
- 高知県
- 奄美大島
- 沖縄諸島
- 先島諸島
生態を撮影するには
上述した通り、イソギンチャクの周りをクルクルと回って逃げてしまうため、ゆっくりとエビを驚かせないように近づくのがポイントである。
あとは基本的に動きの無い生物なので、コンパクトデジカメ(TGシリーズ等)で十分撮影可能である。
小さい個体ならば、スーパーマクロモード(顕微鏡モード)での撮影がお勧めであり、内蔵ストロボで十分撮影出来るがリングライト等があるとなお簡単である。
一眼レフカメラならば、35mm換算で、100mmマクロレンズ相当がベストである。
甲殻類はゴツゴツとし、魚類を真横から撮るのと違い、立体的な物が多いため、ある程度絞れ(f-8位)なおかつ寄れるレンズがお勧めである。
参考文献
- 『海の甲殻類』(著者:峯水亮、監修:武田正倫・奥野淳兒、発行:文一総合出版、発行年:2000年)
- 『サンゴ礁のエビハンドブック』(著者:峯水亮、発行:文一総合出版、発行年:2013年)
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