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アカネキンチャクダイ【ダイビング生物情報】~交雑種?それとも独立種?~

生物について

アカネキンチャクダイは、観察されることが少ない魚です。
キンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種の可能性が指摘されていて、個体によってどちらかに似た見た目の特徴を持っていることが知られています。

そんな謎の多いアカネキンチャクダイについて、播磨先生に解説していただきます。

アカネキンチャクダイDATA

標準和名:アカネキンチャクダイ

学名:Chaetodontoplus chrysocephalus (Bleeker, 1854)

分類学的位置:スズキ目キンチャクダイ科キンチャクダイ属

種同定法:D ⅩⅢ, 17~18; A Ⅲ, 17~18

分布:岩礁域。千葉県館山湾~愛媛県愛南の太平洋沿岸;台湾,東インド諸島
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)

アカネキンチャクダイの識別方法:
アカネキンチャクダイは、同じキンチャクダイ属の中で、キンチャクダイChaetodontoplus septentrionalis)、キヘリキンチャクダイChaetodontoplus melanosoma)と分布地域が重複する。
キンチャクダイ成魚との識別については、キンチャクダイの解説で述べた通り、キンチャクダイの成魚には体側全体にあおいろタテジマがあり、一方でキヘリキンチャクダイやアカネキンチャクダイの成魚は体側にあおいろタテジマがないか、あっても主に前半部のみである。
本稿では、キヘリキンチャクダイとアカネキンチャクダイ成魚との識別について記載する。

アカネキンチャクダイの成魚
①眼の後方に斑紋がある
②喉部から胸部は黄~黄褐色

キヘリキンチャクダイの成魚
①眼の後方に斑紋がない
②喉部から胸部は暗色

2013年3月に発行された『日本産魚類検索 全種の同定 第三版』によると、アカネキンチャクダイの幼魚は発見されていないとされている。
しかし、神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」の資料上に、アカネキンチャクダイの中でキンチャクダイに近い模様タイプの幼魚と言われている個体をアクアリストが水槽飼育で成長させた例が載っている。
また、自然界で撮影された、このタイプの幼魚と思われる物も「魚類写真資料データベース」には掲載されている。
生態学、特に雌雄性について専門教育をうけた筆者の観点では、全て性変換中、または雌型への変換期と考えられる変態中の個体と思われる個体のみで、それより小さい時期である幼児期の生殖腺を持っていると断定できる時期ではない。
アカネキンチャクダイ幼魚の中でキヘリキンチャクダイに近い模様タイプの幼魚情報が未発見である。
以上から、資料として十分と言える段階でないので、アカネキンチャクダイの幼魚情報は未確定とさせていただく。
なお、アカネキンチャクダイは、キンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種と考えられていて、どちらかの特徴を強く引き継ぐ遺伝が知られている。
『日本産魚類検索 全種の同定 第三版(東海大学出版会)』では、「アカネキンチャクダイはキンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種であることが強く示唆されている」としながらも、無効種扱いにはなっていない。
確定的な生態行動の観察、またはDNA研究などが行われていないことから、この見解と見られる。
これらの事については、生態行動の項目でふれたいと思う。

標準和名の由来は、江ノ島での呼び名を採用したキンチャクダイという属名に、頭部のだいだいいろが夕焼け空の茜色を思わせることから、命名(標準和名を付けること)したのではと思われる。
なお、本来の茜色(あかねいろ)は、日本工業規格においてJIS慣用色名の一つとして規定されていて、だいだいいろではなく濃い赤の一種を示すので、注意が必要である。

英名は、オレンジフェイス・エンゼルフィッシュ(Orangeface angelfish)と言うと聞く。

前述の通り、日本産で見られる個体は、キンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種である可能性が高いと示唆されている。

台湾からペット用に輸入された交雑種の個体群には、日本産に比べ明らかにバリエーションに富んだ模様の変化が見られる。
キンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種である可能性の他に、ブルースポテッド・エンゼルフィッシュ(Chaetodontoplus caeruleopunctatus Yasuda et Tominaga, 1976:ホシゾラヤッコと言う和名で呼ばれているが、日本産は発見されていないので標準和名ではない)と、標準的なキンチャクダイ、もしくは、ベトナム型キンチャクダイとの交雑種の可能性すら疑われる。

ダイバーのための絵合わせ

日本国内でキンチャクダイの仲間を見つけた場合は、ほとんどがキンチャクダイで、本種に会うのは稀である。
しかし、何故か、キヘリキンチャクダイと比べると、アカネキンチャクダイの方が観察例が多い。
これは、珍しい事を知っているダイバーが多いためなのか、観察できる水深がスキューバダイビングに適しているためなのか、判断しがたい。

筆者自身も、キヘリキンチャクダイよりもアカネキンチャクダイを多く観察している。

キンチャクダイの模様に違和感を持ったら撮影をしておくとよい。
エキジット後、図鑑を使い絵合わせして確定する事をお勧めする。

模様の入り方にバリエーションが豊富であるので、図鑑以外に「魚類写真資料データベース」などで、複数の画像を確認しておく必要がある。

交雑種であるとすれば遺伝によるが、別種であるとすれば不思議なことに、キンチャクダイ寄りの体色個体と、キヘリキンチャクダイ寄りの体色個体が確認されている。
筆者撮影の柏島産は、キンチャクダイの特徴が顕著と思わる個体である。

アカネキンチャクダイ(撮影地:柏島、撮影年:2007年)※ポジフィルムからのデュープ

参考になる動画がYouTubeにも公開されていた。
キンチャクダイと、キヘリキンチャクダイの特徴が5:5程度と思われる個体である。

この個体の様にアカネキンチャクダイの体色がくろいろに近い事は、日本産ではとても珍しい。

以下の動画はキヘリキンチャクダイ寄りの特徴と思われる個体である。

アカネキンチャクダイの幼魚期とはっきり言える幼魚は、まだ発見されていない。
キンチャクダイの幼魚とキヘリキンチャクダイの幼魚も大変似通っているので、それの交雑種と言われている本種の幼魚期は、区別が付かないほど2種と似通っているだろう。
発見される事を心より望む。

台湾海域やフィリピン海域で見つかっている交雑種は、さらに多様なバリエーションが発見されていて、何と何の交雑種の可能性が高い、としか言えない物が多い。

前述の通り、キンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種である可能性の他に、ブルースポテッド・エンゼルフィッシュと、標準的なキンチャクダイ、もしくは、ベトナム型キンチャクダイとの交雑種の可能性すら疑われている。
これらを一部のアクアリストが日本語の混ぜる(マゼ)と英語の科名(エンゼルフィッシュ)を組み合わせて、マゼエンゼルフィッシュと呼び出しているが、魚類学的には残念な表現だと思わざるを得ない。

アカネキンチャクダイの観察方法

アカネキンチャクダイ

自然環境では、筆者は国内でしか観察していない。
海外の自然環境での生活については、大変に興味がある。

台湾から輸入される個体をみると、日本産よりもバリエーションが多く、また、輸入量が多いため、生息個体数が多いのではと感じている。

観察時期

観察時期は、特定できるほどの情報がない。

筆者は、6月、9月、10月に観察した事がある。

情報が少なく、断定できない。

生息場所

キンチャクダイ同様であるが、内湾性の環境より少し外海寄りの場所を好む可能性がある。
泥底では見つからない。

筆者は転石帯、岩場で見つけている。
キヘリキンチャクダイより潮の通りが悪い場所と言えばよいだろうか。
筆者は水深20〜32mで発見している。

生態行動

アカネキンチャクダイの生態は、何も解明されていない。
そこで交雑種(ハイブリット)について、解説を含めて、可能性を考えていきたいと思う。

日本産のアカネキンチャクダイは、キンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種である可能性が高いと言われている。
台湾産、フィリピン産は、キンチャクダイキヘリキンチャクダイとの組み合わせの他に数種類の近縁種との交雑種であるとされている。

簡単に交雑種と書いているが、それには大きく二つのタイプに分けられる。

一つ目は、交雑種がその次の子孫を残せないタイプである。

例)イシガキダイとイシダイのハイブリット

自然界でも稀に見つかっているが、このハイブリットを近畿大学が養殖用に開発して、キンダイと商品名をつけ、食料品として流通している。
この研究の過程で、イシガキダイとイシダイのハイブリットは一代交雑種といって、そのハイブリッドの子供を成長させても子孫を残すことができないことが分かっている。

サケ・マス類同士でも、この研究は盛んに行われていて、養殖の世界では、成長スピードと食味の両立、さらには、病気に強い組み合わせが研究されている。

また、子孫を残せなければ、もし何かの理由で自然環境下にそのハイブリットが放たれても、そのエリアの他の野生個体の遺伝子汚染をおこす心配がない。

二つ目は、交雑種の個体に子孫を残す繁殖力があるタイプである。
この場合は交雑種同士だけでなく、親魚と同じどちらかの種とも繁殖が可能な場合がある。

交雑種の親魚となった2種類の生物が、DNA上大変近い関係で繁殖が可能な場合だけでなく、どちらの親魚もただのバリエーションで、1種類の魚類である可能性もある事になる。

アカネキンチャクダイの場合、親魚と言われるキンチャクダイ寄りの特徴が強い物から、キヘリキンチャクダイ寄りの特徴が強い物まで存在が知られ、海外の情報まで含めると、さらに複雑な状況にある。

筆者が発見したアカネキンチャクダイは、全てキンチャクダイの群がり内で発見している。

柏島で観察した個体は、明らかにグループで一番強いオスとしての行動(キンチャクダイのオスにあてはめた場合)をとっていた。
赤沢で発見した個体は、グループで2番手か3番手と思われるメスの行動をしていた。

同様行動が見られるYouTubeの動画を見つけた。

この動画で、アカネキンチャクダイがしている行動は、キンチャクダイのオスが、メスに行う行動と同じである。
ただしこれらは全て状況証拠の範囲で、科学的には確証とは言えない。
解明の方法は、生態学的に確認する方法と、DNA解析とがある。

生態学的には、最低でも放卵放精を確認する必要がある。
さらに、可能であればその卵の発生と、仔魚期の確認をして、近縁種と比較する必要がある。
これを正式には「初期生活史の解明が必要」という。

自然界で放卵放精を確認したいが、アカネキンチャクダイが発見されているエリアのダイビングポイントは、どこも夕方から夜のダイビングが禁止の場所である。

研究機関や水族館でこの様な基礎研究をするのには、サンプルがどこ産なのか明確な情報が必要で、個体数が少ない本種を採集するチャンスは相当限られている。
水槽実験も、ままならない現状である。

DNA解析は、現在のところはまだまだ高額で、多くの研究費が必要となってしまう。
安価な手法が開発されるのを待つか、DNA解析の手法それ自体を研究するところからスタートするしかない。

以上の事情から、現在も正式な魚類学見解では『日本産魚類検索 全種の同定 第三版(東海大学出版会)』通り、「アカネキンチャクダイはキンチャクダイキヘリキンチャクダイの交雑種であることが強く示唆されている」として、無効種扱いにはしていない。

海外種まで広げるとキンチャクダイ属の魚種の大きな分類学的変更が行われるかもしれない。
これを解明できれば、簡単に博士号を取得できると思うほどの壮大なテーマである。

またまだ海の中には、解らない事がたくさん、ゴロゴロしている。
考えただけで、ワクワクしてしまう。
気が付いたら、筆者は初老と言われる歳になってしまった。

昨今の世界的な分類学では、種を細分化する傾向がある。
生態学の立場からすると、地理的分離だけでなく、生態研究やDNAなど多方面から研究される将来が来ることを望んでいる。

食味

食味についての情報は、まったくない。

観察方法

見られるだけで、貴重な瞬間であろう。
筆者ですら初めて見つけた瞬間は、水中で歓喜の大声を上げてしまった。

同行していたダイバーは、その後の鬼気迫る筆者の動きに、何かは解らないが相当に珍しい生物だ、と気が付いたそうである。

現在は、流石に落ち着いて観察出来るようになった。
人間の慣れとは恐ろしい物である。

観察の注意点

筆者も初めて見つけた際には、嬉しさの余り殺気を出したようである。
初めての発見時は、大きなゴロタ岩の間を逃げ回ってしまった。

それ以降は、撮影機材を持っていない時に出会っている。

一番は、平常心を保つ事が大変大事である。

それ以外の注意点はキヘリキンチャクダイでの注意点と重複するので、本稿では割愛する。

観察ができるダイビングポイント

過去に見つかっている場所を挙げる。
「魚類写真資料データベース」を中心に、ネット上の情報の中からも、生態写真で確実な物をまとめてみた。
もし、これらの情報以外の成育場所からの生態写真をお持ちの方は、「魚類写真資料データベース」に登録をお願いしたい。

ちなみに、スクーバモンスターズの「生物探し」には、アカネキンチャクダイの情報は残念ながらない。(2022年4月21日現在)

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生態を撮影するには

アカネキンチャクダイは、彼らが警戒を解いてくれれば、よく泳ぐ魚の中では比較的撮影が容易な部類の魚である。
警戒していなければ、オートフォーカスで十分に撮影できるだろう。

発見場所によっては、ピンボケでも、被写体ブレでも、ストロボの光りが当たっていなくて青カブリの映像でも、貴重な情報になりえる。
そんな貴重な瞬間なので、問題は撮影側が落ち着く事。
これが一番大事である。

35mm換算で28mm程度が最も使いやすいだろう。

参考文献

播磨伯穂

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H.T.M.マリンサービス代表。 元日本ペット&アニマル専門学校講師。 元NAUIインストラクタートレーナー。 1963年東京生まれ。東海大学海洋学部水産学...

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