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【貴重動画】間男!?アオリイカ産卵をじっくり観察しよう!〜MU、MPとは?〜

アオリイカの産卵。MP、MUとは?
海からのニュース

日本各地、多くのダイビングスポットで初夏の風物詩として楽しまれているのがアオリイカの産卵。
その神秘的かつ大迫力の光景は、毎年我々ダイバーを楽しませてくれます。

アオリイカは、ホンダワラやマメタワラといった海藻や、死んでしまったサンゴ、海に沈んだ木などに房状に連なった卵を産み付けます。
ダイビングスポットではアオリイカの産卵のために木を沈め、産卵床を人工的に設置している場所も多いので、比較的簡単に観察することができるでしょう。

また、アオリイカは、近いうちにシロイカ、アカイカ、クアイカという種類に分かれ、和名も変わる可能性が高いとされています。
それぞれ産卵環境も微妙に異なり、シロイカは水深20mより浅いところの海藻や木の枝などに、アカイカは、水深30mより深いところのソフトコーラルやヤギ類、木などに、クアイカは水深10mより浅いところのテーブルサンゴの裏に卵を産みます。

そんなアオリイカのオスとメスは比較的見分けやすく、体の斑紋がオスなら線状、メスなら斑点状になることで見分けられます。
漠然と産卵を眺めるだけでなく、オスメスを見分けることで、それぞれどの様な行動を取っているのか、ストーリーを見て取ることができ、より興味深い光景になるでしょう。

カップルで仲良く産卵場所に訪れるもの、産卵場所で無事カップル成立となるもの、メスを奪い合う喧嘩をしているもの……。
様々なストーリーを経て、いざ産卵に臨むカップルは、まずオスがメスの体内に、精子が詰まったカプセル(精包または精莢)を渡します。
そして、メスの体内で受精卵となった卵※は、メスによって産み付けられるのです。

体内で受精しているのか、産み付けられた後に受精しているのかは、厳密には解明されていませんが、一般に分かりやすくするため、上記の説明としています。

この間、オスはメスの周囲で警戒を怠らず、産卵終了まで、メスが外敵から襲われないように守り続けます。

このような観点を持って観察することで、ただ目前で繰り広げられる行動を眺めるだけでなく、今まで以上にドラマチックなシーンとして受け取ることができるようになります。

このアオリイカ産卵シーズンが盛り上がる中、八丈島にあるダイビングショップ・アラベスクさんから1本の動画が届きました。

ん?

カップルが成立し、産卵に臨もうとした矢先、どこからともなく別のオスがやってきて、メスに自らの精莢を渡してしまっています。
そして、メスはそのまま産卵を……。

産卵直前になって別のオスにメスを奪われてしまっていますね。

この動画を東京大学大気海洋研究所でイカの研究をされている笘野哲史博士にお送りしたところ、「繁殖行動のひとつとして知られている行動ですが、動画として撮影されている物は非常に貴重!」とのこと。

さらに、この動画での産卵行動、そして、アオリイカの産卵行動について、解説してくださいました。

MP?MU?
アオリイカの観察がより面白くなるお話をしてくださいましたので、ご紹介します!

笘野哲史プロフィール
1990年、岡山県瀬戸内市生まれ。博士(農学)。
2012年広島大学生物生産学部卒業。2014年広島大学大学院生物圏科学研究科修士課程修了、2017年同博士課程修了。カリフォルニア大学ロサンゼルス校を経て、2019年より東京大学大気海洋研究所に所属。専門は、アオリイカの繁殖生態について。イカの魅力を伝え広める、日本いか連合のメンバー。

これは貴重な映像です。

まず卵を産もうとしているメスを、オスが上から守っているところから動画は始まります。
しかし別のオスがやってきて、メスの目の下あたりに腕を伸ばしている様子が見えます。

これは専門用語でスニーキングといって、ペアを作れなかったオスがとる繁殖行動です。
自分の子孫を残すために一瞬の隙を突いて精子の塊をメスに渡すのです。


スニーキングの瞬間

ところでアオリイカのオスがメスに精子を渡す方法は2種類あることが知られています。
Male-parallel(MP)とMale-upturn(MU)の二つです。

まずはMP、これは動画のようにオスがメスの下から近づいて雌雄が平行状態となり、オスが腕をメスの体(外套膜)の中に入れます。
この様子から、Male-parallel(MP)と呼ばれています。(parallel:平行)
このときにオスは精子が詰まったカプセル(精包または精莢)を腕に抱えています。
ちょうどオスが腕を入れた箇所には、卵が通る輸卵管という器官があり、オスは輸卵管の先端あたりに精子塊を植え付けます。



つぎにMUですが、これはオスがメスの上側から近づき、オスは身体を180度回転させて、メスと背中合わせの状態となります。
なのでこちらは、Male-upturn。(upturn:ひっくり返る)
オスは腕に精包をかかえてメスに近づき、メスの口付近に精子塊を植え付けます。
メスの口の近くには貯精嚢とよばれる精子を貯蔵する袋があります。
MUによって渡された精子はここに溜められ、メスが産卵する時に使われます。



この様に、面白いことにメスには精子を受け取る場所が2ヶ所あります。
身体の中の輸卵管先端と、口の周りの貯精嚢です。

オスにとって大切なのは、他のオスとの競争に打ち勝ち、より多くの子孫を残すことです。

輸卵管先端と口の周りの貯精嚢、オスはどちらに精子を植え付けた方が子孫を多く残せるのでしょうか?
ヤリイカを対象に、生まれてきた子供達のDNAを調べた研究では、輸卵管に植え付けた精子由来の子供が多かったそうです。

オス達は輸卵管の先端に精子を付けた方、つまりMPの方がより子孫を残せると言うわけです。

送って頂いた動画では、オス1がメスの産卵を守っています。
もともとペアを作っていた強いオスはMPで輸卵管先端に精子を渡しているとおもいますので、このオスは多くの子孫を残すことができるはずでした。
しかしアオリイカ自身も輸卵管に精子を付けた方が良いことを知っているのか、こっそり割り込んできたオスその2もMPで精子を渡しています。
オス1VSオス2どちらが多くの子孫を残すことが出来るのか、気になります。

ちなみにメスにとっては、MUで多くのオスから精子を受け取って貯精嚢に溜めておくことで、生まれてくる子ども達の遺伝的な多様性を高めることができます。
遺伝的多様性の高さは、病気や環境変化に対する強さを意味し、予測が難しい将来にうまく適応して生き残ってくれる我が子を増やすことに繋がります。
つまり、メスにとってはMUが良く、オスにとってはMPが良いと言えるでしょう。

送って頂いた他の動画に、MUオスがいるかもしれませんので、また時間ある時に探してみようとおもいます。

オスメスの見分けやカップルが成立する様子だけでなく、MPなのか、MUなのか、そんなところまでじっくりと観察して見ると、また新たな発見があるかもしれませんね!

改めてアオリイカの産卵を観察してみると、メスが産卵している最中に、オスは近くで周りを警戒するだけで、一向に精莢を渡しに行かないことがあることに気付きました。
オスが精莢を渡しに行っていないということは、既にメスの貯精嚢にMUで受け取った精莢が存在し、それを利用して産卵を行っているというわけですね。

しかしそうすると、メスは様々なオスからMUで精莢を受け取っていると考えられるので、このメスを守っているオスは何なのか……。
自らもMUで精莢を渡しているので、他のオスの分までメスを見守っているのか、それとも隙あらば、より自らの遺伝子を残すことができる可能性が高まる、MPで精莢を渡そうとしているのか……。

アオリイカのオスは産卵の最中にメスを見守り続けることから、「優しい」と言われることがありますが、ただMPの瞬間を狙っているだけだとしたら……。

産卵を巡るドラマを観察しているだけでも1本のダイビングが丸々終わってしまうこと間違い無し。
くれぐれも残圧と無限圧限界時間の管理は怠らず、じっくりと観察してみてくださいね。

また、今回の記事を執筆している中で、MPの瞬間を捉えた水中映像は多数見つかるものの、MUの瞬間を捉えた水中映像がWeb上にはなかなか見つかりませんでした。

MPでメスが受け取った精莢は輸卵管に渡されるため、貯めておくことができず、すぐに産卵しなければならない。
一方で、MUでは貯精嚢で受け取るため、一定期間保存することができる。

保存できるのであれば、オスとしてはわざわざ他のオスが多数訪れ、喧嘩が発生しやすい産卵場所付近でMUを行うのではなく、遠く離れた場所でMUを行うのではないか。
我々ダイバーの目に触れない場所で、行っているためにMUの瞬間を捉えた水中映像は少ないのではないか。
そんな仮説も成り立ちます。
ちなみに笘野博士によると、メスの貯精嚢に保存された精莢は1ヶ月近く活性が保たれるのだそうです。

前出のイラストを参考に、もしMUの瞬間を捉えることができれば、大変貴重な映像になるかもしれませんね。

尚、アオリイカの卵は産卵後一ヶ月程度後でハッチアウト(孵化)します。
産みつけられた瞬間を観察した卵を継続的に観察し、ハッチアウトの瞬間を目にすることができれば、感動もひとしおなのではないでしょうか。

動画提供:アラベスク

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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