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謎の生物の正体に迫る!未知との遭遇ドキュメンタリー

海からのニュース

2023年5月某日ーー。
絵合わせLINEに一通の質問が寄せられた。

回答者の先生方もお手上げ、いったいどんな生き物なのか検討もつかない。
そして、未知の生物にわくわくが止まらない先生方……こんなことは、絵合わせLINEをスタートして以来、はじめてだった。

かくして、この生き物の正体に迫るべく、謎生物プロジェクトが自然発生的にスタートすることとなった。

はじまりの質問

改めまして、こんにちは。
スクーバモンスターズ編集部です。

スクーバモンスターズでは、LINEで気軽に生物の名前が聞ける「絵合わせLINE」というサービスを展開している。

LINEという1対1トークという気軽さでありながら、海の生物に造詣の深い回答メンバーから信頼度の高い回答が受けられるとあって、開始以来、とても盛り上がっているサービスだ。

冒頭でも触れた通り、2023年5月、何の生き物なのか検討もつかない写真が送られてきた。

ーー質問者の方より

写真全体で10cm程度。
刺激を与えると引っ込みます。
なんだか分かりますか??

編集部では、皆目見当つかず。
さっそく、回答陣へ質問してみた。

湧き立つ回答陣

播磨先生

見当もつきません。
見た事ありませんね。

怪しいのは、ゴカイの仲間……?
一方で、眼点がゴカイの仲間らしくないので、絞れないでいます。

有馬先生

これは、バックは何なんですか?
何かに埋まっているんですか??
他のカットありますか???
また、これは引っ込む前ですか、それとも後ですか????
……本当に水中写真なんですかね?(笑)

これまでも、回答者の先生方が驚くような生き物の写真が送られてくることは稀とはいえあった。
場合によっては「○○の仲間」までしか特定できないこともあったが、逆に言うと鮮明に生き物全体が写っていれば、大抵の場合は「○○の仲間」までは特定できていた。

しかし今回、先生方も全く見当が付かないーー。
そして、いつも冷静沈着な先生方のテンションも高い。(笑)

なんだか面白いことになってきたぞと期待に胸を膨らませながら、質問者の方に詳しい状況のヒアリングや他のカットはないかなど、質問をさせていただいた。

ーー質問者の方より

撮影したのは、小田原エリアのダイビングスポットです。
水深13〜14mでナイトダイビング中に観察できました。

中央に目の様に見える部分と触角の様に見える部分があり、周囲を何やら白い部分が囲っていました。
この白い部分はモフモフしていて、直径10cmほどでした。

ほとんど動かない一方で、少し刺激を与えると、危険を感じるのか中央の本体の様に見える部分はモフモフの中へと引っ込みます。
周囲にはモフモフのみの状態の物がもう1つありました。

播磨先生

播磨は、降参です。
これ見たくなってます。

有馬先生

有馬も降参ですね。
魚、甲殻類、貝類ではないのは確定していますので、環形動物でしょうか。
正体を知りたいです。

もし仮に環形動物でも無いとすれば、全く新しいカテゴリーの生き物となる。
そうなれば世紀の大発見だ。
なんとしても、この生物がいなくならないうちに、鮮明な記録を残したいーー。

播磨先生&有馬先生

堀口君、撮ってきて!
そして、各方面の専門家にも確認してもらおう!

急遽、撮影準備!

というわけで、水中カメラマン・堀口和重さんに白羽の矢がたった。
とはいえ、堀口カメラマンは遠方で長期のロケ中というタイミング。

しかし、打診を受けた堀口カメラマンに迷いはなかった。

「行きます」

この謎の生物が、いつまでいるとも限らない。
何より、この未知の生物への好奇心も抑えがたい。
寡黙な堀口カメラマンが口にすることはなかったが、そんな思いが伝わってきた。

そして、様々なやりくりの末、近日中の撮影ができることとなった。
とはいえ、チャンスは1日のみだ。

謎の生物の撮影だけして、またロケ先へトンボ帰りという鬼のスケジュール。
天候、コンディション、体調等々の懸念材料はあるものの、この1日にかけることにした。

一方、質問者の方へも協力を仰いだ。

詳細のやりとりをしていたところ、そこはかとなくプロの雰囲気を感じる。
実は一般ダイバーではなく、現地ダイビングサービスのガイドの方だったことが判明した。

こうなれば、話は早い。
取材協力を依頼し、話はとんとん拍子にまとまっていった。
(絵合わせLINEがプロの方に使っていただけていること自体にも喜びを感じた瞬間だった)
※生物保護のため、具体的なダイビングスポット名やダイビングサービス名、ガイドの方のお名前は伏せさせていただきます。

イソメか……?

取材当日までの間、もしかするとホビットワームに近い生き物なのでは無いかと播磨先生から連絡を頂いた。
ホビットワームとはオニイソメのことで、砂に潜んで餌となる魚が来るのを待ち、獲物が現れると鋭い歯で攻撃して切断してしまう、ゴカイの仲間である。
大きいものだと体長は1mを超えると言われている。

うっかりググったら、今回の謎の生物とは似ても似つかないものが並んだ。

いやいや、ゴカイと言っても様々な種類がいる。
なお、苦手な方も多いと思われるため、画像検索などをする際には閲覧注意であると付け加えておきたい。

しかしゴカイだとすれば、はっきりとした眼を持つという点に謎が残る。

堀口カメラマンが、まず広島大の若林先生に問い合わせてくださった。
若林先生は、オオタルマワシの原稿を監修していただいた、海産無脊椎動物の生殖生態学の研究をされている方だ。特に、ヒトデやウニの棘皮動物や甲殻類に明るい。

するとさっそく、「ゴカイの可能性があるだろう」との見解をいただいた。

どうやら播磨先生の予想が的中していそうである。
しかし、どれだけ調べても、はっきりとした眼を持つゴカイを見つけることはできなかった。

いよいよ当日

撮影には、スクーバモンスターズの統括マネージャー・細谷も参加する。
5月18日、堀口カメラマンと無事に合流し、現地のダイビングスポットへ向かった。
まずは、詳しく話を聞いていく。

最初に発見したのは、4月19日の19:45頃でした。
ウミウシを探していたのですが、ふと、いつもはあまり行かない、行ったとしても素通りするエリアに行ってみました。
ただの砂地で何もないところですが、改めてウミウシを探してみたんです。
そんな時にこの謎の生物を見つけました。

最初は、スポンジみたいな……、イソギンチャクみたいな……、なんだかモフモフしたものから顔だけ出ていてかわいいなぁと思いました。
近づくと引っ込む様子もかわいかったです。
近くには、モフモフだけで何も出ていないものもありましたよ。

見たことがない生物だったので、気にはなったもののトイレが限界で。(笑)
この時は、証拠写真程度を押さえてエキジットしました。

改めて写真を見てみても、やはり見たことのない生物で、近しい生物も思いつかなかったので絵合わせLINEへ質問を送りました。

それから記事化や取材の話を受け、5月2日にもう一度探しに行くと再度発見。
初めて見たものとは異なる場所なので、別個体かもしれません。
モフモフがなく、「貝かも?」と思いました。

5月9日には、この個体にもモフモフがあることを発見しました。
モフモフは下に沈んでいた様です。

今年は、水温が上がるのが遅れているんです。
水温のせいか、新しくテトラポットを入れたせいか、生物相が少し違うように感じています。

このダイビングスポットは、遮るものが何もなく荒れやすいので同じ生物が長い期間居つくことはあまりないんです。
そんな中、この謎の生物はずっと同じところに居てくれているんです。
これからも継続的に観察していきたいですね。

ますます、直接観察するのが楽しみになっていく。

まさかのBADコンディション

この日、ダイビングスポットは荒れていた。
とはいえ、貴重な取材日、謎の生物が姿を現すのは夜だが、まずは下見のために潜ることに。

「3本の指に入る海況の悪さでした」と細谷談。
うねりと濁りでかなりハードなダイビングとなったそうだ。

夜の撮影にやや不安が募る結果となったものの、謎の生物について語っていたらそんな懸念もどこへやら。

オニイソメの仲間だとしたら、オニイソメみたいに肉食だったら面白いね!
ライトトラップみたいにして周りの小さな生物を集めてみようか。捕食の様子が撮影できたら最高だね!
クリオネのバッカルコーンみたいに、目に見える部分の真ん中が割れて口が出てくるとか、とんでもない捕食姿だったら良いね。
でもオニイソメみたいに実は結構長くて、数十cmもある体が突然全部出てきたら怖いよね。

生物好きダイバーの生物談義は尽きることを知らない。
ここから当日の様子については、細谷視点で書かせていただく。

いざ、撮影の時!

いよいよ潜水時間が迫ってきた。
海はといえば、少しうねりが落ち着いてきたようだ。

エントリーしてみると、透明度も少し回復したように感じられ、昼間よりもストレスなくダイビングできた。
そしてついに、謎の生物が観察されたエリアに到着。

……いた‼️

ゴカイの仲間と思われる謎の生物

顔のような部分は1cmほど。
小さい。
周囲10cmほどにはモフモフがあった。

閲覧注意のゴカイの仲間とは思えないほどに可愛らしい。

刺激を感じると、砂の中に引っ込む。
ただ引っ込むだけでなく、引っ込む前に一度上に上がる動きが特徴的だ。

ゴカイと言って真っ先に思い浮かぶイバラカンザシの鰓管(フサフサした部分)は一瞬で引っ込んでしまうが、一度こちらに文句を言いたいかの様にせり上がってから引っ込む姿は、なんだか意思表示が不器用な様に見えて、これまた可愛らしい。

とはいえ、刺激には比較的強いようで、砂で埋もれてしまったものを水流を起こして払っても、少し待てば出て来てくれた。

打ち合わせ通りライトを使って周りの小さな生物を集めてみたりもしたが、特に新しい動きはなし。

30分ほどだろうか、無事に謎の生物の撮影を行った。

堀口カメラマン

昼間の下見の際は砂に潜っていたので、夜に本当に出てくるのか不安がありました。
夜になりその姿を目にしたとき、本当にこんな目を持つ生き物がいるのだなと驚きました。
撮影時は想像していたよりもライトを嫌がらず、大きな目でこちらを観察しているように感じました。

撮影を終えエキジットに向かう。
さすがに体が冷えて、早く上がりたいーーが、ガイドの方はまだ他の生き物を探している。

生き物愛が半端ない。
この情熱こそ、今回の謎の生物を発見に至った一番の理由だろう。

深まる謎

エキジット後、堀口カメラマンに撮影成果を見せてもらう。
拡大しつつ、改めて謎の生物を確認した。

けれど。

実際に見ても、写真や動画を拡大しても、さっぱり分からない。

君はいったい誰なんだ?

目に見える部分を拡大してみると、レンズが入っているように見えることから、やはり目なのだろう。
だとすると、こんな目を持つゴカイなんているだろうか?

周りのモフモフも拡大すると繊維質であることやこの生物と一緒に動くことから、この生物が作ったものなのだろう。
繭……か?

謎は深まるばかりだ。

拡大した写真

堀口カメラマン

特徴的な目を持っているので、今まで私が見てきた海中の生き物達とは少し違う物の見え方をしているのかなぁと、この生き物に興味がわきました。

そして堀口カメラマンは、「今回撮れた写真と動画を専門家の方に送ってみます」と言い残して、またロケ地へと舞い戻って行った。

ついに正体判明か!?

堀口カメラマンがロケ地へと舞い戻ったその日の夜、有馬先生から興奮気味の連絡が届く。

有馬先生

小田原のあの生き物、分かりました!
ボウセキウロコムシの仲間という高度な目を持ったゴカイらしいです!
とにかく凄いですね!

有馬先生は、名古屋大学の菅島臨海実験所の自見直人先生から教えていただいたそうだ。
自見先生は、多毛類(ゴカイの仲間)の新種を記載するなどの分類学的研究をされており、国内でも数少ない、ゴカイの分類ができる方だ。

また、時を同じくして堀口カメラマンも自見先生とつながった。
先出の広島大学・若林先生にご紹介いただいたのだ。
そして、堀口カメラマンからも撮れたての写真を画像を送ったところ、以下のようなコメントをいただいた。

自見先生より

今回拝見させていただいたのは、ボウセキウロコムシ科のEupolyodontes属の仲間で、標本を見ないとなんとも言えないですが、浅いところの本属は、日本産のものはほとんど未記載種(論文にすれば新種となる)だと考えられます。

このグループはかなり精巧な眼をもっており、魚等を食べることができます。
現在本グループの特殊な眼の進化の研究をしていて、生きた状態で観察できる場所を探していたところです。

何にせよ貴重なゴカイの仲間であることは間違いないです。

これってつまり、新種の可能性があるってこと!

ボウセキウロコムシの仲間ーー。
謎の生物の正体に一歩近づいた。

スクーバモンスターズでは、この不思議で愛らしい生物の正体について、これからも追っていく。

次回は、今回見つかった生物の正体に迫るべく、ボウセキウロコムシの仲間について自見先生にお話しを伺う。


名前がわからない生き物の写真をLINEで送るだけでお答えする、絵合わせLINEは好評運用中!

珍しそうな生き物だけでなく、よく見る生き物も大歓迎。
LINEでの1対1トークなので、他のダイバーの目を気にする必要もありません!
是非お気軽にご質問ください。

ScubaMonsters編集部

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