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プテラポゴン・カウデルニイ【ダイビング生物情報】〜幼魚になるまでマウスブリーディングする珍しい魚〜

生物について

生物好きダイバーはもちろん、アクアリストにも人気のプテラポゴン・カウデルニイ。
卵をマウスブリーディングすることで知られるテンジクダイ科の魚たちですが、実は、プテラポゴン・カウデルニイだけは、海水魚で幼魚になるまで口内で育てるという、珍しい生態をもちます。

一方、その人気の高さとは裏腹に、意外と知られていない事実もあります。

スペシャルコラムでは、若き日の播磨氏が、「この人気の高さ故に、本来の生息地であるインドネシア・バンガイ諸島から国内移入されてしまったのか?」と現地で調査取材した記録をお届けします。

国内移入:本来生息しない地域に人為的に、同一国内から持ち込まれること。今回の例ではインドネシアでの国内移入。

プテラポゴン・カウデルニイDATA

標準和名:日本に分布しないので、標準和名はあてられていない。

学名:Pterapogon kauderni Koumans, 1933(プテラポゴン・カウデルニイ)

分類学的位置:スズキ目スズキ亜目テンジクダイ科プテラポゴン属

種同定法:Dorsal spines (total): 8; Dorsal soft rays (total): 14; Anal spines: 2; Anal soft rays: 13.

分布:インドネシア・バンガイ諸島固有種。国内移入でレンベ海峡、バリ島などで確認されている。

プテラポゴン・カウデルニイの識別方法:
本種は一属一種なので、見た目で識別しても他の種類と見間違える事はないほど、特徴的な形態をしている。
他のテンジクダイ科の魚類と比較しても、似た種は存在しない。
バンガイ諸島固有種なので、英名はバンガイカーディナルフィッシュとする事が最も多い。
独特の繁殖生態が知られてから、ペット業界で人気となった。
本来の生息地であるバンガイ諸島では、採集漁民の乱獲のため、個体数の減少が見られるという報告がある。
また、「アマノガワテンジクダイ」という和名がエプソン アクアパーク品川(現・マクセル アクアパーク品川)の発信で使用が見られる。
本来、魚類分類学、博物館水族館学、動物園水族館協会などの指針では、日本に分布のない魚類に標準和名を提唱する、つまり 「名前つけること」もしないのが慣例になっている。
公共性の高い機関とも言える水族館が、間違った認識を与えかねない和名を使う事も、推奨していない。
それが、学問としての魚類分類学の立場である。
神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」で学名のカタカナ表記なのは、そのためである。
本稿でもそれにしたがって、カタカナ表記「プテラポゴン・カウデルニイ」を使用する。

ダイバーのための絵合わせ

現在ダイバーがプテラポゴン・カウデルニイを見られるのは、インドネシアの中でも国内移入されたダイビングポイントのみである。
その様な場所で、間違えるほど似ている魚類は存在しない。

テンジクダイ科の魚類としては、体高に対して、体長が短い。
さらに、4本の放射線状に広がるくろいろのななめじまが見られ、各鰭が長く、特に腹鰭にみずいろの水玉模様が見られれば、本種の成魚である。

プテラポゴン・カウデルニイの成魚(撮影地:レンベ海峡)
プテラポゴン・カウデルニイの成魚(撮影地:レンベ海峡)

幼魚は、ななめじまが見られるが、ミズタマ模様は見られない。
また、本種の成魚は、見た目では性差が見られなく、繁殖期の行動のみで性別が判別できる。

口から外へ放たれて間もないプテラポゴン・カウデルニイの幼魚
口から外へ放たれて間もないプテラポゴン・カウデルニイの幼魚

ダイビングポイントでは、英名バンガイカーディナルフィッシュで通じるが、「カウデルニイ」でも通じる。

アマノガワテンジクダイは現在のところ正式な名称とは言えないので、使って普及させることは、望ましくない。
最近では、この名称をペットショップでも、使用している店が見られる。
ペットショップでは以前、学名由来のカウデルニイの表記で販売されていた。こちらの方がまだ良い印象で、グローバルスタンダードである。

アマノガワテンジクダイが正式名称に使われることがあるとすれば、悲しい事件が日本でおきた時のみである。
これは、スペシャルコラムを参照してほしい。

絵合わせ:見た目の特徴を図鑑と見合わせる事

プテラポゴン・カウデルニイの観察方法

筆者は、約10年前にインドネシアに滞在していた頃、現地の住民にバンガイ諸島は内紛が発生している紛争地帯なので、地元の人々も近寄らないような場所と聞いた。
バンガイ諸島への旅行は危険が伴うため、行くべきではないだろう。

筆者も、自然界ではインドネシアの国内移入地でしか見た事がない。

筆者が観察したエリアでは、比較的流れの少ない内湾性のサンゴ礁域で、ガンガゼやイソギンチャク類などに、群がりを作って生活していた。
底質は選ばない様である。

ダイバーが動かずに観察すれば、自然な生活行動を見せてくれる。

生息場所

本来の生息地域であるバンガイ諸島では、観賞魚用の乱獲により、急速に個体数を減らしているとの報告がある。
発見当初は、メナドからダイビング・クルーズ船が就航していたが、現在は危険回避の為におこなわれていない。

インドネシア・スラウェシ、レンべ海峡、メナド周辺の某湾と、バリ島のシークレットベイで、国内移入個体が見られる。

筆者は確認していないが、フィリピン・台湾・スリランカ・マレーシアからも、見つかっていると聞く。
人為的な問題で、移入がおきたと考えられる。
それらの地域では、国外外来種であると言える。

観察時期

筆者が観察地したエリアでは、一年中、すべてのステージが観察できた。

生態行動

幼魚期は、イソギンチャク類やガンガゼなどへの依存度が非常に高い。

イソギンチャクで身を守るプテラポゴン・カウデルニイの幼魚(撮影地:レンベ海峡)
イソギンチャク類で身を守るプテラポゴン・カウデルニイの幼魚(撮影地:レンベ海峡)

成長するにつれ群がりで移動する事が多くなり、成魚になるとペアを組む。

産卵期に入ると、他の個体をそばに寄せ付けなくなり、産卵受精した有精卵を雄が口の中に入れて育てる。
これをマウスブリーディングという。

マウスブリーディングは、テンジクダイ科の特徴であるが、プテラポゴン・カウデルニイは、孵化した仔魚(しぎょ)を口内でそのまま育て、幼魚になってから、ガンガセなど保育に適した環境に放す。
これはプテラポゴン・カウデルニイにしかない特徴的な生態行動で、現在、海水魚では唯一の生態行動である。

口内保育する雄(撮影地:バリ島シークレットベイ)
口内托卵をする雄(撮影地:バリ島シークレットベイ)

この発見をきっかけに、観賞魚界で人気の生き物になり、大量に流通している。

日本の水族館で最初に繁殖・生態研究に成功したのは、志摩マリンランド(2021年3月31日閉館)で、1996年に繁殖賞を受賞している。
水槽繁殖は、環境が整えば簡単に行えるので、一般アクアリストでも現在は繁殖に成功している。

観察方法

インドネシアの国内移入ポイントなら、中性浮力のコントロールができて、ボートダイビング経験があれば、アドバンスダイバーレベルで十分観察できるだろう。

残念だが、現在はバンガイ諸島の生息地の情報はない。

観察の注意点

プテラポゴン・カウデルニイの移入地に共通の特徴として、生息している生物がとても繊細で弱いものが多い。

内湾性サンゴ類はフィンキックで一度蹴られただけでも崩れてしまう。
何もいない様に見える砂地の表面にも、たくさんの生物が生息している。

これらの生物がすべて、このエリアの生態系の一部である。

観察ができるダイビングポイント

現在、プテラポゴン・カウデルニイが観察できるのは、インドネシアで国内移入された下記2つのダイビングポイントとなる。

【インドネシア共和国】

  • レンベ海峡・大スンダ列島スラウェシ島
  • バリ島・シークレットベイ

※特に大スンダ列島スラウェシ島マナド側で見られる湾については、この場所が人気ダイビングポイントになることによって国内移入が加速する懸念から詳細な場所は伏せさせていただく。

生態を撮影するには

写真の被写体としては、コンパクトデジタルカメラをはじめとした全ての水中撮影機材で、落ち着いて色々な撮影にチャレンジすることができ、水中写真の練習台には、とても向いている。

マウスブリーディングをしている雄は、とても神経質になるので、35mm換算で100mmマクロレンズ以上の望遠系のマクロレンズで、刺激しない様に被写体までの撮影距離に気を付ける必要がある。
レンベ海峡の個体の方が、ダイバー慣れしていて、バリ島より撮影しやすい印象があった。

SPECIAL COLUMN

私が、プテラポゴン・カウデルニイにはじめて興味を持ったのは、25年以上も前になる。
当時、横須賀市自然/人文博物館の館長を務めていた林 公義先生(現在は横須賀市自然・人文博物館専門委員)が、バンガイ諸島に取材班として訪れるNHKの生物番組が放送され、その番組で、プテラポゴン・カウデルニイの「幼魚まで口内で保護をする」という生態を知った。
この目で見てみたいと本気で思い、真剣にバンガイ行きを考えはじめた。

この番組の放送から間もなく、マナドからダイビングクルーズ船がチャーター就航してくれると聞いた。
しかし、当時でも50万円を軽く超える金額。
当時の自分には、出せる金額ではなかった。
さらに、わずか数回の航行の後、採算が取れないこととバンガイ諸島の治安悪化のため、チャーター就航は行われなくなった。

それから5~6年後、このプテラポゴン・カウデルニイがレンベ海峡で見られるという話を噂で耳にしたものの、当時は情報が少なく、簡単に見られるとは考えていなかった。
もし、見られるならば見たいと思うと同時に、筆者はプテラポゴン・カウデルニイの密かに放流が行われて、見られるようになったと考えた。
現在は、そのようなことを国内移入という。

初めて訪峡してみると、想像したよりも簡単に観察することに衝撃を受けた。
プテラポゴン・カウデルニイは、本島側のポリスピアといわれるダイビングポイントに最も多くみられた。
ここでは、昼間はシライトイソギンチャクやピア(桟橋のこと)の陰にあるガンガゼの上で、20~100匹の群がりを作り、夜になると群れを解きエサを捕るという生態行動をとっていた。
この行動は、バンガイ諸島でも観察されているため、通常の行動であると考えた。


移入されたと思われる場所(撮影地:レンベ海峡ポリスピア)

しかし、この時は、国内移入の原因を調べるヒントすら得ることができなかったが、取材を続けることにした。
以降、毎年この地を訪れて生育場所を確認していると、数年後にはレンべ海峡全域で、普通に観察できるまで生息域を拡大していた。
プテラポゴン・カウデルニイの生息環境が限定されたエリアであること、そして、これらが無効分散であり、これ以上生息域が広がらないことを期待したが甘かった。
生息範囲が広がることにより、ガンガゼやイソギンチャク類のそばを生活環境にしていた他のテンジクダイ科の小型種は、一目でわかるほど個体数が減ってしまった。
それでも当時は、プテラポゴン・カウデルニイが世界で唯一見られるダイビングポイントであったことも事実で、大事な観察場所であった。


プテラポゴン・カウデルニイが爆発的に増え始めた頃のカット(撮影地:レンベ海峡)

では、誰が国内移入をしてしまったのか。

毎年数回にわたって現地入りする事で、段々とダイビングガイド達と仲良くなっていった。
レンベ海峡の属するこのエリアは、かつてオランダ領であり、キリスト教に改宗した人々が多く、親日家も多かった。
彼らと接するうち、優しい人柄の人が多いと感じていた。
それでもプテラポゴン・カウデルニイについて質問をすると、誰に聞いても顔がくもり、「知らない」と言われた。
一番仲良くなったダイビングガイドからでさえ、「レンベ海峡には昔からいた!!」と怒鳴られるほどであった。
果たして、ダイビングガイド達が国内移入をしてしまったのであろうか。

もう一つの疑いをもって、アクアリストへ売るためのルートの確認を行った。
インドネシアでは、採集者から魚を集めて買う船が運行されている。
航行中、その船から魚が逃げてしまったり、また、弱ったり死にかけた魚を海に捨ててしまったりということが起こる。
その影響でプテラポゴン・カウデルニイが見られるようになったのかもしれないと考えた。
調査の中で、スラウェシ島北部を回ってレンベ海峡に定期的に買い上げの為の船が来る事を知った。
そして、売り渡すまでの間、現地の漁師が畜養する生簀を見せてもらうことが叶った。中にいたのは、ナンヨウハギやハタタテダイなど、アクアリストに人気の生物ばかり。
プテラポゴン・カウデルニイの姿はなかった。
買い上げ船の乗組員に質問すると、買い上げのルートはこのスラウェシ島北部のエリアに先に訪れ、その後、稀にバンガイ諸島に行くという。
バンガイ島が先であれば、途中でプテラポゴン・カウデルニイが捨てられて繁殖したと考えることもできるかもしれないが、バンガイ諸島で仕入れた帰路、ここで死にかけたプテラポゴン・カウデルニイを捨て、それが復活して増え始めたと考えるのは無理が有りすぎる。
その上、この買い付け船の停泊場所は潮の流れが常に速く、プテラポゴン・カウデルニイの生活環境には合わない上に、ダイビングポイントであるポリスピアからもかなり離れていた。

行き詰った時、バンガイ島へチャータクルーズをしていた会社の船が、ポリスピアに二隻も停泊しているのを目にした。
停泊していたのはプテラポゴン・カウデルニイが見られるダイビングポイントのすぐそばである。
それから数年後、この会社のマナド側の母港で、プテラポゴン・カウデルニイが見つかった。
残念だが、プテラポゴン・カウデルニイが「レンベ海峡には昔からいた!!」と怒った彼は、元々この会社のチーフダイビングガイドであった経歴を持つ。

ここまで調べると、後は誰が最初に移入したのかはどうでもよくなった。
人気の生物と不用意に教えてしまう事の怖さを感じた。
バリ島・シークレットベイの場合は、有名水中カメラマンであった故・殿塚考昌氏が経営するダイビングショップが撤退したあと、この場所の海の生物の珍しさと多様性に気が付いていない、貸しダイビングボート屋の現地住民が、ダイバーに人気と聞いてプテラポゴン・カウデルニイを15匹、ペット業者から購入して放したそうである。
たった、15匹だけである。
移入地にはそれだけ、天敵となる生物がいなかったのだろう。

インドネシア国内での話なので国内移入となるが、実際にはどちらの移入繁殖地も、日本列島がすっぽり入るほどの距離が離れている。
それ以外の確認地は、残念ながらペットとして水槽で飼われていた物の流失であろうと推測される。

プテラポゴン・カウデルニイの適水温と、生育環境に向く場所は、奄美大島以南の島々なら日本国内であっても、いくらでも見つかる。
沖縄本島のホームセンターのペットコーナーで、プテラポゴン・カウデルニイが売られているのを筆者は確認している。
日本に分布のない魚類にも関わらず、「アマノガワテンジクダイ」という和名の使用が見られると先述したが、もし、日本で移入が起き、海から定着が見つかれば、標準和名は先取権により、アマノガワテンジクダイとなるだろう。
こんな「悲しい事件」が起こらないことを切に願う。

参考文献

播磨伯穂

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H.T.M.マリンサービス代表。 元日本ペット&アニマル専門学校講師。 元NAUIインストラクタートレーナー。 1963年東京生まれ。東海大学海洋学部水産学...

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