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摩訶不思議!平沢・淡島のダイビングで感じた奥駿河湾の魅力

海のレポート

駿河湾は日本で最も深い湾で、その最深部は水深2500mに達します。
その海底勾配は非常に急で、海岸からわずか2km沖に出ただけで水深500mに達する場所もあります。

さらに、駿河湾の向かいには日本最高峰の富士山があり、富士山と駿河湾の高低差は6000mを越えます。

富士山に降る雪や雨は年間25億トンにもなり、その豊富に蓄えられた地下水が川や湧き水として駿河湾に流れ込む。
そんな日本の中でも特別な地形をもった場所が駿河湾です。

その駿河湾の最も奥に位置するのが奥駿河。
今回は淡島のボートと平沢のビーチを通して奥駿河湾のダイビングの魅力を発見してみようと思います。

今回の案内人はふらら日和・八木さん

今回、淡島のボートダイビングと平沢のビーチダイビングを案内してくれるのはネイチャーガイドサービスふらら日和の八木さんです!
ふらら日和は平沢や静浦をメインでガイドする現地ショップで、これらの海をホームグラウンドにしている店は唯一と言っても良いかもしれません。

オーナーの八木さんはガイド会にも所属。
以前は川奈で現地ショップを経営され、伊豆でのガイド歴も20年以上。
いま、平沢・淡島・静浦のエリアの海に1番詳しい方は、確実に八木さんでしょう。

僕が取材で訪れたのは1月の前半。
水温の低下とともに生き物が減ってくるこの時期ではありますが、今見られる1番良い海を、ということで、様々な光景や生き物、そして新たな視点を教えて頂きました。

多くの都市型のショップが講習のために訪れる平沢の海なので、潜る前のイメージは「講習に適した場所」「台風に強い海」というイメージが強かったのですが、八木さんの手にかかると被写体溢れる見どころたくさんの海に変わるから摩訶不思議!

淡島ボートの1番の目玉はオオミナベトサカの群生

淡島のボートダイビングの魅力は奥駿河特有の砂泥底に生えるソフトコーラルの豊かさと、栄養豊富な海がもたらす魚影の濃さでしょう。
個人的には、伊豆半島は全体的に手付かずの海で、潮通しの良い場所はソフトコーラルが美しく、色とりどりの世界が溢れていると思っています。

同じ西伊豆の田子や大瀬崎のボートポイントはダイナミックな岩礁帯の地形にカラフルなソフトコーラルがびっしりといった光景が多い。
それはそれで非常に魅力的なんですが、淡島の水中は一味違う。
その岩礁の上に泥が積もり、その上からソフトコーラルが生えているんです。

そして淡島には、伊豆半島ではめずらしいオオミナベトサカの大群生があります。
写真内にたくさんあるニョキニョキと伸びる白いソフトコーラルがオオミナベトサカというのですが、この写真でも8分咲きくらい。
満開の時はオオミナベトサカの草原のようになるそうです。

このもふもふ感は他では見ることができない、淡島ならではの光景です!

また水中のいたるところにキサンゴも生えていて、群生するわけでもなく、こんなにもキサンゴが点在しているポイントも僕は他では知らず、すごく興味深かったです。

淡島の海ではその他のソフトコーラルも元気で、伊豆全般で減りつつあるジュウジトサカの立派なサイズが目を引きます。
少し深場には、枝垂れ桜のように垂れ下がるトサカもあり、オオミナベトサカだけじゃなく、様々なソフトコーラルだけでも一見の価値があります。

こんなに湾奥のポイントで、ここまでソフトコーラルの生える豊かな場所があるというのは、恐らく駿河湾の海の豊かさあってこその光景です。

また駿河湾奥だからこそ、台風などが来ても外洋ほどの大きなうねりにならないため、ソフトコーラルが巨大化しているのではないでしょうか。
なかなか他にはない独特の空間です。

さらにはサクラダイやナガハナダイ、アカオビハナダイなどの魚影がすごく濃いんです!
今回の取材は1月の前半でしたが、今年は水温の低下も早く、水温は15℃台。
それにも関わらず、こんなにハナダイがたくさん群れていることに驚きました!

なだらかな斜面になるポイントなので、ハナダイは満遍なく散って群れているので写真が撮りやすい訳ではないのですが、視界に入るハナダイの量は多い!
同じ伊豆半島の田子や伊東にも負けていないと思います。
(でもやっぱり写真を考えると、、田子や伊東のハナダイが固まった光景は捨てがたい……かも。苦笑)

他にも、先ほど紹介したジュウジトサカとハナダイたちを絡めたショットなんかも面白い!
今回はソフトコーラルとハナダイをワイドの目線で切り取りましたが、淡島の海底には次の世代となる小さなジュウジトサカなども生えています。

まさに成長途中の小さなトサカには、まだ子供の小さなハナダイの幼魚たちが隠れ家としているので、マクロで撮影しても十分面白いでしょう。

ここまで紹介したオオミナベトサカなどの巨大なトサカは水深が30~40mと少し深いのが難点です。
しかも下は泥地なので1度泥が舞うと大変なことに。

難しいポイントではないですが中〜上級者におすすめかと思います。

ただし、深場以外が面白くないかというと全然そんなことはなくて、例えば20mラインにはこんな感じの一面オレンジのソフトコーラル畑があり、ここにもサクラダイやスズメダイといった魚の群れから、マクロ生物まで楽しむことができます。

僕自身、淡島は深い場所が面白く浅瀬はあんまりというイメージがありましたが、2本目はこういった中間で遊ぶのも面白い。
ボートダイビングは1本だけという人も、ビーチとは全く異なる景色が見れるので20mくらいまででも十分面白いですね!

そして奥駿河にもアオウミガメがいるんです!

淡島では地形の起伏があるためアオウミガメが隠れ家として休むような岩陰があります。
比較的同じ場所で休んでいることが多いらしく、僕が潜った日も2ダイブとも同じ場所で観察することができました!

西伊豆ではアオウミガメは比較的珍しく、なかなか見ることができません。
それがこんな駿河湾の最も奥にも生息していて、冬にも観察できるなんてすごいですね!

駿河湾ではアオウミガメが産卵、繁殖している場所もあるんですよ。

そして浅瀬にはこんな感じの、溶岩が隆起してできた柱状節理(柱状の割れ目)があります。

ここはまるでダイビングのためにできたのではないかと思うほどダイバーには都合の良い根で、トップの水深が約5mと安全停止をするには最高の場所です。
潜降、浮上のブイもこの根に付いています。

ダイナミックな地形が少ない奥駿河のダイビングポイントには少し珍しい、柱状節理が見られるのも淡島ならではの特徴!
こんなに美しいソフトコーラルとハナダイを見たあとに、ジオを感じられるなんて素晴らしい場所ですね。

意外にワイドでも楽しめる平沢ビーチ

平沢のビーチポイントというと、多くのショップさんが講習のために訪れるポイントというイメージが強いかもしれません。
確かに講習に適した場所もあるのですが、平沢ビーチの潜水可能な範囲は非常に広く、通常のファンダイビングで十分楽しめます!

今回は冬の透明度が良い時期であったこと、そしてキアンコウの情報があったこともあり、マクロがメインのはずの平沢ビーチに敢えてワイドレンズを持って潜りました。

すると意外や意外、ワイドを持って入っても十分楽しめることが発覚!

まずはお目当てのキアンコウ!
80㎝前後の特大サイズでなんと水深10mに登場しました!

キアンコウは普段は深海に生息する生き物ですが、冬の時期になると繁殖のために浅瀬にあがってきます。

駿河湾はビーチからすぐに深海に直結する場所なだけあって、大瀬崎や平沢では毎年アンコウやキアンコウの出現情報が出回ります。
ただし、移動範囲が広いため見られるかどうかは時の運。
出現情報が出たら、すぐに潜りに行くのが見るコツかもしれません。

アンコウやキアンコウは駿河湾の冬の風物詩の1つかもしれませんね!

他にも水深16m前後にあるパイプ漁礁にはソフトコーラルがモリモリ!
高さ5mくらいある漁礁に密集するソフトコーラルはそれだけで見応えがあるし、夏から秋は生き物も多くなって面白いそうです!

海の透明度がいい冬ならではの青とのコントラストも最高ですね。

浅瀬にはこんなミドリイシサンゴの群生地が!
平沢ではミドリイシサンゴの繁殖保護活動を行なっていて、地域一体となって造礁性サンゴの分布北限域となる海を守っています。

今回潜ったのは3本目の西日が傾く時間帯だったので、黄色っぽい斜めの太陽光が降り注ぎ、美しく儚いながらも伊豆という地でたくましく生きるサンゴの群生を見ることができました。

温暖化の影響もあり、西伊豆でもより南に位置する雲見などではテーブルサンゴが増えているという現象もありますが、このミドリイシサンゴは昔から伊豆に生息していたそうです。
これからも元気な姿を見守っていきたいですね。

そして同じく水深の浅い、サンゴのすぐ横にはイソギンチャクの群生地もあり、こんなクマノミたちも!
水深4m前後にいて、ちょうど夕日がバックに入る位置にいます。

普段クマノミなどは意外とスルーしがちですが、ついつい撮りたくなるようなシチュエーションです。
結構度胸のある子たちで、人間にも物おじせずに向かってくるので写真は撮りやすいですが、過度にプレッシャーを与えすぎないように注意して観察したいですね!

定番・平沢ビーチでマクロダイビング

もちろん平沢ビーチは定番マクロも面白い!
季節や、その時に出ているものによって面白さは違うのですが、僕が感じた魅力は砂地の色が白いこと。

マクロ生物に関しては隣の大瀬崎のビーチも非常に面白く、恐らくどちらも引けを取らない。
では大瀬崎とは異なる平沢の良さは何かというと、砂地が白いということでしょう。
白い砂地は写真を撮ると圧倒的に違う雰囲気の写真になりますし、光を反射するので海の中の明るさが変わってきます。

そうやって砂地に注目していると、ついつい撮影した生き物がハゼばかりになっちゃいましたが、ハゼも種類が多くて面白かったです!!

例えば、いきなりちょっとマニアックにはなりますがツバメクサハゼ!
普通のクサハゼは知っている方も多いかもしれませんが、このツバメクサハゼは虎柄気味に黄色の線が入っていて、また美しいです。

アイドルだけではなく、こういう噛めば噛むほど面白いハゼの世界というのは本当に奥深い!

また、砂地を潜っている時に八木さんが指差していたのは極小のクサハゼ!
このサイズは近寄るのが非常に難しいサイズで、これは八木さんに「どうだい?これは撮れるかい?」と試されているのではと妄想しながら……。

伊豆在住のカメラマンの意地でアプローチし、なんとかシャッターを切りました。

他にもカスリハゼがいたり、

ウミテングがいたりと、THE伊豆の砂地の生き物を見て回りながら撮影しました。

このビーチポイントは非常に面白かったのですが、もし、自分でガイドをやれと言われたら難しい。

やはり平沢・静浦をメインで潜る現地ショップの八木さんだけある紹介、魅せ方だなと思いました。
その最たる例がこのシチュエーション!

ナシジイソギンチャクに着くセボシウミタケハゼ!
これは伊豆らしいシチュエーションと思いきや、「なかなか他にないでしょ」と言われ……。

どちらも伊豆でよく見る被写体なのに確かにこのシチュエーションは見たことないし、撮ったことがなかったシチュエーションです。

もう本当にさすがとしか思いようのないガイディング、そして生き物の見せ方でした。

おわりに

平沢の海は講習の海というイメージがやっぱり強かったですし、正直平沢に潜るなら大瀬崎に潜ったほうが面白いんじゃないかと思っていたのが本音です!

しかし、それを覆されるほど僕自身にとってもいい取材でした。

もちろん平沢ではビーチも淡島のボートも両方潜って欲しい。
1ボート1ビーチで楽しむのがおすすめ!
追加でもう1ボートや1ビーチするのもいい。

今回淡島はワイドのみの紹介になりましたが、淡島はマクロ目線で潜ってもフタイロハナゴイなどレアなハナダイもいたり、ソフトコーラルを絡めたシチュエーションがあったり、面白い!

僕も次は淡島でマクロで撮影をしたい。
まだまだポテンシャルの高い海。

僕も引き続き通っていこうと思います。

茂野優太

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Under Water Creator。 1991年、神奈川県生まれ。 海・ダイビングの魅力を写真、映像、文章、ガイドなど、多様なアプローチで発信する。 伊...

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