オニイトマキエイ【ダイビング生物情報】〜 オニイトマキエイは幻のマンタだった!?〜
幻のマンタ、オニイトマキエイ。
かつて1種1属とされてきたオニイトマキエイ属ですが、2009年にオニイトマキエイとナンヨウマンタの2種に分けられました。
しかし、現状では、研究・検証の余地があると考えられます。
マンタと呼ばれるオニイトマキエイ属のうち、オニイトマキエイについて、ご紹介します。
未だ確定している情報が少ない種ですが、「ダイバーが会いたい場合、どのように探すか」考察していただきました。
オニイトマキエイDATA
標準和名:オニイトマキエイ
学名:Manta birostris
分類学的位置:軟骨魚綱トビエイ目トビエイ科オニイトマキエイ属(イトマキエイ科イトマキエイ属とする説も海外にあり)
種同定法 : 種同定については、研究中と判断する方が良いだろう。
分布:ナンヨウマンタより外洋性:小笠原諸島,青森県(陸奥湾),静岡県富戸,駿河湾,和歌山県太地,高知県以布利,沖縄島,与那国島;台湾,インド―西太平洋(紅海を含み,ニュージーランドまで)ハワイ諸島,東太平洋・大西洋の熱帯~温帯域
オニイトマキエイの識別方法:
Marshall et al.(2009)により、ナンヨウマンタとの4パターンの違いを提唱している。
① 体盤背面の白色斑の前縁が、口裂に沿って直線的、且つ並行する。
② 第5鰓孔の黒斑は鰓裂全域にかかり大きな三日月形
③ 上顎、下顎とも口裂周辺が一葉に黒色(~農灰色)
④ 歯は幅広く、配列は互いに接する程度
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)
ダイバーのための絵合わせ
オニイトマキエイとナンヨウマンタの分布域を見ると、筆者の専門は生態学・博物学なので、まだ研究・検証の余地があると考察する。
生態行動・生殖分離など、本格的な研究を待ちたいと考える。
分類学で最も権威ある『日本産魚類検索』でも、種同定法をMarshall et al.(2009)に従うとしているので、分類学的に確定と言ってはいないと見える。
現在、Marshall et al.(2009)に先取権があるので、本稿では、それに従って解説すると、
「マンタ」で有名なダイビングポイントで出会う事できるのは、本種のオニイトマキエイでなく、ほぼナンヨウマンタという事になる。
※本稿では、オニイトマキエイかナンヨウマンタか判断できない場面での名称を学名の英名読み「マンタ」で統一して書いていく。
今回、自らのダイビング歴40年総数1万本を超える経験の中で、撮影したデータを総ざらいして調べたが、オニイトマキエイと断定できたのは、28年前シパダン島(マレーシア)で、偶然出会った個体だけであった。【伊豆海洋公園通信 通巻67号5p掲載個体】
ほぼオニイトマキエイと判断したのは、遭遇状況からだ。
現在、マレーシア出会ったのは、現在では政府により立ち入り禁止地域に指定されているサンダカン沖だった。
ここは、ホワイトマンタが最初に見られた海域で、ホワイトマンタ捜索中にであった3個体である。
それ以外は、すべて、ナンヨウマンタに分類される事になる。
<参考>神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」:にも、KPM-NR 30805 KPM-NR 60182 KPM-NR 68297 KPM-NR 88064 KPM-NR 98937のみと、登録数が少ない。
「マンタ」で有名なダイビングポイント以外で、偶然見られた個体が、オニイトマキエイである可能性が高いだろう。
必ず、下側から、口から鰓蓋全体が入るカットを撮影すると良い。
エキジット後、前出の4パターンの違いを確認して判定するしか方法はない。
オニイトマキエイの観察方法
確実にオニイトマキエイを観察する方法は、確立していない。
今回は、確実に、オニイトマキエイと確信を持てた個体を元に、自分ならどの様に探すか書き残したいと思う。
観察時期
観察時期は確定していない。
しかし、相模湾(KPM-NR 88064)でも撮影されているので、7月下旬から9月までの温かい黒潮の分流が接岸している時期なら、伊豆半島・房総半島などでも、十分に可能性がある。
毎年、大瀬崎でも、「マンタ」の目撃例が、夏場から初秋にあるので、撮影にチャレンジして欲しい。
オニイトマキエイである可能性が高いが、もし、ナンヨウマンタなら、分布域の更新である。
この状況は、紀伊半島以北なら、同じ現状である。
マンタポイントのある沖縄島以南だと、どの様に探すだろうか。
この原稿を書きながら、後悔している。
久米島に住んでいた頃、今、話題のマンタポイント以外で、数回、7m前後の大型の個体を見ている。
場所は、灯台下からカスミポイントの間、外洋に面した場所で、海人の潜水漁に同行している時だった。漁業中なので、撮影機材は持っていなかった。
礁外縁が崖の様になっている環境で潮通しが良い場所なら、偶然出会った個体は、オニイトマキエイの可能性が高いと考えられる。
通常、「マンタ」がいつも見られない場所で見つけた時は、必ず、撮影をする事にしてほしい。
生息場所
外洋に広く分布している。
ダイバーは、偶然、沿岸にオニイトマキエイが入ってきた時にしかであえない。
生態行動
オニイトマキエイとナンヨウマンタが分けられたので、過去の生態情報は、どちらの物なのか判別が難しいので、現在は、すべて不明である。
観察の注意点
潮通しの良いポイントで、偶然「マンタ」に遭遇する時は、潮の流れに乗って悠々移動している。
いち早く発見して、進行方向の前側から観察すると良いだろう。
その時、息を興奮して強く吐くと、「マンタ」がその空気の泡を嫌い泳ぐコースを変更してしまう。
また、急いで追いかけても、「マンタ」に追いつけない事の方が多い。
追いかけて必死に泳ぐ姿は、「マンタ」から見たら襲われると判断するのだろう。
なるべく、興奮しないで、ゆっくりとしたペースを心がけよう。
観察ができるダイビングポイント
ここに行けば必ず見られると言う場所は、存在しない。
生態を撮影するには
「マンタ」を撮影するだけなら、コンパクトデシタルカメラに水中画角90°以上のワイドコンバージョンレンズを取り付けて、水中広角モードの設定があればそのまま、無ければ、Aモード(絞り優先)を選択して撮影をすれば、青い海に浮かぶ「マンタ」が撮影できる。
しかし、種同定の為の情報を撮影するためには、下側から、口から鰓蓋全体が入るカットが必要で、その為には、画像が黒つぶれにならない様にする必要がある。
その為には、外付け水中ストロボが必要で、ストロボの効く撮影距離に入って撮影する必要がある。
この撮影で一番必要なのは、瞬時に、必要な中性浮力を取って、おどかさないフィンワークで、「マンタ」の下側に入り撮影するダイビングスキルだ。
「マンタ」に呼吸したエアーのバブルをかけない様に、撮影するダイビングスキルが必要になる。
AFのピント合わせを待っていると、シャッターチャンスを逃すので、MF(マニュアルフォーカス)にして、60~80cmに固定し、絞りをf-8以上に絞って、広角レンズの被写界深度を利用して撮影すると効率が良い。
参考文献
- 『日本産魚類検索 全種の同定』(編集:中坊徹次、発行:東海大学出版会、発行年:2013年第三版)
- 『日本の海水魚』(著者:大方洋二・小林安雅・矢野維幾・岡田孝夫・田口哲・吉野雄輔、編集:岡村収・尼岡邦夫、発行:山と渓谷社、発行年:1997年第3版)
- 『新版魚の分類の図鑑』(著者:上野 輝弥・坂本 一男、発行:東海大学出版会、発行年:2005年新版)
- 『新版 日本のハゼ』(解説:鈴木寿之・渋川浩一、写真:矢野維幾、監修:瀬能宏、発行:平凡社、発行年:2004年)
- 神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」
- 伊豆海洋公園通信Vol.6 No.10 1995 通巻67号
- 『デジタルカメラによる 水中撮影テクニック』(著者:峯水亮、発行:誠文堂新光社、発行年:2013年)
- 『うまく撮るコツをズバリ教える 水中写真 虎の巻』(著者:白鳥岳朋、発行:マリン企画、発行年:1996年)
- 『水中写真マニュアル(フィールドフォトテクニック)』(著者:小林安雅、発行:東海大学出版会、発行年:1988年)
文・写真:播磨 伯穂
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