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水中では物が大きく見える?光の屈折とその仕組み

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オシャレな喫茶店にて。
入店と同時に提供されたガラスのコップに入った水にはストロー。

そのストローをよく見て見ると、水に浸かっている部分と浸かっていない部分で見え方が違う、水に使った部分だけが大きく見える、という経験はありませんでしょうか。

はたまたプール。
まだ遊び始める前、少し冷たい水にそーっと入って身体を慣らしている最中のこと。

自分や一緒に水に入っている人の下半身だけが大きく見え、まるで上半身と下半身が切断されたかのように見えたことはありませんでしょうか。

そんな経験があるかどうかはさておき、水の中では物の見え方が変わります。

半水面で写真を撮ってみると、確かに水中と水面で見え方が全く異なることがわかります。
もちろん物の大きさが変化しているというわけではなく、一種の錯覚の様なものです。

結論からお話しすると、水中では空気中で物を見る時に比べて、大きさは1.3倍(4/3倍)に見えます。
そして、物との距離感も空気中とは異なり、水中では空気中に比べて0.75倍(3/4倍)の距離、つまり実際の距離の3/4しかない様に、近くにある様に感じます。

なぜこの様なことが起きるのでしょうか。

見ているのは物ではなく光

そもそも人間が物を見るという行動は、物に反射した光を認識しているということです。

物に反射した光は人間の目の中で映像が再現されます。

そして、この映像を脳が処理することで、そこにあるものがウミウシなのか、カエルアンコウなのかを判断しています。

レンズがなければ動くものを捉えられない

物を見るということに関して、目の中にレンズとしての機能が備わっていなければ成立しません。

もしも私たちの目にレンズがなかったら……想像するのは難しいかもしれませんが、話をカメラに置き換えてみると、想像することができます。

最も原始的なカメラと言われるピンホールカメラにはレンズが存在しません。
物に当たった光は四方八方に反射していますが、ピンホールによってある一筋の光のみをスクリーンに投影することによって、映像を映し出すという仕組みです。

ちなみに実際に、比較的下等な動物といわれるプラナリアの目の構造はピンホールカメラと同様の構造をしているそうです。

人間の目もこの仕組みで問題無い気がしてしまいますが、ピンホールカメラには大きな欠点があります。
それは、捉える光がごくわずかなので、通常のカメラの様にわずかな時間でハッキリとした映像を映し出すことができません。

通常のカメラであれば数百分の一秒から数十分の一秒程度の光量で鮮明な映像を映し出すことが出来ますが、ピンホールカメラの場合は、鮮明な映像を映し出すためには最低でも数秒間分の光量が必要です。

物を見るために数秒間凝視しなければいけないのでは、生活がままなりませんよね。
もちろん、見る相手が動いてしまってもダメなので、動くものは正確に捉えることができないと言えるでしょう。

しかし、レンズがあれば、ピンホールに比べて光を受け取る面積を格段に大きくすることが出来るため、遥かに多くの光を取り込むことが可能となり、動くものであっても鮮明に捉えることができるのです。

光は曲がる

ではなぜ、レンズがあれば動くものであっても鮮明に捉えることができるのでしょうか。

それは、レンズには光を曲げる作用があるためです。

光に速さが存在することは、普段はあまり意識することはありませんが、光の速さが1秒間に地球を約7周半する速さだということはご存じなのではないでしょうか。
およそ30万km/s、厳密には29万9792.458km/sです。

ただしこれは真空中の話。

空気中を通過するのか、水中を通過するのか、ガラスの中を通過するのか、どこを通過するのかによって光の速さは変化します。

例えば人間が歩く時も、舗装された道路を歩くのか、砂浜を歩くのか、同じ平らな道だとしても歩く場所の環境によって歩く速さは変わりますよね。

イメージ的にはそれと同じです。

【こぼれ話】光の速さは変わらない?-光速不変の原理

ちなみに光速不変の原理というものがあり、光の速さはどんな時でも変化しないと勘違いしてしまっている場合がありますが、光速不変の原理は真空中でのお話です。
そして、光速不変の原理の凄いところは、真空中であれば観測者の速度に依らず、光の速さが一定であるということ。

通常、道路の脇に立って時速100kmの車の速度を計測すれば、スピードガンには時速100kmと計測されます。
一方、時速100kmで逆方向に進む車に乗って、すれ違いざまに計測すれば、スピードガンには時速200kmと計測されることでしょう。

こんな当たり前のことが、真空中の光では成り立ちません。

どれだけ高速で、どんな方向に動きながら計測しても、光の速さは時速約30万kmで変化しないのだとか。

常人にはどういうことかさっぱりわかりませんが、かのアインシュタインが提唱した相対性理論の出発点となる原理であり、数多くの物理現象を説明して来た原理です。

そして理論上、光の速さに近い速度で移動を行うことで自分の周りだけ時間の進みが遅れるのだとか。
それによって、自分は1年しか経過していないのに世の中は3年経過している、タイムスリップの様なことが可能です。理論上ですが。

実際に、宇宙飛行士は1回の宇宙滞在を終えるとごく僅かながらタイムスリップしています。
宇宙ステーションで2年余りの滞在を行うことで、1/50秒ほどのタイムスリップになるのだとか……

さて、話の脱線が過ぎました。
今回は真空中の話ではなく、まして相対性理論やタイムスリップの話でもありません。

光は、どこを進むかによって速さが変わります。
そして、この現象が光を曲げるのです。

なぜ速さが変わるのか、光には波としての性質があります。
どこを進むか、これを媒質と言いますが、波は媒質によって速さが変化します。

例えば音波であれば、媒質の密度や弾性率(硬さ)に寄って速さが変化します。
そのため水中では音の速さが空気中の約4倍になります

光の場合、媒質の透磁率(磁石になりやすさ)や誘電率(電気の溜め込みやすさ)によって速さが導き出されます。
透磁率や誘電率は、普段の生活ではあまり馴染みがない値なので、これ以上の追求はやめておきましょう。

とにかく、光は媒質によって速さが変わります。

改めて、イメージしてみましょう。

舗装された道路から砂浜に向けて斜めに行進を行っているとします。
砂浜では足を取られて歩く速さが遅くなります。

すると、隊列が曲がることが想像出来るのではないでしょうか?

あくまでイメージですが、これが光が曲がる原理であり、このことを屈折と呼びます。

平らなガラスの様な形状であれば、ガラスの中に侵入する際に屈折して向きを変えた光は、ガラスから出て行く際に再び屈折するので、元の向きに戻ります。

しかし、レンズの様な形状であれば、ガラスに侵入する際と出て行く際、2回の屈折で境界面の角度が異なるために、光の向きを変化させることができます。

この屈折を利用することで、ある1点から出た多くの光をレンズ全面で受け取り、ある1点に集約することができます。

その結果、わずかな時間の光量であっても、鮮明な映像を捉えるのには十分な光量となり、動いている物であっても鮮明に捉えることができるのです。

水中で物を見る場合

水中で物を見ると大きさが1.3倍(4/3倍)、距離が0.75倍(3/4倍)に見えるのも、この屈折が原因です。

水中で物を見る時には、光は水中から一度マスク内の空気を通過してから目に入りますよね。
この、水中からマスク内の空気に入る時に、屈折を起こすのです。

そして、この屈折した光を見るために、実際よりも近く、大きいと勘違いをしてしまうということですね。

光がどれだけ曲がるかを示した値として屈折率というものがあります。
そして、空気や水、ガラスなど光を通すものにはそれぞれ屈折率が導き出されています。

どれだけ拡大されるかはそれぞれの媒質の屈折率の比と一致します。

空気の屈折率が1.000292(0℃1気圧)、水の屈折率が1.3334(20℃)なので、この比率から、大きさは1.33倍(4/3倍)、距離は0.75倍(3/4倍)になります。

ちなみに空気は温度と圧力によって、水は温度によって、さらに海水なので塩分濃度によっても屈折率は僅かに変化しますが、ごく小さな変化なのでここでは無視しています。

また、厳密には水中からマスクのガラスに侵入する際と、マスクのガラスからマスク内の空気に侵入する際にも屈折を起こしています。
これに関しては、結局は打ち消し合って水から空気へと直接光が進んだ場合と同じ結果となります。

水中でマスクを使用しない場合

水の中でマスクやゴーグルを使用せずに目を開けると、視界全体がぼやけて見えますよね。
これにも屈折が関係しています。

人間の目は、空気中を通過した光が目に入って屈折することが前提の構造になっています。
しかし、水の中を通過した光が直接目に入る場合、水と目の屈折率がほぼ同じ値であることから、光がほとんど屈折することが出来ません。

その結果、映像を認識する網膜にはピントがずれきった映像しか投影されないため、ぼやけていると感じるわけです。

当然ながら、水中で暮らす生き物の目は、基本的な構造こそ人間と同じではあるものの、水の中を通過した光を屈折させることができるだけの屈折率を持った目を持ち、水の中でもしっかりと物を捉えることができる様になっています。

おわりに

水中ではものが大きく、近く見えます。
そのため、目の前のロープを掴もうとしたら、思ったよりも距離が遠く掴めなかった、ということも。

ただし、人間の脳の適応力は相当のものがあります。

ダイビング初心者の人であっても、水の中に入ったばかりであっても、脳が勝手に視覚と身体の動きを補正してくれるため、掴み損ねる程に距離感を誤る可能性は低いと言って良いと思います。

しかし、大きさについてはなかなか補正が効かない様で、水中で、素晴らしいサイズだと思って手に取ったサザエが、握ってみると案外小さかったなんてことも……

生物に触れるのは原則として、やめましょうね。
ましてや、そのまま持って帰るのは密漁にあたります。
密漁は100万円以下の罰金を伴う立派な犯罪。

密漁に関する漁業権についてはまたの機会に……

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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