オオタルマワシの生態解説【ダイビング生物情報】〜水中を漂うエイリアン!?〜
浮遊系ダイビングと聞くと、オオタルマワシを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
水中を漂う姿がまるで、透明な宇宙船を操るエイリアンのようなオオタルマワシ。
その生態と意外な一面を紹介いたします。
オオタルマワシDATA
標準和名:オオタルマワシ
学名:Phronima sedentaria
分類学的位置:軟甲綱端脚目タルマワシ科タルマワシ属
分布:暖海、外洋性、熱帯、亜熱帯域の外洋
タルマワシの仲間の観察方法・観察時期
1年を通して観察することができます。
スキューバダイビングで観察する場合、季節風によって外洋の潮が沿岸まで押し流された際に見られます。
西伊豆・大瀬崎では秋から冬、青海島では春GW前後に観察されることが多いです。
生息場所
外洋の表層から深海まで広く確認されています。
生態行動
オオタルマワシをはじめとするタルマワシの仲間は、サルパやクラゲの中身を食べて円筒のタル状に加工し、透明の宇宙船のようなすみかにします。
タルの内側に卵のようなものが並んでいるのは、実は卵ではなくタルマワシの仲間の子どもたち。
エイリアンのような強面(こわもて)のタルマワシの仲間ですが、子どもを見守るお母さんタルマワシは、意外にも「にっこり」微笑んでいるようにも見えます。
子ども(幼生)がついているタルに入っているタルマワシの仲間はメスで、保育していると言われています。
オスのタルに幼生がついているところは観察されたことはなく、保育していないと思われています。
オスはメスより小型で、多くの種ではツノのような触角を持ちます。
近年浮遊系ダイバーが増えてきたことで、生態行動の観察が進んでいますが、まだ標準和名のない種や生態の謎も多く、学術的にも注目されています。
観察方法
日中のダイビングでは、中性浮力を保ちながら水面下を探します。
ナイトダイビングでは光量の強いライトを置いておくと、光を好む習性からライトの周りに集まって来るでしょう。
日中観察する場合は中性浮力のスキル、夜間に観察する場合はそれに加えてナイトダイビングの経験が必要で、アドバンス以上が望ましいです。
ボートダイビングの安全停止中に観察されることもあり、ロープにつかまるなど安全確認を怠らないように注意して探しましょう。
観察の注意点
透明で小さな生き物なので、水流の影響を受け見失いやすいです。
タルマワシの仲間を下から見上げてしまうとダイバー自身の吐いたエアで吹き飛ばされ、見失ってしまいます。
中層を泳いで探索、撮影する場合には、思いもよらず水深が変化していることがあるので、水深を確認することや耳抜きに注意が必要です。
ナイトダイビングでは、ガンガゼやダツなどの危険生物に配慮したり、中性浮力を保ったりするなどナイトダイビングの基本スキルが必要となります。
また、光量の強いライトを使うことが多いので、光源を直接見ないことにも気をつけましょう。
観察ができるダイビングスポット
大瀬崎、小笠原、青海島、沖縄
生態を撮影するには
デジタル一眼レフカメラがおすすめ。フルサイズセンサーに60mmマクロレンズを組み合わせたものが望ましいです。
シャッタースピードは1/200秒以上に設定して被写体ブレを防ぎましょう。
コンパクトデジタルカメラならOLYMPUS Tough TGシリーズ(TG-4以降)がおすすめ。
昼間の観察では特に、中性浮力をとり、自分の動きから発生する水流を意識して、タルマワシの仲間を見失わないことが重要です。
参考文献
- 『日本海洋プランクトン検索図説』(編:千原光雄・村野正昭、発行:東海大学出版会、発行年:1997年)
- 『日本海洋プランクトン図鑑 第3版』(著者:山路勇、発行:保育社、発行年:1983年)
- 『美しい海の浮遊生物図鑑』(著者:若林香織・田中祐志、写真:阿部秀樹、発行:文一総合出版、発行年:2017年)
文・写真:真木久美子
監修:若林香織
広島大学大学院統合生命科学研究科・准教授(現職)。
富山大学大学院理工学教育部博士課程修了。博士(理学)。
東京海洋大学博士研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、西豪州カーティン大学客員研究員を経て、現職。
石川県能登町生まれ。専門は海産無脊椎動物の生殖生態学。自らもダイバーとともに潜水し、海洋生物の自然な姿の観察を続ける。市民科学にも情熱を注ぐ。
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