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錦江湾の魅力を語りたい〜注目度上昇中!鹿児島県の緑色の海〜

海のレポート

鹿児島県というと、どのような印象をお持ちでしょうか。
西郷隆盛や大久保利通といった、日本の歴史の分岐点で活躍した有名人の出身地であることから、歴史や文化の舞台だと答える方が多いかもしれません。
ダイバー目線では、奄美大島や与論島など南国らしい亜熱帯の海を想像する方が多いと思います。

この数年、そんな鹿児島県の海の撮影に力を入れています。

鹿児島県の海は離島まで合わせれば温帯から亜熱帯とエリアが広く、潜る場所によって全く異なります。
特に離島のイメージが強い鹿児島県の海ですが、この数年間でその目線が少しずつ錦江湾をはじめとした九州本土の鹿児島市内や桜島に向けられてきているのです。

その中でも、どうしても外せない場所が今回ご紹介する錦江湾です。
私の知り合いのダイバーの中でも「錦江湾のダイビングが楽しいらしいよ。今度行きたいな!」という声を各地で聞くようになりました。
県外から1年間のうちに何度もリピートして訪れる方も多いようです。

そこで気がついたのは鹿児島の海が今、有名になる分岐点に差し掛かっているのでは?ということ。
私自身も、この数年間は錦江湾に通い詰めてきました。

今回は、まだ錦江湾を知らない方や錦江湾をあまり潜ったことのない方にその魅力をご紹介をしていきたいと思います。

錦江湾は、どんな海?

錦江湾は約3万年前の巨大噴火によって陥没した地面に海水が流れ込んでできた湾で、最大水深は200m以上と深い海を持った場所なのです。

ダイビングポイントは、大きく分けると鹿児島市側と桜島側にそれぞれ数ヶ所ずつあります。
桜島側には市内のフェリー乗り場から、桜島フェリーで移動すること約15分。
移動中にイルカが現れることもあるようで、フェリーでの移動中から楽しむことができます。

フェリーでの移動も楽しい
フェリーでの移動も楽しい

鹿児島市のダイビングショップ・SBのガイドの松田さんから伺った話では、錦江湾の入り口から入った海水が奥まで周り、もう一度外に出て海水が入れ替わるまで、なんと30年かかるとのことでした。
そのためなのか、以前ご紹介した東シナ海側のダイビングスポット・南さつま(笠沙)と比べても年間通して平均的に透明度は低い海と言えます。

実際に潜ると通常時は春濁りのような緑色の世界が広がる海なのです。

透明度が低いとマイナスな印象を持ってしまう人も多いと思います。
それでも、沢山の人たちが毎年この海に訪れるのには訳があるのです。

魅力の1つは海の色

何度も錦江湾を潜り見て、その時期や環境、状況により錦江湾の緑色の表情が常に違うことを感じました。
一見同じように見える濃い緑色でも、やや暗めの時もあれば、少し視界が抜ける時もあります。

錦江湾の海
錦江湾の海

冬場に行った時は透明度が上がり薄い緑色の世界(水色っぽい色)が広がる光景が見られました。
この時は海底に広がるソフトコーラルが一面に広がるのが遠くの先まで見えたのです。
透明度が低い時は気が付かなかったのですが、「ソフトコーラルがこんなにも沢山あったのか!」と驚かされました。

冬の錦江湾

また、湧き水や温泉が出ているような場所もいくつかあります。
その場所は、極端に透明度が高く不思議な印象を持ちました。

溶岩が作り出した海

桜島の道路にはゴミ袋が数多く積まれています。
中身は全て桜島からの噴煙から出る火山灰です。

桜島ではたびたび噴火が見られ、火山活動が今もなお続いている場所なのです。

噴火する桜島
噴火する桜島

錦江湾を代表するダイビングポイントのひとつに、大正噴火で流れ込み固まった溶岩が広がるダイビングポイント「袴腰」があります。

桜島ビジターセンターの職員さんのお話では、袴腰のほとんどの岩は安山岩とのことでした。
溶岩が冷えて時間が経ち火山岩の安山岩へと形を変えたのです。

普段、私がよく潜る伊豆や他の海で見る火山岩とは形が少し違うように感じます。
尖った岩も多く、切れ味が鋭そうな刃物のように見える岩もあります。

袴腰の安山岩
袴腰の安山岩

海中の安山岩には生命が宿り、イソギンチャクや海藻、サンゴの仲間が生えています。

少し深場に降りれば、咲き乱れるようなソフトコーラルも多く見られるのです。

この一面に広がる土台になった安山岩を見ると、溶岩が作り上げた海なのだと再認識させられます。

イソギンチャクや海藻・ハードコーラルがつく
イソギンチャクや海藻・ハードコーラルがつく

変わった環境で暮らす生き物たち 

錦江湾の名物と言えばひとつ目はアカオビハナダイの群れ。

アカオビハナダイは温帯種で、本州に広く分布する、ハナダイの仲間です。

錦江湾のアカオビハナダイの群れ

そのアカオビハナダイたちが日本中のどこの海よりも群れているのが、この錦江湾なのです。
緑の海に赤い体色をしたアカオビハナダイの大群は、青い海では見ることのできない光景です。

錦江湾のアカオビハナダイの群れ
アカオビハナダイの群れ

もうひとつ、こちらも定番なのがネジリンボウ。
錦江湾で見られるネジリンボウは色が濃く、サクランボウという愛称で呼ばれています。

大きさも伊豆や他の海で見るネジリンボウに比べるとやや大きく感じます。

錦江湾のネジリンボウ
ネジリンボウ

なぜか他のハゼ類も体が大きく、ダテハゼは太平洋側で見る個体とは大きさが異なります。
地形が独特だからなのか栄養が豊富であるからなのかはわからないですが、生き物の大きさにも影響が出るようです。

錦江湾は私の目から見ても生き物たちの何かが他とは違う不思議さを持っているのです。

生態行動の面白さ

初夏を迎えると生き物たちの命をつなぐシーズンになります。

クマノミは浅瀬で卵を持ち、子育てに専念しています。
そして先程お話した、イソギンチャクが付着する安山岩に卵を生みつけるのです。

卵を持つ浅場のクマノミ
卵を持つ浅場のクマノミ

今年の6月は珍しい生態シーンを撮影する瞬間にも恵まれました。
それがカエルアンコウの産卵シーンです。

雄2匹と雌1匹が産卵浮上するシーンは撮影中に鳥肌がたちました。

産卵浮上するカエルアンコウ 雌が上
産卵浮上するカエルアンコウ 雌が上

ハオコゼも個体数が多く、浅いところで産卵が見られます。

産卵浮上するハオコゼ
産卵浮上するハオコゼ

また、春はヒメイカの季節。
アマモが多く繁茂する場所では所々でヒメイカの交接、産卵が至る所で観察できるのです。

他にも、アオリイカやカサゴといった生き物の生態行動が見られ、そのバリエーションが多いのも魅力とも言えます。

錦江湾を凝縮したような場所・長水路

鹿児島市の町側には長水路という人口のタイドプールのような場所があります。
土管が敷かれているので、海水が常に出入りする仕組みとなっているのです。

意外にも生き物は多く、魚類・ウミウシ・甲殻類と錦江湾の海をギュッと凝縮させたような不思議な場所です。

春はシオミドロやチシモグサが水面に繁茂して幻想的な光景が広がります。

長水路のシオミドロ
シオミドロ

夏になれば大量のタコクラゲが優雅に泳ぎまわります。

他で見ることはない特殊な環境です。

長水路のタコクラゲ
タコクラゲ

シオミドロやタコクラゲは毎年、見られる光景です。
しかし私が撮影に入るとなぜだかトラブルが起きて、どちらも1年目はうまく撮影できませんでした。

困ったことに台風でタコクラゲが飛ばされてしまい、数が少なくなってしまったのです。
また、撮影数日前に掃除でシオミドロが回収されてしまっていたことも……。

なんだか長水路に見放されてる気がしましたが、粘り続けて翌年に両方、撮影に成功することができました。

この長水路では、自然撮影に確実性はないということを教えられた気がします。

最後に

透明度・地形・岩の形・生き物たち、一つ一つが他の海との違いが多く独特な魅力を持つ錦江湾。
エリアもとても広い海なので今回の記事でお伝えしたことはほんの一部分だと思っていただければ嬉しいです。

是非一度足を運んで、皆さんの目で見ていただきたい海です。

私も引き続きこの海を撮影し、魅力をお届けしていきたいと思っています。

取材協力:ダイビングショップSB(http://sb-diving.sakura.ne.jp/

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堀口和重

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水中カメラマン。 1986年東京生まれ。 日本の海を中心に、水中生物のおもしろい姿や生態、海と人との関わりをテーマに撮影活動を続けている。撮影の際は、海や生...

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