クマノミの仲間って面白い!〜北限調査進捗レポート①〜
クマノミの仲間の北限が知りたい!
ダイバーにとっては身近であり、人気の生き物でもあるクマノミの仲間ですが、北限を含めてまだまだ分かっていないことも多い生き物です。
そんなクマノミの仲間の北限を、皆さんの力をお借りしながら調査していこうというこの企画。
早速30件ほどの情報をお寄せいただきました。
北限を調査するためにはまだまだ情報が必要なので、みなさん是非情報をお寄せください。
【WANTED】クマノミの仲間の写真&情報
対象種:クマノミ、ハマクマノミ、ハナビラクマノミ、セジロクマノミ、カクレクマノミ、トウアカクマノミ
対象エリア:暖流(黒潮と対馬海流)の影響を受けているダイビングエリア
欲しい情報:ダイビングスポット名、水深、観察時期(年、月)※分かる場合は、通年or無効分散で見られる季節も、写真(識別できれば十分なレベル)
収集方法:スクモン公式LINEアカウント、フォーム(現在準備中)、Twitter投稿(「#北限モンスター」で投稿)
注意事項:お送り頂いた画像はScuba Monstersサイト(「scubamonsters.com」のドメインで運営されるもの)内、またScuba Monstersが運営するSNSにて使用させて頂く場合がございます。場合によっては、神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」に登録を促す場合もございます。
新事実!太平洋側の北限は伊戸!?
これまでクマノミの分布は千葉県以南(※日本の海水魚による)とされていました。
しかし、播磨先生によると、これは採集されたことがある(=無効分散の可能性もある)という程度で、繁殖が確認されている北限は不明であったそうです。
これまで、確実に繁殖が行われていることが確認されているのは静岡県の東伊豆付近だったそうですが、今回お送りいただいた情報から、千葉県の伊戸で繁殖が可能な状況になっていることが分かりました。
このことから、クマノミの北限は現在のところ伊戸であると言う事ができます。
伊戸よりも北の勝山で撮影されたクマノミの写真もお寄せいただきましたが、こちらはオスの様に見えるものと子どもの個体でした。
もしメスの写真や卵の写真が見つかれば、そちらが北限となります。
勝山は千葉県の内房ですが、播磨先生によると外房の勝浦付近でも繁殖を行っている可能性は否定できないそうです。
ちなみに勝浦エリアにある小湊港のそばにはかつて東京大学の研究施設に併設された水族館がありました。
その水族館で播磨先生は、勝浦周辺産の(今思えば)無効分散と思われる個体を飼育成長させたものを幼少期に見たそうなので、無効分散であれば確認自体はできるだろうということです。
さて、お寄せいただいた30件の情報の中にはクマノミの生態について新たな可能性を示唆するものも。
ここからはそんな、少し気になったものをご紹介していきたいと思います。
それぞれについて、播磨先生にもコメントを頂きましたよ!
メスが2匹?
クマノミの仲間はイソギンチャクを住処にします。
そして、同じイソギンチャクの中で最も強いものがメス、次に強いものがオスとなり繁殖活動を行うとされています。
その他の個体は性的に未成熟な状態です。
何らかの理由でメスがいなくなった時、元々オスだった個体がメスへと性変換し、周りの未成熟だった個体の中で最も強いものが新たにオスとなるーーー
ここまでクマノミの仲間の紹介としてお聞きになったことがある方も多いことでしょう。
クマノミの仲間の中でもクマノミ(ややこしいですね。)は、オスとメスが特に見分けやすい種です。
尾ビレの色の違いが一目瞭然で、メスならば白、オスならば黄色です。
さて、ここでお寄せいただいた1枚の写真を見てみましょう。
2匹の大きなクマノミの尾ビレを見てみると、どちらも白いことがわかります。
つまり、このイソギンチャクでは2匹のメスが君臨しているということになります。
どこかにオスがいるのか、はたまたオスはどこにもいないのか。
播磨先生にこの写真について伺ってみました。
播磨先生のコメント
ご指摘の通り、どちらもメスと言える特徴を示しています。
そしてこの写真は、播磨が長年追っている生態で、定説を覆すカットと言って良いでしょう。
2020年11月の撮影ということですので、既にこの場所では同じ状況を見ることはできないと思いますが、もし見ることができたならば、周りの状況をはじめ聞きたい事が山ほどあります。
同じ様な状況が今現在起きているところがあれば、すぐにでも現地へと観察に行きたいほどです。
スクモンの調査で定説が覆されるかも!?
とてもワクワクする1枚です。
色の違い
先ほどの写真をもう一度見てみましょう。
2匹のメスは間違いなくクマノミですが、色が全く異なることが分かります。
上に写っている個体は腹びれまで真っ黒なのに対して、下に写っている個体は胸鰭付近からオレンジ色になっています。
改めてお寄せいただいたクマノミの写真を見てみると、やはり様々な色が存在することがわかります。
魚の体色には個体差があるほか、成熟するにつれ色が濃くなったり、色の境界があいまいになったりすることはよくあるのですが、クマノミの場合、まだ小さな個体でも様々な体色を持つものがいるようです。
また、オスの尾ビレの色についても、黄色一色のものと、上下端のみが黄色くなっているものがいるようです。
播磨先生のコメント
体色についてはバリエーションとされることがありますが、実際には成長具合や住処のイソギンチャクの種類によって変化するのではないかと考えています。
また、尾ビレの色については性変換中の物であると思われます。
これもバリエーションと説明されることがありますが、性変換中の体内の構造に対して見た目の違いが現れる期間がバリエーションによって異なり、それを体色のバリエーションの違いとして説明してしまっているのではないかと考えています。
実際、沖縄型と説明されることが多いですが、沖縄でも尾ビレ全体が黄色いオスが発見されることもあります。また、伊豆大島では上下端のみが黄色くなっている個体を私自身が確認しています。
模様の違い
尾ビレの上下端のみが黄色くなっている個体の写真をもう一度見てみましょう。
体の中央の白帯が腹に達しておらず、クラカケ模様になっていることがわかります。
よく見ると、顔のあたりの白帯も、体の端まで達していない様に見えます。
多くのクマノミは2本の白帯が体の端まで達しているものですが、果たしてこれは個体差なのか、何らかのバリエーションなのか……。
播磨先生のコメント
クラカケ模様については、エラーの一種と考えられます。
水族館などで繁殖した個体は模様のエラーがよく見られますが、自然界ではほとんどのエラー個体が成長の段階で死んでしまうことなどから、観察することが稀と考えています。
それほど、水族館で繁殖した個体には、模様のエラーが多く見られます。(東海大学海洋科学博物館では、現在、カクレクマノミの模様エラーの個体を大量に展示しています。なお、2023年3月末日閉館予定と発表されています)
これは、他のクマノミの仲間でも同様に確認されています。
ですので、今回の写真は非常に珍しい写真と言えるでしょう。
ちなみに、模様が通常と異なる個体についてはエラー以外の可能性もありますので、そちらについては今後クマノミに関する解説記事でご説明したいと考えていますので、ご期待ください。
ヒレの違い
小さな個体の例として紹介した写真を改めて見てみましょう。
なんだか腹ビレがやたらと長いと思いませんか?
実はこの写真、そもそもヒレの長いクマノミについても調べてみて欲しいと、お寄せいただいたものです。
播磨先生のコメント
腹ビレが長い個体についても沖縄型の特徴が出ていると言えます。
沖縄型のクマノミは、ラインの幅だけでなく、幼魚のうちは腹びれが大きい個体が多いことも、特徴のひとつです。
その見た目の違いから、かつては沖縄型のクマノミをモンツキクマノミという別種として扱っていた時代もありました。
また、沖縄型でなくとも、他のオスやメスから抑制を受けている若魚の場合、腹ビレのみが大きくなることがあります。
いづれにしても成長するにつれ、バリエーションごとの腹びれの大きさに差はなくなります。
ただし、人工繁殖したクマノミは腹びれが小さく、成長しても小さいままであることがわかっています。
バリエーションについて
ここまで「沖縄型」という言葉が出てきている通り、クマノミにはいくつかの地域バリエーションが存在することが知られています。
沖縄型、伊豆型と呼ばれるバリエーションがもっとも有名で各図鑑でも紹介されています。
伊豆型は、頭側から数えて1本目のラインと2本目のラインの幅がほぼ一緒であるとされています。
沖縄型は2本目のラインの幅が広いとされています。
今回の調査で地域バリエーションの北限も見えて来たら面白いですね!
播磨先生のコメント
クマノミのバリエーションについては、伊豆型、沖縄型の他にも、ジャック・T・モイヤー氏による調査結果をまとめた『クマノミガイドブック』により、小笠原型の存在が指摘されています。
この小笠原型については、2本目が細く、メスだけではなくオスも全身が黒いと言われています。
私の調査では、高知県の柏島付近に今まで発見されているどれにも共通でないバリエーションが見つかっています。
ただ、それが柏島周辺だけなのか、鹿児島県などにも分布が広がるのかは、確認できていません。
まだまだ情報募集中!
なんだかクマノミの話ばかりになってしまいましたが、クマノミ以外のクマノミの仲間5種についてもどしどし情報をお待ちしています。
播磨先生も、クマノミの話だけで最初からこんなに色々と出てくるとは思わず、嬉しいとおっしゃっていました。
むしろ、北限についてはクマノミ以外の5種こそよくわかっていないため、お写真をお持ちの方は是非ご協力をお願いします。
特に、鹿児島県から沖縄県の間に広がる屋久島や奄美大島など薩南諸島で撮影した写真は北限の情報となる可能性が高いですよ!
クマノミについては特に日本海の北限が分かっていないため、日本海で潜っている皆さんからの情報をお待ちしています!
また、沖縄型の北限は分かっていないため、太平洋側のクマノミも引き続き大歓迎です。
今回ご紹介した通り、明らかに北限ではない場所で撮影した写真であっても、そこから興味深い事実が見えてくる場合があります。
今回、この記事を作るにあたり、播磨先生とお話しさせていただく中で、「例えば紀伊半島などでは沖縄型と伊豆型がペアとなって繁殖行動を行っている写真が撮影できるかも!?」と想像を膨らませてしましました。
どこで撮影した写真であっても、クマノミの仲間の写真であれば大歓迎なので、皆さんの投稿をお待ちしています!!
【WANTED】クマノミの仲間の写真&情報
対象種:クマノミ、ハマクマノミ、ハナビラクマノミ、セジロクマノミ、カクレクマノミ、トウアカクマノミ
対象エリア:暖流(黒潮と対馬海流)の影響を受けているダイビングエリア
欲しい情報:ダイビングスポット名、水深、観察時期(年、月)※分かる場合は、通年or無効分散で見られる季節も、写真(識別できれば十分なレベル)
収集方法:スクモン公式LINEアカウント、フォーム(現在準備中)、Twitter投稿(「#北限モンスター」で投稿)
注意事項:お送り頂いた画像はScuba Monstersサイト(「scubamonsters.com」のドメインで運営されるもの)内、またScuba Monstersが運営するSNSにて使用させて頂く場合がございます。場合によっては、神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」に登録を促す場合もございます。
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