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9年ぶりとなるクサウオの繁殖行動を激写!冬の山口県・青海島、撮影記録

海のレポート

2022年11月、青海島からとてもよろこばしい情報が届きました。
クサウオがたくさん現れたそうなんです。

クサウオは、繁殖行動のために深場から移動して浅場に現れる魚です。
稀に単体では見られることもあったようですが、9年の間、繁殖行動は見られていませんでした。

次はいつ観察できるかもわからないので、この冬は青海島に毎月通いクサウオの撮影に力を入れました。
そんな、私が冬に撮影したクサウオの一部始終を皆さまにお話しします。

冬の青海島

2021年に青海島を紹介した記事では、2箇所のダイビングポイントがあると紹介しました。

冬場は外海側の船越(ふなこし)は北風の影響で荒れてしまう確率が高いため、基本的に内湾側の紫津浦(しづうら)へ潜ることが多いです。

船越(ふなこし)
船越(ふなこし)
紫津浦(しづうら)
紫津浦(しづうら)

荒波でダイバーがエントリーするのが困難な船越とは正反対に紫津浦はとても穏やかです。
生き物にとっても安定した場所なので、生態行動が見やすいところが魅力です。

クサウオたちの生態行動

昨年11月にクサウオが青海島に出ているという情報がシーアゲインのSNSに上がりました。

クサウオは大きくなるまでは深場で過ごし、産卵シーズンの冬になると浅場に現れて産卵や卵の保護をする魚です。
スナビクニンやビクニンなどの仲間ですが、成魚の全長は最大で80センチとビクニン科の中では一番大きくなります。

また年魚で、深場から浅場に戻り生態行動を終えると死んでしまうようです。

クサウオ
クサウオ
クサウオ
クサウオ

このクサウオは青海島以外のダイビングスポットで観察されたことがない、とても珍しい魚です。
さらに卵を保護している姿が最後に観察されたのは9年前……。
はたして、繁殖行動の撮影は叶うのでしょうか?

最初、撮影に訪れた12月には、クサウオが10匹前後あちこちで元気に泳いでいました。
気になったのは水温。
シーアゲインの笹川さんの話では、水温が高いと産卵しないこともあるそうです。

水温は16℃前後だったのでその時はクサウオが産卵するかどうかはわかりませんでした。
最初の撮影はクサウオ単体の撮影で終了しました。

1月のクサウオ:卵保護

年が明けて1月中旬に入ると、知り合いのダイバーの方から「青海島で朗報です!!」というメールが届きました。

年始に会った時にクサウオの撮影に行くと言っていた方です。
「産卵したらいいですね」と軽い気持ちで話をしていたのですが、その方が滞在中にクサウオが卵を産んだとのことでした。

水温は1ヶ月前に比べるとかなり下がりました。
12℃前後でオスも元気なよう。

SNSの写真で卵の状況を確認すると2箇所で産んでいることがわかりました。
今行かないと卵の状況がどうなるかわからないので、無理矢理日程を開けて1月の下旬に再度クサウオの撮影に行きました。

青海島に到着して潜ってみると、クサウオは意外な場所に卵を生みつけていました。
普通は海藻に卵を産むようですが、2箇所とも人工物に卵を生みつけていたのです。

1箇所目は昔、養殖で使われていた網でした。
この網には、春になるとコウイカも産卵をします。
海藻よりも切れにくかったり、壊れにくいということで生き物たちの産卵場所に選ばれているのかもしれません。

網に生みつけた卵を守るオス
網に生みつけた卵を守るオス

もう1箇所は今まで聞いたことがない場所でした。
それが、ロープに絡まった釣り糸です。

本来なら水中ゴミとして使い道のないものですが、クサウオにとっては卵が生みつけやすかったようです。
卵塊を掃除している時に釣り糸やルアーでクサウオが絡まってしまわないか、心配でしたが、うまく避けながら掃除をしていました。

釣り糸に生み付けられた卵を守るオス
釣り糸に生み付けられた卵を守るオス

クサウオのメスは卵を生むとどこかに消えてしまいます。
卵塊の保護をするのは全てオスなのです。

オスが卵を保護していると、たまに別のオスがやってきます。
すると喧嘩となり、卵を守っているオスが寄ってきたオスを追い払うのです。
その喧嘩は3日間の滞在中に何度も撮影することができました。

オス同士の喧嘩
オス同士の喧嘩

卵保護や喧嘩の撮影に成功し、帰路に着くことになりました。
束の間、自宅で安心していたら、翌日に新しい情報が入ってきました。
なんと卵が孵化(ハッチアウト)したとのことです……。

2月のクサウオ:変化とハッチアウト

ハッチアウトの情報から2週間。
2月の中旬に笹川さんへ連絡をすると、「まだ卵は残っているけれど、早く来ないとハッチアウトが全て終わってしまうかも」とのこと。
本当は1週間後に移動する予定でしたが、早めに準備をしてすぐに最後の撮影へと向かいました。

以前の撮影から20日ほどが経ちました。
するとクサウオにも色々と変化があったのです。

まず、網についた卵はほとんど孵化していました。

卵が少なくなっていた
卵が少なくなっていた

卵を保護しているオスですが、1月に撮影した個体は死んでしまったようです。
その代わりに別のオスがいました。
笹川さんから話を聞くと、死んだ別のオスが卵を保護していたようですが、そのオスも死んでしまい、さらに別のオスが来て卵を守っているそうなんです。

クサウオは他の魚と違い、卵塊を保護するオスがいなくなると別のオスが代わりを務めるようです。

釣り糸の卵塊も順調に孵化していました。
しかし、オスは撮影の初日にはいたのですが、2日目になると姿を消していました。
もしかしたら亡くなってしまったのかもしれません。

卵を守る個体がいなくなるとヒトデや貝などに卵を食べられる可能性が出てきます。

保護するオスがいなくなった
保護するオスがいなくなった

そんな中でも、卵は順調に育ち、たくさんの仔魚がハッチアウトしていきました。
全部の卵が一斉にハッチアウトするわけではなく、少しづつ卵から仔魚が出ていきます。

卵に噛みつき孵化を促す
卵に噛みつき孵化を促す
クサウオの仔魚
クサウオの仔魚

クサウオが青海島に現れたところから、保護、産卵と撮影することができて私もやっと安心できました。

冬の青海島の生き物たち

今シーズンの冬はクサウオに注目が集まりましたが、青海島には他にも面白い生き物たちがたくさんいます。

最初に紹介したいのがチャガラ。
太平洋側では水温の上昇で段々と姿を消していますが、青海島では沢山の個体が見られます。
冬が繁殖シーズンなのでオス同士の喧嘩や岩隙間で卵を保護する姿も見ることができます。

チャガラ
チャガラ
チャガラの卵
チャガラの卵

ホシフグは集団で見かけました。
深場に生息するフグなので青海島以外のダイビングスポットでは大瀬崎以外で見たことがありません。

成魚よりも小柄なため、繁殖行動のために来ている訳ではないようです。
弱って死んでしまう個体も数多く見られました。

ホシフグ
ホシフグ

他にもマトウダイが数十匹泳いでいたり、国内でほとんど見られたことがないマメウツボが出てきていたりと、気になる生き物やその生態行動が冬の青海島は満載です。

マメウツボ
マメウツボ

春の近づき

12月から2月になるにつれて浅場のフクロノリが増えてきました。
海藻類が少しづつ育つ姿をみると段々と春が近づいてくるのがわかります。

増えてきたフクロノリ
増えてきたフクロノリ

ちなみにクサウオの撮影を終えた数日後に良いニュースが届きました。
釣り糸の産卵礁には新しいクサウオが現れて卵を守っているとのことです。
その話を聞いて安心しました。

卵が孵化をして仔魚たちが大きくなって、来年も紫津浦に戻ってきてくれるとうれしいですね。

撮影協力:シーアゲイン(​http://www.sea-again.work/​

堀口和重

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水中カメラマン。 1986年東京生まれ。 日本の海を中心に、水中生物のおもしろい姿や生態、海と人との関わりをテーマに撮影活動を続けている。撮影の際は、海や生...

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