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24時間眠らない海、富山・滑川の不思議な生物と光る浜

海のレポート

今回私が向かったのは北陸、富山湾。
富山湾は日本で3番目、日本海側に限ると最も深い湾です。

約2000万年前、日本列島はアジア大陸から離れ、その後、日本列島は約1600万年前に2つに割れました。それがフォッサマグナと呼ばれる大きな溝です。
その大きな溝の痕跡は今でも残っており、富山湾の深さにその面影があると言われています。

富山湾から少し内陸に入ると、3000メートル級の山々からなる立山連峰が聳え立っています。
その立山連峰から、栄養豊富な水が富山湾に流れ込みます。

栄養豊富な山からの水と、その水深の深さのおかげで、富山湾には日本海側に生息すると言われる約800種類の魚のうち約500種類が生息すると言われています。

普通、他のダイビングスポットでは見かけないような生き物たちと遭遇することも多いのが、富山の海の魅力の一つです。

雨晴海岸からの立山連峰
雨晴海岸からの立山連峰

東京からのアクセスもよく、新幹線で約2時間。
今回は、富山市から車で約40分の場所にある滑川(なめりかわ)というダイビングスポットに訪れました。

ここ滑川のダイビングスタイルで特徴的なのが、夜に潜るのがメインということ。
なので、仕事が終わってからダイビングに訪れる人もいるのだとか。

そんな滑川の海をダイビングショップ・海遊さんにガイドしてもらい撮影して来たので、ご紹介します。

滑川の不思議な生き物たち

富山を代表するダイビングスポットと言っても過言ではない滑川。
ビーチダイビングがメインの場所です。

エントリー口は砂利というより、少し大きめな石が広がります。
出入りが難しい時もありますが、入ってしまえばそんな苦労を忘れてしまうくらい面白い場所です。

浅い砂地には大きな岩が点在していてワカメなどの海藻類も多いため、その中に隠れている生き物の姿を探すのも楽しいでしょう。

例年、海藻にはダンゴウオが見られていましたが、今回の撮影では残念ながらダンゴウオの姿を1匹も見ることができませんでした。
今年は時化で親のダンゴウオが産卵できなかったようです。

その代わりに海藻には、ホテイウオ幼魚の姿が多く見られました。
多い場所では海藻ひとつに3個体もホテイウオの幼魚がついていることも!

ホテイウオの幼魚
ホテイウオの幼魚

最初にも触れましたが、太平洋側とは違う生き物に出会えるのが富山の海の特徴です。

例えば、オニカナガシラという魚。

太平洋側ではトゲカナガシラをよく見かけますが、富山ではこのトゲカナガシラにそっくりなオニカナガシラが普通に見られます。
一方、太平洋側でオニカナガシラを見かけることはあまりありません。

オニカナガシラ
オニカナガシラ

他には、体高が低く細長い姿をしたヤナギムシガレイというあまり見かけないカレイの仲間が砂地にいる姿も見かけました。

ヤナギムシガレイ
ヤナギムシガレイ

また、腕を広げると現れる大きな眼状紋が特徴のイイダコも、私がメインで撮影する伊豆半島とその近辺ではほとんど見かけない生き物です。

イイダコ
イイダコ

今回の撮影では出会えなかったのですが、ミズダコも迫力があります。
過去に撮影した写真を見返してみたところ……、

ミズダコと木村さん
ミズダコと木村さん

ダイビングショップ海遊のガイド・木村さんも大柄な方ですが、ミズダコの大きさも負けていません。
大きな個体は腕を伸ばすと4mもあるとのこと。

木村さんは、ミズダコに絡まれたことがあるそうです。
そんな大きな体に絡まれるのを想像すると少し怖いですね。

また、木村さんは富山の海でダイオウイカと遭遇したこともあるのだとか。
ダイオウイカと一緒に泳いだことがあるダイバーは他にはなかなかいないのではないでしょうか。
そして、ミズダコのみならず、ダイオウイカにも絡まれたことがあるんだとか。

木村さん曰く、絡まれた時の力はミズダコの方が強かったとのこと。
私もいつかはダイオウイカに絡まれ、そんな武勇伝を語れるようになりたいです。

滑川の海は夜が面白い

「24時間眠らない海」がキャッチフレーズの滑川。
夜22時以降のミッドナイトダイビングができるのが魅力的です。

ミッドナイトダイビングの特徴は、夜が更けるにつれて深場から生き物が上がってくるところ。
滑川以外では目撃例をほとんど聞かないビクニンや、サナダミズヒキガニなども見られます。

サナダミズヒキガニは、私も水深300〜400mの底引網で揚げられた姿しか見たことがありませんでした。

ビクニン
ビクニン
2個体のビクニンが同時に見られることも
2個体のビクニンが同時に見られることも

夜の海では生態行動も活発に見られます。

2〜3月に撮影へ訪れた時は、ヤリイカが岩の下に卵を産む姿が観察できました。
岩の間には卵もぶら下がり、同じ場所に新たな卵を産みにくるヤリイカの交接の瞬間を観察、撮影することができます。

産卵中のヤリイカ
産卵中のヤリイカ
ヤリイカの交接
ヤリイカの交接

産卵が終わればヤリイカは死んでしまいます。
そのヤリイカの死骸にはヒトデやナマコが群がり、分解されていきます。

目前で繰り広げられる海の循環ーー、常に目が離せないのがこの海の面白いところなのです。

ヒトデやナマコに食べられるヤリイカの死骸
ヒトデやナマコに食べられるヤリイカの死骸

これから夏へ季節が進むに連れて、エビの女王とも呼ばれているバルスイバラモエビも姿を現します。

深い水深に現れることが多いバルスイバラモエビですが、ここ滑川ではなんと水深20m付近で見られるとのこと。
目が離せないですね。

春の最低水温は8℃前後、夏になれば最高水温は27〜30℃と温度差があり、生き物の入れ替わりが激しい場所ですが、そこも富山の海の魅力の一つなのです。

光る浜の今

富山名物のひとつがホタルイカ。

ホタルイカは冬の時期から春にかけて産卵のために浅場へ向かい、その後、浜に打ち寄せられます。
このことを「ホタルイカの身投げ」と呼びます。

ホタルイカは胴体から腕まで約1000個の発光器を持ちます。
特に腕部分の発光が強く、波打ち際に押し寄せられると腕をブンブンと振り回し、青い光の軌道を描きます。

ホタルイカ
ホタルイカ

私がシーズン中によく撮影に訪れる八重津浜では、ホタルイカが身投げをして浜が美しく水色に染まります。

数々の発光生物の撮影をしてきましたが、最も発光が力強く美しい生き物はホタルイカだと感じています。

ホタルイカの身投げで美しく水色に染まる浜
ホタルイカの身投げで美しく水色に染まる浜

しかし最近はインターネットやSNSで話題になり、地元の人以外でもホタルイカをすくう人が増えたため、浜一面が光る場面に遭遇することは難しくなってきています。
また、身投げのイメージが強いホタルイカですが、水中でも撮影することができます。

私はまだ見たことがないのですが、運が良ければ卵を抱えた個体に会うこともできるようです。
さらに産卵後のホタルイカが大量に漂っていることもあるようで、水中でホタルイカまみれになるのだとか。

いつかは身体中がホタルイカまみれになりながら、そんな光景を撮影したいものです。

水中で撮影したホタルイカ
水中で撮影したホタルイカ

富山は海産物の名所

富山に来たら、ぜひ食事も楽しんでください。

茹でたてのホタルイカは絶品です。
さらに深海のシロエビも富山では名物の一品。
獲れたての物がとても美味しいのです。

普通はダイビング後に美味しい食事ですが、“24時間眠らない”富山の場合は回転寿司で美味しい食事をした後にダイビングと、普通とは逆転。

ホタルイカの握り
ホタルイカの握り
シロエビの握り
シロエビの握り

変わったネタも見かけました。
それがアナゴの幼生。

浮遊生物としてお馴染みのレプトセファルス幼生「ノレソレ」も富山では寿司ネタとして味合うことができます。
透明感ある見た目とは裏腹に味がしっかりとしています。

ノレソレの握り

最後に

浜を綺麗に美しく照らすホタルイカ。

深海が近く、夜遅くまで潜れる滑川。

ここでしか見ることのできない不思議な生き物の宝庫だと感じます。
関東からも行きやすいので、ぜひ富山の海へ訪れて、ここでしか出会えない生き物たちに会ってみてはいかがでしょうか。

取材協力:海遊(https://kaiyu-net.jimdofree.com/

堀口和重

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水中カメラマン。 1986年東京生まれ。 日本の海を中心に、水中生物のおもしろい姿や生態、海と人との関わりをテーマに撮影活動を続けている。撮影の際は、海や生...

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