メジナの生態解説【ダイビング生物情報】~群れと群がりの違いとは~
ダイバー人気があるとは言い難いですが、ダイビング中に一度は目にしたことがあるであろう魚、メジナ。
一方、釣り人、特に、上物(比較的浅い釣り場で釣れる魚)を専門に狙う上物師には、非常に人気が高い魚です。
あまりダイバー向けに語られることが少ないメジナの生態や観察のポイントを解説します。
また、メジナが研究スタートのきっかけとなった、「群れ」とは異なる「群がり」という行動について、解説したスペシャルコラムも必見です!
【メジナ DATA】
標準和名:メジナ
学名:Girella punctata Gray, 1835
分類学的位置:スズキ目スズキ亜目メジナ科メジナ属
分布:新潟県~九州南岸の日本海・東シナ海の沿岸、千葉県外房~九州南岸の太平洋沿岸・瀬戸内海、東北地方・北海道の日本海・太平洋沿岸(稀)、琉球列島(稀)、小笠原(稀);朝鮮半島南岸、済洲島、台湾、福建、香港(稀)
(分布について本記事では、『日本産魚類検索』に従った)
水族館的解説
●メジナの識別方法※1
以前は、イスズミ科メジナ亜科に分類されていたが、現在はメジナ科と独立した科に分類されている。国内でメジナ属は、オキナメジナ Girella mezina・クロメジナ Girella leonina ・そして、本種メジナ Girella punctataの3種の分布が確認されている。
オキナメジナは本種に比べ、上唇が厚く、成魚では頭部が目の前方で急傾斜し、鰓蓋(エラブタ)全体にウロコが見られるのが特徴です。また、幼魚期から若魚のオキナメジナは、体側に彩黄色の1本の横帯(ヨコシマ)があるので、容易に区別がつく。
本種とクロメジナは大変よく似ていて、幼魚期には一緒の「群がり」※2を形成している事もある。
幼魚期には、鰓蓋の後縁(エラブタの端)がくろければクロメジナで、体色のままならメジナである。また、本種は成長すると鱗(ウロコ)一つ一つに、明るい場所と暗い場所が現れる(暗色点)。
尾柄部(尾ヒレの付け根)にも違いが見られ、メジナは高い(幅が広い太いという事、地方名クチブトはここから由来していると考えられる)が、クロメジナの尾柄部は、低い(細い長いと言う事、地方名オナガグレの由来はここからと考えられる)。
●見た目で判断できる方法「絵合わせ」※3
メジナとクロメジナは大変似ていて、分布域もかなり重なっているが、上物師をはじめ釣りの愛好家なら、釣り上げてシルエットを見ただけで簡単に識別できる。
しかし、双方を見慣れていないダイバーが水中で区別するのは、かなりそばによらない限り、難しいだろう。証明写真程度でも良いので水中写真を撮影し、上記記載を確認しながら判別することで慣れるしかないと思われる。
●メジナの地方名
メジナは、上物師のメインターゲットとなっている。
関西発祥の釣り方が全国に広がったため、釣り人は、メジナの事を関西発祥の地方名であるグレと呼ぶ事が多い。クチブトや、クチブトグレもよく使われる。
その他にも、地方名としてクシロ・クチブト(伊豆)、グレ(関西)、クロアイ(山陰)、クロ(岡山)、クレウオ(枕崎)、クロ(下関・九州各地)、シツオ(鹿児島)など様々な呼び方がある。クロダイにも似た地方名が使われることがあるので、注意が必要だ。
ちなみにクロメジナは、前述の通り関西方面の釣り人の間では、オナガグレと呼ばれることが多い。
メジナの観察方法
長年ダイビングや水族館業界にたずさわっていますが、一度も「メジナを見たい」とリクエストを受けた事はありません。
釣り系の情報が充実しているメジナですが、今回はダイバーの為の観察方法に限定して書いていきます。
観察時期
幼魚までは夏場限定であろうと考えられます。
成魚になるにしたがって、流れのある磯場の中層で一年中見られるようになります。
生息場所
日本の温帯域の沿岸に広く分布しています。
稚魚や仔魚は、ダイビング中に見つけた事はありません。
幼魚は、岩場やゴロタ石場のビーチダイビングポイントのエントリー・エキジットで、稀に「群がり」を見つける事があります。
成魚は磯場のダイビングポイントで、中層を見ていると「群がり」が観察できる事が多いです。
生態行動
水族館学的情報で記載します。
産卵期は2月から8月と言われていますが、生息場所の水温などによって変わると考えられます。
稚魚や仔魚は内湾寄りの海域を好み、流れ藻やゴミだまりから見つかっています。
幼魚は磯場の波打ち際を好み、タイドプールの磯観察でも見つかる、夏場のポピュラーな魚です。
成長と共に港や堤防の先端に移動し、成魚は磯の回りで一年を通して「群がり」として観察されます。
非常に大きく成長した個体は、水中では尾鰭(ビレ)がしろに変わると知られています。
<参考>神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」:「KPM-NR 35547」
残念ながら、釣り客の多い場所では、このタイプを見た事がありません。
その成長前に釣りきられているのであろうと推測されます。
食味
食性は雑食性で知られていて、夏場は磯場の生物を広く食している様です。
その為、夏場は磯臭く美味しいとは言い難いです。
近年は、釣りによって捕らえた個体は磯臭さが薄くなったと言いますが、格別美味とは言い難いでしょう。
寒期は海藻などを好んで食べるため磯臭さが薄らぎ、冬を超えた春先の大型個体は脂ものるため、これはかなり美味です。
美味しい個体は、「全体にぷっくりとしていて、尾部の付け根が太いと脂のノリが良い」と目利きを教わった事があります。
観察方法
メジナが生息するのは、磯場で流れがある場所ですが、水底は流れが弱い場所であることが多く、十分に器材に慣れたアドバンスダイバー以上なら、簡単に観察できるでしょう。
観察の注意点
成魚サイズになると、流れがある中層で餌を取っている所に遭遇する事があります。
そんな時は、水底は流れが弱くても、中層は思いのほか潮の流れが速い事があるので、十分に気を付けましょう。
観察ができるダイビングポイント
本州沿岸の磯場で普通に見られる種類なので、分布域内の日本中で見られます。
南日本になるとクロメジナの方が個体数が多くなるので、注意深く識別が必要となります。沖縄では稀なので、見つける事自体がラッキーな事と思われます。
生態を撮影するには
中層を「群がり」で遊泳している個体の撮影は、かなり難しいと思われます。
撮影は、ホンソメワケベラをはじめとするクリーナーフィッシュに寄生虫を食べてもらっている時が狙い目。
そんな場面なら、コンパクトデジタルカメラで撮影が可能となります。
驚かさない様に、気を付けて近づくのがコツです。
SPECIAL COLUMN
「群れ」と「群がり」の違いはメジナの飼育研究から!?
メジナの記事を寄稿するにあたって、一般ダイバーが聞きなれない「群がり」という言葉を使って書いてきた。
これは、『磯魚の生態学』(著者:奥野良之助、発行:創元社、発行年:1971年初版発行)に従ったものだ。
魚類生態学の世界では、魚がたくさんまとまって見られる物を「群れ」と「群がり」で区別して記載する事が多い。
これは、今回のテーマであるメジナの水族館での飼育がきっかけとなり、研究が行われるようになった。
つまり、限られた水槽内での行動変化により、「群れ」と「群がり」という2つの言葉に違いがもたらされたのだ。
水槽の様に限られた環境に魚類を入れた場合、自然界と同じように、群れ行動を解かないで行動する魚類の群れ行動を「群れ」と定義する一方、群れ行動をやめて単独行動になり、縄張り争いをするタイプの魚類の群れ行動を「群がり」と定義している。
実際に、干潮時の小さなタイドプールに取り残されたメジナの幼魚は、直ぐに群れ行動を解除し、隠れるのに適した場所を強い個体から占拠して縄張りを作る。
そして、その縄張りに近づく同種には攻撃行動をする。また、他種にはまったく興味を示さない。
筆者は東海大学海洋学部在学中、鈴木克美教授の講座「魚類生態学」の中で、研究には人の主観が入らない様に、観察のみに頼ることなく、事実を整理して数値を積み重ね、統計をとる事が必要だと教わった。
その例として、『磯魚の生態学』内で「群がり」として記載されているチョウチョウウオの仲間の攻撃行動について、成長過程により起きる性別差や成熟度合いなどで大きく結果が変わってくることを示された。
他種チョウチョウウオ類に対しては興味を示さないが、とても仲良くペアを組んで水槽内で観察することも可能である。また、殺し合うまで激しく縄張り争いをすることもあると言われた。
つまり、チョウチョウウオの仲間の行動を「群がり」と考えることは、研究者の主観が含まれている可能性があるというご指摘である。
そして、「群れ」や「群がり」という言葉についても、主観によらず注意深く使用する必要があると指導された。生態研究において、その“主観”というのは難しく、現在も考えさせられるテーマである。
現在、チョウチョウウオの仲間がこういった行動をすることは、アクアリストの間でも常識となっており、今や「群れ」「群がり」という用語が残るのみとなった。
しかし、「群れ」「群がり」の定義自体は変わっていないので、例を挙げて違いを説明したいと思う。
●「群れ」を形成する魚類
マイワシをはじめとするニシン科、マアジの属するアジ科、マサバやマグロなどが属するサバ科などの回遊魚に見られる。
●「群がり」を形成する魚類
メジナが属するメジナ科、イシズミ科、フエダイ科、チョウチョウウオ科、キンチャクダイ科、トラギス科の魚類に見られる。
水槽実験で、環境を抑制した時に単独行動し、同種攻撃をすれば「群がり」という事になっているが、チョウチョウウオ科、キンチャクダイ科、トラギス科の魚類には性変換をする魚類が含まれていて、その生態行動に由来する行動の場合が見られる。
つまり、本来の定義での「群がり」とは言えないのではないかと筆者は考えて観察している。
キンチャクダイ科、トラギス科などの魚類は、性変換した雄を中心に「群がり」を形成している様に見えますが、筆者はハーレム行動をしていると考えており、これは鈴木克己教授も指摘している学説だ。
この辺を良く見極めないで「群がり」を使うのは、とても問題がある可能性を含むと言える。
ダイバーにとってわかりやすい観察生物を挙げると、デバスズメダイ、アオバスズメダイは、水槽内でも群れを解くことがないので「群れ」に該当する。
ミスジリュウキュウスズメダイ、ミツボシクロスズメダイは、海では仲良く仲間同士で一か所に群れているが、水槽内では群れをとき激しい攻撃行動を取るので「群がり」といえる。
よく目にする魚であっても、「群れ」と「群がり」の違いという知識を得た上で観察すると、ダイビングは数段面白いものになるだろう。
また、興味を持って観察することが、新たな知識を得ることにもつながっていく。
是非、観察力を上げて水中での生態観察を楽しんで欲しい。
ちなみに、クマノミ類は「群れ」とも「群がり」とも言えない事が、最近判ってきている。さらに、ハーレム行動とも言い難い。
詳細は別の寄稿に譲るが、魚類分類でもまだまだ解明されてないことが多い中、魚類生態学は、さらに謎が多く残っている。
まだ、研究途上の分野と言える。
参考文献
- 『日本産魚類検索 全種の同定』(編集:中坊徹次、発行:東海大学出版会、発行年:2013年第三版)
- 『改訂版 日本の海水魚』(著者:大方洋二・小林安雅・矢野維幾・岡田孝夫・田口哲・吉野雄輔、編集:岡村収・尼岡邦夫、発行:山と渓谷社、発行年:1997年第3版)
- 『魚の分類の図鑑ー世界の魚の種類を考える』(著者:上野輝弥・坂本一男、発行:東海大学出版会、発行年:2005年新版)
- 『磯魚の生態学』(著者:奥野良之助、発行:創元社、発行年:1996)
- 神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」
- 『デジタルカメラによる 水中撮影テクニック』(著者:峯水亮、発行:誠文堂新光社、発行年:2013年)
文・写真:播磨 伯穂
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