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【ダイバー仕事名鑑】まだ見ていない人がいるから守らなきゃいけない。#稲生薫子

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「ダイビング業界で働くってどうなの?」

そんな学生ダイバーの疑問に答えていくダイバー仕事名鑑。

5回目の今回は、稲生薫子さんにお話を伺います!

そもそもるこさん、なんて紹介したら良いですか??

るこさん
何でも屋さんだからね(笑)
今のメインはスキンダイビングで、イルカとかクジラとかの現地ガイドとゲストサポートだけど、依頼があればダイビングの取材も行くしね。その時には水中モデルもライターもやるし…やっぱ水中レポーターかな?

冒頭で●●の▲▲さんです!とか定番の書き出しなんでちょっと悩むんですよね…

るこさん
どれが一番良い?(様々な種類の名刺をパラパラ)まぁなんでも大丈夫!

まぁこんな企画やってるぐらいなんで肩書きとかにこだわっちゃダメですね!

稲生 薫子
学生時代は、日本テレビイベントコンパニオンとして、しゃべくり007などのバラエティ番組に出演。その後、ナレーター・司会・ダイビングモデルとして、TV、雑誌、モーターショー、トークショーなどで活躍。
宝くじのキャンペーンガール「幸運の女神」では、46都道府県を訪問。
2013年より、フリーランスとして独立、活動の拠点を海へ。
2014年はミス椿の女王、2016年・2017年はミス熱海として静岡県のダイビングPRも行っている。
ダイビングメディアではライターとしてだけでなく、水中モデルという立ち位置を確立。
また、水中写真家・越智隆治氏のもと、世界各地で海洋哺乳類やストライプドマーリン(マカジキ)などとスキンダイビングを行う、現地ガイドを行っている。
トンガ王国公認のホエールスイムガイドのライセンスを持つ唯一の日本人女性でもある(2019年11月現在)
2018年からはプロトラベラーとして世界中を巡り、旅ブロガーとしてそこで得た情報や自由に生きる生き方も発信している。

初めはどこにでもある話だった

ジープ島でのるこさん

みなさんに最初に伺っているのですが、まずはダイバーとしてのこれまでの経歴を簡単に教えてください。

るこさん
大学生の時、幼馴染でダイバーの子に「一緒にダイビングやろうよ」って誘われてたんだけど、時間ない・お金ない、ってできない理由をつけてやらなかったのね。

はい。

るこさん
でも社会人1年目の時、ふと時間に余裕が出来て。
その時、趣味がないなって思ったの。趣味の欄に映画鑑賞とか料理とか、取って付けた様なことを書いても仕方ないし。趣味、趣味…趣味ってなんだ?ってなってたのね。

なるほど。

るこさん
そしたら、またタイミングよく幼馴染に「ダイビングやろうよ」って、飲んでる時に誘われて。「ダイビングを始めたキッカケは?」って聞かれたら、完全に飲んだ勢いだよね。

飲んだ勢い…まあ、あるあるかもですね(笑)

るこさん
特別海が好きなわけでもなかったかな。泳げなかったし。

出た!みんなここから始まります(笑)

るこさん
好きなわけではなかったけど、特に否定する理由もなかったから、「とりあえずやってみようか」ってなったかな。翌朝申し込みに行った。

とりあえず…マイナスがないならやっちゃえってのが良いですね。しかも翌朝申し込みに行くっていう行動力!
ちなみに始めたのはどこの海で??

るこさん
伊豆で、大瀬崎ね。大手のお店だったってのもあって、Cカード取る前からマスクとスノーケルだけは買わさ…まあ買っちゃったし、買っちゃったからCカード取ろうかなって。

なるほど。

るこさん
そしたら、その時はたまたま透明度めちゃくちゃ悪くて、本当につまらなかった
なんでこんなもんにみんなハマるんだろって不思議でしかなかった。

これまた出た。最初は何も面白くなかったパターンですね。

るこさん
そう。それから半年ぐらい放置してたんだけど、そしたら「アドバンス取りませんか?」って営業メールが来たの。で、アドバンスを取ることにした。

え?つまらなかったのに?

るこさん
うん、まあ器材買っちゃったし、「しょうがない、アドバンスぐらいは取ってみるか」って。
そのアドバンス講習が田子だったんだけど、ものすごく綺麗で。「これこれ!魚いるじゃん!あの味噌汁とは違う!」って。
そっからハマって、無理やり休み取って毎月伊豆に通ってたかな。

大瀬を味噌汁と言わないでください、その日がたまたまです(笑)

るこさん
(笑)
ダイビング始める前から”ジープ島”のことは知ってたんだけど、HPで写真見たらすごく綺麗で、「絶対にここ行きたい!」ってなってたの。それで、100本潜ったら行こうって決めたのね。で実際に100本で行った。
※ジープ島:太平洋に浮かぶ直径34mの無人島で、島全体がホテルの別館として日本人のみ宿泊可能

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公式ジープ島事務局|ブルーラグーンジャパン(@jeepisland_official)がシェアした投稿

すごいですね。

るこさん
そしたらね、目標を達成した感じになっちゃって、なんかもういいやって。100本のくせにいっちょまえのダイバーみたいなこと言って。
もう趣味でダイビングはいい、仕事にしたいってなったの。

え?燃え尽きてダイビング自体もういいや、ならわからなくもないのですが、仕事??

るこさん
「ダイビング自体はもっと面白い世界があるんだろうな」とは思ってたんだけど、これを仕事にしている人が羨ましかったの。
色んな国に行って、色んな綺麗なもの見て、それが仕事になってる。
もともとナレーターで”伝えること”が仕事だったから、ダイビングをやるなら“自分の言葉で伝えたい”って思ったんだよね。

なるほど。

るこさん
でも、インストラクターになろうとは思わなかった。一か所にいられない、遊牧民的な性格で、放浪してたいから。
当時の私に出来たことは、喋ることか写ることだったから、ダイビングと掛け合わせたときに、水中モデルとかできるかなって。それで、水中モデルになろうって。

水中モデルっていうもの自体、今でも職種としてはあまり認識されてないですよね?

るこさん
そう。でも当時ダイビング業界のことは何も知らなかったから、そうゆう職種があると思ってたんだよね。
もちろん1年間探しても全然見つからなかった

世の中に存在しない職業ですもんね…

るこさん
それでも探してたら、たまたまTUSAのカタログのモデル募集を見つけたのね。そこからは全部人が繋いでくれた感じかな。

というと?

るこさん
募集を見て実際に担当者に会いに行って話をしている時、たまたまフィリピンのダイビングサービスの社長からその担当者に「帰国しました」って連絡が入ったの。それで、「実は今夜その社長と会うけど一緒に会う?」ってTUSAの人に言われて。
よくわかんないけど、会いまーすって急遽会うことになったのね。

どういう流れっすか(笑)

るこさん
そしたら、オーナーさんに気に入ってもらえて、今度フォトセミナーのモデルの募集するから、とりあえず練習として来てみる?って誘ってもらって。
これまたよくわかんなかったんだけど、とりあえず行きまーすって言って、セブに行ったのね。
セブに行ったら、サイトを立ち上げたばかりのオーシャナさんが来ていて。そこに来ていた寺山さんや越智さんに「ダイビングのモデルやりたいです」って言ったんだと思う、よく覚えてないんだけど。
※寺山さん:寺山英樹さん。越智氏と共にオーシャナ創立メンバーの1人。

えーと、話が割と急展開ですね。よくわからないままに進んでる。

るこさん
「よくわかんないけどやってみる」が出来るタイプだからね。
日本に帰って来てから「ドライスーツ着れる?」って突然連絡が。
もちろん「着れますよ」って。私ガチの伊豆ダイバーだし。

普通のモデルの人は、ダイバーとしては初心者同然の人が多いから、ドライスーツを着れるレベルの人がいなかったんですね。

るこさん
そうそう。ガチで潜れてモデル出来るって人がいなかったみたいなの。
それで、「今度伊豆のロケに来てくれますか」ってなったのね。そこから始まった。

すごいですね。

るこさん
すごいというか、タイミングがよかった。昔から運は良い方だけど、人のご縁で繋がったって感じかな。
まさに、「人生はいつどこで誰と出会うかで決まる」って感じ。

確かに、最初の応募からは一気に人で繋がった感じですね。

るこさん
それから撮影で越智さんと関わるようになってからは、ダイビングもだけど、イルカとかクジラとか未知の世界すぎて、興味が出てきたのね。
それで、アシスタントやらせてくださいって言ったら、「俺は弟子はいらない」って断られた。

職人気質…

るこさん
弟子いらないって言われたけど、初めて自分からやりたいって思ったことだったから、とりあえず時間を共有しようと思って、越智さんの開催してるツアーに参加したのね。
私、自分が羨ましいなって思う人のまねをするようにしようって思ってるから。
だからとにかくついていった。

とにかく食らいついて、認めてもらおうと?

るこさん
当時はそこまで考えてなかったけど、今考えると、理にかなってたのかもね。
自分を変えたければ、時間とお金の使い方、環境を変えろってどっかに書いてあったけど、それを、「羨ましい人のまねをする」ってことでやってたのかな。

なるほど。

るこさん
越智さんのまねをして、同じ時間を共有してってやってたら、いつの間にか今の生活が確立されてた。

水中モデルという立ち位置でしょうか?

るこさん
水中モデルとかクジラのガイドとか。
まさか、トンガ政府公認のホエールスイムのガイドライセンス取るまでになるとは、当時の私は想像もしてなかったしね。
水中モデルに関しては、水中モデルって概念がなかったのに、お金をもらってモデルをやるっていうものを作れたかなとは思う。次の人が出てこないのがちょっと残念だけど。

勢いでCカードを取得し、とりあえずでアドバンスを取り…そこまではよくある話ですが、そこからの展開がすごいですよね。

そして、目標を達成して燃え尽きる、ならわかるものの、ダイビングを仕事にすることが羨ましいと思って仕事にしたいと思う。
しかも知らなかったとはいえ、この世にまだ存在しない職種を志し、しかも達成してしまうというというところに、るこさんの計り知れないパワーを感じました。

よくわかんないけどやってみる、羨ましい人のまねをする、るこさんの様にパワフルに生きるために重要なキーワードかなと思います。

クジラの魅力

ザトウクジラと泳ぐるこさん

前回のきりんさんもそうでしたが、るこさんに関しても、いつも日本には居ないイメージなのでタイミングが良くて良かったです。

るこさん
なんだかんだちょこちょこは日本にいるんだけどね。きりんくんもそうだと思うんだけど、特別所在を明らかにしてないだけというか

まあわざわざ明かす必要もないですもんね。1年の流れはどんな感じなんですか?

るこさん
1年を最初から追っていくと…
2月はオーストラリアでアシカ
3月4月はスリランカでシロナガスクジラとマッコウクジラ
6月7月はバハマでイルカ
8月9月はトンガでザトウクジラ
11月はメキシコでストライプドマーリン(マカジキ)
って感じかな。
もちろん担当しているものだけだし、全日程行ってるわけじゃないから毎年違うんだけど…。

いや、やっぱり1年中海外…すごく素朴な疑問なのですが、イルカとかクジラって怖くないですか?

るこさん
怖い?

サメとかの怖さとは違うんですけど、彼らって哺乳類じゃないですか。大脳があるのが怖いと言うか。
サメは結局魚だから本能で、最終的には向こうが逃げそうですけど、イルカとかはイヌとかネコみたいにじゃれたりもしそうだなって。
水中でじゃれつかれたらそれこそひとたまりもないですし…

るこさん
知らないから怖いんだと思う。

というと?

るこさん
クジラの場合でいうと、私の場合は経験っていう部分もあるかな。
ガイドを始めたばかりの時は、クジラとの距離感がわからなくて。
「皆に見てもらいたいし、自分も近づきたいけど、近づきすぎて逃がしたらマズい」とか色々考えているとごちゃごちゃしてきて、クジラのことをあんまり見てなかった。

しっかり観察出来ていなかった?

るこさん
観察もそうだし、「心の底から向き合ってなかった」って感じかな。
何年か経験を積んでからは、お母さんがどういう動きをするか、なんとなくわかるようになってきた。
本当に目が人間っぽくて、目を見ていると結構わかる。このお母さんはこれ以上近づいちゃダメだなとか、あまり気にしないんだなとか。
クジラの性格によって、前に回った方が良い場合と、横にいた方が良い場合とあるんだけど、この夏もパッと見たときにこのお母さんは前だなって感じて、前に回ってみたら動きが止まった。そのあとは、「この距離感だろうな」って思うとこにいたら、ずっと私たちのとこにいてくれた。遭遇率の良くない時だったから見せられてホッとしたよ(笑)

クジラと向き合うことが出来たからこそ感じ取れるものなんでしょうね。

るこさん
クジラのこと、ちょっとだけ理解できたかな、って思った。
突っ込んできたら怖いっていうのはわかるけど、クジラのことを知ると、突っ込んでこないってわかるから(状況による)、怖いは怖いけど、知らなかった時の怖いと知ってからの怖いは違うかな。
あの世界を見た人と見てない人の人生経験の差はすごく大きいと思う。水族館じゃ見れないし。

そういわれると、ただ怖いって逃げちゃってるだけな気もしてきます。

るこさん
イルカとかクジラって本当に面白くて、こっちのこともすごく見てるのね。触ってほしければ寄って来るし。
バハマのイルカだとお触りちゃんって呼ばれてる子たちがいて、触ってほしいって近寄って来るのね。
反対に、絶対に触らせてくれない子もいるし、触ってほしいんだけど触り方が悪いと怒る子もいたり…

向こうも哺乳類だから何かを考えてるわけですもんね。

るこさん
アシカもそう。こっちが石持ってるだけでも返せよ!って腕に絡まって来たり、トントンって誰かに呼ばれたなと思ったらアシカが肩に乗ってたり、遊ぼうって足にまとわりついてきたり。
彼らは本能のままに生きてるからこそ学ぶものもあるかな。
「素直に生きよう」というか。

彼らは常に素直に向き合ってくれていて、向き合うべきなのは人間の方だけなのかも知れませんね。

るこさん
私は、海を仕事にしてから、虚勢を張らなくなったかな。
昔、ナレーターをやってたころなんかは、モーターショーとかのイベントに出て、10分ぐらいの原稿を丸暗記して、会社背負って舞台に立たなきゃいけなかった。
虚勢を張って、自信のないことでも出来ます!っていう世界だった。10分の原稿を暗記できますかって聞かれてNoって答えがあり得ない世界に生きてたから。

確かに、そんなイメージがある世界ですね。

るこさん
海に移ってからも、最初は虚勢を張るというか、自分をかっこよく見せなきゃなって思ってた。
でも、経験もクソもないのにトンガの海でいきがっててもむしろかっこ悪いなって。自然の中で虚勢なんか無駄だなって、生き物たちやその環境が気づかせてくれた。だから謙虚にもなるし。
海で仕事を始めるまではなかった感覚かな。

イルカやクジラたちと向き合う。
るこさんと話していると、僕がイルカやクジラを怖いと思うのは向き合えていないだけで、なんだか恥ずかしくさえ感じてしまいました。
同時に、改めてイルカやクジラたちと、自分から心を開いて接してみたいなと強く感じました。

今ある光景を伝えていくために

るこさん
イルカとかがいる環境を目の当たりにすると、その環境が人を成長させるし豊かにさせると思うのね。

人生観さえ変わりそうな気がします。

るこさん
それが今、色々な理由で見られなくなってきている。
今の大人にはイルカとかクジラを見に来てくださいねって言えば良いけど、今の子どもたちとか、まだ生まれてない子たちが大人になった時に、見たくても見れない世界になってたら、すごくかわいそうだなって。

一度見れなくなってしまったものは永遠に見れないですもんね。

るこさん
まだ見てない人がいるから守らなきゃいけない。そのためには、今の子どもたちに環境を守るっていうクセをつけて欲しいと思ってるのね。

なるほど、頭ごなしに教育するのではなく、クセにしてしまうということですね。

るこさん
単純には、クジラってすごいんだぜ、ただそれを見て欲しいだけなんだけどね。
今の子たちって「今日は運動会ですか?」みたいな水筒を持って毎日学校に行ってるの知ってる?

そんなに大きいのをですか?でもなんとなく想像は出来ます。

るこさん
あれ、将来的にペットボトルを使わないってクセづけなら良いと思うんだけど、水道の水を飲ませたくない、って言う親が一定数いるみたいな話もあってね。

えー!公園にある、蛇口ひねると上向きに”ピュー”って出るやつから普通に飲んでましたよね!?

るこさん
うん、飲んでた。まあ最終的にペットボトルを持たないってのにつながるなら良いんだけど、水道水を飲ませないのが理由だとすれば、なんかアプローチが違うなって気がするのね。

間違いなく、本質的ではないですね。

るこさん
環境問題について個人的に取り組んではいたんだけど、これからは公にも公開していこうと思ってて。
テーマは、「海と教育」なんだけど、第一段階としては、子どもたちに海の本の読み聞かせをすることからはじめて、それをきっかけに色々アプローチしてみたいなって思ってるのね。見せてあげれば興味がわくから。

というと?

るこさん
難しく言っても理解できないので、例えば、「イルカのごはんって魚だけど、死んだイルカのおなか開くとゴミがいっぱい入ってるよね」ってストランディング個体の胃の中の写真とか見せながらとか
※ストランディング:海に棲む魚や哺乳類などの生物が座礁してしまうこと

なるほど。

るこさん
それで、最終的には御蔵島とかで実際に会う。そうしたら自然と環境問題とかにも考えが及ぶんじゃないかなって。
そんなかっこいいこと言わなくても、普段できない経験をするだけでも、何かがかわってくるはず。少なくとも海に興味を持つ子が増えてくれるはずだなって。

頭ごなしに水筒を持たせる100倍良いですね。

るこさん
そういう子が大人になって、クジラとかと泳げる国があるって知れば、行けばいいと思う。
きっとこの先、「遊びが本気でできる人じゃないと生き残っていけない」だろうなと思うのね。何のために仕事してるかわかんなくなっちゃうし。
やりたいことがあってお金を稼ぐはずだし、そのやりたいことをなくさないために、子どもたちに色々と知って欲しい。

るこさん自身も子どもの頃の経験が影響していたりしますか?

るこさん
小学校を卒業するまで自然教室に通わせてもらってた。色んなところに毎週出かけて。テント張ってキャンプしたり、カヌーで沢下りしたり、富士山登ったり。箱根から豊橋まで200km歩いたのが一番辛かったな。

200kmはすごいですね。

るこさん
でもそういう原体験って凄く重要だよね。習慣というか。
今の子たち、空き地とかで遊ぶってないもんね。かわいそうだなって思う。なんでみんなで公園に集まってゲームやってんのって思う。

僕らの世代はギリギリ空き地もあったかも知れないですね。

るこさん
あったあった。だから、さっきの本の読み聞かせから実際にイルカに会いにって話もそうだけど、「子どものサマーキャンプ」とかもやりたいなって。
子どもの好奇心って凄くて宿題なんかよりも自然への好奇心が絶対重要だと思うのね。

もしかして

るこさん
うん、越智さんもよく言ってる、センス・オブ・ワンダーの世界。
まあ普段からそういうことを言っている人と一緒にいると、そういう脳みそになるって話でもあるんだけど。

センス・オブ・ワンダー、改めて読み返したくなりました。
※センス・オブ・ワンダー:著者のレイチェル・カーソンと甥っ子のやりとりを通して自然を感じ取る感性の重要性を記した作品

るこさん
せっかくこういう立場になったなら、それを叶えることが出来るから、やりたいな。あとは、私の後継になるモデルとかが育って、海を伝える人が増えれば、こういうことももっとやりやすくなると思う。

るこさんの水中モデルという一面を活かす?

るこさん
そうそう。今、ダイビング雑誌とかでモデルになってる人ってちゃんと潜れるダイバーだけどモデルとしては素人か、プロモデルだけどダイバーとしては素人か、なんだよね。

そんな気がします。

るこさん
例えばだけど、私だったらまずカメラマンの機材を聞くのね。見ればわかるんだけど、レンズ○○ミリですよね?って念のため確認する。
14mmなら14mmで、だいたい画角がわかるから、その距離感で入ろうって。

今まで考えたことはありませんでしたが、言われてみればモデルさんはそれぐらいのことは考えないとですね。

るこさん
うん、モデルで写るなら距離感が大事。
特に水中の場合、海とかダイビングはもちろん、カメラとか写真も好きじゃないとカメラマンの気持ちもわからないのよね。
素人からしてみればただのソフトコーラルの壁でも、それをいかに切り撮るかってカメラマンの人は試行錯誤してやってるわけで。

はい。

るこさん
カメラマンにとって、モデルはその壁の添え物なのか、モデルがメインなのかをくみ取ったりしなきゃいけないのね。しかも同じ8mmでもこのカメラマンならこの位置かな、とか。
なのに、みんな同じように、カメと一緒にモデルの人が手を広げてーとかやっちゃう。そういうのいっぱい見かける。

よく見る構図…

るこさん
水中は喋れないし、全部打ち合わせして海に入ることも無理だから、その場の感覚が大事なのね。自分の場合は、誰も教えてくれなかったから苦労したし、今はなんとか経験でやってるけど、この経験を伝える場所が欲しいなって思ってる。

面白そうですね。

るこさん
例えばカメラマンの卵とモデルの卵が2泊3日とかでコラボして、3対3ぐらいで養成合宿とかやってみたい。

インストラクターぐらいだと、どうすればなれるか想像も出来るけど、カメラマンとかモデルだと、なり方すらわかんないからなれるとも思ってないと思います。

るこさん
そうそう。だからそういう場を作ってみたら面白いかもって。

うん、すごく面白いと思います。

るこさん
自分だけで完結するのは良くないなって思うのね。だから養成とかをやりたいって思うのかな。
ダイビングショップもカリスマガイドがいるだけだとダメだと思ってて、下に伝えられる人がいないといけないと思ってるのね。
私もそろそろそっちの立場かなって。もう少し現役もやりつつ、教えて行きたい。

物事を世の中に継続的に伝えて行くためには、まず自分のやってきたことを伝える必要がありますもんね。

るこさん
水中モデル、いつまでもやってたいとはならないだろうしね。年もいくし(笑)
若い子、次の子がいるなら作って行きたいな。モデルが素人だと大変だから。
あの人たちに教えてもらったなら基礎はできてるから、安心してモデルの仕事がお願いできるわっていう養成の場を作りたい。

もっとカッコいい人、かわいい人が表に出てきて、ダイビングってかっこいいんだぜ、かわいいんだぜってやらないとダイバーは増えないですよね。そして、それをやるなら、そういう人を作らないといけない。

るこさん
うん。もっと水中のことがカジュアルに伝わったら良いなって。

そうですよね。
陸のカメラマンがダイビングをやって水中写真家に、プロのモデルがダイビングをやって水中モデルに。
そうすることで、ダイビング側が発信する物のクオリティーが上がって、ダイバーが増えて、さらにそういう人が出てきて、っていう好循環になれば素敵ですね。

るこさん
そうだね。だから私の中で、1つ目の子どもたちに向けての話と、水中モデル育成の話は繋がってるんだよね。

なるほど。確かに繋がっているし、素直にすごいと思います。

イルカやクジラがいる環境を目の当たりにすると、その環境が人を成長させ、豊かにさせる。
そして、その環境を知ってもらうだけでなく守って行くために子どもたちへアプローチする。
さらに、そのアプローチが出来る人を増やすために水中モデルを育成していく。

るこさんの言う通り、全て繋がっていて、是非実現して欲しい、なんなら自分に出来ることがあればお手伝いさせて欲しいとさえ感じました。

やりたいことがないのは、出来ることがない

学生ダイバーに読んでもらっているサイトということで、普段学生と絡んだりすることはありますか?

るこさん
そんなに多くはないけど、時々。あ、ちょうどこの前相談されたかも!

お、どんな相談ですか?

るこさん
やりたいことがないんですって。

ど定番。

るこさん
受け売りなんだけど、「やりたいことがないのはやりたいことがないんじゃなくて、できることがないんだよ」って。
できることを増やせば、その中でやりたいことが出来てくるはずだから、出来ることを増やしてみたら良いんじゃないかなって答えてあげた。

確かに!やりたいことがないんじゃなく出来ることがない、納得感がすごい。いや本当にその通りだと思います。
やりたいことがないのは出来ることがない。

るこさん
私は海が”出来なかった”し、やりたいこともなくて、飲んだ勢いで始めた海だったけど、その海が”出来ること”になって、そうしてるうちに「クジラって言ったらこの人」ってメディアからアドバイス求める電話がかかってきたりもするようになって。
それって「やったことない、やったことないからできない」で終わらせてたらやりたいことになってなかったなって。

その通りですね。

るこさん
よくダイビングって言うと、泳げないからとか言う人いるけど、ちゃんと泳いだことないなら泳げなくてあたりまえじゃんって。
泳いだことある状態で生まれてくる人なんかいないんだから。

間違いないです。

るこさん
あとね、今度の4月にある企業の正社員としての入社が決まっている学生と少し話したこともあったかな。

どんな話ですか?

るこさん
なんでこの会社に就職したの?って聞いてみたのね。そしたら「なんとなく…生きなきゃいけないから…。」えー??ってなった。

いやでもそれって逆にすごいですよね。僕には絶対無理…

るこさん
うん、私も無理。でもね、それをちょっと論理的に考えてみたの。

論理的に?

るこさん
幼稚園までは自由だったのが小学校になったら、昨日まで幼稚園生だった子が40分の授業を4コマ座って聞くでしょ?月~金で。これってすごいことでしょ?
それが6年、3年、3年と高校まで続く。もちろん大学に行けばさらに4年…は遊んでるかもしれないけど。
そうやって月曜から金曜まで机に座って何かを聞くっていうのが習慣(クセ)づくんだよね。

確かに習慣になりますね。

るこさん
だからなんの疑問もなく月から金まで働くんだよね。習慣だから何も疑わない。お茶碗は左、お箸は右みたいなテンションだと思うんだよね。
これが海外みたいに、小さい時からシエスタがあって、夏休みは1ヶ月どっかバケーションに行くとかが習慣だったらきっとあんな風には働けないよね。
※シエスタ:スペインなどで習慣づく、日本に比べると非常に長い昼休み

その通りかもしれませんね。言い方は悪いかもしれませんが、最初は授業の延長で仕事をする。もちろんそのうちに、仕事に順応して、本来の意味での仕事になって行くのでしょうが。

るこさん
だから、イルカと泳いでる、クジラと泳いでる、水中レポーターって仕事をしてるって言うと羨ましい・いいなーってなるんだけど、その当たり前から出られないだけなんじゃないかなって。
本気でやりたければ出ればいいけど、それがクセだからなかなか出られない。

だから、稼げなそうとか、自分の中での言い訳なのかもしれないですね。

るこさん
そうそう。ヘタすると、良いよね楽して稼げて、って言われるし。楽なんかしてないって。

(笑)

るこさん
楽(ラク)、じゃなくて楽(タノ)しく生きてるだけ。
好きなことをして生きるって自分の中でテーマだったんだけど、それって楽して生きるって思われがちじゃない?漢字は一緒なんだけど。
楽ではないけど好きなことは楽しいから、「自分の楽しいを極める」だけ。最初は楽しいだけでも極めればプロになれる。

楽しいと思えることは重要ですね。楽しくないなら楽しくなる工夫をするか、とっとと辞めればいいのかななんて思っちゃいます。

るこさん
でも、なんとなくで仕事を始めちゃうし、習慣だから続けちゃう。だからみんなやりたいことないんだなって。
やりたいことって伝わると思うんだよね。

というと?

るこさん
私、元々アナウンサーになりたかったんだけど、なれなかったのね。
後になって、なんでなれなかったかを考えたら少しわかった気がするの。

なんででしょう?

るこさん
たぶん本当はアナウンサーになりたいわけじゃなかった。それを見抜かれてたんだと思う。

では本当は何に?

るこさん
モー娘。!
元を正すとモー娘。になりたかったんだよね。これちょっと面白くない?(笑)
私たちの時って加護ちゃん辻ちゃん世代で、すごい可愛いじゃん!可愛くて憧れてた。
テレビに出て歌って踊って可愛いことがしたかった。

全盛期でしたね。

るこさん
でも、父親が映画撮ってたりした背景もあって、娘を芸能界に入れたくなかったみたいなのね。
人前に出たい・目立ちたい、みたいなことを親がうまく言葉をすり替えたのがアナウンサーだった。
要はアナウンサーになりたいと思ってたのは親に言われたからだと思うんだよね。

なるほど。本質は違ったわけですね。

るこさん
その後、一番最初にセブに行った時、何しに行くのって?すごい聞かれた。
海の仕事をするのは反対って。

まあ普通はそうかもしれません。

るこさん
でもよくわかんないけどやってみる、出来なかったことを出来るようにする、ってやってたら、いつのまにか出来た。やってみることは大事だなって。

その通りだと思います。

るこさん
そう考えると、お金がないっていうのを言い訳にして学生時代にダイビングをやらなかったのは少し後悔してるかな

それでいうとと学生ダイバーは一旦そこを打ち破っているわけで、期待できるかもしれませんね。

るこさん
いま既にダイビング始めるって壁を乗り越えられた学生ダイバーは、昔の私よりも勇気があると思う。
なにかを始めるって、とてもめんどくさいことだし、労力のいることだし、やったことがないから不安だと思う。
でもその不安の中に、少しでもワクワクがあれは、それはGOサイン!
これも私の尊敬する人の受け売りの言葉だけど、本当にそうだと思う。
私はこの感情を、「怖わくわく」って呼んでいるんだけど、ダイビングに限らず、これからの人生で、よくわかんないけど、とりあえずやってみるっていう「勇気」があれば、できること、ひいては、やりたいことが、きっと見つかるんじゃないかな!

今日は本当にありがとうございました。

やりたいことがないのは出来ることがないという言葉にはとても納得感があり、心底共感しました。

自分の習慣から抜け出すのは誰でも難しい、だからこそ別の理由をつけて、やらない理由にするというお話も、よくわかる気がします。
仕事に関して、僕も”こちら側”かもしれませんが、その他の部分では、僕自身、自分の習慣を抜け出すことが出来ていないものばかりな様に感じています。

そして、学生ダイバーは既に一度お金や時間、そして全く新しい物に挑戦するという壁を打ち破っているはずだということに気が付くことが出来ました。

 

もちろん、話はそんなに簡単な物ではなく、仕事の決め方には様々な要素が複雑に絡み合うことでしょう。
好きなことを仕事にすることだけが生き方ではなく、皆さんにそうして欲しいと言うつもりもありません。
それでも、今回のインタビューの内容も含め、ダイバー仕事名鑑が何かちょとした気づきになってくれたらとても嬉しいです。

 

最後に、今回のインタビューを終えて、るこさんから記事に使えそうな写真を沢山頂いたのですが、どれもすごい写真ばかりで、紹介せずに終わるのはもったいなさ過ぎるので、少しだけご紹介して終わりにしたいと思います。

   

るこさんのことをもっと知りたい方はこちらから!

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~次回予告~

次回は3人目の中の人、斎藤涼太がお話をさせてもらいます!

~バックナンバー~

細谷 拓

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合同会社すぐもぐ代表社員CEO。 学生時代、大瀬崎でのでっちをきっかけにダイビングにドはまり。 4年間で800本以上潜り、インストラクターを取得。 静岡県三...

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