周防大島を見よ!日本最大級のニホンアワサンゴ群生地とカブトガニの産卵!?
瀬戸内海に浮かぶ山口県の周防大島でダイビングをしてきました。
みなさんは、瀬戸内海の海にどんなイメージをお持ちでしょうか?
私は正直なところ、透明度が低そうだなぁ、生物が少ないかなぁ……というイメージでした。
しかし、実際に海に入ってみると、予想以上に透明度がよく、生き物も多い印象を受けます。
そして、時期的なものもありますが、とても面白い生態行動が観察でき、7日間、生態観察に没頭してきました。
日本最大のニホンアワサンゴの群生地から、ニラミアマダイ(ジョーフィッシュ)のコロニー、珍しいクダリボウズギスやネッタイイタチウオの観察、そして、瀬戸内海東部へ足を伸ばしてカブトガニの産卵まで!
他の海ではなかなか出会えない光景の連続に感動した、周防大島の撮影取材の様子をご紹介します。
瀬戸内海の周防大島へ
瀬戸内海に浮かぶ周防大島は、約1万7,000人が暮らす、周囲138キロメートルの大きな島です。
対岸にある山口県の柳井市から、大島大橋を渡って行き来をすることができます。
周防大島は「瀬戸内のハワイ」と呼ばれることもあり、島内にはヤシの木が並ぶ海岸やハワイを思わせる建物など、ハワイの雰囲気漂う場所があります。
実は、これには歴史的な背景があります。
遡ること明治時代。1885年からはじまった官約移民制度で、大島郡から約4,000の人々がハワイに移住しました。
こうした繋がりからハワイの文化が持ち込まれ、今でも親戚をハワイに持つ住人も多いそうです。
島の中にはリゾート地のような場所ももあれば、古い街並みの場所もあります。
海までの山奥の道ではウリ坊の群れに遭遇することもある、自然豊かで素朴な雰囲気も魅力でしょう。
メインポイントはレモンの森
周防大島のメインダイビングポイントは地家室(じかむろ)海域公園地区にあるレモンの森。
何といっても国内最大規模のニホンアワサンゴの群生がある有名な場所なのです。
レモンの森というのはこの場所を発見したダイバーの方のニックネームがレモンさんであったことに由来しています。
レモンさんが、アワサンゴの群生地の存在をはじめて知ったとき、串本海中公園センター前水族館館長 野村恵一先生に相談されたそうなんです。
野村先生は非常に価値があるものなので調査保護する様勧め、そこからレモンの森でのスキューバダイビングがスタートしました。
階段を降りるとすぐにエントリーする事ができます。
最初に目に入った光景は、浅場を埋め尽くすクロメやホンダワラなどの海藻類。
水深も浅いので太陽光が入って海藻がなびく姿が美しいです。
海藻の中をかき分けて進めば、キヌバリやアミメハギたちも隠れていて、そこだけでも十分に楽しめてしまいます。
ニホンアワサンゴの群生地へ
海藻の森を抜けて少し進むとニホンアワサンゴの群生地にたどり着きます。
水深10m前後の場所に約2,000㎡に渡ってニホンアワサンゴが広がっていました。
これだけの規模の群生地は見たことがなく、迫力を感じました。日本一でしょう!
9月末には産卵も見られるようです。
産卵を終えるとかなりの力を使うようで、中には死んでしまうアワサンゴもいるようですが、1か月ぐらいでほとんどが回復して元気な姿に戻るようです。
ちなみに浅場に比べると陽が差さないぶん、透明度は落ちたように感じます。約6m前後ぐらいでしょうか。
水温は夏でも20度と少し低めなので、今回はドライスーツを着て撮影しました。
このレモンの森は水深が浅く、24時間潜れるので、じっくり生態観察をするのにもってこいの場所でもあります。
岩場では、沢山のスズメダイが産卵をしていました。
ただ、周防大島のスズメダイの卵は、他の日本海側や東シナ海側の海とは少し様子が異なっていました。
水温が低いからなのか、この時期にも関わらず育ちきっていない卵も見受けられました。
ニラミアマダイのコロニー
面白い生態行動が観察できる生き物は他にもいます。
それが今回の撮影で狙っていた生き物のひとつ、ニラミアマダイ。
普段は自分が掘った穴の中で生活していますが、繁殖時期には卵を口内保育する個体も観察できます。
レモンの森には、ニラミアマダイのコロニーがあり、数多くの個体が見られます。
ダイビングショップ・Love&Blueのオーナーガイドの小川さんは、毎日、どの個体が卵を持っているか、また、その生育具合などを常に細かく調べています。
そのため、当日ハッチアウトしそうな個体を狙いを定めて教えてくれました。
屋久島や沖縄などで見られるジョーフィッシュは、ホシカゲアゴアマダイ。
ホシカゲアゴアマダイのハッチアウトは、一気に沢山の稚魚が口から飛び出していきますが、瀬戸内海にいるニラミアマダイ(ジョーフィッシュ)は、それらと種類が違うため、ハッチアウトすると稚魚は口からポツポツと数匹づつ出てきます。
ハッチアウトする時間帯も異なります。
南方に生息するジョーフィッシュは早朝にハッチアウトしますが、瀬戸内海にいるジョーフィッシュは夕方にハッチアウトします。
こういった違いに注目するのも、生態観察の面白さと言えるでしょう。
夜のレモンの森へ
小川さんから、「夜の海も面白い生き物がいるよ!」と教えていただき、夜のレモンの森にも潜ってきました。
まず、夜の海で見るニホンアワサンゴは、ポリプが閉じていて寝ているような状態でした。
そして、いつか見たいなと思っていた生き物の一つ、テンジクダイ科の仲間のクダリボウズギスを教えてもらいました。
日中には全く姿を表さなかったのですが、夜は数個体いました。
さらに、お話を聞いて見てみたかったのがネッタイイタチウオ。
イタチウオの仲間(アシロ目)の中で、イタチウオ科に属するイタチウオとは体色や大きさが異なり、分類もフサイタチウオ科に含まれ、全くの別種です。
夜行性で岩の隙間を行き来します。
撮影した個体は腹部が大きく膨らんでいました。
卵を生むのではなく、稚魚を出産するようです。
奄美大島が北限とされてきましたが、2013年に小川さんが発見。
そして、北限が瀬戸内海となりました。
しかし、背ビレと臀ビレの棘数(きょうすう。トゲの数)が南方で採取された個体と一致しないことや環境の違いからも、今後も研究が必要な魚だと感じました。
90分潜れるビーチ
早朝も面白いと言うことで7時頃に連れて行ってもらったのが、中ノ浦ビーチ。
海水浴場でもあり、美しい砂浜が広がる場所です。
水深はとろうと思えば深くはいけるようですが、今面白いのは浅場なんだとか!
ということで、水深1mぐらいの場所で撮影をしてきました。
海に入るとアマモ場が広がるのが印象的です。
朝早くでて天気が良ければ朝焼けとアマモ場と言う素晴らしいロケーションも撮影することができます。
大きな岩にはギンポ類がいっぱい。
ナベカの求愛やハッチアウト、ヘビギンポの産卵を観察することができます。
アマモ場の砂地ではヒメハゼのオス同士の喧嘩も観察できました。
何匹ものオスが貝殻を奪い合う争奪戦が繰り広げられていました。
貝殻を産卵床として使いたいようですが、1枚しかないため、皆、ボロボロになりながらの戦いが続きました。
カブトガニの産卵
周防大島ではないのですが、せっかくなので少し足を伸ばして、瀬戸内海東部の砂地を訪れました。
ここでは、なんとカブトガニの産卵が観察できます。
カブトガニの産卵は足が付くぐらい水深の場所なので、ダイビングではありません。
私自身、カブトガニを見るのは初めて。
まず、そのガッチリとしたフォルムに感動しました。
九州や中国地方の方達には馴染みがあるようで、あまり驚かない生き物のようです。
関東に住んでいる私にとっては、まるで太古の生物を間近で見ているような気分。
しかも、そんなカブトガニが足元で繁殖行動をしているのだから、興奮しないわけがありません。
カブトガニは、7月中旬ぐらいに浅場に現れて産卵します。
雄が後ろで雌が前となり、砂を掘って卵を産みます。
産み終わるとまた別の場所で産卵を始めます。
真夜中に数時間かけて、この行動を繰り返すのです。
ちなみにカブトガニは、カニという名前は付くものの鋏角類でクモに近い仲間です。
有名なのはいりこ
周防大島の名産品として有名なものはみかん、そして海産物。
昔からカタクチイワシ漁が盛んな場所であり、煮干し(いりこ)が有名です。
特に周防大島を訪れた際には、ここだけは寄って欲しいという場所があります。
それが中華そば屋のたちばなやです。
元祖とも言えるいりこ出汁のラーメンは、口の中にいりこ出汁がうっすらと広がります。
先輩のカメラマンの方々が周防大島の話になるたびに大絶賛していたお店でもあります。
7日間、生態撮影に望んだ周防大島。
24時間、何かの生物が生態行動を行なう度に撮影に行き、寝る暇がないくらいでした。
その代わり他の場所では見ること、撮影することが中々難しい瞬間にも沢山遭遇することができました。
寝られないくらいに見どころ満載の水中が待つ場所、周防大島。
変わった生き物たちの生態行動を見てみたい方はぜひ、遊びに行ってみてください。
撮影協力:Love&Blue(https://www.loveandblue.com/)
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