キンチャクガニが出現した場所
キンチャクガニの出現時期(過去1年間)
キンチャクガニについて
はさみ脚でイソギンチャクを持つ、キンチャクガニ。
威嚇の際にイソギンチャクを左右に振る様子は、まるでポンポンを振るチアリーダーのよう!
そして、このイソギンチャクは、非常食にもなります。
そんな不思議な生態のキンチャクガニについて、解説します。
キンチャクガニDATA
標準和名:キンチャクガニ
学名: Lybia tesselata H. Milne Edwards, 1834
分類学的位置:オウギガニ科キンチャクガニ属
分布:
琉球列島、伊豆諸島、東南アジア、南太平洋、インド洋、紅海
生息環境:サンゴ礁、岩礁、転石下
生息水深:2~10m
(本記事では、『海の甲殻類』に従った)
判別方法:
甲面にくろいろで縁取られた赤褐色と淡褐色の斑紋を持ち、歩脚・はさみ脚はくろいろの横帯としろいろの小斑点が散在する。
額が丸みのある2歯に分かれ、前側縁には眼窩外棘の他に後側縁との境に棘が左右それぞれ1歯ある。
見た目で判断できる方法「絵合わせ」
甲羅にあるあかい部分は、太いくろいろの線で縁取られる。
歩脚にはくろい線と白い小さな点が交互に並ぶ。
はさみでイソギンチャクを持っている事が多い。
同じ科のヒメキンチャクガニやケブカキンチャクガニなどとは体色で容易に判断出来る。
キンチャクガニの観察方法
キンチャクガニが観察できる時期や生態行動、生息場所、特徴や注意点、そして、見られるダイビングスポットと撮影方法をご紹介します。
観察時期
伊豆諸島以南では通年見られる。
通年見られない伊豆半島では、秋から冬にかけて見られる。
2022年1月現在、このエリアでは無効分散と考えられる。
生息場所
水深の浅い場所の石の下やサンゴ礫の下や岩礁の亀裂の中に生息している。
生態行動
キンチャクガニ類の最大の特徴は、はさみ脚で持っているイソギンチャクである。
これは、キンチャクガニの非常食でもあるが、主に外敵から身を守る為に使用されている。
ダイバーが試しに指を近づけると、はさみ脚で持っているイソギンチャクを伸ばして防御を行う。
これは、イソギンチャクの触手の持つ毒を上手く利用したものである。
通常は石の下に生息しており、表に出てくる事はまれであるが、石の上などにいるときに外敵が近づいてくると、このイソギンチャクを左右に振って威嚇を行う。
この姿がまるで、ポンポンを持ったチアリーダーの様で非常に愛らしい。
よく、餌を取る時にはどうするのか?という疑問を耳にするが、基本的にイソギンチャクを放す事は無く、歩脚で餌を口に持って餌を取っている。
カニ類は顎脚(がっきゃく)と呼ばれる捕食に使用するための脚の様な部分を顎に持っており、別に両方のはさみを失っていても、この顎脚で餌を持てれば捕食は可能である。
伊豆大島では、鈴木克美氏・倉田洋二氏により1954〜1965年にかけて行われた調査により初めて観察が報告されている。
その後、20年程前までは殆ど伊豆大島では見られないカニであった。
当初は他の無効分散の生物同様、夏から秋にその姿が見られ、冬場の水温低下と共に姿が見られなくなっていた。
しかし、10年ほど前からは通年見られる様になり、夏から秋にかけては産卵行動や抱卵まで観察されている。
これは、残念ながら温暖化による水温上昇の影響が原因と考えられる。
キンチャクガニの持っているイソギンチャクであるが、以前は「カニハサミイソギンチャク (Bunodeopsis prehensa)」とされていた。
しかし、近年の調査により、「カサネイソギンチャク(Triactis producta)」であることが分かっている。
カサネイソギンチャクは、本種が通常生活する付近で観察される事はない。
どの様な時期に、これらを手に入れてはさみ脚で持つのか大変興味がある。
観察方法
筆者が主に観察している伊豆大島では、主に水深10m以浅の浅場に積み重なるようにある石の下で観察される。
また、壁の亀裂に隠れている事も多い。
壁の亀裂の場合はライトを使って覗きながら探していく。
石の下に居る場合には、石をめくって探さないといけなくなるのだが、石の下には他にも沢山の生物が生息している為、石をめくる際にそれらの生物に危害を加えないように十分な注意が必要である。
ダイバーが多く潜っているポイントでは、ダイバーが石をめくり生物を探す事を既に覚えてしまっている魚が多くいるものであり(ベラ類等)、キンチャクガニを探すために、石をめくる事により姿があらわになるカニ類やカニダマシ類がそれらの捕食者に狙われてしまうため、十分に配慮が必要になる。
勿論、めくった石をすぐに元の状態に戻すのは当たり前の事である。
キンチャクガニを観察・撮影する為には表に出す必要がある。
つまり、捕獲し石の上等に置かなければ、皆さんがよく見るような写真は撮れない事をご理解頂きたい。
撮影後は、元居た場所に戻してあげるもの言わずもがなである。
本投稿を書くにあたって、他のエリアではどの様な環境で本種が見つかるのか、知り合いのガイドに問い合わせると、大瀬崎では湾内の潮の通りが良い場所で、水深2m以内が多いという。
沖縄本島では、水深50㎝ほどから8mほどの礁池(しょうち)で見つかる事が多いという。
海外での情報を播磨伯穂氏に尋ねたところ下記の返事を頂いた。
「マレーシア・ロッシュリーフは、アウトリーフで礁斜面の上側ふちにあたるリーフエッジ水深5m位に、サンゴ石を使って岩組のトラップを作るとその中に入ってくる。礁池や、礁原で、サンゴ岩をチェックして見つかる事は、ほとんど無かった。」
場所によって生活圏に変化がある可能性が高いと考察する。
観察の注意点
オープンウォーターレベルから十分観察が可能である。
生息場所が石の下や壁の亀裂等にあることから、水底や壁に近づく必要があるため、中性浮力のスキルは必要である。
特に着底をして観察した後は、しっかりと浮力を確保しその場を離れる様にしないと、キンチャクガニの生息環境を破壊してしまう可能性があるため注意が必要である。
観察ができるダイビングポイント
- 伊豆半島(伊豆海洋公園・大瀬崎等)
- 伊豆諸島
- 紀伊半島
- 高知県
- 奄美大島
- 沖縄諸島
- 先島諸島
生態を撮影するには
先にも書いたが、石の下に居る状態の物を撮影しても、皆さんがよく見るような写真は撮れない。
そこで石の上に出し、囲むようにして撮影を行う事になる。
チョコチョコと岩の上を動き回る事が多いが、それほど早いスピードで動く訳ではないので、コンパクトデジタルカメラ(TGシリーズ等)で十分撮影可能である。
小さい個体ならば、スーパーマクロモード(顕微鏡モード)での撮影がお勧めであり、内蔵ストロボで十分撮影出来るが、リングライト等があるとなお簡単である。
キンチャクガニが落ち着けばイソギンチャクを振る等の行動が見られるので、撮影チャンスである。
一眼レフカメラならば、35mm換算で100mmマクロレンズ相当がベストである。
甲殻類はゴツゴツとし、魚類を真横から撮るのと違い立体的な物が多いため、ある程度絞れ(f-8位)なおかつ寄れるレンズがお勧めである。
参考文献
- 『海の甲殻類』(著者:峯水亮、監修:武田正倫・奥野淳兒、発行:文一総合出版、発行年:2000年)
- 1967 鈴木克美・倉田洋二 伊豆大島及びその付近海域のカニについて – ON THE CARCINOLOGICAL FAUNA OF THE IZU-OHSHIMA AND ITS ADJACENT ISLAND
文・写真:有馬 啓人