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ウデフリツノザヤウミウシ

Thecacera pacifica
(Bergh, 1883)

出現レベル:
ダイバーが言及する頻度。一般的な生物、もしくは人気の生物ほど低く、珍しい生物、もしくはあまり人気のない生物ほど高い値となります。
インド、西太平洋に生息。コケムシを食べる。体地色はやまぶき色で、触角のつけ根と背中の突起は黒にふちどられた青色。ダイバーからはピカチュウという愛称で呼ばれ、とても人気がある。60㎜くらいまで成長する。

出現場所

出現時期

解説

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分類

ウデフリツノザヤウミウシが出現した場所

ウデフリツノザヤウミウシの出現時期(過去1年間)

ウデフリツノザヤウミウシについて

​​ピカチュウにそっくり!?
ダイバーに人気のウデフリツノザヤウミウシを解説します。

似ているカンナツノザヤウミウシとの見分け方やダイビングでの観察方法、また、食性や交接に関する生態行動まで。

詳しくご紹介します!

ウデフリツノザヤウミウシDATA 

標準和名:ウデフリツノザヤウミウシ

学名:Thecacera pacifica (Bergh,1883)

分類学的位置:裸鰓目ドーリス亜目ドーリス下目フジタウミウシ科フジタウミウシ亜科ミズタマウミウシ属

分布:相撲湾、紀伊半島、熱帯インド-西太平洋

生息環境:砂地、転石帯、岩礁域、(フサコケムシの仲間)

生息水深:水深5~40m
(本記事では、『ネイチャーガイド日本のウミウシ 第二版』に従った)

識別方法:
ウデフリツノザヤウミウシの属するミズタマウミウシ属は、2021年現在、正式に学名が命名されているのは3種である。
それ以外に『ネイチャーウォッチングガイドブック新版ウミウシ1260種特徴がひと目でわかる図解』『ネイチャーガイド日本のウミウシ』によると4種、インターネットサイト「世界のウミウシ」によると15種の未記載種(正式には学名の後ろにsp.をつけ発見順に番号をふる)が知られている。

ウミウシの場合、魚類分類学の様に標準和名と学名を一対一に対応させるという紳士ルールが明確には存在しない為、15種の未記載種の内、日本で出版された図鑑では4種に標準和名または、ほぼ正式な仮称という物が存在する。
本来、ウデフリツノザヤウミウシと混同しやすい物は、学名が決定している物から選択するべきだが、ミズタマウミウシ Thecacera pennigera (Montagu,1815)やツノザヤウミウシ Thecacera picta Baba,1972とは見た目で大きな差があり、混同は考えられない。
しかし、カンナツノザヤウミウシThecacera sp.1との混同の危険は存在している。
ウデフリツノザヤウミウシの体色の特徴は、本体色がきいろで触角鞘(ショッカクショウ)、鰓(エラ)両側の指状突起(シジョウトッキ)、尾部はくろからあお、しろへと徐々に色が変わる。
触角先端、鰓の軸、口触手はくろである。

それに対し、混同が考えられるカンナツノザヤウミウシの体色の特徴は、本体色がきいろで全体に小さなくろの円斑(点)が散在する。
触角先端、鰓両側の指状突起は先端がくろである。
鰓両側の指状突起はウデフリツノザヤウミウシに比べて大きい。

見た目で判断できる方法「絵合わせ」

筆者が判りやすいと考える解説レベルなら、下記の特徴であると思われる。

ウデフリツノザヤウミウシは、背中に大きな突起が2つある。
体の色はきいろく、体の後ろと突起の先はくろ、あお、しろの順の色になっている。
背中の鰓と触角は、きいろとくろ。

間違えられ易いカンナツノザヤウミウシの場合は、ウデフリツノザヤウミウシと異なり、くろの円斑(点)が体の全体にあり、体の後ろと突起の先は、くろのみになっている。
(カンナツノザヤウミウシの完模式標本が指定されていない現在、断言できない現状である。)

ウデフリツノザヤウミウシを売り出したい現地ガイドが、人気ゲームキャラクターに似ていることから「ピカチュウ」と呼び出した為に、日本のダイバーやTV番組、解説などでも「ピカチュウウミウシ」、「ピカチュウ」と呼ばれることがある。
しかし、インドネシアやマレーシア、ヨーロッパなどの海外では、近似種のカンナツノザヤウミウシ(Thecacera sp.1のほうを「ピカチュウ」と呼ぶ。

日本の場合は学名と一対の正式な標準和名が存在するので、これらを正式に使う事は望ましくない。
もし、使うなら、通称)ピカチュウウミウシ、通称)ピカチュウと記載すべきである。
また、ロギング中に使う場合は、「ピカチュウウミウシとあだ名で呼ばれているウデフリツノザヤウミウシ」と使うべきである。

一方、カンナツノザヤウミウシは現在、学名が未確定であることから学名と一対の正式な標準和名がついてないと言うことができ、現在の呼び名はすべてコモンネームといえる。
学芸員の播磨伯穂氏に相談したところによると、「現状では、カンナツノザヤウミウシをピカチュウウミウシと呼んでいても分類学上、博物館学的にも問題ない」と判断できるそうだ。

コモンネーム:英名には、学名と標準和名を一対一に対応させるというルールが存在していないので、一つの生物に複数の名前が存在する事は普通である。複数名前が存在する事をコモンネームという。

しかし、日本なら、将来的に学名が提唱された時の為に、一般的に浸透しているカンナツノザヤウミウシを使う方が好ましいだろう。

ウデフリツノザヤウミウシの観察方法

ウデフリツノザヤウミウシの生態調査は正式な研究論文が発表されていない。
そこで、筆者が主に観察している伊豆大島での観察を元に、ここでは書いていきたいと思う。

観察時期

冬から春の寒い時期に多く見られる。

餌となるフサコケムシの仲間が生息している環境であれば夏や秋でも見られる。

生息場所

転石や岩礁、砂地付近の、餌となるフサコケムシの仲間が生息している場所に生息している。
その為、フサコケムシの仲間を探すと、食事中のウデフリツノザヤウミウシを観察できることが多い。

また、この様な観察環境では、交接行動や産卵行動が観察できる事もある。

生態行動

主にフサコケムシの仲間を食べており、同じフサコケムシの仲間を食べる他のミズタマウミウシ属と一緒に見られることがある。

ウミウシ類は一般的に雌雄同体と言われており、本種もその可能性が高いと思われる。
同種の個体と接触すると殆どの場合は交接を始めるが、2個体での交接だけでなく、まれに3匹以上で交接器を合わせている姿が観察されている。

卵を産む際は、体の右側にある交接器から体色と同じ色の卵塊を石や岩や海藻に産み付ける。

観察方法

フサコケムシの仲間を主食にしている為、食跡のあるフサコケムシの仲間またはその周辺を探すと見つけやすい。
体色がきいろで水中でも目立っており、動きは遅いため観察するのは容易だ。

ただし、フサコケムシの仲間が無くなるとすぐに移動するため、同個体を長期間に渡って観察するのは難しい。

ライトの光にあまり反応を示さないため、光量の強いライトを使って観察しても問題はない。

観察の注意点

生息水深に幅がある。
例えば、西伊豆・大瀬崎では水深5mから観察できるのに対して、伊豆大島では主に水深25m以深で観察できる。
観察できるダイビングポイントによっては水深30mまで生息域が広くなる。

その様な環境で観察する場合、その水深でも活動が認められているアドバンスレベルのライセンスとそれに見合うスキル、もしくは、それと同等以上と各ダイビング団体で認められているライセンスとスキルが必要になる。

ダイビングライセンス:正式名称はCカード(certification card)ですが、一般的に通りが良いライセンスという表現を使用しています。

ダイビング中やダイビング後の事故を防ぐためにも、上記の条件を無視して「まあ、大丈夫だろう……」といった考えで観察を行うのは、くれぐれもやめていただきたい。

また、砂地などで多く見られるため、中性浮力をとり、砂を巻き上げないように近づく必要があるため、しっかりとした浮力コントロールが必要になる。

また、体を動かすことで発生する水流で観察対象が飛ばされる可能性もあるので、近くで動く際は最善の注意が必要である。

観察が出来るダイビングポイント

筆者が観察した地域や各地のダイビングショップの情報、『日本近海産貝類図鑑』『ネイチャーウォッチングガイドブック新版ウミウシ』に記載されている情報によると、下記の場所で観察できる。

  • 伊豆諸島
  • 伊豆半島
  • 三浦半島
  • 紀伊半島
  • 慶良間諸島

最も信頼されているインターネット情報『世界のウミウシ』の画像によると、

  • 南アフリカ
  • 紅海
  • オーストラリア
  • インドネシア
  • フィリピン
  • バヌアツ
  • ハワイ
  • メキシコ湾

でも観察されている。

その他にも、分布している可能性が高い。

生態を撮影するには

基本的に動きのない生き物なので、コンパクトデジタルカメラ(TGシリーズ等)で十分撮影可能である。
小さい個体ならば、スーパーマクロモード(機種によっては顕微鏡モード)での撮影がお勧め。

内臓ストロボでも十分撮影可能であるが、リングライトがあるとなお簡単に撮影ができる。

一眼レフカメラならば、35mm換算で、100mmマクロレンズ相当がベストである。
触角と二次鰓にピントを合わせるならば、ある程度絞れ(f-8位)なおかつ寄れるレンズがお勧めである。

図鑑や標本写真用、種同定用に撮影するのなら、下記の点に気をつけて撮影するとよい。
真横から撮影すると触角や背中にある指状突起が重なってしまうため、頭部をややカメラ側に向けた位置で斜めから撮影した方が良い。

この構図で撮影すると、奥側の触角と指状突起にピントを合わせることができ、種の特徴がわかり易く撮影できる。

参考文献

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