レンテンヤッコが出現した場所
レンテンヤッコの出現時期(過去1年間)
レンテンヤッコについて
鮮やかな体色が美しいレンテンヤッコ。
成魚が見つかる場所では、一年中観察できる魚です。
そんなレンテンヤッコについて、絵合わせのポイントをはじめ、観察時期や生息場所、生態行動、観察の注意点などを播磨先生に解説していただきます。
水中カメラマンの堀口和重氏からご提供いただいた、自然界での産卵写真もお見逃しなく。
レンテンヤッコDATA
標準和名:レンテンヤッコ
学名:Centropyge interrupta (Tanaka, 1918)
分類学的位置: スズキ目キンチャクダイ科アブラヤッコ属
種同定法:D XIV,16; A Ⅲ,17
分布:サンゴ礁・岩礁域. 伊豆諸島,小笠原諸島,相模湾~宮崎県日南の太平洋岸,沖縄県座間味島 ; 台湾,ニカワ島以西のハワイ諸島
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)
レンテンヤッコの識別方法:
レンテンヤッコが属するアブラヤッコ属は世界中に30種以上が知られていて、国内にも12種が生息すると言われている。
『日本産魚類検索』では、一番の近縁種アカハラヤッコ(Centropyge ferrugata)と比較しているが、『改訂版日本の海水魚』で、p.240の画像を覚えていれば簡単に識別できるレベルと思う。
体長16cm程度に成長し、アブラヤッコ属としては大型になる。
近年は地球温暖化の影響が起きているのか、分布北上が始まり房総半島が北限で、南日本の沿岸に広がっている。
しかし沖縄諸島方面では稀で、海外からは台湾、ハワイ諸島、ミッドウェイなどから見つかっているが、観賞用に採集されていない事から稀種の様である。
本種には、地方名・流通名は存在しないようである。
『日本産魚名大辞典』によると、英名はフィッシャーズエンジェルフィッシュ(Fisher`s angelfish)とされているが、同じアブラヤッコ属のCentropyge fisheriの英名として、使われる事が多く、海水魚愛好家がつかうジャパニーズエンジェルフィッシュ(Japanese angelfish)の方が、ポピュラーな名前になりつつある。
しかし、これは本種が海外にも分布することを考えると違和感がある。
元々、日本国内で採集された少数個体が世界に送られている。
その為に高価に取引されていて、その産地として呼ばれる様になったと考えられる。
ダイバーのための絵合わせ
とても綺麗な魚であるが何故かガイドには人気がない様に感じており、特に個体数の多い場所では紹介される事が少ないと思われる。
個体数の多い場所では『改訂版日本の海水魚』で、p.240の画像の生態写真を覚えれば、すぐに目に入るだろう。
性別の識別はキンチャクダイ科共通の特徴で、前鰓蓋骨(エラブタの事)にある長い棘(トゲ)で可能である。
通常雌は一本で、本種も共通である。
雄は大小2本の棘であるが、本種の良く成長した雄の大きく目立つ棘は、3本である事が多い。
多くの生息地では普通種なので、先にガイドにリクエストすれば、直ぐに確認できるだろう。
また、個体数が少ない場所では逆に、その貴重さからリクエストせずとも紹介される事が多い。
レンテンヤッコの観察方法
筆者は観察例の多い伊豆大島と伊豆半島で、本種を確認・観察している。
それを元に書いていく。
観察時期
成魚が見つかる場所では、一年中観察できる。
幼魚は、春から秋に多く、個体数の多い伊豆大島では12月位まで普通に見つかる。
それより南部の伊豆諸島近海でも、同じような状況であろう。
生息場所
岩礁帯を好んで生活している。
潮の通りが比較的良い場所で、急な斜面を好むようである。
この傾向は幼魚期の方が強い印象である。
ドロップオフなどの流れが弱くなる影に潜んでいる事が多い。
生態行動
レンテンヤッコの分布がほぼ日本に限定され、とても綺麗な魚で、アクアリストのマニアはもちろん、水族館で展示するのにも個体数が集まらない生物だということが功を奏して、比較的生活史が研究されている種である。
飼育についての情報は、本やネット上にたくさんある。
そこで今回は、自然界でのお話を中心に書いていきたいと思う。
東海大学海洋博物館で鈴木克美先生率いる研究グループの故日置勝三研究員と卒研生が、八丈島産のレンテンヤッコを使い、水槽内で繁殖することに最初に成功した結果が「水槽内におけるレンテンヤッコの繁殖と卵および仔魚」という論文まとめられ、1984年に発表されている。
観賞魚卸の神畑養魚南九州養殖センターが国内初の繁殖に成功という記事もあるが、それは記事を書いた方が意味を取り違えたのではないだろうか。
このセンターの偉業は、研究レベルの成功ではなく、商業ベースにのるレベルでの繁殖に成功したという方が正しいだろう。
仔魚期、浮遊期の幼魚の画像が動画で公開されている。
この成功により、順調に生産されれば野生個体が高価で取引される事が無くなり(過去には幼魚サイズが10万円程度で取引されていた)、限りなく黒に近いグレーゾーンの採集・流通が行われなくなるであろう。
多くの野生個体が自然のままに居られることはとても喜ばしいことである。
自然界での繁殖情報は、伊豆大島・八丈島からが多い。
上記2点の写真は、水中カメラマンの堀口和重氏から提供いただいた、レンテンヤッコの自然界での産卵シーンである。
堀口氏によると、撮影地八丈島底土港では、初夏から秋の夕方に決まったパターンで見られるそうだ。
決まったパターンの具体的な内容である日周期や、時間帯については、産卵地保護の観点から伏せさせて頂く。
筆者は、ここで分かった産卵行動のパターンから、レンテンヤッコの浮遊期の卵・仔魚が、限られたエリア以外になかなか広がらず、離れた異なる海域に流されない秘密が隠されていることに気がついた。
そうなると、確認されているエリアを守りながら観察する事が重要と判断する。
産卵行動に配慮したガイドシステムの構築が望まれる。
レンテンヤッコの産卵はダイビング中に動画撮影されている。
参考までに貼っておく。
『レンテンヤッコの産卵』
観察方法
一年中見られる場所を選んで現地のガイドを頼めば、ほぼ100%見られる普通種である。
しかし、世界的に見てもその様な場所は日本の限られたエリアにしか存在しない。
海外のアクアリストの中には、一度は自然界のレンテンヤッコの姿を見たいと考える人が少なくない。
世界に自慢できる大事な場所である。
観察の注意点
運が良ければOW講習終了後でも十分に見る事のできるチャンスはあるが、できれば彼らの生息域を広く観察できるアドバンス以上のライセンスを持っていると良いだろう。
その講習後の方がより落ち着いて楽しめるだろう。
後は、正確に中性浮力を維持できると良い。
レンテンヤッコは、彼らより上から近づくと、すごいスピードで逃げてしまうが、まったく同じ水深を漂って近づくと落ち着いて生活している姿を観察する事が可能である。
観察ができるダイビングポイント
最も、安定した個体群を観察できるのは、伊豆諸島の島々と小笠原諸島である。
この場所では幼魚から成魚、そして繁殖行動まで観察する事ができるまさにパラダイスである。
ガイドシステムが確立していてお勧めと言える場所は、伊豆大島と、八丈島であろう。
一年中観察されているエリア
- 南伊豆
- 伊豆半島西岸、田子から南部
(稀に井田地域まで成魚、大瀬崎では成魚はさらに稀で、幼魚から若魚期) - 伊豆半島東岸、熱海から南部
- 和歌山県 串本
- 沖縄県 大東諸島南大東島
無効分散または、幼魚、過去に確認のあるレベル
- 千葉県 房総半島
- 高知県 柏島
- 宮崎県日南海岸沖
- 琉球列島
- 慶良間諸島
生態を撮影するには
35mm換算で、60mm前後のマクロレンズが最も向いているだろう。
驚かさないように近づけば、撮影は比較的容易であるが、少しでもレンテンヤッコを驚かせてしまうとその個体はしばらく撮影させてくれない。
特に幼魚は敏感で、岩の隙間等にいる場合はフォーカスを合わせるライトの光りでも逃げたり隠れたりしてしまう。
赤色ライトが良いといわれているが、それにも反応する。
撮影間に被写体の大きさを考慮した画角とピントにマニュアルフォーカスで固定して(置きピンと言う)そのまま、少しづつ距離を詰めて撮影するのが良いだろう。
参考文献
- 『日本産魚類検索 全種の同定』(著者:中坊徹次、発行:東海大学出版会、発行年:2013年第3版)
- 『日本産魚名大辞典』(編集:日本魚類学会、発行:三省堂、発行年:1981年)
- 『日本産稚魚図鑑』(著者:沖山宗雄、発行:東海大学出版会、発行年:2014年)
- 『日本の海水魚』(著者:大方洋二・小林安雅・矢野維幾・岡田孝夫・田口哲・吉野雄輔、編集:岡村収・尼岡邦夫、発行:山と渓谷社、発行年:1997年第3版)
- 『改訂版 日本の海水魚』(著者:吉野 雄輔、発行:山と渓谷社、発行年:2018年)
- 日置勝三・鈴木克美.1987.水槽内におけるレンテンヤッコの繁殖と卵および仔魚(※PDF)
- 大人気の観賞魚「レンテンヤッコ」 国内初の繁殖に成功(facebook)
- レンテンヤッコの産卵(YouTube)