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オヤビッチャ

Abudefduf vaigiensis
(Quoy & Gaimard, 1825)

出現レベル:
ダイバーが言及する頻度。一般的な生物、もしくは人気の生物ほど低く、珍しい生物、もしくはあまり人気のない生物ほど高い値となります。
南日本の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島、朝鮮半島、インド・太平洋の岩礁域やサンゴ礁域に生息。体側に幅広の横しま模様が入り、背部は黄色っぽいことが多い。卵は紫~赤色で美しい。

出現場所

出現時期

解説

関連記事

分類

オヤビッチャが出現した場所

オヤビッチャの出現時期(過去1年間)

オヤビッチャについて

今回は、オヤビッチャについて解説します。
ダイバーには馴染みがある魚ですが、実はその正式な研究はあまり進んでいない、興味深い魚です。

また近年では、無効分散とされてきた地域でも、「変化」が観察され始めています。
2021年10月にはじめて大瀬崎で観察されたオヤビッチャの卵に注目し、地球温暖化の影響を考えるスペシャルコラムは必読です。

オヤビッチャDATA

標準和名:オヤビッチャ

学名:Abudefduf vaigiensis

分類学的位置:スズキ目ベラ亜目スズメダイ科ソラスズメダイ亜科オヤビッチャ属

種同定法:D XⅢ,11~14 ; AⅡ,11~13 ; P1 16~20 ; LLp 20~23+9~10 ; LR 27~29 ; GR 7~10+17~18.

分布:水深1~12mの内湾,サンゴ礁および岩礁域.青森県~九州南岸の日本海・東シナ海・太平洋沿岸(紀伊半島以南の太平洋沿岸に多く,その他では少ない),瀬戸内海(希),八丈島,小笠原諸島(希),屋久島,トカラ列島,琉球列島,尖閣諸島,南大東島;朝鮮半島南岸,済州島,台湾南部・東北部,澎湖諸島,広東省,海南島、東沙群島,南沙群島,インド―太平洋(イースタ島除く)
※澎湖諸島(ほうこしょとう、ペンフーしょとう)は、台湾島の西方約50kmに位置する台湾海峡上の諸島・群島。台湾での発音は、ポンフー チュンダオ

オヤビッチャの識別方法:
オヤビッチャの属するオヤビッチャ属は、日本近海から7種類が分布している。
分類上の一番の近縁種は、ローレンツスズメダイ(学名:Abudefduf lorenzi)である。
識別は、2か所
①体側の黒色帯は5本
②尾鰭基部に黒色斑はない
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)

オヤビッチャの学名のタイプ産地は、インドネシア・ワイゲオ島である。
標準和名については、諸説がネット上にある。

中には、『美ら海市場図鑑 知念市場の魚たち』(著者:三浦信男、発行:ぬにふぁ星、発行年:2012年)を参考に、アヤビチー・サンネヤーの沖縄地方の方言から「アヤビッチ(綾が走る)」が由来ではとしているページが見られるが、この本の発行年からして、標準和名の命名時期に疑問が残る。

『新釈魚名考』(著者:榮川省造、発行:青銅企画出版、1982年)の「親になっても、赤ん坊のように小さく可愛い魚」という説もあるが、使われている方言の使用地域が、分布域の中でも、幼魚しか見られない東北・北陸方面である一方、赤ん坊をビッチョ・ビッチャゴと呼ぶのは佐賀や壱岐であるので、疑問がぬぐい切れない。

現在、魚の名前の由来が最もまとめられている『日本産魚名大辞典』には、標準和名の語源にせまるヒントも見いだせなかった。
本稿では、『日本産魚名大辞典』を優先しているので、標準和名語源は不明とさせていただく。

地方名:アブラウオ・アブラユオ(高知県須崎)、アヤビキ(奄美安脚場・古仁屋)、シマハギ・シマヤハギ(和歌山県田辺)、セセラ・マツウオ(和歌山県和深)、ビンクシ(土佐柏島)、タネラー(沖縄)、アヤビチー・サンネヤー(沖縄・知念)

地方名が、和歌山県以南に集中している事は、本種が元々、『日本産魚類検索』の「紀伊半島以南の太平洋沿岸に多く,その他では少ない」という記載の通りであったことを裏付ける結果といえよう。

和歌山県田辺のシマハギという地方名は、他種に標準和名として使われている物があるため、混同に注意がいるだろう。

タイプ産地:新種登録して学名を付ける時、最初に採集された産地のこと。タイプは日本では、模式標本という。

ダイバーのための絵合わせ

オヤビッチャを書籍『フィッシュ・ウォッチング』での方法で絵合わせを解説すると、イワシ・タイ・スズキ型の体型をしていて、体色は、側線から上側は、きいろで、それ以外は、しろ(銀色は白に含まれている)。興奮時に、青みがかる事もある。体側模様は、横縞でくろの5本線である。

近縁種は、ローレンツスズメダイであるが、日本では稀で、西表島でしか発見されていない。
神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」を見ても、国内は標本写真のみ、生態写真はインドネシア産のみで、見た目も明らかにオヤビッチャと区別できる。
同地域以外では、混同は避けられるだろう。

筆者の感覚では、ロクセンスズメダイ(学名:Abudefduf sexfasciatus)の方が、見分けづらいと思われる。
オヤビッチャの方が、ロクセンスズメダイより潮の通りが悪い場所を好む傾向があるので、成魚の見分けはさほど難しくないが、幼魚期はどちらも同じような環境で混ざって見つかることがあるので、注意が必要である。

どちらも尾鰭の上下先端がとがり、オヤビッチャには模様がなく、ロクセンスズメダイには、くろいろの線模様がある事で、区別が付く。

どちらの幼魚も現在は、伊豆半島・房総半島で確認されているので注意が必要だ。

絵合わせ:見た目の特徴を図鑑と見合わせる事
幼魚期:ハッチアウト〜若魚まで

オヤビッチャの観察方法

今回、オヤビッチャの観察方法を書くにあたり、生活史の研究や、卵の内の発生から仔魚期の研究である初期生活史の研究を探したが、見つける事ができなかった。

スズメダイ類の初期生活史の研究で著名な田中洋一先生の論文中にある、オヤビッチャ属の記述だけで、本種その物の研究については、大阪の海遊館が初めてオヤビッチャの繁殖に成功した際のものだけである。

それ以外は、筆者が少年期に愛読した魚類図鑑レベルの情報レベルばかりで、正式で新たな記載は、海遊館の繁殖成功による情報だけしか見つけられなかった。
2021年10月現在、初期発生から仔魚期の成長変化・成長期間、使われた餌・管理水温などの詳しい情報は開示されていない。

 今回は、筆者自身の観察を入れて、主観も入った状態で書いていく事とする。

観察時期

オヤビッチャは、紀伊半島以南の太平洋沿岸で幼魚から成魚まで一年中、成長過程の違いはあるが、見る事ができる。
北限は分からないが、沖縄本島以南では、水温が低下する冬期を除いて、ほぼ一年中産卵行動が観察できる。

残念ながら、水温が何℃から繁殖期に入ることができるのかは調査されていない。

筆者の少年期は、伊豆半島や房総半島のタイドプール・防波堤・流れ藻採集等で、本種の幼魚を捕獲すると、とてもうれしかった印象がある。

5年ほど前からは、伊豆半島におけるダイビング中にも、沖縄などで観察できる成魚サイズの群がりを観察している。

生息場所

仔魚期は、紀伊半島周辺で採集された報告が正式にあるが、筆者は実物を見た事がない。(初期発生がハッキリ研究されていない様なので、この記述には疑問が残る。)

横縞模様がハッキリと見られる幼魚は、房総半島以南なら、流れ藻、防波堤内のゴミだまりなどを夏期に入念に探せば見つかる。

それより一回り大きくなった幼魚は、防波堤に隣接した磯場のタイドプール、水深1m前後の浅瀬に見つかる。

それ以上のサイズになると、群がりを形成して湾内の潮の通りの良い場所の磯場に見つかる事がある。

サンゴ域では、近縁種のロクセンスズメダイの群がりの方がダイバーにとってはホピュラーに見られていて、オヤビッチャの生活圏は、ロクセンスズメダイの生活圏より流れが弱い場所の方が多い。

観察時期

幼魚時期は、水温が許せば産卵行動の見られる珊瑚礁域で一年中見られ、沖縄本島では、冬季以外なら、防波堤内などに群がりを作っているのを見る事がある。

本州の情報は、筆者確認では、7月下旬から9月下旬に、伊豆半島・房総半島で確認している。
それより、北部でも幼魚は観察記録があるようである。

『日本産魚類検索』の分布域では、無効分散の幼魚時期までカウントしていると思われる。

成魚サイズは紀伊半島以南の太平洋沿岸で見られると記述されているが、2021年現在は、伊豆大瀬崎湾内にて、成魚サイズの群がりが観察されている。筆者の観察では、本年で5年目になる。
それより北部の緯度で一年を通して観察できる場所があれば、北限更新の可能性がある。その場合、後述のコラムをよく読んで欲しい。

幼魚時期:稚魚〜若魚まで(仔魚を含まない)

生態行動

生態行動については、正式な論文等の情報がないので、筆者の観察の範囲で書かせていただく。
そのため、主観が入る点をご了承いただきたい。

オヤビッチャは、適水温以上なら、一年中産卵するようである。
筆者の活動していたマレーシア・セベレス海では、その様な状況である。

沖縄では、沖縄本島と久米島でしか観察した事がないが、水温が上がりだす春先から、水温が下がる初冬まで、産卵を繰り返している。
(近年は、冬季でも、産卵している場所が国内にある可能性がある。)

この様な産卵方式を周年産卵型と言う。

雄が一か所の岩の上に群がりを作り、強い個体から中央部を占拠し、順位の低い雄がその周りに集まり、集団産卵の産卵床を形成する。

産卵床内では雄同士が、定期的にランク争いをする。
その映像は、神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」に一点あった。
※産卵床を作る場所の取り合いの縄張り争いでは、雄同士で、キスをする様な形で争いをする。KPM-NR 99666

より良い場所の方が、雌が効率よく産卵してくれて、子孫が残しやすいのだろう。

産卵行動については、撮影場所は不明だが、YouTubeにあった。
筆者が観察した行動と一緒である。

卵を守る雄は、さほど気は強くなく、ダイバーが近づいただけで産卵床を放棄してしまう。
その場合、周辺部の卵から、ベラ類・チョウチョウウオ類に卵を襲われて食べられてしまう。

よく観察していると、自分より大きい種には、簡単に侵入されて食べられてしまう様である。
卵を守る能力は、他のスズメダイ類よりは弱いレベル、卵を生んだままの種よりは、効率が良いレベルといえよう。

卵の種類は、スズメダイ類の特徴的な沈性卵で、付着器を持つ粘着卵である。

集団で、産卵床ごと守るスタイルで、子孫を効率よく残している様である。

孵化後から幼魚期までの情報は、2021年10月現在不明である。

筆者が想像するに、仔魚期にジャック・T・モイヤー先生提唱のジャイロ流内に留まった仔魚は元の環境に戻れ、それ以外が、海流(本流)を流れ藻やゴミなど一緒に無効分散エリアまで流されるのではと考えられる。
そう考えると、オヤビッチャ幼魚期はかなり長いのでは、と想定できる。

ジャイロ流:島や半島などの近くに海流などの強い流れがあるときに沿岸に生じる、渦を巻く流れのこと。渦流(分岐流)とも。(参考:『クマノミガイドブック』P96〜97)

オヤビッチャの繁殖に成功した海遊館から、幼魚期の詳しい成長データが公表されることが待たれる。そして、有用水産物の浮遊卵や仔魚研究において、流れ藻やゴミなどの中で採取されたサンプルの中から一緒にオヤビッチャが見つかれば、オヤビッチャの無効分散の仔魚期の情報が得られるかもしれない。

▶︎海遊館ニュース「海遊館初「オヤビッチャ」の繁殖に成功しました。
https://www.kaiyukan.com/connect/news/202009_-5.html

仔魚から幼魚期に成長段階については、海遊館発表の中に新情報があった。

▶︎海遊館ニュース「オヤビッチャの赤ちゃんがとても愛おしいのです。」
https://www.kaiyukan.com/connect/blog/2020/09/post-1983.html

仔魚から幼魚期に成長段階が進んだ個体は、最初は体色がくろである。

その後、成長と共に、横縞模様に変わる。
この模様になった個体が、無効分散で見つかる幼魚のステージである。

このステージの幼魚は、伊豆半島から房総半島では、他のオヤビッチャ属の幼魚と混泳している。

筆者の最終記憶では、シチセンスズメダイ・シマスズメダイ・イソスズメダイ・ロクセンスズメダイなどをオヤビッチャと一緒に採集した記憶がある。

食味

成魚が捕獲できるエリアでは、食べられている様である。

筆者は、久米島でしか食べた事がない。

骨が硬いので、ウロコを取った後、三枚おろしにして、むき身のみに片栗粉をまぶして、唐揚げで食した。
夕食の一品として食べていたが、白身で、これと言って癖や特別なうま味は感じなかった。
今、味を思い出しながら書いているが、「食べたいなー」と思うほどでは無い。

観察方法

幼魚の観察は、スキューバダイビングより、スキンダイビングやスノーケリングの方が見つけやすいだろう。
水面に浮くブイの周りに絡まった流れ藻の下などにいる事がある。

一番高確率なのは、港の防波堤内のゴミだまり内や、港に隣接する磯場のタイドプール内などである。

成魚は、内湾性の強い場所から離岸流が起きるような場所に群がりを形成している。

観察の注意点

幼魚は捕まえて観察するのが一番早いが、それには注意が必要である。
専門学校で教えていて、一番悩んだ点の一つだ。

正しく扱わないと、すぐにダメージを幼魚が受けて死に至る。

成魚は、生息地で群がりを作っている時は、観察が容易である。
しかし、すぐ側で水底や岩の上に、集まっている個体がいる場合は、十分に、注意してほしい。
雄が、卵を守っている場合がある。

ダイバーが近づくと、産卵床を放棄してしまう。
その瞬間に他種の魚類の餌食に卵がなってしまう。

観察ができるダイビングポイント

神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」に生態写真の登録のあるエリアをあげさせていただく。(幼魚)は幼魚時期の個体のみの登録があったものである。

  • 千葉県館山市須崎(幼魚)
  • 伊豆大島
  • 八丈島
  • 小笠原諸島
  • 神奈川県三浦郡葉山(幼魚)
  • 相模湾内、場所不明(幼魚)
  • 早川
  • 熱海
  • 富戸
  • 伊豆海洋公園
  • 大瀬崎
  • 井田
  • 串本
  • 柏島
  • 薩南諸島硫黄島
  • 屋久島
  • 奄美諸島加計呂麻島
  • 沖縄本島
  • 伊江島
  • 慶良間諸島
  • 宮古島
  • 石垣島
  • 竹富島
  • 西表島

生態を撮影するには

以前は、コンパクトデジタルカメラで、十分、生態撮影が可能な被写体であった。
現在は、残念ながらその組み合わせ条件を満たしているコンパクトデジタルカメラは発売になっていない。

オヤビッチャの撮影に向いている性能は、生息水深が浅いので、青カブリを防ぐために、外付けストロボをTTLで使えて、ISO感度を200以下にできて、シャッタースピード(X接点)が、1/125秒以上になる物である。

現在その条件を満たすのは、入門用クラスのミラーレス一眼カメラ以上になってしまう。

レンズは、最短撮影距離が水中向きなら、標準ズームレンズでも良い。
理想的なのは、35mm換算で、50~100mmマクロ程度が使いやすいだろう。

SPECIAL COLUMN

ついに地球温暖化の影響が起きたか!?(2021年10月執筆)

2021年のノーベル物理学賞は、米プリンストン大上席研究員の真鍋淑郎さん(90)に決まった。
気象の研究で地球温暖化の仕組みを発見した事が受賞理由で、気象学に与える海洋気象や海水温の影響なども、真鍋淑郎さんが見つけるまで解っていなかったという。

真鍋淑郎さんがこれを発見した時代には、地球温暖化など一般人の誰も気にしていなかった。
残念ながら、ほとんどの人類が現在もまだ、どうにかなると楽天的に考えている。

現在の世界的な環境活動家は、決して正常とは言えないエキセントリックである事も、その要因であるように思う。
科学的に考えれば、手を打つ方法はいくらでも、ある様に筆者は信じている。
人間は、そんなに愚かでないと考えたい。

今、炭酸ガス実質排出量を0にする取り組みが行われる動きもあるが、間に合うのか、という点については、一般レベルに判る危機として論議されていない。
もし、0にできたとしても、その時点のレベルの環境変化に留まると言う事で、すぐに改善されるわけではない。

安定して人類が生存していく環境を維持するためには、二酸化炭素の量をマイナスにして初めて改善していくと考えられる。

二酸化炭素の分解は、陸上の植物や、海藻・造礁サンゴ・植物性プランクトンによっておこなわれる。
陸上でその能力が高いのは熱帯雨林で、地球全体としては残念ながら、熱帯雨林に依存している。

その地域は、経済的に厳しいエリアである。
コロナ過の中、経済を優先したブラジルの大統領のいる場所が、地球の心臓とも言えるアマゾン熱帯雨林の原生林である。
それが、今どの様に開発されているかは書くまでもない。
目に見えやすい危機である。

海に目を向けて見よう。

海藻が光合成できるのも、造礁サンゴが生きられるのも沿岸域。
植物プランクトンが光合成できるのは、太陽光が届く水面から数メートルの浅い、海全体から見ればほんの少しの場所だ。

その様な環境を開発という名前の上に、破壊を繰り返している事に目を向ければ、日本人も彼らとなんら変わらない。
ただでさえ、分解をしてくれるエリアが少ないのに、環境破壊をしてきたのは利便性を求めた、私たち自身である。

そう書くと、訳の分からない環境団体の発言に間違われるが、環境保全だけを今更やっても、すでに間に合わない所にきているのではないだろうか。
そんな中でも、警鐘の為の指標探しが10年ほど前から行われている。

今回は、そのお話をしたいと思うのだが、その前に、これからは人類の英知を駆使して科学的処理で、二酸化炭素を分解する必要がある。
真鍋淑郎さんが地球温暖化の仕組みを発見した時代に、見向きもされなかった時代のレベルに、最低でも減らす必要がある。
今日、日本の若い研究者が、二酸化炭素を分解する仕組みを開発して世界的に特にアメリカ合衆国で話題になっている。

また、真鍋淑郎さんに研究費を出したのは、アメリカ合衆国の宇宙開発の為、今回のコロナワクチン開発の基本的な準備も、出来ていたのはアメリカ合衆国の国防省を始め各国の軍隊組織だったとニュースで見聞きする。

せっかくの才能を日本国は生かせないでいる。
将来は、地球温暖化から地球を救った国として、ノーベル賞受賞者を輩出できる国になってほしいと心より思う。

さて、筆者を含め資金のない自然科学を志す人は、少ない私財の中でしか研究は続けられない。
10年ほど前から、海水温の上昇のために今までは見られなかった生物の状況を調べて変化を探る試みが行われている。
以前は、死滅回遊魚と言われていたものだ。正式には、無効分散と言う。

今までの無効分散の北限記録を更新した時に、生態写真・サンプル標本を登録していくやり方である。

そんな中で、今も、根室で地道に活動している旧友から連絡が入った。
「今まで、採れなかったブリ・クロマグロが定置網に入って、漁師に呼ばれたと!!」
これは水温上昇で、根室までブリやクロマグロが回遊できる様になった事を示す。
しかし、産卵などもできるはずはないので、これもまだ、無効分散である。

筆者の専門は魚類生態学なので、無効分散から有効化した瞬間を気にして探している。
すでに5~6年前から、怪しい生物をチェックしている。

これらは全て、筆者の少年期の頃から夏場だけ伊豆半島・房総半島・伊豆諸島に見られ、冬季になると、見られなくなっていた生物である。
以前は、冬季の水温低下で死滅していたと推測されていた。
それらが、ここ数年、数種類の魚類に越冬が確認観察されている。
越冬した、もしくは、高温期の内に成長して成魚化できた種を重点に、繁殖行動が無いかを調べている。

数年前からオヤビッチャは、成魚に成長して雄が産卵床を形成する初期段階の縄張り行動が、大瀬崎の湾内で確認されている。
TOPでも使用したカットは、その行動を初めて観察した時の記録用である。また、下記の動画もこの際に撮影したものだ。


初撮影の2018年12月12日より毎年、初冬から同じ行動を見る事があったが、産卵も卵を雄が守る行動も、観察できなかった。
ある意味、ホッとしていた。

2021年9月17日の『大瀬館マリンサービス海洋情報』に、驚くべき画像が掲載されていた。
▶︎『大瀬館マリンサービス海洋情報』2021年9月17日(金)海洋情報(https://osekanfuji.exblog.jp/29664844/

産卵したてのオヤビッチャの粘着卵の映像である。


生んで間もないオヤビッチャの卵(2021年9月21日、大瀬崎、撮影者:真木久美子)

すぐに、撮影者の大瀬館マリンサービス・真木久美子氏に連絡して、経過観察の映像の撮影を依頼した。
しばらくすると、オヤビッチャの卵に、発眼を観察した。

発眼したオヤビッチャの卵(2021年10月4日、大瀬崎、撮影者:真木久美子)

発眼したオヤビッチャの卵。拡大(2021年10月4日、大瀬崎、撮影者:真木久美子)

大瀬崎では、ハッチアウトの想定時間である深夜は、通常潜水禁止時間なので、ハッチアウトの瞬間は、観察する事が物理的にできない。
しかし、発眼までした卵が翌日なくなっていたことから、ハッチアウトしたと思って良いだろう。

継続観察を担当している情報提供者の大瀬館マリンサービス・若松樹弥氏によれば、その後も、2回目以降の産卵がくりかえされ、10月に入っても同じ行動が確認されている。


卵に新鮮な空気を送るために、海水を吹き付けるオヤビッチャの雄(2021年10月8日、大瀬崎、撮影者:真木久美子)


オヤビッチャの雄魚に婚姻色が見られる(2021年10月8日、大瀬崎、撮影者:真木久美子)

若松樹弥氏によれば、筆者が確認した沖縄での集団産卵の繁殖行動と同じ、雄が群れで卵を守る姿は確認できていない。
2021年10月21日現在も、オヤビッチャの雄が一匹で成長ステージの違う卵を守る姿が確認されている。

これによりオヤビッチャは、無効分散から分散に成功した例となる。
雄一匹で、卵を守っているので、他の生物からの食害も観察されていて、沖縄の集団産卵の繁殖行動より、不安定な状態と推測される。

オヤビッチャの仔魚期から着底期間が長いと推測すると、気象庁が発表したラニーニャ現象の影響で、2021年の冬は寒い冬になるようであるから、水温が下がって定着は難しいと推測される。
本年度産卵に成功した個体群が生き残り、来季水温が高くなる6月下旬から夏にかけて、産卵を開始してしまったら、完全に定着したことになる。
オヤビッチャの生活史を1サイクルすることが可能なレベルに、伊豆大瀬崎の水温平均がなったという証明になってしまう。

海水は空気に比べて熱が伝わりにくく、温度は段々にしか変化しないため、温めづらく冷ましづらい。※1
陸上より二酸化炭素の影響も受けづらく、地球温暖化の影響も受けづらいと言われている。
その為、この様な小さな変化も、大きな変化である。

地球温暖化で、一番怖いのは、温かくなる事ではない。
恐竜が繁栄した時代は、今より二酸化炭素濃度が高く、環境のいい場所では植物も、動物も、巨大化した。
だから問題ない、と論じる古い頭の学者もいる。

その時代、海から離れた場所はどうなっていたのか、彼らから語られる事はない。
新たな環境で、どの程度、人類として人間が生き延びられるのか、そして総人口は……。これも、語られる事がない。

本来の地球という天体のサイクルでは、本来大気温が下がる氷期のサイクルに入っている。
人類が排出した二酸化炭素により、その状態でも気温が上がっている。
いつ、その限界が来るかはまったくわからないが、その限界を超えたら、一気に地球の気温環境は激変する。
上がるのか、下がるのか、すら判らない、未知である。

その時の急変は、過去の地球上の生物大量絶滅に匹敵すると言われる。
急激な環境変化にどの程度人類が対応できるだろうか。食料調達の問題は……?
いくつかのエリアでは、人類が消滅する事は間違いないだろう。
そうならない為の小さな警告サインを、オヤビッチャが教えてくれているのかもしれない。

2021年10月24日に現地入りした筆者の確認では、捕食者に受精卵をすべて食べられた雄は、産卵床を放棄していた。このまま水温低下と共に、産卵行動が起きない事を願う。

この日は、大瀬崎湾内の離岸流エリアでは、成魚サイズにまで成長したオヤビッチャが群がりを形成していた。

<追記>
このコラムを書いている最中に、新たな追加事実に気が付てしまった。
大瀬崎の隣、井田にて、オキナワべニハゼが卵を保護している映像の公開である。

▶︎井田のダイビングスポット情報(https://scuba-monsters.com/spot_about_ita/

オキナワべニハゼは、標準和名のオキナワ(沖縄)が示すとおり、以前は、伊豆では発見されていなかった種で、ほんのここ数年、見つかる様になった種である。適応能力の高い生物なら、たった数年の平均水温上昇でも新環境で適応できているという、何と表現したら良いか悩む事例である。
皮肉だが、こういう生物ほど、環境の激変にも対応できるのだろうなと関心してしまった。

この話を若松樹弥氏に伝えたところ、6月に大瀬崎湾内にてオキナワべニハゼのハッチアウト目前まで成長したステージの受精卵を確認しているという。
現在は、無効分散か、ジャイロ流内に留まった仔魚か、判断の出来ない幼魚時期と思われる個体が観察されている。観察結果に一区切りが着いたら、コラムにて発表を考えている。

※1:熱伝導率自体は水が約0.6W/mK、空気が約0.024W/mKと、空気の方が低いが、水は空気に比べて、圧倒的に熱容量が大きいため、水温は変化しづらいことを伝わりづらいと表現した。

参考文献

文:播磨 伯穂

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オヤビッチャの分類情報

分類

シノニム

  • Glyphisodon vaigiensis Quoy & Gaimard, 1825