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ロウニンアジ

Caranx ignobilis
(Forsskål, 1775)

出現レベル:
ダイバーが言及する頻度。一般的な生物、もしくは人気の生物ほど低く、珍しい生物、もしくはあまり人気のない生物ほど高い値となります。
南日本、琉球列島、インド・太平洋の内湾、サンゴ礁域、岩礁域に生息。アジ科の中ではヒラマサに次ぐ大型個体の記録が残る。体高は高く額がやや張りだす。小さな個体は群れを成すが、大きく成長した個体は単独で見られ、背に銀色の短い横線が入る。英名でGiant(巨大な)Trevally(アジ)と呼ばれ、頭文字をとってGTの愛称で呼ばれることも。

出現場所

出現時期

解説

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分類

ロウニンアジが出現した場所

ロウニンアジの出現時期(過去1年間)

ロウニンアジについて

成魚ともなると1mを越える迫力ある姿を見せてくれるロウニンアジ。
主に釣り人からは、Giant trevally(ジャイアント トレバリー)という英名の頭文字をとって、通称GT(ジーティー)と呼ばれており、ダイバーもこの名前で呼ぶことがあります。

ルアーフィッシング をする釣り人にとっては、一度は釣ってみたい憧れの魚です。

今回は、特にダイバーが観察するという視点で、ロウニンアジの生態について解説します。
また、海外でのロウニンアジをめぐる問題を扱ったスペシャルコラムもお見逃しなく。

【ロウニンアジDATA】

標準和名:ロウニンアジ
学名:Caranx ignobilis (Forsskal, 1775)
分類学的位置:スズキ目スズキ亜目アジ科アジ亜科ギンガメアジ属 
分布:南日本、インド・太平洋の熱帯・亜熱帯に分布。内湾~沿岸に生息する。

水族館的解説

●ロウニンアジ の識別方法※1
ロウニンアジが含まれるグループのギンガメアジ属は、多くの種が含まれるので、正式には、背鰭(ビレ)8-1刺の軟条数が18~20、臀鰭(ビレ)2-1刺の軟条数が15~17であり第二背鰭や臀鰭は、鎌状、腹部に無麟域があることから同定する。

●見た目で判断できる方法「絵合わせ」※2
成魚は見た目で判別してもほぼ間違える事は無いと思われる。釣り人、特にルアーフィッシング 愛好者なら、成魚はもちろん、幼魚期の個体でも、見分けられる。
幼魚は河口から汽水域まで侵入するので、ダイバーにはなじみが薄い。

●ロウニンアジの呼称
前述の通り、英名のGiant trevallyの頭文字をとり、主に釣り人からGTという通称で呼ばれることが多い。
沖縄本島ではガーラという地方名で呼ばれ、地域によってはカマジャーと呼ばれているばれている。

※1識別方法:正式には「種同定」ですが、一般的に通りが良い識別方法という言い方で記載します
※2絵合わせ:見た目の特徴を図鑑と見合わせる事

ロウニンアジの観察方法

ロウニンアジの成魚に初めて国内で出会ったのは、今から30年以上前の西表島。
民宿で、刺身用に水中銃で捕まえられた個体を見たのが初めての出会いでした。

特に、南西諸島では古くから食用の魚として知られています。
沖縄諸島では他のギンガメアジ属も含めて全てまとめてガーラと呼ばれていて、実際、海人(うみんちゅ、沖縄の漁師)が細かく呼び分けているのを聞いたことはありません。

成魚期に入ったと思われる大型個体は、ドリフトダイビングで潜るような比較的流れのはやい場所で見られることが多いです。

幼魚は夏場から秋口に、伊豆半島・房総半島の内湾・河口・汽水域でも見つかります(無効分散)。

最近は釣り人にメッキと呼ばれる事が多くなりましたが、子どもの頃は、ヒラアジ(伊豆半島、房総半島の地方名の可能性あり)と呼んでいた記憶があります。

発電所の温排水が流れ込む場所では、年越しをして大型化する個体も観察されています。

無効分散:分布地域を離れて流れつくこと。たどり着いた先では、成魚になれず繁殖もできないものをいいます。以前は、死滅回遊魚と呼ばれていたことがあります。季節性がある場合に季節来遊魚と呼びます

食味について

筆者採集、食べ頃と言われるサイズ

筆者の食した印象では、2~3㎏の個体が身も締まり、大変おいしい印象があります。
しかし、大型化すると身は柔らかくなるため、刺身・焼き魚共においしいとは言えませんでした。

手のひら以上のサイズの幼魚は、排水の流入がない場所で捕獲したものなら、塩焼きにすると大変美味。特に、冬場に捕獲したものは、脂ものり絶品です。

幼魚期〜若魚のサイズが美味しく食せるでしょう。

生息場所

内湾~沿岸に生息していますが、ダイバーが観察できる透明度のある場所に限ると、流れが常にあるような珊瑚礁の縁などが多く、老成した個体が多くなります。

幼魚から成長過程と思われる個体は、透明度のあまり良くない場所を好むようで、ダイビング中に観察するのは難しいでしょう。

それより小さい時期の幼魚は、港や、湾口部などのゴミだまりから見つかっています。

透明度:水平方向にどれだけ見通すことが出来るかは、正しくは透視度と言いますが、一般的に使用される、透明度に統一しています。

観察時期

成魚は、南西諸島沿岸以南なら一年中観察が可能です。

本州では、無効分散で見られる幼魚のみであり、筆者の観察では、7月下旬から12月頃まで、稀に、温排水などで12月以降も生き延びる個体がいます。

生態行動

国内で、産卵行動を観察したという話を聞いたことがありません。

しかし、南太平洋東南アジア地域において一年中観察できる場所では、コーナーと呼ばれる外洋に面する場所で、産卵行動と思われる大群での行動が観察されています。

筆者が調査していたマレーシアやインドネシアでは、一年中、幼魚から成魚までの成長過程を魚市場で見かけたので、水温状況が許せば一年中繁殖するものと思われます。

観察方法

ダイビングで最も見つけやすいと思われる成魚を観察できる場所は、外洋に面した潮が良く当たる場所に限られています。
不意の強い流れに対応可能なスキルが必要となるため、観察するにはレスキューダイバー以上を推奨します。

捕食中は警戒心が薄れるため、潮の流れの弱い場所でも運よく見られる事があります。

観察ができるダイビングポイント

成魚:インド・太平洋の熱帯・亜熱帯の潮通しの良い場所
幼魚(無効分散):伊豆半島・房総半島のダイビングポイントの桟橋など

生態を撮影するには

本種の水中でのスピードはとても速く、撮影チャンスそのものが稀。コンパクトデジタルカメラやミラーレスでは、困難な撮影条件です。

カメラ派ダイバーに向けて必要機材を書くとすると、下記を満たすものです。

  • パンフォーカスが使用できる超広角レンズ(画角90度以上)
  • AF機能は使わず、マニュアルピントに固定して、絞り値を使い最短35cm程度〜無限大までピントが合うように設定する
  • X接点(ストロボ同調速度のこと)が1/250秒以上のカメラ
  • レリーズタイムラグと液晶表示のタイムラグが短いカメラ
  • 正確に光量調整を撮影者が行い、マニュアル発光で撮影できる撮影データが必要である

この様な条件を満たすカメラは、デジタルカメラでは一眼レフタイプの中でもプロユース用に作られたものに限られます。

レリーズタイムラグが少なく、シャッタースピード1/250秒以上、そして、安定した水中ストロボの同調性能を持っているのは、ニコンD6・D5・D500だけで、それ以外は、写真の一部が黒くなってしまう幕切れを起こす可能性があります。

ストロボは、ガイドナンバーがなるべく大きく、チャージ時間の短い物を2灯用意する必要があります。この条件を満たしているストロボは、INON Z-330か旧モデルZ-240 Type4のみになります。

パンフォーカス:被写界深度を深くして撮影すること(詳しくは、参考文献の『水中写真マニュアル』P60〜61「被写界深度ーピントの許容範囲」参照のこと)
レリーズタイムラグ:シャッターボタンを切ってから、実際にシャッターが落ちて撮影が終了するまでの時間
ガイドナンバー:ストロボの発光量の単位

SPECIAL COLUMN

ロウニンアジと無自覚の文化侵略

海外では、日本人が善意と思って行ったことでも、私たちの常識が通用せず、異なる価値観のうえで違う使い方をされることがある。
その例を2つ紹介しようと思う。

時を遡ること、20余年。
インドネシア・カリマンタン島の沖に点在するデラワン島・サンガラキ島の調査を引き受けた。
その島からほど近い所に、人の住まないカカバン島という場所があった。

調査を進めると、カカバン島には、二つコーナーがあり、そのうちの一つの水深40m前後で潮流がぶつかり合う場所があり、その中に、20~50㎏の大型のロウニンアジが定期的に集まる事が判ったので、これはダイビングの目玉になると、ダイバーを誘致しはじめた。

しかし、このロウニンアジを見に行くツアーが定番化して人気になると、予想外のことが起こった。
地元の漁師たちがロウニンアジが生息していると聞きつけ、ダイナマイト漁が行われてしまったのだ。

ダイナマイト漁とは、その名の通り、水中でダイナマイト等の爆発物を爆破させ、その衝撃で絶命したり、気絶したりした魚を回収する漁法である。
このコーナーでは、岩場からサンゴ礁まで、すべてガレ場※1になってしまうほど激しく行われ、海の中の生態系が、破壊されてしまった。

魚がいなくなることで漁が止まっても、復活が判るとまた、ダイナマイト漁が行なわれる。

もちろん、ダイナマイト漁は当時のインドネシアでも禁止されていた。
しかし、一度、楽に獲れる方法を覚えると、悲しいかな、人はそれを選ぶ動物である。

ちなみに、ダイナマイト漁という言葉の語源は、ジャック=イヴ・クストーのアカデミー賞受賞作品『沈黙の世界』。この映画の中に、大量に魚類のサンプルを獲るためにダイナマイトを使用するシーンが出てくる。そのため、世界的に爆発物を使う漁のことをダイナマイト漁と呼ぶようになった。
今回のコラムに出てくるダイナマイト漁の起源は、旧日本軍による火薬物を使っての漁を見た漁師たちが行ったものと考えられ、筆者の取材によると初期は、不発弾から信管を取り除き、内部の火薬物を使ったと言う。

現在は、花火、爆竹などの火薬を使用しているものと考えられる。
網や釣り具を買えない、貧困もこの問題に拍車をかけている。
そして、この時から20年以上たった現在も、東南アジアでは、ダイビング中にダイナマイトの音が水中で聞こえている。

同様に、ルアーフィッシング愛好者の釣り具の店員で、以前GTフィッシングのガイドをしていた人に聞いた話を紹介する。

彼らは、ゲームフィッシングなので、釣り上げた時に、全てのロウニンアジを海に返している。これを「キャチ&リリース」という。

食べても美味しくないサイズまで成長した個体は、釣り上げて食べるのではなく、次の個体の親になってもらったり、さらに大きくなってより釣りづらい個体になって駆け引きをしたりしたいという想いからであると聞いた。

リリースされたロウニンアジを見た漁民たちにとっては、重要な漁獲物である。釣れる場所と逃した場所を手伝いをすることによって、釣り場を覚えることができる。

この情報と日本の高品質なルアー(疑似餌)を手に入れることによって、現地人も容易に釣ることができてしまう。

日本製ルアーさえ渡さなければ、いる場所が分かっても捕まえるに至らない。しかし、現地で働く日本人スタッフに、「釣れたルアーを現地の人にねだられてもあげないように」と説明されてもあげてしまう人がいるそうである。

そのルアーは、釣れる場所の情報と共に、他の漁民に彼らの価値としては高額で売られてしまい、そのエリアのロウニンアジの資源量が枯渇するまで釣られてしまう。
昔は有名であったロウニンアジのポイントは、現在ほとんど釣れない場所となっている。

さらに、現地の人は、漁が禁止されているダイビングポイントの上で釣りをするようにまでなってしまった。
実際に、小さな小舟を使い、ダイビングポイントの上で現地では手に入らないであろう日本製ルアーを使って漁をしている姿をモルディブで見つけた事がある。

この場所でも、マレーシアでも、ダイビングのボートを手伝う若者が、この問題に手を染めるケースが後を立たない。

これらは、無自覚の文化侵略と言えるだろう。

そう、日本人がダイビングや釣りの観光資源としてみるロウニンアジ も、現地人にとっては貴重な食糧だ。
一匹のロウニンアジの命より、家族の一日の命を繋ぐことの方が、彼らにとっては大切だろう。誰しも自分の家族が世界で最も大切なのだから。

どちらも人々の生活に関わることがらであり、禁止するだけでは、解決しない難しい問題である。

※1ガレ場:折れた枝サンゴなどが積み重なっている水底

参考文献

文・写真:播磨 伯穂
写真:堀口 和重

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ロウニンアジの分類情報

分類

シノニム

  • Scomber ignobilis Forsskål, 1775
  • Caranx lessonii Lesson, 1831