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スベスベマンジュウガニ

Atergatis floridus
(Linnaeus, 1767)

出現レベル:
ダイバーが言及する頻度。一般的な生物、もしくは人気の生物ほど低く、珍しい生物、もしくはあまり人気のない生物ほど高い値となります。

出現場所

出現時期

解説

分類

スベスベマンジュウガニが出現した場所

スベスベマンジュウガニの出現時期(過去1年間)

スベスベマンジュウガニについて

その名の通り、“スベスベ”していて“マンジュウ”みたいなスベスベマンジュウガニ。
しかし、そのキャッチーなネーミングとは裏腹に猛毒を持つカニとしても知られています。

さて、そんなスベスベマンジュウガニの生態とは?
エビ・カニ・ヤドカリ・貝類等に造詣の深い、有馬さんに解説していただきます。

スベスベマンジュウガニ【DATA】

標準和名:スベスベマンジュウガニ

学名:Atergatis floridus (Linnaeus, 1767)

分類学的位置:オウギガニ科マンジュウガニ属スベスベマンジュウガニ

分布:房総半島以南、ハワイ、南太平洋、インド洋、紅海、アフリカ東岸

生息環境:サンゴ礁、岩礁、転石帯

生息水深:1~10m

(本記事では、『海の甲殻類』に従った)

スベスベマンジュウガニの識別方法:
甲面は一様に茶褐色で、虫食い状に見える淡褐色の斑模様を持つ。
甲は平滑で丸みを帯びた楕円形をしている。
甲面が盛り上がり、前側縁は薄い板状縁取られた4歯があり、第4指は先が鈍い。
額は中央で2つに分かれる。
はさみ脚も平滑で掌部の上縁には鋭い稜線が縦走する。
指部は黒くなる。

ダイバーのための絵合わせ

甲羅の形は楕円形をしており、大きく盛り上がる。
オウギガニ類と比べ、歩脚の長節・腕節・前節が非常に太く、先端の指節は細くなる。

甲羅の色には色彩変異もあるが、概ね淡褐色の斑模様が入る。(中には全く入らない個体もいる)

スベスベマンジュウガニ
スベスベマンジュウガニの色彩変異個体

同属多種とは、甲羅の形・色・模様で容易に判断出来る。 

スベスベマンジュウガニの観察方法 

観察時期

房総半島以南の南緯では通年見られる。

生息場所

水深の浅い場所の石の下やサンゴ礫の下や岩礁の亀裂の中に生息している。

生態行動

日中は転石下や岩礁の亀裂に生息しているため、あまり表には出てこない。
夜行性で夜間は表に出て活発に行動する。 

名前の由来の通り、甲羅は非常にスベスベしており、形もその名の通り「お饅頭」の様で実に可愛らしいカニである。

その昔、某教育番組の歌コーナーの題材にもなった位の有名なカニである。
しかし、それとは裏腹に猛毒を持つカニとしても良く知られ、麻痺性貝毒のサキシトキシンやゴニオトキシン、ネオサキシトキシンがある。特にスベスベマンジュウガニの持つ毒で代表的な物はサキシトキシンである。
また、フグの毒として知られているテトロドトキシンも持つ個体もいる。

面白い事に、これらの毒の成分は生息地によって変わる。
過去の調査によると、三浦半島ではテトロドトキシンを持つ個体、亜熱帯では、麻痺性貝毒を持つ個体とテトロドトキシンを持つ個体に分かれるそうだ。

両分布域の中間では両方の毒を持つ個体も発見されている。
これは生息環境によって餌となる生物に含まれる毒の成分に差があるからだと思われる。

スベスベマンジュウガニは主に、貝類やゴカイ類、海藻類を主食としており、体に持つ毒であるサキシトキシンを含む麻痺性貝毒は、主に赤潮を形成する、有毒渦鞭毛藻が作る麻痺性毒物の1つである。
その藻類を捕食した貝類等の他生物が毒化し、それを捕食したカニの体内に蓄積していく。
これは、フグが持つテトロドトキシンでも同じ事である。

これらの毒は非常に恐ろしい毒で、神経細胞を阻害し、麻痺や呼吸困難を引き起こし最悪の場合、呼吸麻痺で死に至る事もある。
有効な治療法は確立されていないのが現状だ。

こんな恐ろしい毒を持つカニだが、触ったりする位で人間に影響を与えるものではないので安心して欲しい。
つまり、食べなければ毒に侵される事はないのである。

スベスベマンジュウガニに含まれる毒は煮ようが焼こうが無くなる事はなく、食べる事は非常に危険な行為であると覚えておいて頂きたい。

毒を持つカニは他にも知られ、ウモレオウギガニ等が有名である。
ウモレオウギガニは主に琉球列島等の熱帯域に生息しており、ダイビングで容易に観察出来る。
ただし、生息環境が完全に磯なので、ボートが主のダイビングスタイルとなる場所では中々お目にかかれない。

筆者自身も何度も沖縄の離島には行っているがダイビング中に出会えた事がない。
是非、1度は撮影したいと熱望しているカニの1つである。

話が脱線してしまったが、決して見つけても食べないようにして頂きたいカニ達である。

観察方法

筆者が主に観察している伊豆大島では、主に水深5m以浅の浅場に積み重なるようにある石の下で観察される他、壁の亀裂に隠れている事が多い。
壁の亀裂を探す場合はライトを使い、覗いて探していく。

石の下に居る場合には、石を捲って探さないといけなくなるのだが、石の下には他にも沢山の生物が生息している。
そのため、石を捲る際にそれらの生物に危害を加えないように十分な注意が必要である。

ダイバーが多く潜っているポイントでは、ダイバーが石を捲り生物を探す事を既に覚えてしまっている魚(ベラ類等)が多くいるものである。

スベスベマンジュウガニを探すために石を捲る事により、姿があらわになる他のカニ類やカニダマシ類がそれらの捕食者に狙われてしまうため、十分に配慮が必要になる。
勿論、捲った石をすぐに元の状態に戻すのは当たり前の事である。

ナイトダイビングでない限り、スベスベマンジュウガニを観察・撮影する為には表に出す必要がある。
つまり、捕獲し石の上等に置かなければ、皆さんが良く見るような写真は撮れない事はご理解頂きたい。

撮影後は、元居た場所に戻してあげるもの言わずもがなである。

観察の注意点

オープンウォーターレベルから十分観察が可能である。
生息場所が石の下や壁の亀裂等にあることから、水底や壁に近づく必要があるため、中性浮力のスキルは必要である。

特に着底をして観察した後は、しっかりと浮力を確保しその場を離れる様にしないとスベスベマンジュウガニの生息環境を破壊してしまうかもしれないため注意が必要である。

甲殻類は夜行性の生き物が多い為、ナイトダイビングの技術も必要になる。
その場合、アドバンス以上のレベルが必要になる。 

観察ができるダイビングポイント

  • 房総半島
  • 伊豆半島(伊豆海洋公園・大瀬崎等)
  • 伊豆諸島
  • 紀伊半島
  • 高知県
  • 奄美大島
  • 沖縄諸島
  • 先島諸島

生態を撮影するには

先にも書いたが、石の下に居る生物なので表に出さなければならない。
平たい岩の上に置き撮影する事になるのだが、カニを種としての特徴を捉え、後から同定がしやすくしたいのならば、甲羅を真上から撮影し、額・前側縁・後側縁にある棘や窪み等の特徴をしっかり押さえる様に撮影すべきである。

もう1つ、ハサミ脚の特徴が良く分かるように正面から撮影したものも必要になる。
しかし、この撮り方だと正直可愛くはない。
筆者の好みにもなるのだが、カニは斜め前からが非常に可愛く撮れる。

スベスベマンジュウガニ

是非、皆さんも試して頂きたい。

動き出したら結構早いのだが、コンパクトデジカメ(TGシリーズ等)で十分撮影可能である。
小さい個体ならば、スーパーマクロモード(顕微鏡モード)での撮影がお勧めで、内蔵ストロボで十分撮影出来るがリングライト等があるとなお簡単である。

一眼レフカメラならば、35mm換算で100mmマクロレンズ相当がベストである。

甲殻類はゴツゴツとし、魚類を真横から撮るのと異なり立体的な物が多いため、ある程度絞れ(f-8位)、なおかつ寄れるレンズがお勧めである。

参考文献