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ネコザメ

Heterodontus japonicus
Miklouho-Maclay & Macleay, 1884

出現レベル:
ダイバーが言及する頻度。一般的な生物、もしくは人気の生物ほど低く、珍しい生物、もしくはあまり人気のない生物ほど高い値となります。
南日本の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島、朝鮮半島、中国、台湾の大陸棚の浅瀬、岩場や岩礁域に生息する。2基の背ビレの前端に棘があり、幼魚の頃の捕食から逃れるのに役立つ。全長最大120cm。サザエや甲殻類など固い餌を好む。卵は暗褐色のドリル型で、流されないように海藻や岩の間に産み付けられ、約1年で孵化する。夜行性だが昼間も観察される。

出現場所

出現時期

解説

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分類

ネコザメが出現した場所

ネコザメの出現時期(過去1年間)

ネコザメについて

かわいらしい風貌でダイバーに人気のネコザメ。

サザエをはじめとする貝類やウニ・甲殻類などを好んで食べることからサザエワリとも呼ばれていたり、サメ類では珍しい卵生(卵が孵化した後に体外に生み出される)だったり。
その生態も興味深いものです。
今回は、特にダイバーが観察するという視点で、ネコザメの生態について解説します。

また、尾が切断されたネコザメを通して迷信の恐ろしさに迫る、スペシャルコラムもお見逃しなく。

ネコザメDATA

標準和名:ネコザメ

学名:Heterodontus japonicus

分類学的位置:ネコザメ目ネコザメ科ネコザメ属

分布:浅海の浅瀬.岩場や藻場.東シナ海では水深57~125m.岩手県,福島県,鹿島灘,千葉銚子~九州南岸の各地沿岸,瀬戸内海,新潟県~九州南岸の日本海・東シナ海沿岸,東シナ海大陸棚海域(稀),小笠原諸島;朝鮮半島,済州島,台湾,中国青島・上海
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)

地方名:
サザエワリ:千葉県小湊,関西,志摩地方・土佐地方,宇和島,高知県
トラザメ:紀州和深・越中富山,静浦,富山
マヤーサバ・マヤーブカ・マヤブカ:沖縄

ネコザメの地方名を使用するのは、「東京、相模三崎、東京市場」と『日本産魚名大辞典』記載されている。水産物の全国の名称を統一した大正時代の基本ルールに則って、標準和名としてネコザメの名称を使用した物と思われる。

ネコザメの識別方法:
ネコザメ属(Heterodontus)は、全世界に9種知られている。
日本近海では、ネコザメとシマネコザメ(Heterodontus zebra)が報告されている。
『日本産魚類検索』には、下記の通り記載されている。
ネコザメ
① 体に、10前後の不明瞭な暗色横帯がある。
② 尾柄は短く、尾柄長は臀鰭基底長の1.25倍前後
シマネコザメ
① 体に、20以上の明瞭な暗色横帯がある。
② 尾柄は長く、尾柄長は臀鰭基底長の2倍前後

ダイバーのための絵合わせ

日本でダイビング中に出会うネコザメ属は、ほぼネコザメと考えてよい。
ネコザメ属の特徴であるシルエットだけで、ほぼ判別できるだろう。

シマネコザメは、生息水深が通常のダイビングの範囲を超えているため、よほどのチャンスがない限り、生態観察・撮影はできないだろう。
<参考>神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」にも、KPM-NR 48740の標本写真しか掲載されていない。
シマネコザメの生態写真を撮影したら、初記録となる。

絵合わせ:見た目の特徴を図鑑と見合わせる事

ネコザメの観察方法

筆者は、伊豆半島東岸と伊豆大島でしか見た事がない。
観察個体数も決して多くない。
決まったシーズンに集中している。

観察時期

冬季から春にしか見た事がない。

今回の執筆にあたって、この疑問を複数の現地ガイドに聞いた事をまとめると、

  • ネコザメは、夕方から夜間に活発に行動する可能性が高い。
  • 昼間活発に活動するのを見られるのは冬季から春で、観察のチャンスが多くなる。

とのことであったが、夏場に全く観察できないというわけではなく、ネコザメは一年中見られるという。

筆者の観察地である伊豆半島では、ネコザメが生活範囲にしている場所は、サザエ・アワビなどの密猟者と、一般ダイバーを分ける為の工夫として、トワイライトダイビング・ナイトダイビングで潜れる場所・時間等の制約が非常に大きい。

トワイライトダイビング:日没時刻周辺でのダイビング。サンセットダイビングとも。

海老網漁とダイビングの間でのルールに問題が無ければ一年中トワイライトダイビングやナイトダイビングが可能な伊豆大島では、季節を問わずコンスタントに観察できるそうである。

また、伊豆大島では過去に一度、6月初旬にネコザメの産卵シーンが観察されている。

卵の成熟期間を考慮すると、昼間活発に活動しているのは、産卵期に入ってペアを探している姿ではないかと筆者は考察する。

生息場所

底生性で岩場や海藻類の群生地帯に主に住んでいる。

日中は海藻や岩の陰に隠れ、動かないでいて、夜間に餌を求めて動き回る夜行性の可能性が高い。

生態行動

サザエなどの貝類やウニ・甲殻類などを好んで食べると言われている。
臼歯状の後歯で殻を噛み砕いて食べるため、地方名サザエワリと呼ぶ地域もある。

他のサメ類より遊泳力は弱く、胸鰭(ビレ)を使って海底を歩くように移動する姿が観察されている。

サメ類では珍しい、卵生(サメ類は通常卵胎生)で日本では3月から9月にかけて産卵が行われている。

卵胎生:胎内で卵が孵化した後に体外へと産み出されること

雌は卵を一度に2個ずつ産卵して、シーズン中に6~12個産む事が確認されている。
卵にはドリルのような螺旋状のひだが取り巻き、岩の隙間や海藻の間に産み落とされた卵を固定する役割がある。

仔魚は卵の中で約1年かけて成長して、約18cmで孵化する。

ネコザメの卵
ネコザメの卵

日本では水族館などでよく飼育、展示される。
下田海中水族館がネコザメの繁殖賞を受賞している。

繁殖賞:日本動物園水族館協会による表彰の1つで、飼育下で日本で初めて繁殖に成功し、6ヶ月間以上飼育に成功した施設へ送られる。

一般家庭での水槽飼育も可能で、小さな個体は観賞用に売買される。

基本的に、水中で人には危害を加えることはない。
そのため、水族館によってはタッチプールの人気者である。

サザエやウニなど高値で取引される水産物を好む食性と、間違った迷信(後述)により、生息数の多いエリアでは、漁業者から必要以上に嫌われているケースが見受けられる。

食味

刺し網などで混獲されるが、水産上重要でない。

和歌山など地方によっては湯引きなどで食される。
酢味噌をあえる場合もある。
和歌山県では、食用として利用されている様であるが、筆者は食した事がない。

南伊豆で味を聞いた時、「美味しくない」と漁師から聞いた。

そうなると、食している地域では、漁獲してから実際に食するまでに一定の時間と、独特の処理の方法があるのかもしれない。

観察の注意点

筆者は、繁殖期中と思われる成魚と、卵からハッチアウト間もない幼魚しか観察したことがない。

ハッチアウト:孵化

繁殖中の個体は敏感に動き回り、フィンスイムにはかなりの自信がある筆者でも、追いつくことができないほど速く泳ぐことを確認した。

こちらの存在に気付かれて、ネコザメが泳ぎだす前に観察すると良いだろう。

幼魚は、岩の隙間で岩に擬態し、まったく動かないことが多い。

幼魚(石橋にて撮影)
幼魚(石橋にて撮影)

一度、驚かせてしまうと、目立つ砂地などに泳ぎだしてしまい、捕食者からの標的となってしまうので、観察には十分気を付けたい。
もし撮影や観察をしている際に移動を開始したら、進行方向を何度も塞いで、元居た岩場に元してあげてほしい。
落ち着いて岩の隙間に隠れてくれるはずだ。

観察ができるダイビングスポット

「魚類写真資料データベース」で、生態写真の登録のあるエリアと、筆者が観察した事のある場所を載せた。
「魚類写真資料データベース」には、最も、筆者のダイビング経験数が多い大瀬崎で観察例があるが、観察した記憶がない。
観察できたなら、相当ラッキーな事かもしれない。

広く日本に分布しているので、以下に掲載した場所以外でも観察できるはずである。

登録の無いエリアで、ネコザメの生態写真を撮影していたら、「魚類写真資料データベース」に登録していただきたい。

  • 小笠原諸島父島
  • 伊豆大島
  • 神奈川県
    • 早川
    • 石橋
  • 伊豆半島東岸
    • 宇佐美
    • 熱海
    • 富戸
    • 伊豆海洋公園
    • 赤沢
  • 伊豆半島西岸
    • 大瀬崎
  • 紀伊大島

生態を撮影するには

成魚は、産卵期の昼間にしか撮影した事がない。

印象は、とてもよく動き回る。
そして、シャッターチャンスが可能な距離に距離を詰めるのがとても難しい。

以前、それなりの撮影レベルのある方と潜っている時にネコザメに出会ったが、自分以外、誰もネコザメの泳ぐスピードに追いつくことができず、沖に逃げられてしまった。

幼魚は岩陰などに隠れている事が多いので、気が付かれない様に近づけば撮影可能である。
35mm換算24mmから50mmマクロ相当の画角なら、どの画角でも問題ないだろう。

近づきすぎると逃げだすので、30cmほど離れた所から撮影するのが一番良い。
そうなると、標準ズームレンズが、ベストである。

SPECIAL COLUMN

ネコザメに毒はあるか?尾が切断されたネコザメを取り巻く迷信を考察

民族・地域・宗教・家庭などによって風習やカルチャーが異なる事は、海外旅行をすれば感じる事があるが、日本に住んでいると、風習やカルチャーは統一されていると感じている方がほとんどだろう。(意識すらしないかもしれない)
どの風習が良くて、どれが悪い、というのは今回の話の本意ではない。
ネット社会になり久しいが、センセーショナルな題名を付ける方が、PVが稼げることは間違いない。SNSの台頭がそれに拍車をかけている事も、まぎれもない事実だと思う。
情報を正しく処理する能力が問われる時代だ。

今回、ネコザメの原稿を書くにあたって、ネット検索の状況を調べた。
「ネコザメ」とYahoo!で検索すると、検索候補に「ネコザメ 毒」というものが出てくる。
候補が出てくると言う事は、この項目で調べている方がかなりの人数いる事になるだろう。

筆者はネコザメに毒はないと考えているが、科学では「100%でない時は言い切らない」のが常識。
この情報の出所は、結局不明である。いくら探しても、記載された文献は見つからない。

水族館ではタッチプールに入れて一般客にネコザメを触らせているが、有毒であればすでに被害が報告されるだろう。

筆者は、漁師の迷信からきているのではと考えている。
ネコザメには、鰭(ヒレ)に防御用の棘がある。これを網から外すときなどに、誤って刺されてしまい、そこが化膿した事から毒があると信じられているのではないだろうか。

サメの棘・口の歯には、かなり大量の雑菌がついていると思われる。
以前、筆者は誤ってカスザメに咬まれた事がある。
その時、すぐに患部を消毒したが、患部は化膿してリンパ腺が腫れた。抗生物質を飲んだが、体内に入った雑菌によるけだるさは、2週間ほど続いた。

これが、科学の知識が薄い時代であれば、強い雑菌の影響か、有毒の影響か、判断は難しいと思われる。
被害を起こさないことに目的を置くならば、必ずしも科学的な正確性に関わらず、良く言えば「伝承」、悪く言えば「迷信」として世に残っていっても良いだろう。

いずれにせよ、迷信がひとり歩きをしてしまうことには恐怖を感じざるを得ない。
以前、伊豆大島で尾びれが切断されたネコザメ個体を見たことがある。
どう考えても人為的に、だ。


尾鰭(ビレ)を切られ餌を捕れずやせ細っている個体

ネコザメは基本、水中で人には危害を加えない。
ここで、“基本”と書いたのは、攻撃例がないわけではないと言う事だ。こちらがネコザメを攻撃しなければ、防御反応としての反撃もしないのである。

実際に、被害があるのは漁業関係者だ。
大学在学中、漁業実習で定置網のお手伝いをしたが、網に入った魚から被害を受けない様に、漁師・教官・指導学生に厳しく指導されたのを覚えている。
防衛行動として噛みつく可能性のある魚類を甲板に生きたままにする事は、NGな行為である。
それでも理解できないままに甘い行動をする者がいて、自分が指導学生の立場になった時に大変苦労させられた。

危険な生物と対峙する時、甘えは禁物だ。
被害を受けるか、受けないかは、仕事であれば、命をとるか、とられるか、である。

古来から、人は野生動物の命を奪って、狩って生きてきた。それがを人間という動物が、食べて生き延びて行く方法である。
そして今も、誰かがその役目を担っている事に変わりはない。漁師が自分の身を守るために毒針をとったり、被害を受けない為に命をとることを悪いとは思わない。

しかし、尾鰭だけを奪って捨てるというのはどういうことか。
餌も取れず、ジワジワと死を迎えさせることに、果たして意味があるのだろうか。

この尾鰭を切られたネコザメは、数日後に、息を引き取った。

ネコザメのヒレには毒があるという迷信を信じて、尾びれにも毒があると考えた何者かが切り落としたのだろうか。
もし、迷信がもたらした結果だとすれば、残念でならない。

同様に、防波堤で釣りをする人々の中には、目的でない生物が釣れると、防波堤に転がしたままにして、異臭を放つまで放って置く人もいる。
実際、それが原因で、立ち入り禁止になった場所もある。
自然とのかかわり方をもう少し考えて欲しいと心から思う。


餓死直後、他の生物の餌になった姿

この画像を見て、もう一度、考えてほしい。
目の前に無いと気が付かない事実を。

筆者は、心に甘さがありダイレクトに、患部を撮影できなかった。

コラムの画像は、伊豆大島ダイビングセンターの協力をいただいた。
ここに、御礼申し上げます。

参考文献

文・写真:播磨 伯穂

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ネコザメの分類情報

分類

シノニム

  • Cestracion japonicus (Miklouho-Maclay & Macleay, 1884)