ホウボウが出現した場所
ホウボウの出現時期(過去1年間)
ホウボウについて
あお×ウグイス色の鮮やかな胸鰭が目を引くホウボウ。
海底を歩くように移動したり、胸鰭から変化した3対の軟条では味を感じる(!?)ことができたり……知れば知るほど興味深い!
とはいえ、その生態はあまり分かっていない魚でもあります。
今回は、珍しい成長中のホウボウの幼魚の写真も交えながら、播磨先生にホウボウについて解説していただきます。
ホウボウDATA
標準和名:ホウボウ
学名:Chelidonichthys spinosus
分類学的位置:カサゴ目コチ亜目ホウボウ科ホウボウ属
種同定法:D Ⅸ-15~17 ; A 15~16 ; P114 ; LLp 64~66 ; GR 1~2+8~10 ; Vert 32~35.
分布:水深5〜615mの泥、砂まじり、貝殻・泥まじり砂底。北海道日本海・太平洋沿岸、津軽海峡~九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、津軽海峡~九州南岸太平洋沿岸、八丈島(稀)、瀬戸内海、東シナ海大陸棚域;渤海(ぼっかい)、黄海、朝鮮半島全沿岸、済州島、台湾、中国東シナ海・南シナ海沿岸、ピーター大帝湾(稀)
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)
ホウボウの識別方法:
日本国内で確認されている魚の中で、分類的にホウボウに最も近い近縁種は、同属のツマリホウボウ(Chelidonichthys ischyrus)である。
近縁属であるソコホウボウ属やカナガシラ属との識別点としては、頬部に、ハッキリと判る隆起線が見られたら、ホウボウ属である。
同属であるホウボウとツマリホウボウの違いは、胸鰭の長さが第2背鰭中央より短く、頭が小さい(頭長に対して体長が3倍以上)のが、ホウボウである。
ツマリホウボウは、胸鰭の長さが第2背鰭中央をはるかに超えるほど長く、頭が大きい(頭長に対して体長が3倍以下)。
名前の由来と地方名:
捕らえられた時に水から出されると「グーグー」と鳴く。
漁師の伝承によると、この鳴き声からホウボウという和名が付けられたという説がある。
また、ホウボウの浮き袋は鳴き袋とも呼ばれている。
地方名として石川県宇出津でキミ、青森県西岸・秋田県男鹿・新潟県でキミヨ・キミウオなどと呼ばれ、秋田県ではドコと呼ぶこともある。
問題は、ホウボウのことをカナガシラと呼ぶ地域が存在することで、近縁種であるカナガシラとの混同に注意が必要だ。
ホウボウをカナガシラと呼ぶことが確認されている地域は、三重県鳥羽、島根県石見・益田、山口県萩、長崎県、鹿児島県と広範囲であるため、よく確認する必要がある。
カナンドという地方名も、同様に、ホウボウとカナガシラを区別していない可能性が高いので、要注意だ。
海外では海のコマドリを意味するシーロビン(Sea robin)、中東では飛行機や凧を意味するタイヤールとも呼ばれるそうだ。
ダイバーのための絵合わせ
ダイビング中にホウボウの仲間に出会った場合、ほとんどがホウボウかトゲカナガシラ(Lepidotrigla japonica)で、それ以外の種に出会う機会は、ほとんどない。
生態写真から正式に識別された、稀に観察できる例として、カナド(Lepidotrigla guentheri)、イゴダカホデリ(Lepidotrigla alata)、オニカナガシラ(Lepidotrigla kishinouyei)の記録が神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」に存在する。
カナドは資料番号KPM-NR 1453、イゴダカホデリはKPM-NR 143332、オニカナガシラはKPM-NR 15769を確認されたい。
筆者は、ホウボウの仲間の観察例が最も多い、伊豆半島をホームグラウンドとして30年以上活動しているが、ホウボウとの遭遇が一番多く、続いてトゲカナガシラとの遭遇が多い。
カナドは一個体しか観察したことがない。
最も近縁のツマリホウボウは、生態写真が撮影された事も無いようである。
以上から、ホウボウとトゲカナガシラを見分けることができれば良いと考えられ、両者は水中では泳いでいる時に明確に判断できる。
ホウボウは胸鰭内面の縁辺部が鮮明なあおいろで、内部には濃いウグイス色の上にあおいろの水玉状の斑紋が見られる。
胸鰭内面の基部が、ウグイス色の個体や、胸鰭内部にくろいろ斑紋が出る個体もいて個体差があるが、くろいろはトゲカナガシラなどの様に明確にソメワケされていない。
幼魚の体色はくろいろ単色が多く、コゲ茶色の個体も稀に見られる。
胸鰭内面の縁辺部は、ほとんどの場合くろいろ単色である。
ホウボウの観察方法
筆者はホウボウを見たいとリクエストをされた事は無いが、伊豆半島で泳ぐ姿を見せると、ほとんどのダイバーが胸鰭内面の美しさに、興味を持って見てくれる。
観察時期
筆者がよく訪れる西伊豆大瀬崎の湾内では、季節によって生息水深は変わるが、成魚は一年中観察できる。
近年、平均水温の上昇の影響か、観察される水深が以前より深くなっている印象がある。
それ以外の場所では、見つけると嬉しいほど、個体数が少ない。
幼魚は11月から5月に確認されているが、他のダイビングスポットに比べ、圧倒的に大瀬崎湾内で冬場に観察されるケースが多い。
生息場所
水深5〜615mの泥、砂まじり、貝殻・泥まじり砂底となっているが、中でも、泥まじりの砂底を好むようである。
それ以外の砂底で見つけるのは稀である。
生態行動
生活史全般の詳しい事は、まったく解っていないと言って良いだろう。
インターネット上にあるような古い情報しか研究されていない。
興味深い生態として、脚のように変化した胸鰭の軟条3対で砂泥底を歩くように移動することが知られており、この軟条の先で味を感じることができる。
食性は肉食性で、砂に潜った甲殻類や小魚などを軟条で探り、捕食する。
繁殖については以下のように言われている。
繁殖期は春。卵はプランクトンとして浮遊する浮性卵で、数日のうちに孵化する。孵化した仔魚もしばらくは浮遊し、他のプランクトンを捕食しながら成長するが、やがて海底で生活するようになる。幼魚は全身が黒いが、大きくなるにつれて体が赤っぽく、胸びれが緑色に変化する。
Wikipedia「ホウボウ」より
しかし、浮遊期を考慮しても、伊豆半島での幼魚の出現時期と、この研究結果と繁殖・産卵時期には疑問が大きく残ると考察する。
また上記の通り、幼魚は全身がくろいろで、大きくなるにつれ体があかいろっぽく、胸鰭がみどりいろに変化すると考えられているが、その過程の生態映像は全く揃っていない。
成長過程の個体は、大瀬崎で撮影されていた神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」、資料番号KPM-NR 9903と、今回の発表のこの映像のみである。
今回の画像では、尾鰭に模様の変化が見られる。
ステージが異なる映像をお持ちの方は、「魚類写真資料データベース」への登録をお願いしたい。
食味について
白身の美味な魚で、新鮮なものは生で食すことができる。
桜色の身を刺身で食べると、旨味と甘み、そして心地よい歯応えを感じる。
刺身以外にも、煮付けや唐揚げ、塩焼き、鍋、干物など様々に調理される。
肝や胃袋、心臓、浮き袋などの内臓類も火を通せば食せる。
アラからも良質な出汁が取れるので、余すところなくいただける。
筆者は、新鮮なら刺身、流通鮮度の物は、釣り船屋で教わった鍋にする。
頭などのアラを魚焼き器で焼きしめてから出汁を取り、醤油・酒・みりんをいれて鍋にするのだ。
具材は、小松菜が最も相性が良く、長ネギのぶつ切りとしめじ、豆腐があれば最高である。
観察方法
運が良ければ、水深の浅い場所で見つける事ができる。
その場合は、OWの講習中でも観察できるチャンスがある。
しかし、大瀬崎の湾内で最も多く観察される水深は18~24mなので、この水深で十分に活動ができるスキルが必要であろう。
本種成魚は、泥まじりの砂底の砂地で見つかることが多い。
さらに、意外と敏感で、かなりの遊泳スピードで砂地すれすれを泳いで逃げていく。
浮遊期の幼魚は防波堤内のゴミだまりから見つかっているが、発見は非常に稀であると聞いている。
着底後の幼魚はとても小さく、発見そのものが難しい。
幼魚は移動範囲も小さいので、出現している事を知っているベテランガイドと一緒なら、簡単に見せてくれるだろう。
観察の注意点
成魚観察にはある程度泳ぐ必要があるが、泥まじりの場所なので、フィンキックのダウンキックには十分に気を付けてほしい。
泥を舞い上がらせて、視界不良になる危険性がある。
中性浮力を正確にとって、アオリ足でフィンキックをできると良い。
近年は、観察水深が24m前後であることが多くなり始めている。
大瀬崎の場合、その場所は通常の10ℓタンクでは余裕が無いほど岸からの距離がある。
その水深で十分に活動できる容量のタンクを準備する必要があるだろう。
幼魚は遊泳力がまだ弱いので、観察後に幼魚の上部を通過してはいけない。
そのフィンキックの水流で、水底から簡単に弾き飛ばされてしまう。
観察ができるダイビングスポット
成魚の確認されているダイビングスポット
- 房総半島 波左間・伊戸
- 小田原市 早川
- 東伊豆 伊豆海洋公園・富戸・熱海・赤沢
- 西伊豆 大瀬崎・井田・黄金崎公園ビーチ
- 伊豆諸島 伊豆大島・八丈島(稀)
- 紀伊半島 潮岬
本種は、水産的にはよく流通する普通種だ。
そのため、ダイビングサービス側で観察が珍しいと認識されておらず、観察の報告が少ないのではと考えられる。
実際には、もっと広範囲で確認できると思われる。
生態を撮影するには
成魚サイズを撮影するのには、35mm換算で24~35mmレンズ程度の画角のレンズが使いやすい。
ただし、この画角程度だと、内蔵ストロボは役に立たない。
外付け水中ストロボを用意するか、大光量ビデオライトを用意する必要がある。
今回のメインカットは、大光量ビデオライト2灯で撮影している。
これだけの光源を得るのには、外付けストロボの方がコストパフォーマンスが高いだろう。
幼魚は、コンパクトデシタルカメラの内蔵ストロボでも、十分に撮影が可能である。
TGシリーズならスーパーマクロモード、それ以外はクローズアップレンズを使えば可能だろう。
理想は、ミラーレス一眼かデシタル一眼に、マクロレンズの組み合わせで、こちらの方が幼魚を刺激しないで撮影できるだろう。
参考文献
- 『日本産魚類検索 全種の同定』(著者:中坊徹次、発行:東海大学出版会、発行年:2013年第3版)
- 『日本の海水魚』(著者:大方洋二・小林安雅・矢野維幾・岡田孝夫・田口哲・吉野雄輔、編集:岡村収・尼岡邦夫、発行:山と渓谷社、発行年:1997年第3版)
- 魚の分類の図鑑ー世界の魚の種類を考える』(著者:上野輝弥・坂本一男、発行:東海大学出版会、発行年:2005年新版)
- 『新版 日本のハゼ』(解説:鈴木寿之・渋川浩一、写真:矢野維幾、監修:瀬能宏、発行:平凡社、発行年:2004年)
- 神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」
- 『デジタルカメラによる 水中撮影テクニック』(著者:峯水亮、発行:誠文堂新光社、発行年:2013年)
- 『うまく撮るコツをズバリ教える 水中写真 虎の巻』(著者:白鳥岳朋、発行:マリン企画、発行年:1996年)
- 『水中写真マニュアル(フィールドフォトテクニック)』(著者:小林安雅、発行:東海大学出版会、発行年:1988年)