スパインチーク・アネモネフィッシュ【ダイビング生物情報】~唯一独立したグループ(属)のクマノミ?~
一見カクレクマノミにも似ているスパインチーク・アネモネフィッシュは、本来日本には分布していない、インド洋から東部オーストラリア沿岸に分布するクマノミの仲間。
古くからアクアリストに人気があるクマノミ類のひとつですが、これまで何度か分類の位置(仲間と思われるグループ)が変わっている魚でありまた、生活スタイルを調べてみると面白い特徴が見えてくる魚です。
今回は、そんなスパインチーク・アネモネフィッシュついて播磨先生に解説して頂きます。
また、過去には伊豆の有名ダイビングスポットで移入(ルール違反の放流)が行われてしまった事もあり、移入によってどの様な事が起こり得るのかも想定して解説して頂きました。
スパインチーク・アネモネフィッシュDATA
標準和名:過去に日本国内に移入が確認されているが、運よく根絶したこともあり、標準和名はあてられていない。
英名:スパインチーク・アネモネフィッシュ(Spine-cheek anemonefish)
学名:Premnas biaculeatus (Bloch, 1790)
一般的な英名として、スパインチーク・アネモネフィッシュ(Spine-cheek anemonefish)が本種には使われている。
アンダマン海産のしろいろたてじま模様がきいろ、またはクリーム色になっている個体をインディアンオーシャンスパインチーク・アネモネフィッシュ(Indian ocean spine-cheek anemonefish)と別の名称で読んでいるケースが見受けられる。
これは、本種のアクアリスト達への商品価値が採集された産地によって大きく変ってしまうためである。
マルーンクラウンフィッシュ(Maroon clownfish)と、表記されている図鑑も存在する。(※)
日本の魚類学会の基本的ルールとして、日本に分布が確認されていない魚類には、標準和名を提唱しないので、本種には日本名は存在しない。
(※)英名には、学名と一対の標準和名の様な考え方がなく複数の名前が存在する。これを専門的にはコモンネームといい、本稿では神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」の表記に従った名称を使った。
種同定法:Dorsal spines (total): 10; Dorsal soft rays (total): 17-18; Anal spines: 2; Anal soft rays: 13 – 15.
分類学的位置:スズキ目スズメダイ科クマノミ亜科プレムナス(Premnas)属
分布:日本沿岸域には生息が確認されていない。インド洋(アンダマン海)からマレー諸島を経て、東部オーストラリア沿岸までのサンゴ礁域に分布する。東南アジアやオーストラリア・グレートバリアリーフでは普通に見られる。
(本記事では、『クマノミガイドブック』に従った)
スパインチーク・アネモネフィッシュの識別方法:
現在の日本の魚類分類では、プレムナス(Premnas)属に分類され、1属1種になっている。
この分類については、1972年にアレン博士がクマノミ類の総説内で、以下の様に解説してプレムナス属とクマノミ属が一つの分類群の可能性が高いことを強く示唆している。
「プレムナス属とクマノミ属(Amphiprion)に分けられているが、プレムナス属の特徴は、頬に棘が有り、ウロコのサイズが体長に対して小さいことである。この2点で識別され、これまでは2分類群に分けられていた。しかし、その識別点(識別方法)は、他のクマノミ類全体に言える特徴(目立つ大きな棘は並んでいないが、クマノミ・ハマクマノミなどは、同じ所に小さい棘が見られる。また、他のスズメダイ類と比較すると、クマノミ亜科全体が平均的に、体長に対してウロコが小さい。)、生活史(イソギンチャク類との共生)、繁殖行動(性変換の仕組みが共通しており、卵は付着卵で雌雄で共同で守る。)などに見られる多くの類似点に照らし合わせると、さして重要な意味を持たない。」
※()内は、筆者による補足
しかし、その後アレン博士は解剖学的な特徴研究により、プレムナス属と、クマノミ属は、独立した分類群(属)としている。
『クマノミガイドブック』出筆中、ジャック・T・モイヤー博士は魚類行動学の立場から、プレムナス属とクマノミ属は独立した分類群(属)の可能性が高い、と考えを述べた上で今後DNA解析による研究が進むことを強く望んでいた。
現在の日本国の魚類学会の基本定説は、プレムナス属とクマノミ属を分けるという基本姿勢をとっている。
さらに時を経て、アレン博士が
『Allen, G.R., 1991. Damselfishes of the world. Mergus Publishers, Melle, Germany. 271 p. (Ref. 7247)』
により、プレムナス属とクマノミ属を同一分類群(属)として以降、
・Fishbase Amphiprion biaculeatus, Spinecheek anemonefish
・WoRMS taxon details Amphiprion biaculeatus (Bloch, 1790)
・Systematics of Damselfishes
などは、スパインチーク・アネモネフィッシュをクマノミ属として表記しているが、筆者の調べた限りでは、解剖学的調査での分類の論議しかされていないとみられる。
発行年が2001年7月9日である『クマノミガイドブック』が最新情報・最新研究となり、これに従うとプレムナス属とクマノミ属の2つの属に分けられることになる。
それ以降の研究・調査が行われている形跡を筆者は見つけていない。
以上から、今回の記事では、日本国の魚類学会の基本定説、ジャック・T・モイヤー博士の提言を尊重して表記変更はしないで掲載する。
以下はプレムナス属とクマノミ属に関する筆者の2024年現在の意見である。
複数の観察地でスパインチーク・アネモネフィッシュの生態観察を繰り返した筆者としては、現在、ジャック・T・モイヤー博士と意見は一致しない。
本種とハマクマノミ・グループでは生態行動が限りなく類似しており、生活形態の相違点を野生個体では見いだせないと考えている。
『クマノミガイドブック』内で、博士が体験した生態行動の観察エリアの分布域は、スパインチーク・アネモネフィッシュの分布中心地から離れた、分散限界地付近(繁殖できる限界地点)ではないかと推測している。
また、幼魚期にもプレムナス属の特徴である頬の棘が有るが、極端に目立つほどでは無い。
クマノミ属の棘とさほど変わらない印象である。
また、体色・模様共にカクレクマノミに酷似した外見を持った幼魚も存在する。
成長過程に、進化の過程を残しているのではと、筆者は想定している。
個体間の行動でも、雌が雄に対して行う順位確認の威嚇行動の時、雄側が行う服従行動はまさにカクレクマノミ間で行われる行動に極端に類似している。
大きな相違点は、スパインチーク・アネモネフィッシュの老成した雌は、体色が黒く変わる事である。
雌に性変換してからどの程度で黒化が始まるのかは、野生下では確認できていないが、クマノミ属の種からその様な生態は報告がないとされている。
ただし、雌になってから年数が立つと、他の個体より大型化する点では、クマノミ属と共通である。
以上から、プレムナス属と、クマノミ属は、独立した分類群(属)として、分けるのには疑問点を感じる。
DNAなどの最新研究手法を用いて、この問題が早期解決されることを強く望む。
スパインチーク・アネモネフィッシュが普通種として見られる分布域では、生態観察からハマクマノミ・グループより優占種であると筆者は考えている。
同じ一つのイソギンチャクに、2種が混雑する事は、野生下では観察していない。
ダイバーのための絵合わせ
国内には分布が確認されていない。
過去に日本国内に移入が確認されているが、その際には運よく根絶したので、もし今後見つかることがあれば、無知な人、心無い人の放流と考えられる。
プレムナス属の特徴である、眼の下に大小2本の目立つ長い棘があるので、そこを確認すれば容易に区別できる。
体色・模様が一番似ているのは、カクレクマノミ・グループである。
特に幼魚期は類似しており、水中で目視で見分けるのはかなり難しいと言える。
どちらも同じ3本のヨコシマ模様があるが、自然界ではカクレクマノミ・グループが共生しないタマイタダキイソギンチャク(Entacmaea ramsayi)を特に好んでスパインチーク・アネモネフィッシュは共生するので、イソギンチャクの種類でも識別できる。
ただし、一個のイソギンチャクに両者が仲良く共生する事は絶対にないので、一緒に飼わない事を強く推奨する。
ハマクマノミは稀に、3本線を有する本種着底幼魚に似たような個体が生まれる事があり、沖縄本島と、久米島で観察されている。
しかし、体色が違うので優れたウォッチャーなら見た目ですぐに区別が付くレベルである。
鑑賞用の繁殖個体では、模様が欠けている個体や縞模様が乱れた個体がよく知られている。
自然界では、模様が欠けた個体を見つける事は非常に稀であるが、筆者は数回観察している。
模様が乱れた個体の観察例もあるが、筆者は野生下で観察したことが無い。
これらのことから、繁殖は何世代にも渡って模様変異のある個体同士をかけ合わせて作出されているのだろう。
もし、自然界で極端に模様の乱れた個体を見た場合は、移入を疑って問題ないだろう。
スパインチーク・アネモネフィッシュの観察方法
筆者は、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどで、ダイビングリゾートの開発調査を請け負っていた時期がある。
この経験を元に書いていく。
オーストラリア・グレートバリアリーフでは普通に見られるとされているが、ケアンズ周辺海域に潜った際には観察したことがない。
東南アジア海域が分布の中心で、グレートバリアリーフでは個体数が少ないのか、もしくは生息環境が東南アジアと違っているのかは知識がない。
観察時期
一年中、普通種として観察される。
ただし幼魚(未成熟)とハッキリ言える個体の観察は、稀である。
通常、良く成熟した黒化雌と、若い雄(幼魚に見えるサイズの事もある)がペアでタマイタダキイソギンチャクに生活している。
幼魚(未成熟)は、小さいタマイタダキイソギンチャク(直径10cm以内)に1匹でいるか、直径50cmを超える大きなタマイタダキイソギンチャクで3匹目として見つかるかの2パターン以外では筆者は観察していない。
一か所に複数個体のタマイタダキイソギンチャクが群生する場所に、ごく稀(筆者は1度だけ観察)に、ハマクマノミやクマノミの様なクマノミ城(群生生活型)を形成する事がある。
このケースの行動は、ハマクマノミ・グループに類似する。
なお、クマノミ城集団生活型のしろいろよこじま通常よりも細いように見える。
これは養殖個体にも見られる特徴である。
筆者は、個体間の攻撃性が抑制されている個体の特徴では無いかと考え、観察を続けている。
生息場所
東南アジアではタマイタダキイソギンチャクに生息場所が限られている為、このイソギンチャクの生息水深に限って見られ、生活環境もこのイソギンチャクに類似しているといえる。
ただ、水深3m前後より浅い場所のタマイタダキイソギンチャクは好まない様で、ハマクマノミ・グループのクマノミが見られる事が多い。
生態行動
繁殖・産卵生態は、旧東海大学海洋科学博物館が、繁殖に成功して繁殖賞を受賞している。
その後、複数の水族館で産卵・繁殖に成功している。
現在は、神畑養魚株式会社をはじめ複数の繁殖業者が養殖に成功してペット用として流通させている。
一般アクアリストの水槽内でも、繁殖に適したペアさえ手に入れられれば、繁殖はさほど難しく無く、産卵までは可能であろう。
ただし、幼魚まで育てるには、それなりの知識、経験と設備が必要である。
野生採集個体でペアを組んでいない個体同士を一つの水槽に入れると、互いに激しく攻撃を行い、片方が死ぬまで攻撃をして殺してしまう。
また、勝ち残った個体も激しい戦いから、こちらも生き残れない事がある。
2匹以上で飼育したければ、ペアで売られている個体か、養殖される時にある程度のサイズまで一緒に群がりとして育てられたブリード個体を選ぶと良い。
『【チャーム】海水魚 スパインチークアネモネフィッシュ(ブリード) Premnas biaculeatus クマノミ charm動画』は、そのサイズ感が判るので、その為にも掲載した。
しかしブリード個体でも、成長する際の性変換の仕組みを良く理解していないと、水槽内に格差が起き、野生の個体と同じく、他者への激しい攻撃がおきるだろう。
それを防ぐ方法としては、ブリート個体を複数で飼育して体格差が起きないように成長させる事と、イソギンチャクとの共生飼育をしてはいけないという事が挙げられる。
一度でもイソギンチャクを入れてしまうと、イソギンチャクに生活するための順位を形成して、一番強い個体が雌に、2番目に強い個体が雄に性変換が始まって、それ以外の個体は、命を落とすまで攻撃を受けてしまう。
繁殖ペアの作り方については伏せさせて頂くが、東海大学海洋博物館研究生当時、田中洋一先生から直接方法を教えていただき、その様な方法をとるのかと感心した。
性変換の仕組みを理解しているからこその方法であった。
分布域で野生個体を観察していると、確かに教えてもらった通りの生態になっていた。
分布の現地観察をまったくしないで、その事に気が付く先生の観察力に、初観察当時感心した。
最近では、模様欠けの個体と普通の個体とのかけ合わせが行われている。
淡水産熱帯魚と同様に、自然界には存在しない飼育用品種が生まれていくだろう。
性変換について、スパインチーク・アネモネフィッシュはクマノミの仲間なので、基本的なクマノミ類の性変換と思われがちである。
クマノミの仲間の性変換の定説は、幼魚の時は雄型の生殖腺を持ち、全てそのまま雄の成熟した生殖腺に成長して雄として機能してから、雌がいなくなると雄になると言う。
この説には、賛同できないと言うのが、筆者の研究室内の学説であった。
それぞれの種に生態の違いがあるから、種として独立しているのではないか。
まず考えられる疑問として、イソギンチャクに最初に付いた生れたばかりの小さいクマノミ類は、その後にイソギンチャクに付いたクマノミより強くなり、順位1位となるが、その際、雄として機能していないのに、雌として機能できる性変換ができるのだろうか。
また、ハマクマノミ・グループの様に、単位の生活圏イソギンチャクの中に、雄雌一個体づつの場合、雌がかけた場合は、次の雄が成長するまで産卵を停止すればよいとなるが、その期間はどれほどかかるのか。
雌が亡くなり雄が取り残された場合、次の雄候補の個体がそのイソギンチャクに着底して、どの程度の成長で性変換して雌になるのか。
以上が当時の疑問点で、しかし、それを解決するための研究材料としての個体も手配が難しく、野生での生態の基本情報も乏しくそのまま進行しない状況であった。
この事が、その後の筆者の野生個体の観察につながる。
筆者がマレーシア・セレベス海側からインドネシア側のレンベ海峡、インドネシアバリ島を中心に野生個体を観察した地域では、スパインチーク・アネモネフィッシュの場合、ほぼ100%と言っていいほど、大きく成長した雌と、一回り小さく水槽飼育で人気のあるサイズ感のスパインチーク・アネモネフィッシュの雄個体とがペアになっていた。
ハマクマノミなどのペアでは、雌と呼ぶにはサイズから見た成熟度合が幼く、行動だけ雌という個体と、それより一回り小さい雄との組み合わせが見られるが、スパインチーク・アネモネフィッシュには見つけ出すことができなかった。
本種の分布域の個体は、とても安定した生活生態を持っているために、サイズと成熟度合いが一致している個体が多いのではと考察している。
琉球列島で同じタマイタダキイソギンチャクにハマクマノミがペアで見られる様な環境には、全て、スパインチーク・アネモネフィッシュが住みついている。
この事から、スパインチーク・アネモネフィッシュが、優占種であると考察する。
ハマクマノミ・グループの種は、浅い水深でクマノミ城型で観察されるが、それ以外では、まったく見られない。
セレベス海で数年間同じ個体を観察したが、雄・雌共に、どちらかかが欠ける事例は観察する事ができなかった。
それだけ、タマイタダキイソギンチャクにペアで生活している個体は長生きして、性別も安定しているのだろうと考えていた。
大きなタマイタダキイソギンチャクのペアには、そのオスより極端に小さい幼魚に見える個体が、ペアの個体に見つからない様に、端に着底している。
この幼魚に見える個体は、早いと数週間、長くても1カ月半位の内に姿が見られなくなってしまう。
筆者は、淘汰されたと考えている。
そうなると、滅多におきない雄か雌が欠けたイソギンチャクにたどりつかない場合は、ハッチアウトしたスパインチーク・アネモネフィッシュの幼魚は、全て無効分散(死んでしまうこと)となる。
着底生活をはじめたばかりと考えられる小型のタマイタダキイソギンチャク自体を見つける事自体が稀で、セレベス海では20年以上通って1回しか見つけていない。
そのイソギンチャクに一匹でいるスパインチーク・アネモネフィッシュは他の個体と体色が違い、3匹目としてイソギンチャクの端っこにいる個体よりも大きかった。
この体色は、通常のスパインチーク・アネモネフィッシュより、ペットショップで高価に取引されている個体と同じ体色である。
この体色の個体を一つの水槽に入れると、どちらかが死ぬまで攻撃をしてしまう。
この事から、この体色の個体は通常のスパインチーク・アネモネフィッシュの生殖腺と違う形態を持つ可能性を考え、成長・生態観察を継続していたが、コロナの影響で渡航できなくなって以来確認できていない。
流通しているこの体色の野生個体の生殖腺の詳しい調査もされていない。
スパインチーク・アネモネフィッシュの潜むタマイタダキイソギンチャクをはじめとしたサンゴイソギンチャクの仲間は、他のサンゴ類同様に、一斉産卵・放精して子孫を残す場合と、分裂を繰り返して個体数を増やす2パターンの繁殖方法が知られている。
(詳しくその生態を調べて研究されているかは判らない。)
分裂する場合は水深が浅く太陽光が十分に届く、水深5mより浅い場所が多いと言われている。
通常はハマクマノミ・グループの種が、「クマノミ城型」の複数から数十匹でサンゴイソギンチャクの仲間が分裂繁殖した場所に観察され、本来の雌を中心としたハーレム行動をしない事が知られている。
他のグループのクマノミ類に見られる、分裂で繁殖したタマイタダキイソギンチャクの群生場所に、養殖されたスパインチーク・アネモネフィッシュに良く似た個体群、合計8個体が集団生活しているのを筆者は観察している。
この個体群のメスとして行動する個体は、他の雌の行動する個体と、激しい争いを一切しない。
まるで、ハマクマノミ・グループの種の「クマノミ城型」の様であった。
この生態行動は、今回の記事が初出し情報である。
産卵を確認しているので、成魚であると判断している。
この「クマノミ城型」の本種の行動について追跡調査中であったが、コロナの為に現地入りできなく中断している。
なお、この様な場合の生殖腺の性別(雄・雌以外に、両性型の可能性)は、まったく研究されていない。
殺しあうほどの激しい闘争性をおさえる仕組みは興味深いが、まだ神秘の中である。
以上からも、スパインチーク・アネモネフィッシュの生態行動は限りなくハマクマノミ・グループに近く、属を分けるほどの差異があるとは、筆者は生態学の観点からは言い難い。
生殖腺の研究を進めると、違いがあるのかもしれない。
プレムナス属に分ける必要があるのかどうかは、分類学者のDNA研究を待ちたいと考える。
観察方法
個体数の多い場所では、水深5mから18m程度の水深のタマイタダキイソギンチャクにほぼ100%の確率で潜んでいるので、観察は容易である。
Cカード取得の海洋実習中に観察できるダイビングポイントも存在している。
OWレベルから観察できるポイントはたくさん存在するが、現地人ガイドにとってはいつも居る普通種と認識されていて、リクエストをしないと紹介されないだろう。
世界的に見てもクマノミ界のアイドルはカクレクマノミ・グループで、それを初心者ダイバーに教えれば良いと言う風潮がある。
その為、その場所にいる固有の種が価値を持っていない様に扱われている事を悲しく思う。
観察の注意点
本種は、健康な生きた造礁サンゴの間にあるタマイタダキイソギンチャク内に生活しているので、近づく時は、サンゴを壊さない様に注意をはらってほしい。
この様なサンゴ礁を泳ぐなら、しっかりと肺のトリミングを練習して、中性浮力を保ち、洞窟を潜るテクニックのレベルのアオリ足を身に着けてほしいものだ。
観察ができるダイビングポイント
分布域の中では普通種で、ダイビングが盛んな場所と限定すると、インドネシアやマレーシアのダイビングポイントなら普通に見られるだろう。
それに比べ、フィリピンなどでは若干、先の二国よりは少ない印象がある。
それ以外の場所の知識は、筆者は発表に適したレベルにまでいたっていない。
生態を撮影するには
本種は、とても攻撃的になり撮影を容易にしてくれる個体と、大型の雌でもタマイタダキイソギンチャクの下側のサンゴ穴に隠れてしまう物まで性格の個体差が幅広い。
複数見られるポイントなら、撮影しやすい個体を選べば良い。
逃げる・隠れる個体を深追いしても、良い結果にならない。
スパインチーク・アネモネフィッシュの生態写真・証拠写真なら、先によく観察をして、逃げ回らない距離まで近づいて撮影する事をお勧めする。
その場合は、内蔵フラッシュや通常のLEDライトが作り出す明るさでは不十分なので、外部ストロボを使うと良い。
攻撃的な個体は、カワイイ顔で撮影するのは難しく、筆者は逆転の発想で、猛々しく勇猛なイメージを優先して撮影する。
卵を守る猛々しい雌と考えても良い。
SPECIAL COLUMN
スパインチーク・アネモネフィッシュが海洋放流された!!
中村卓哉水中カメラマンが、以下の記事の中でさらりとふれられているが、以前、東伊豆の人気ダイビングスポットで、スパインチーク・アネモネフィッシュの移入が行われてしまった事例がある。
クマノミ属じゃないクマノミ!? スパインチーク・アネモネフィッシュ(Ocean+α)
20年以上前の話であるため、ネット上でこの事を調べるのは難しい状況になりつつある。
このコラムを書くのにあたっていくつかのリンクを用意していたが、出筆時(2024/3/19)現在アクセス可能なのは、下記のみになっているようである。
『富戸でダイビング(03.11)』静岡県の旅行記・ブログ by カエルダイバーさん
時間と共に忘れられる事例になりつつある。
筆者は、その後も国内で似たようなことが起きた事例を複数知っているので、今回のクマノミ類の記事では全て書き残していく決意である。
当時は、日本に分布しない生物が見られるのだからフィーバ状態であった。
分布域である現地、マレーシアやインドネシアでは、ガイド中に見せても見向きもされない不人気のクマノミの仲間がである。
残念ながら、無効分散も含め普通の分布域外で見つかった生物は、そのエリアでは人気種として紹介される事がある。
これを悪用した事例のひとつと言ってよいだろう。
流石に「やり過ぎ」感が強すぎて、良心あるダイバーからは嫌厭された。
スパインチーク・アネモネフィッシュが、放流(現在では移入と言う)されたのに気が付いた、神奈川県立生命の星・地球博物館の学芸員(当時)・瀬能 宏 博士より、採集根絶のお願いが複数のダイビングショップ宛てに依頼された。
しかし、一度ガイドコースの人気生物になってしまった生物を捕まえて殺すことを、躊躇しないでできるガイド・インストラクターは当時はいない。
持ち込まれた生物がもたらす数々の問題は、今でこそ社会問題として特定外来生物法などが作られ周知され、一般的な環境意識になってきていると言える。
当時はまだ、この様な意識は一部の固有の生態系が如何に重要かを学ぶチャンスがあった大学生以上のレベルのお話であり、筆者自身も在学中に学内授業でその様な講義をうけた記憶がない。
そんな時代であった。
環境問題は、今でこそ敏感になってきているが、これも日本国内ですら、地域格差・社会的格差がある事は、筆者も気が付いている事実である。
残念な事に、スパインチーク・アネモネフィッシュの場合は、某ダイビングショップの軽い思いつきで海に放たれたようである。
ダイビングガイド達は「飼育放棄では?」としていたが、では、なぜわざわざスパインチーク・アネモネフィッシュが生活できるサンゴイソギンチャクのある所に放たれたのか。
偶然と考えるのには「できすぎたお話」である。
飼育放棄された個体が偶然サンゴイソギンチャクにたどり着いた可能性もないとは言い切れないが、途中で捕食生物に捕食されずにたどり着く可能性は限りなく0に近いと言えるだろう。
現地のサンゴイソギンチャクの場所と岸との距離から生態学的に考えると、その様な想定に至った。
疑わしきは罰せずであるから「某」を付けさせて書かせてもらう。
また、当時の社会レベルから判断すると、「無知の脅威」の範囲であろう。
20年前の東伊豆の年間平均水温は、まだ低いサイクルであったため、このスパインチーク・アネモネフィッシュは定着できず、冬に死滅してくれた。
それ以後、富戸では、その様な事例はおきていない。
では、仮定の話として、現在の南西諸島方面で同じ事例がおきたらどうなるのか。
クマノミの生態を専門の一つとして長年観察してきた筆者の想定を考えてみた。
数値データは、悪用の恐れもあるので、伏せて書かせていただく。
2024年現在までのこの7年間は、日本周辺海域の平均水温は上昇している。
スパインチーク・アネモネフィッシュの飼育下での実験データで判っている、生存できる(餌を食べて2〜3カ月生きられるレベル)水温がある。
平均水温がその温度帯を超えている場所が、南西諸島では存在するのが現在の状況である。
先島諸島(宮古列島と八重山列島)は言うに及ばず、沖縄諸島の他の地域でも、冬期でも以前より黒潮の影響が強く、十分に生息可能な水温となっている場所もある。
沖縄本島の一部の地域では、冬期の水温でもかろうじて生存できるか、死滅するか、ギリギリの温度帯をキープするようになった。
以前は、沖縄本島にペットとして外国産海水魚は出回っていなかったが、現在は、ホームセンターで、普通にスパインチーク・アネモネフィッシュが売られている状況である。
また、Amazonなどのネット通販を使えば、手配はより簡単になった印象である。
もし、本当に飼育放棄で海に放たれたら、生存可能な状況下におかれていると推測される。
また越冬可能である場所では、翌年に2匹以上残っていれば、子孫を残せる水温時期が一年の間の長い期間続く。
子孫を残せれば、同じイソギンチャクを宿主として生活するクマノミ類が影響を受ける。
今の沖縄で広く見られる、タマイタダキイソギンチャクにペアで生活するハマクマノミは、優占種のスパインチーク・アネモネフィッシュに入れ替わりが起きる可能性が高い。
気が付いたら、ハマクマノミは、集団生活型の「クマノミ城」の生活様式しか見られなくなり、ペアで見つかるのは、ハマクマノミの生活水温限界値付近の島のみになってしまう可能性すら考えられる。
その様に仮定すると、水温上昇でスパインチーク・アネモネフィッシュの生活圏が自然に広がっても、同じことが起きる。
地球温暖化の指針として、無効分散生物の定着を観察する事は、その様な環境問題を考える上で重要である。
今回は、スパインチーク・アネモネフィッシュの過去の移入問題から、現在の考え方のお話をさせていただいた。
残念ながら、この20年前の事例以降も、ダイビング業者の国内移入の事例がある。
スパインチーク・アネモネフィッシュ以外の種に範囲を広げると、2024年も繰り返し移入を行っているダイビングエリアが複数ある事を知っている。
これについては、ハマクマノミの出筆時にお話させていただく。
自然の素晴らしさを伝える事が仕事のはずのダイビング事業者が、故意に本来存在しない種を金儲けのために海に放すことは、モラル的に許されるものではない。
また、一度飼育した生物が野生下で生き残る事は奇跡的な事である。
そんな、思いを「愛玩した生物」にさせるのはどうかと考えてほしい。
もし生き延びたとして、環境ダメージをあたえれば「愛玩した生物の子孫」は、特定外来生物として駆除の対象になる。
その一生を責任をとる覚悟が無く生物を飼うこと自体いかがなものか、よく考えてから行動してほしい物である。
筆者が声を大きくして伝えていきたい事である。
参考文献
- 『クマノミガイドブック』(著者:ジャック・T・モイヤー、発行:TBSブリタニカ、発行年:2001年)
- 神奈川県立生命の星・地球博物館「魚類写真資料データベース」
- 『デジタルカメラによる 水中撮影テクニック』(著者:峯水亮、発行:誠文堂新光社、発行年:2013年)
- Allen, G.R., 1991. Damselfishes of the world. Mergus Publishers, Melle, Germany. 271 p. (Ref. 7247)
- Amphiprion biaculeatus, Spinecheek anemonefish | Fishbase
- Amphiprion biaculeatus (Bloch, 1790) | WoRMS
- Systematics of Damselfishes
- 【チャーム】海水魚 スパインチークアネモネフィッシュ(ブリード) Premnas biaculeatus クマノミ charm動画 |YouTube
- スパインチーク(イエローバンド)クマノミの産卵です。(2012.08.27)|YouTube
- スパインチークとゴールドナゲットマロンの完全ペアー 市冨士|YouTube
- クマノミ属じゃないクマノミ!? スパインチーク・アネモネフィッシュ|Ocean+α
- 『富戸でダイビング(03.11)』静岡県の旅行記・ブログ by カエルダイバーさん
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