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アカオビハナダイ【ダイビング生物情報】〜2021年に発表された性変換の新事実〜

生物について

鮮やかな体色で目を引くアカオビハナダイ。
ダイバーに人気のハナダイの仲間ですが、2021年の研究により、性変換に関する新事実が確認されたことをご存知でしょうか?

雌として産卵した後に雄になるものの他に、産卵を経ずに雄となる個体群がいることが明らかとなったのです。
これが示唆するものとは……?

その他にも、近縁種のクマソハナダイとケラマハナダイとの見分けや二大観察地の紹介など、盛り沢山の内容で播磨先生に解説していただきます。

アカオビハナダイDATA

標準和名:アカオビハナダイ

学名:Pseudanthias rubrizonatus (Randall, 1983)

分類学的位置:スズキ目ハタ科ナガハナダイ属

種同定法 : D Ⅹ,16~17 ; A Ⅲ, 7~8 ; P118~20 ; LLp 41~47 ; TRa 5~6 ; TRb 16~17 ; GR 10~12+25~25~29.

分布:沿岸のやサンゴ礁(水深11m~133m).伊豆大島,相模湾,駿河湾,和歌山県南部,高知県柏島,愛媛県室手・引船越,鹿児島湾;台湾,香港,トンキン湾、西太平洋
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)

アカオビハナダイの識別方法:
本種とクマソハナダイ(Pseudanthias venator)の間では分類学的な混乱が見られていた。
学名についても論議され、1990年に瀬能宏氏により新和名が提唱されている。
『日本産魚類検索』では、本種・ケラマハナダイ(Pseudanthias hypselosoma)・クマソハナダイ(Pseudanthias venator)の3種の識別について記載されているので、紹介させていただく。

アカオビハナダイ
① 側線下方横列麟数は16~17
② 雄の体側に赤色横帯がある(生時※)
③ 雌の尾鰭上下端は赤い(生時※)

ケラマハナダイ(Pseudanthias hypselosoma)・クマソハナダイ(Pseudanthias venator
① 側線下方横列麟数は18~19
② 雄の体側に赤色横帯がない(クマソハナダイでは不明)
③ 雌の尾鰭後縁は赤い(ケラマハナダイ・クマソハナイダイでは不明)

本稿の内容で疑問が膨らまない様にケラマハナダイ(Pseudanthias hypselosoma)・クマソハナダイ(Pseudanthias venator)の識別も記載する

ケラマハナダイ(Pseudanthias hypselosoma
① 白色横帯は雄雌ともにない
② 雄の尾鰭上・下縁の先端は尖るが糸状にのびない。

クマソハナダイ(Pseudanthias venator
① 背鰭第5・6棘間下に白色横帯がある(性別差は不明)
② 尾鰭は糸状に長くのびる(性別差は不明)

1990年に提唱された標準和名・アカオビハナダイは、雄の体側面中央部にある赤色横帯に由来する。
1990年に提唱されたので、地方名・流通名などは存在しない。
英名は、『Reef Fish Identification』では、レッドバー・アンティアス(REDBAR ANTHIAS)と記載されている。
その他、レッドベルテッド・アンティアス(Red-belted anthias)と呼ばれている事(流通名の可能性有り)もあり、複数のコモンネームが存在する事が確認できる。

分布について筆者の観察では、2022年現在、房総半島南部から東京湾千葉側でも普通に観察されている。

また、駿河湾再奥部に位置する大瀬崎周辺では、以前は限られた場所に雄一匹の小さな群がりを構成しているのみであったが、ここ数年は一つの群がりに複数の雄が存在する安定したコロニーを形成するのを観察している。

同地周辺では、通常の産卵行動も確認されている。

2022年は、複数の雄が群れになって産卵行動に参加している姿も観察できるほど、個体数が急増している。

ここ数年の平均水温上昇の影響があると考察せざるをえない。

※生時:通常、魚類分類学では、標本同士の比較をすることが正しい。今例では、クマソハナダイと生きた状態での模様比較ができない。混同を避けるために生きている状態での模様であると示すために「生時」と記載されている。

ダイバーのための絵合わせ

アカオビハナダイの絵合わせを書く前に、大事な注意点を書いておく。
詳しくは参考文献「クマソハナダイの謎」を参照して頂きたいが、簡単に書くと、クマソハナダイは、発見時の標本が一個体のみで、新種登録され、現在まで、再発見されていない。
ゆえに、「幻のクマソハナダイ」と呼ばれている。

2007年に掲載された鹿児島大学総合研究博物館の「News Letter No.17」P14下部に写真が掲載されている。

現存する唯一のクマソハナダイの標本。アメリカ・スミソニアン自然史博物館所蔵。写真:Sandra J. Raredon
鹿児島大学総合研究博物館 News Letter No.17(※PDF)より画像引用

現在の魚類分類学のルールでは、発見個体が一個体のため、新種として登録ができない可能性を含んでいる。
まさに幻の種である。

クマソハナダイの再発見は、発見地である鹿児島だけでなく、魚類学研究者の悲願の一つとなっており、繰り返し再調査が行われている。

2022年現在、アカオビハナダイとの絵合わせでクマソハナダイの可能性を考える必要性は全くないと言って良いだろう。
絵合わせの際に気を付けないといけないのはケラマハナダイで、近年は伊豆半島各地で無効分散で確認されている。

2022年に雄の成魚まで成長した個体が見つかっているが、伊豆半島で見られるケラマハナダイはほとんど場合、まだ雌または雌型幼魚なので、尾鰭の違いを覚えていればよい。

アカオビハナダイは上下端だけがあかいろである。
ケラマハナダイは縁もあかいろである。(フチドリ模様)

アカオビハナダイの雌
ケラマハナダイの雌。尾鰭の模様が違う。(撮影地:大瀬崎)
ケラマハナダイの雌。尾鰭の模様が違う。(撮影地:大瀬崎)

アカオビハナダイは、日本国内では房総半島から鹿児島湾まででしか見つかっていない。
該当地以外では、雌・幼魚斑ならばケラマハナダイと考えて良いだろう。
また、該当地では、アカオビハナダイの雄には体の中央にあるあかいろのななめじまが一本入っているのを覚えておけばわかりやすい。

よく成熟した個体の体色は、藤色に近いむらさきでとても綺麗である。
産卵期の雄は、さらに艶やかな体色に変化する。

婚姻色がはっきりした産卵シーズン中の二次雄と思われる個体
婚姻色がはっきりした産卵シーズン中の二次雄と思われる個体 

何故かアカオビハナダイは、沖縄諸島では発見されていない。
筆者の観察した印象では、沖縄諸島に本種の好む環境の地が少ないためではないかと想定して、本種が好みそうな環境を探しているが、発見にいたっていない。
香港・台湾でも観察されているので、どんな場所にいるのか、興味が尽きない。

分布の中心が温帯域であるが、日本固有の種ではなく、温帯以外からも見つかっている。
本種の生息適水温・生息環境等の条件が、とてもシビアであると筆者は想定している。

アカオビハナダイの観察方法

アカオビハナダイの展示をしている水族館は、2022年現在いおワールドかごしま水族館と、マリンピア日本海だけである。
従って、水族館では観察しづらく、ぜひダイビングで観察して欲しい種である。

なぜ敢えてダイビングで観察して欲しいと強調するかといえば、残念ながら駿河湾産とされる個体が海水魚店にも少量であるが流通している様であるためだ。

この種を集めるために、限りなく黒に近いグレーゾーンの採集が行われているのではないかと危惧している。
残念だが、アクアリスト使用と思われる英名が存在しているので日本から輸出されている可能性も高い。

本種の本来の生態行動を見られるのは、日本の身近なダイビングポイントである。
重ねてにはなるが、ダイビングで観察して欲しいと筆者は願う。

観察時期

通常観察されているエリアでは、一年中観察されている。
(千葉県のみ、通年観察されているか、筆者は確認できていない)

生息場所

内湾から潮汐の影響を受け潮が出入りするエリアまでが、好んで生活するエリアの様である。
その様な場所の砂地の上にある岩場・漁礁などの上を好む。

個体数の多い場所では、その様な環境から外洋につながるゴロタ石の環境でも観察できる。

大群を形成する場所は稀で、鹿児島県錦江湾が有名である。
黒潮の蛇行で水温が高い状況が数年続くと、西伊豆大瀬崎の先端でも大群で観察できる。

生態行動

梅雨入り頃から秋にかけての繁殖期を迎えると、雄の体色は鮮やかな婚姻色に変わる。

これまでアカオビハナダイの繁殖行動は、小さな群がりを棲み家の周辺で作り、一夫多妻のハレムを形成して、雌から雄へと性転換する雌性先熟の繁殖様式をもつと想定されていた。
これはハタ科の仲間で最もポピュラーな生活様式である。

しかし、筆者の伊豆半島での観察ではその様な生態ではないと考えていた。
以前から、群がりの中に複数の雄が観察されていて、筆者の恩師でもありハナダイ類の繁殖生態研究で著名な鈴木克美氏の博士号論文であるサクラダイの研究に記載されている、サクラダイの生活様式と類似して見えていたからだ。

そんな中、鹿児島大学と東京海洋大学の研究室の共同研究において、新事実が確認され、2021年に学会発表をすると告知があった。
鹿児島湾で定期的に標本を採集して、生殖腺の組織学的観察を研究した結果から新たな事が判明したのだ。

新たな事実というのは、アカオビハナダイの全ての個体が、幼魚期から未成熟な若魚期に、精巣と卵巣が混在する両方の生殖腺を持つ過程を経由して、その後性成熟するということである。
ハナダイ類では、この様なタイプの生態は、過去に見つかっていない。

さらに、通常の雌として産卵を経験する前に、直接、雄に性分化する個体群(この研究では、そのタイプを「一次雄」といっている)の存在を明らかにした。
ハナダイ類に一般的に見られる性転換の方式は、雌として機能し、産卵後に雄へと性転換するもの(この研究では、そのタイプを「二次雄」といっている)である。

ちなみに、原文に従い性転換という言葉を用いたが、鈴木克美氏提唱の性変換の方が本種生態現象には合っているように感じる。

産卵期初期に婚姻色に変わり始めた二次雄
産卵期初期に婚姻色に変わり始めた二次雄

なお、この研究結果については、アカオビハナダイが今まで解っていた単純な一夫多妻だけでなく、複雑な社会構造をもつ繁殖生態であることを強く示しており、これは個体数密度が極めて高い鹿児島湾にのみ特有の現象である可能性も示唆しながら発表された。

実はこのテーマ、対象はハナダイ類ではなかったものの、筆者が東海大学海洋博物館の卒研時代に謎として発見した性変換の特徴の一つである。

通常は雌として機能しなくては雄に性変換できない種でも、ある一定の生態的条件を満たせば、雄に直接性変換が見られる可能性が高いとはいえ、当時は謎であった。
その謎こそ、卒業後、筆者が研究生として研究室に残ったきっかけであり、同じ研究室には、同じことに気が付いている院生もいた。
また、筆者の一学年下でチョウチョウウオの研究をする事になった卒研生もその疑問にぶつかっていた。

近年の無効分散の魚類の定着から繁殖を見ていると、この可能性が高い種ほど定着しやすい方式に感じている。

何故、東海大学海洋博物館の研究室でその研究が継続されなかったのかは、今回のお話しと離れすぎてしまうので控えるが、やっと一種類ではあるが、その可能性を証明できる種の発見は、心よりワクワクした。

その為、この原稿の執筆にあたり写真提供の堀口和重水中カメラマンと相談していた際、確認したい事がいくつかできて、原稿の公開は今シーズンの繁殖期を観察を終えてからにさせてもらった。

伊豆大瀬崎でのアカオビハナダイの繁殖行動は、以前から見られている。
群がりの中の雄がそれぞれの陣地を作り、互いにけん制し合う中で、一番良い場所に陣取った雄と成熟してお腹が成熟卵で膨らんだ雌が、一対一で水底から離れ産卵放精を行う。

アカオビハナダイが産卵する瞬間
アカオビハナダイが産卵する瞬間
アカオビハナダイが産卵する瞬間
アカオビハナダイが産卵する瞬間

成熟した雌が少なければ、良い場所に陣取った個体のみが繁殖行動が可能である。
しかし、この良い場所というのは、水温・潮の流れ・風向きなどの条件により変化する。
その為、よりよい場所をめぐって、強く大きい個体の雄は、産卵シーズン中つねに激しく場所争いを繰り返す。

それ以外の雄個体は、その周りでチャンスを待っており、産卵が最盛期になれば、チャンスがめぐってくる。

いくつかの条件がそろう最盛期は、潮が動いていて雌が繁殖可能な状況なら、朝から午前中一杯は産卵が行われる。
その様な条件の時に、小型の雄(雌として成熟していないと思われる物)が群れを作り、成熟した雌を追尾して産卵時に放精するのを今年初めて、大瀬崎でも確認した。

平均水温が上昇しているので、今年は確認できるかもしれないと考えてはいたものの、本当に起きると驚きより、少し環境変化の怖さを感じた。

筆者は、錦江湾に潜って観察した事はないが、群れで産卵する行動は同じなのかを確認したくなった。
今回、伊豆半島井田で産卵の瞬間を撮影した堀口和重水中カメラマンに錦江湾の様子を確認したが、そこまでの情報は彼も持っていなかった。

筆者の大瀬崎での確認では、繁殖時間は水温条件が一番重要で、水温が繁殖適応ギリギリなら午前中の最大干潮までの潮の流れが沖に向かう時間帯で行われ、限られた強い雄だけが産卵放精に参加している様に見えた。

適水温以上になると、次々に雌の成熟がおこり、産卵放精の見られる時間が長くなる様に見えている。

二次雄と繁殖行動をする成熟した雌
二次雄と繁殖行動をする成熟した雌

また、潮回りは、水温が適水温ギリギリの開始初期の時期は長潮から大潮周りまでが良い様である。
そして最盛期は、潮が動いている時間に広く行われるようだ。

この様に、産卵適水温の時期が長くなると爆発的に繁殖行動を行い、さらに雌としての成熟を飛び越えて雄になれる生態なので、爆発的に増える事が可能であると言える。
ここ数年の大瀬崎の個体数は筆者、41年の大瀬ダイビング歴の中でも、最も多くアカオビハナダイが見られる状況である。

この原稿の執筆中に伊豆大島から面白い情報が入ってきた。

これまで伊豆大島では、アカオビハナダイは産卵行動をしないと考えられていた。
しかも、一年中見られるのは雌のみである。
尚、ダイビング中に観察されている場所については伊豆半島西岸より深い水深からしか見つかっていない。

しかし、ここ数年、夏の産卵シーズンになると、急に群がりの中に赤い帯の入った雄と見られる個体が登場するそうである。
雄が雌にディスプレイしてアピールするのは確認しているが、産卵放精の瞬間は確認していないそうだ。
また、産卵期が終わる秋には赤い帯の入った雄型はまったく見つからなくなるそうである。

つまり、この系群の雌の一部が雄に性転換するスピードがかなり速いと言う事になると考えられる。
まさに性転換である。
大瀬崎で観察している雌として機能して雄に変わる個体は、そんなに短期間で性が変わるようには見えない。
中間型の期間が長いのである。

こちらは、鈴木克美氏が提唱した性変換と言った方が良い印象である。
これらのことをまとめると、伊豆大島には雌として機能して雄に変わった「二次雄」型の雄が伊豆大島には、存在しない可能性が高い。
再生産の限界地域か、無効分散の可能性も考えられる面白い事例である。

性変換中の個体。うっすらとあかいろのヨコシマ模様が見られる
性変換が終わったと思われる二次雄
性変換後期と思われる二次雄
性変換が終了したと思わる二次雄
性変換が終了したと思わる二次雄

伊豆海洋公園でも、伊豆大島の観察ポイントと同じような環境の深場にのみ本種がいる事を思い出した。
伊豆海洋公園のアカオビハナダイの繁殖行動はどの様になっているのだろうか。
興味は尽きない。

この種の繁殖戦略には、まだまだ解明されていない点があるという示唆を与えているように思う事例である。

今後、これらの疑問点も含めて本種が広く研究される事を心より望む。

観察方法

筆者は生息数の多い観察地の一つ、西伊豆エリアでは長年ダイビングをしてきたので、西伊豆エリアについては詳しく情報を書く事ができるが、もう一つの観察地・鹿児島県錦江湾ではダイビングをした事がない。
その為、今回は西伊豆での話に限定することをご了承いただきたい。

観察の注意点

本種の生息水深は、筆者の観察では水深12mから始まっている。
一番最初に、そのダイビングポイントにおいて、「自分のライセンススキルで活動できる場所でアカオビハナダイが見られるか」を現地に確認をしてほしい。

現在はとても稀な事に個体数が増えて、浅い場所から見られる様に変化しているが、たった数年前まではアドバンスダイバーでも、かなりダイビングに慣れていないと連れて行けない水深でアカオビハナダイはひっそりと生活していた。

必要なスキルは、中性浮力のコントロールができること、弱い流れの中をそれに逆らって泳ぐフィンスイムができることである。 

観察ができるダイビングポイント

2大観察地は、鹿児島県錦江湾と伊豆大瀬崎である。
大瀬崎より駿河湾湾奥エリアに広く見られるが水深が深い。

雄が群れているのを見たければ、通常見やすいのは、鹿児島県錦江湾のみであると言われている。

それ以外に観察されている場所

  •  千葉県
    勝浦市でも見られているが、キンギョハナダイの群れに紛れ込んでいる事がある程度(無効分散の可能性が高い)
  • 相模湾・東伊豆
    採集され標本になっているが、ダイビングポイントで通常として見られる情報は少ない。
    水深が深いが伊豆海洋公園・伊豆諸島伊豆大島などで群がりが観察されている。

一年中観察されているエリア

  • 西伊豆
    • 井田
    • 土肥
    • 黄金崎・安良里
  • 和歌山県
  • 高知県柏島
  • 愛媛県愛南町

海外の観察情報

  • 香港
  • フィリピン
    • バタンガス州
    • ルソン島南部アニラオ
  • タイ
    • プーケット島

生態を撮影するには

アカオビハナダイの通常の撮影なら、コンパクトデシタルカメラを使い慣れていれば十分に撮影ができるだろう。

しかし、産卵行動を撮影するとなると、シャッターレスポンスが物をいう。
これはシャッターが切れるスピードではなく、撮影者がその瞬間を認識してシャッターを切るまでの人間自身の反応時間が物をいう世界である。

今回の写真提供の堀口和重水中カメラマンの提供写真は全てその反応時間を鋭く研ぎすませた結果の賜物である。

もし、チャレンジするなら道具の性能も重要であるが、それよりも人間のトレーニングの方が重要であると言えよう。

SPECIAL COLUMN

魚類生態学の用語運用について

アカオビハナダイの性の仕組みについて知った時、とても驚き、感動すると共に、一部に違和感も感じた。
それは、本文中に登場する「一次雄」「二次雄」の使い方である。

特に違和感を覚えたのが、「一次雄」である。
この言葉が、魚類生態学に登場するのは、筆者が東海大学海洋学部に憧れていた頃、つまり中高生時代の頃にさかのぼる。
ベラ類の生態研究から使われ出したと筆者は認識している。

ベラ類のいくつかの種には、生まれながらに雄で生まれる個体と、雌として生まれて一度雌として成熟して産卵してから、生き延びて大型になった個体の中から一部が雄に変わる物が、一種類中に存在する事が調べられた。
その生まれながらの雄に対してあてられた言葉が「一次雄」である。
性が変わった雄に対しては、「二次雄」と使っていた。

ベラ類の場合、このそれぞれの繁殖行動に違いがある事が、東海大学海洋博物館発表の論文に、そして、筆者の先輩に当たる代の卒業論文に数多くの種から確認されて、魚類生態学の用語として、長くその表現を運用されていた経緯がある。
その様な生態を鑑みて、ベラ類の専門図鑑には、雄相・雌相という言葉を使う場合が多い。

雄相は、雄の個体と思われるという意味で、通常は「二次雄」の体色個体を指している。
一部、性が変わる途中も含まれる。
雌相は、雌と思われる個体の体色だが、幼魚の体色が雌と一致する場合は、幼魚の体色も雌相に含まれる。
つまり、生まれながらの雄も雌相に含まれる。

そう、「一次雄」という事は、雌と体色が基本一致している事であると、大学生当時、指導教官に教わった。

今回のアカオビハナダイの性の仕組みの解明には、とてもワクワクしたと同時に、生まれながらに雄でない、雌として機能しないで雄に変わった個体を「一次雄」として、正式な文書として使うのにとても違和感を感じる。

もちろん、一般には使い方が解らないのは良い。
しかし、この発表を見て興味を持つのは、それなりに魚類に興味を持つ若き日の我々のような幼年から青年期で、これからの魚類生態学を学びたい子供たちの世代ではないか。
そして、研究の中心になり調査をするのは生態学・生理学を学ぶ大学生である。
彼らの問題というより、指導教官にあたる人間の問題があるのではと問題提起させていただく。

指導者は、その道のプロであって導く人である。
自分の研究分野の長年の各大学の研究の実績を調べ良く知っているはずである。
特に、この様な画期的な発見をした場合は、先駆者の論文を深く調査するものと思う。

私は、研究の最前線から離れた過去の経緯がある。
そんな自分でも、気が付くレベルの用語運用を平気で行ってしまう現代の研究者・指導者には、疑問符が付く。

インターネットが普及した現在、一度文字におこせば、後は一瞬で広まってしまう。
校正や校閲なんて無いに等しいし、誤植の修正も厳しい。
研究内容が素晴らしければ素晴らしいほど、人の目を引く。
その現状をもう少し考えて新用語運用で範囲を広げるのか。それとも、新用語を造語するのか。
じっくりと吟味してほしいと心より思う。

言葉を造語すれば、後世まで使われる。
同じように、生物に名前を付ければ後世まで、ほぼ、永遠に使われる。
そんな事を厳しく指導してくださった鈴木克美氏の教えを思い出して、弱輩者だが書かせていただいた。

参考文献

播磨伯穂

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H.T.M.マリンサービス代表。 元日本ペット&アニマル専門学校講師。 元NAUIインストラクタートレーナー。 1963年東京生まれ。東海大学海洋学部水産学...

プロフィール

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