Scuba Monstersでは「生物探し」に利用しているデータベースを日々更新しています。
こちらの記事でも触れたとおり、ある「種」がどの「属」に分類されるのか、ある「属」がどの「科」に分類されるのかは日々変化しています。
さらに、毎日の様に新種も報告されますし、海外で既知であった種が日本国内に生息していることが確認されることで標準和名が提唱されることもあります。
全てを追いかけることは不可能な話であり、研究者によって見解が異なるケースも珍しくありませんが、なるべく最新の情報をご提供できるよう、WoRMSを中心に様々な情報源を毎日チェックしているんですよ!
さて、日本国内では生き物を学名で呼ばれてもピンと来ないので、和名(標準和名)が用いられますね。
学名に関してはWoRMSの様に「今はこうなってるよ!」と指示してくれる情報源があるのですが、和名に関してはありません。
従って、同じ学名に対して複数の和名が用いられてしまっていたり、この和名は本当に正しいのか(同物異名や同名異物になっていないのか)ということを確認することが非常に困難だったりします。
しかし、こと魚に関しては、ありがたいことに最新の”正しい”和名をまとめた資料が存在します。
それが日本産魚類全種リスト(JAFリスト)。
鹿児島大学の本村浩之教授が、これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名をまとめ、定期的に更新して下さっているのです!
日本産魚類全種リスト(JAFリスト) これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名
ということで、Scuba MonstersでもこのJAFリストを拠り所にさせて頂いており、これまでも常にJAFリストに従って更新してきました。
せっかくなので最新バージョンでどの様な更新が行われたのかを見てみませんか?
ダイバーが目にすることのある魚で変更があったものもありますよ!
ver 30.(2025年4月1日公開)の更新点
ver 30.では1つの科が修正され、8つの種が追加・修正されました。
科の修正
ギンハダカ科→ワニトカゲギス科

Smith et al (2024) NOAA Prof Pap NMFS 24 doi:10.7755/PP.24.13,ギンハダカ科Phosichthyidaeはワニトカゲギス目ワニトカゲギス科の新参異名(分子・形態系統解析)
とのことで、つまりはギンハダカ科という分類がなくなり、ギンハダカ科に属していた以下の種は全てワニトカゲギス科の所属となりました。
- シンジュエソ
- ホソワニトカゲギス
- ヨウジエソ
- ギンハダカ
- リュウグウハダカ
- タマブキイワシ
- ウキエソ
- ヤベウキエソ
- オキウキエソ
- ツマリウキエソ
なお、どれも深海魚なので、ダイバーが目にする機会は無いかもしれません。
論文
W. Leo Smith, Matthew G. Girard, H. J. Walker Jr., Matthew P. Davis
種の追加・修正
(和名なし) Hemiculter leucisculus (Basilewsky 1855)

Hemiculter leucisculus Tiouraren, CC BY-SA 4.0
「和名なし」なのでピンと来ませんが、コイ科の淡水魚です。
岡山県吉井川水系,笹ヶ瀬川水系,倉敷川水系,鴨川水系;国松・佐藤(2025)Ichthy, Nat Hist Fish Jpn 52:54-64,岡山県(標準和名の議論:カワイワシは使用できない)
とあります。
本来日本には生息していなかった種ですが、これまでも日本に移入されていることが確認されていました。
いわゆる外来種ですね。
これまでは種の同定にまでは至っていなかったものをしっかりと同定した結果、H. leucisculusだと判明した模様です。
和名なし、の理由については、和名として過去にカワイワシをあてたケースもある一方で、別の種を指してカワイワシとした文献や、そもそもカワイワシの名称が使用された頃から分類が変化した結果、和名・学名共に混乱しているのだそう。
過去にカライワシとされたものが現在の分類でどの種を指しているのかも不明なため、慎重に精査が必要とのことでした。
コブコオリカジカ Icelus crassus Andriashev 1937
コブコオリカジカの学名はIcelus ochotensis Schmidt 1927とされていたが,同学名の新参異名とされていたIcelus crassusが復活し,コブコオリカジカに適用
異なる種がひとつの種にまとめられることは多いですが、一度ひとつの種にされた後に、やっぱり別種だった!となることもままあります。
そういったケースですね。
そして、コブコオリカジカが提唱された際の標本は、最新の分類に照らし合わせるとI. ochotensisではなくI. crassusなので、こちらがコブコオリカジカの名前を引き継ぐことになるわけですね。
ちなみにコブコオリカジカはオホーツク海とタタール海峡(間宮海峡)の水深97~327mで記録されている魚なので、なかなかダイバーがお目にかかれるものでは無さそうですね。
論文
Validation of Icelus crassus Andriashev (Cottiformes: Cottidae), described from the Sea of Okhotsk
NATALIA CHERNOVA, YOSHIAKI KAI, ANNA ZORINA
ホラアナヒスイヤセムツ Epigonus glossodontus Gon 1985
Sato et al (2025) ZooKeys 1231:10.3897/zookeys.1231.136445,大東諸島,九州・パラオ海嶺
これまで日本から記録されていなかったものが日本からも見つかり、和名がつけられたパターンです。
これまではハワイのみに分布するとされていましたが、北大東島・南大東島周辺でも見つかりました。
見つかった水深は340~588mということで、こちらもダイバーが目にする機会はなさそうですね。
論文
Mao Sato, Shohei Ito, Yoshihiro Fujiwara, Keita Koeda
ハナイトギンポ Neozoarces pulcher Steindachner 1880
Markevich & Kukhlevskiy (2025) Zootaxa 5604:542-554,Neozoarces steindachneri Jordan & Snyder 1902はN. pulcher Steindachner 1880の新参異名(N. pulcherは日本からの記録は無いものの樺太やサハリン産に対してハナイトギンポより先に和名ヒメイトギンポが用いられており,属の和名も「ヒメイトギンポ属」が用いられている.そのため,本種の和名はヒメイトギンポにするのが妥当かもしれない)
コブコオリカジカとは逆のケースで、これまでハナイトギンポとされていたNeozoarces steindachneriはN. pulcherと同じだということがわかったので、N. pulcherがハナイトギンポの和名を引き継ぎました。
ハナイトギンポは北海道の沿岸、主に藻場で観察される魚で、もちろんダイバーが目にすることもできる魚です。
北海道のダイビングスポットでも観察される魚なので、これは見に行くことができますね!
論文
ALEXANDER I. MARKEVICH, ANDREY D. KUKHLEVSKIY
ボウズクモハゼ Bathygobius panayensis (Jordan & Seale 1907)
斉藤ほか(2025)Ichthy, Nat Hist Fish Jpn 53:16-22,日本初記録(宮崎県)
B. panayensisはこれまでフィリピン産の標本1個体のみで記載されていた魚でしたが、宮崎県の門川湾で発見され、和名が与えられました。
水深8mの定置網から採集されたそうなので、もしかするとダイバーが目にする可能性があるのかも!?
今回見つかった物はフィリピンから流れ着いた、いわゆる季節来遊魚の可能性も指摘されており、再び見つければ十分大発見、生態写真を撮影できれば非常に貴重な写真になりそうですね!
ホタルビオニハゼ Tomiyamichthys hyacinthinus Sato & Motomura 2025
Sato & Motomura (2025) Zootaxa 5588:174-184,伊豆大島,伊豆半島,高知県,薩摩半島西岸,奄美大島,沖縄島,西表島
今回の更新で唯一の、全くの新種です。
そして、最もダイバーが目にしやすい魚かもしれません!
実は新種といっても存在は広く知られており、図鑑『日本のハゼ』にも「オニハゼ属1種-3」として掲載されています。
つまり、新種の可能性が高いけどちゃんと調べないとわからない……という状態だったものが、はっきりと、これまで記載されていない種、新種だということがわかったわけですね!
伊豆大島、伊豆半島、高知県、奄美大島、沖縄諸島、西表島などで観察されており、水深6~35mのサンゴ礁域礁斜面に生息するとされているので、これを機に探してみてはいかがでしょうか!?
論文
Tomiyamichthys hyacinthinus, a new species of shrimpgoby (Teleostei: Gobiidae) from southern Japan
MASAYUKI C. SATO, HIROYUKI MOTOMURA
タマガンゾウビラメ Pseudorhombus ocellifer Regan 1905
ゴモクガンゾウビラメ Pseudorhombus pentophthalmus Günther 1862
Matsunuma et al (2025) Ichthyol Res doi:10.1007/s10228-025-01019-w,北海道南部,青森県,宮城県,福島県,新潟県,千葉県,東京,相模湾,石川県,三重県,和歌山県,京都,徳島県,愛媛県,高知県,瀬戸内海,山口県,福岡県,長崎県,熊本県,宮崎県,鹿児島湾,大隅半島東岸,東シナ海,従来のタマガンゾウビラメPseudorhombus pentophthalmus Günther 1862に2種を認め,日本本土にはタマガンゾウビラメPseudorhombus ocellifer Regan 1905,琉球列島にはゴモクガンゾウビラメ(新称)Pseudorhombus pentophthalmus Günther 1862
こちらも一度ひとつの種にされた後に、やっぱり別種だった!というケースですね。
少々ややこしいですが、元々タマガンゾウビラメとされていたP. pentophthalmusは現在の分類ではP. ocelliferなのでこちらが和名を引き継ぎ、名無しになってしまったP. pentophthalmusには新たにゴモクガンゾウビラメという和名が与えられました。
ちなみにゴモクガンゾウビラメの名前は京都大学総合博物館で来館者の方から和名を募集し、正式に採用されたんだそうですよ!
国内だと沖縄以外に分布するのがタマガンゾウビラメ、沖縄に分布するのがゴモクガンゾウビラメ、そちらも水深30~50mほどから生息している様なので、深場でヒラメを見かけたら要チェックですね!
論文
Mizuki Matsunuma, Seiya Kanai, Ying Giat Seah, Fumihito Tashiro, Hiroyuki Motomura
おわりに
海の中はまだまだわからないことだらけの世界。
こうした新たな情報に触れながら、様々なものに興味を持ってダイビングをしてみると、新たな楽しみが見つかることと思いますよ!
今まで当たり前にそこにいたのに、一般の方の写真から新種ということがわかった、というケースも存在するので、なんでもとりあえず記録&発信すると思いもかけない大発見につながるかも!?
本村浩之.2025.日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 30
https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html
からの引用です。