みんなで探そう!ウミウシに擬態する新種のゴカイを発見!
みなさん、ETワーム(新種と思われるボウセキウロコムシの仲間)を覚えていますか?
先日お知らせした『こんなの見たことない! 海のエイリアン図鑑』でもこのETワームが収録されていることをお伝えしましたね。
発見当初、どの生き物の仲間かすらもわからなかった謎の生物の正体が、ボウセキウロコムシの仲間、つまりゴカイの仲間だと教えて下さったのは名古屋大学菅島臨海実験所の自見直人先生です。
その自見先生が、この度新属新種のゴカイを発表したとのこと!
その名もケショウシリス!(Cryptochaetosyllis imitatio)
ETワームでゴカイの仲間に興味が出たとはいえ、いわゆる普通の、ミミズを連想させるようなゴカイであればスルーするところなのですが、今回の新種はなんとウミウシに擬態しているのだとか!
これはダイバーの皆さんなら興味を惹かれますよね!?
ということで、早速自見先生にお話を伺いました!
ケショウシリスについて
自見直人プロフィール
1991年、愛知県岡崎市生まれ。北海道大学大学院理学院自然史科学専攻博士課程修了。博士(理学)。海洋研究開発機構・北海道大学・国立極地研究所勤務を経て、名古屋大学理学研究科 講師。著書(分担執筆)に『小学館の図鑑NEO 深海生物』『ハチの干潟の生きものたち』等。
海産無脊椎動物、特に多毛類(ゴカイ)の生物多様性・分類・進化が専門。名古屋大学の臨海実験所がある三重県・菅島の磯や砂浜で1mmの生き物を探すほか、深海や南極へも足を運んで調査を行なっている。
ーーその節はお世話になりました。そして、新種の発見、おめでとうございます!
自見先生:ありがとうございます。ダイバーの方にも是非興味を持ってもらえると嬉しいです。
ーーゴカイって、やっぱりまだまだ「変なやつ」がいるんですね
自見先生:はい。今回発表したケショウシリスはウミウシに擬態していると考えているのですが、ウミウシに擬態するゴカイは世界で初めての報告です。
ウミウシに擬態をしているということだけでなく、足の中に毛を隠しているなど、ゴカイでは通常見られない形をしていることがわかり、新属新種となりました。
ーーウミウシと言えばダイバーにも馴染み深い生き物ですね。確かにそっくりです。
自見先生:共同研究者のゴカイの専門家でも「ウミウシと間違えて採ってきてました」というぐらい似ています。
触手の先端の模様や、大きい触手と小さい触手がある様に見える点など、細部まで似てるのはなかなかすごいなと思っています。
ーー見れば見るほどミノウミウシの仲間にそっくりですね。
自見先生:ケショウシリスが擬態しているミノウミウシの仲間は、餌から摂取した毒をミノの先端の刺胞嚢に保持し、その毒を利用して外敵から身を守っているものがいます。
つまり、ケショウシリスはそれらのウミウシに擬態することで、自分にも毒があるんだぞ、とアピールしているのではないかと考えています。
ーーミノウミウシの仲間が餌の毒を再利用するというのは聞いたことがあります。ケショウシリスにも毒はあるのですか?
自見先生:そこはまだ詳しくわかっていません。
触手の先端に毒は無いことがわかっているのですが、もしかすると体内の別の部分に毒を持っているかもしれません。
ちなみに、毒の無い生き物が毒のある生き物に擬態することをベイツ型擬態、毒のある生き物が毒のある生き物に擬態することを、ミュラー型擬態と言います。
ーーノコギリハギがシマキンチャクフグに擬態するのはベイツ型ということですね。
自見先生:はい。ゴカイではベイツ型・ミュラー型擬態ともに報告例はほとんどなく、非常に珍しい現象です。
ケショウシリスはこれらの擬態がどうやって進化したのか解明する鍵となる可能性があります。
また、共生するゴカイの仲間の中はカモフラージュのため、宿主に似る場合があります。これは隠蔽型擬態と呼ばれます。
例えば、Alcyonosyllis philiという種はヤギ類(ソフトコーラル)そっくりです。
ーーピグミーシーホース(Hippocampus bargibanti)が潜んでいそうなソフトコーラルですね!ピグミーシーホースを探している時に、知らず知らずのうちに目にしているのやも。
今回のケショウシリスはダイバーが目にする機会はありそうでしょうか?
自見先生:ダイビング中に発見できる可能性は十分にあると思いますよ。
我々がこれまで発見した水深も15〜45mと、ファンダイビングを行う水深とほぼ同じですしね。
ケショウシリスは元々、漁師さんの刺し網についていた物が最初の発見でした。
ちょうどその論文を書いている時期に古座・DIVE KOOZAの上田さんから「これは何?」とご連絡を頂いたんです。
手元に生体写真はなかったのですが、上田さんが見つけてくれたおかげで、論文に生体写真を使用することができました。
ーータイムリーだったわけですね。
実はご連絡を頂く以前、特にケショウシリス目当てというわけではなかったのですが、ウミトサカなど八方サンゴ類に共生する生き物を探しに古座で潜ったことがありました。
その時に古座から持ち帰ったウミトサカを研究室でよく調べたところケショウシリスを発見し、そこから論文を書き始めていたんです。
研究室内で発見したので上田さんはケショウシリスの存在は知らなかったはずで、ケショウシリスの存在を知らずともダイビング中に発見したということになりますね。
ーーウミトサカに乗るウミウシかと思ったらケショウシリスだったという可能性もありそうですね!
自見先生:そうですね。共生する生き物は当然、宿主に似た色彩や形で溶け込んでいるものと思っていたのですが、このケショウシリスは真逆でした。
なぜこんなにも目立つ見た目をしているのか不思議に思っていたところ、ウミウシに擬態していることに気が付きました。
これまで見つかっている物は長さが5mm程度と非常に小さいのですが、小さなウミウシを探すことに慣れている様なダイバーの方であれば、ある程度目立つので見つけられるのではないかと思います。
ーー分布については何かわかっていますか?
自見先生:これまで和歌山県、三重県、ベトナムで発見されていますが、詳しい分布はまだわかりません。
ケショウシリスが擬態していると考えられる、アデヤカミノウミウシやケラマミノウミウシ、サキシマミノウミウシなどが生息する様な地域が狙いどころかもしれませんね。
これまでに見つかっているのは日本が最も多いので、是非探してみてもらいたいです。
ーーボウセキウロコムシの仲間は特徴的な目を持っており、研究が進むことで目の仕組みや進化の過程を解明するのに役立つかもしれないと伺いました。
今回のケショウシリスにも何か謎を解明するための期待が持てるのでしょうか?
自見先生:海洋生物だけでなく、あらゆる生物で擬態は確認されていますが、進化の過程でどの様に擬態が獲得されてきたのかなどはまだよくわかっていません。
ケショウシリスの研究を続けることによって、擬態の進化の過程を解き明かすことに役立つのではないかと考えています。
ーー擬態、とっても不思議で興味深い現象ですもんね。最後に、和名の由来について教えて下さい。
自見先生:色鮮やかなので「化粧」、また、擬態するので「化生」とふたつの意味をかけています。
ーーおー!ダブルミーニング!!キングギドラシリスも言い得て妙でしたが、さすがの名づけです。今回も、ありがとうございました!
発見現場となった海より
論文執筆中にタイムリーにも生体を発見したという、和歌山県・古座、DIVE KOOZAの代表、上田さんにもお話を伺いました!
上田直史プロフィール
DIVE KOOZA代表。
串本エリアで10年修行をし、串本町の東海岸にある古座(コザ)という未開のエリアを2012年から潜り開拓。
メインの古座エリアをはじめ、海のコンデションにより、串本エリア・紀伊大島など複数のダイビングエリアの中から、その日の海況に応じてベストなダイビングエリアを選択し、幅広く南紀串本の魅力を日々発信し続ける窒素九州男児。
ーー発見の経緯を教えて下さい
上田さん:よく潜っているダイビングポイントで、ふと目に入った生き物が見たことのない生き物で「なんだろう?」と思ったことが始まりでした。
ーーよく潜る場所での発見だったんですね。5mm程度の生き物に疑問を抱く眼力、さすがです。今でも見つかるのでしょうか?
上田さん:1個体はいる場所を把握しています。水深20m程度の同じウミトサカで長く観察できていますよ。他にも丁寧に探せばきっと見つかるのではないかと考えています。
ーーあまり移動しないのですね!ますます探してみたくなってきました。新種と聞いて、いかがでしたか?
上田さん:ゴカイの仲間ということにも驚きましたが、世界でもまだ知られていない生態を持つ生き物だとわかり、非常に驚いています。
ーー海の中はまだまだ知られていないことばかりですね。
上田さん:はい。どうやら、私がメインフィールドにしている古座には、様々な生き物の新種がいる様です。
以前からゴカイの仲間以外にもヒモムシやホヤなど様々な生き物の専門家の方がいらっしゃっています。
ーーというと?
上田さん:たくさんの方が関わっているので詳細をこの場でというのは差し控えますが、近々また古座の海で、ある生き物の新種が見つかるのではないかと思っています。
ーーそれは楽しみです。それにしてもゴカイにヒモムシ、ホヤ、となかなかマニアックですね(笑)
上田さん:そうですね(笑)マニアックな世界は奥が深いです。もちろん古座の海は、マニアックなだけでなく、普通にダイビングをしても楽しい海ですよ!
古座の海は古座川から流れ込むミネラル豊富な水に育まれ、様々な生物が生息できる環境が整っています。
外洋エリアでは、ブラックトンネルなどの豪快な地形からカラフルなソフトコーラル畑まで、さまざまな景観を楽しめます。
そして、その周りには回遊性生物や多くの根魚などが群れていて、最高の海ですよ!
ーーここぞとばかりに猛アピール(笑)でも、すぐにでも潜りに行きたくなりました。マニアックな方で(笑)
上田さん:それはお任せします(笑)いつでも、お待ちしています。
ーーお忙しい中ありがとうございました!
おわりに
正直なところ、ボウセキウロコムシの仲間以外のゴカイの仲間への興味は薄れかけていたのですが、ケショウシリスによって再び興味があふれ出てきています。
ETワームもケショウシリスの様に新種として記載できるレベルまで観察せねば。
ケショウシリスも発見してみたいものです。
そうこうしているうちに、また新たな「変なやつ」を見つけられちゃったりして……。
妄想はつきません。
魚やウミウシの観察はもちろん楽しいのですが、皆さんも是非、それ以外の様々な生き物にまで興味を広げてみてもらえれば、嬉しく思います。
ケショウシリスはまだまだ様々な日本国内のダイビングスポットで見つかりそうな予感がするので、是非みなさん探してみてくださいね!
そして、見つけた際には是非ご連絡、お待ちしています!!
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