ハナビラクマノミ【ダイビング生物情報】~花びらの名の由来とは~

生物について

淡い色が美しいハナビラクマノミは日本国内での発見から50年足らずと比較的新しく発見されたクマノミの仲間です。
わからないことも多いクマノミの仲間ですが、名前の由来や生態行動には興味深い点もたくさん。

今回は、そんなハナビラクマノミついて播磨先生に解説して頂きます。

また、ハナビラクマノミを含めたクマノミの仲間の減少から導き出される注意喚起についても、是非心に留めておいて頂ければと思います。

ハナビラクマノミDATA

標準和名:ハナビラクマノミ

学名:Amphiprion perideraion Bleeker, 1855

分類学的位置:スズキ目スズキ亜目スズメダイ科クマノミ亜科クマノミ属

種同定法:D Ⅸ~X,16~17; A Ⅱ,12~13 ; P1 16~18 ;LLp 32~43; LR48; GR 17~21.

分布:分布:水深3~少なくとも30mの潮通しのよいサンゴ礁域のシライトイソギンチャクに、セジロクマノミ、ハマクマノミなどとともに共生する。
和歌山県串本,屋久島,琉球列島,南大東島;台湾南部・東沙群島,南沙群島,東インド―西太平洋,マリアナ諸島,パラオ諸島,マーシャル諸島,トンガ諸島,サモア諸島.
(本記事では、『日本産魚類検索』に従った)

ハナビラクマノミの識別方法:
識別など詳しい事は
【新提案】クマノミの仲間を6グループに再考~新クマノミガイド①~
ハナビラクマノミ・ハマクマノミ・カクレクマノミの識別~新クマノミガイド②~
を参照していただきたい。

分布について本シリーズでは『日本産魚類検索』に従うことにしているが、筆者は誤植ではないかと考えている。

まず生息水深について「少なくとも30m」とあるが、シライトイソギンチャクはそんなに深い水深では褐虫藻の光合成ができないので、成育しない。
クマノミ類の共生するイソギンチャク類は太陽光を求めて、そのエリアで最も光合成に有利な場所に移動する生態を持っており、この様な水深に留まり続けるイソギンチャクは存在しない。

また、国内では少ないが、センジュイソギンチャクにも共生する。
記事冒頭の写真はセンジュイソギンチャクに共生しているハナビラクマノミである。

次に「セジロクマノミ、ハマクマノミなどとともに共生」と記載されているが、稀にクマノミの群がり内に着底したてと思われるの幼魚・性別不明の小型個体が見つかる事があるが、通常はハナビラクマノミ単種のみで生活している。
少なくとも筆者は、これらの種との同居は発見していない。

着底して数日と思われるクマノミの群がりにいたハナビラクマノミの幼魚(撮影地:沖縄本島昆布ビーチ)

また、「屋久島」の記載について、筆者の調査や筆者のウォッチャーからの情報により、屋久島では無効分散として見つかる場合があることがわかっているが、「和歌山県串本」の部分は疑問が残る。
筆者が調査した限り、串本でハナビラクマノミを観察した例はなく、仮に観察例があったとしても、無効分散で流れ着いた非常に稀な例ではないかと推測される。

無効分散:分布地域を離れて流れつくこと。たどり着いた先では、成魚になれず繁殖もできないものをいう。以前は、死滅回遊魚と呼ばれていたこともある。季節性がある場合に季節来遊魚とも呼ぶ。

以上から、分布について『クマノミガイドブック』の記載に筆者の見地を加えて記載させていただくと以下の様になる。

水深3m~イソギンチャクの成育水深まで見られる。
琉球列島では、主にシライトイソギンチャクで生活している。
センジュイソギンチャクで生活する個体は大変稀で、琉球列島ではカクレクマノミが優占種であると推測される。
東インド―西太平洋では、センジュイソギンチャクに最も多く見られ、ハタゴイソギンチャクにも見られる。

通常は他のクマノミ類と同じイソギンチャクで生活することはないが、沖縄本島では稀に、クマノミが生活しているシライトイソギンチャクに、幼魚・性別不明の小型個体が見つかることがある。

『クマノミガイドブック』でジャック・T・モイヤー氏は、浅いリーフでたくさん見られると解説しているが、筆者の観察では2024年現在、残念ながら浅いリーフでたくさん見られる、という事はなくなった。

和名の由来となっているセ(背)ジロ(しろいろ)の模様について、頭部のしろいろよこしま模様には、個体差・地域差がある。

体色は、桜色からももいろから、ももいろがかっただいだいまで、地域や棲むイソギンチャクの種類によって差が見られる。

体色バリエーション:シライトイソギンチャクに棲む個体(撮影地:沖縄本島眞栄田岬)
体色バリエーション:センジュイソギンチャクに潜む個体(撮影地:沖縄本島山田ポイント)
体色バリエーション:浅い水深の個体は、体色が濃い傾向がある(撮影地:セレベス海)
体色バリエーション:水深15mの体色はだいだい色と言っても良いだろう(撮影地:レンベ海峡)
体色バリエーション:この体色は、この一帯でしか見た事がない(撮影地:テニアン島)

沖縄国際海洋博覧会のための生物調査で見つかり、標準和名があてられた。
サクラ(桜)色のハナビラ(花びら)から付けられている。

地方名として沖縄では「イヌビ」と呼ばれているらしいが、カクレクマノミなども同じ名称が用いられる事から、小型のクマノミ類の総称の可能性が高い。

英名は、最も使われているのがPink anemonefishであり、その他にPink skunk clownfishも使われている。

ダイバーのための絵合わせ

日本産のクマノミ類6種の中であれば、背中側に1本のしろいろの線があり、頭部に幅の狭いしろいろのよこしまが1本見られる点で、他の種と容易に区別がつくだろう。
沖縄ではシライトイソギンチャクに最も多く見られ、体色は桜色かももいろの個体が最も多い。

近縁種は、モルディブ・アネモネフィッシュ(Amphiprion nigripes)が挙げられる。

モルディブ・アネモネフィッシュは、頭部のしろいろのよこしまの幅がハナビラクマノミのそれよりも広く、背中の1本のしろいろの線も見られない。
また、腹鰭・尻鰭がくろいろをしている点からも見分けられる。

モルディブ・アネモネフィッシュはセンジュイソギンチャクが複数まとまっている場所では「クマノミ城型」集団行動をする事が知られている。
一方ハナビラクマノミからは、その様な生態を発見した情報を筆者は知らない。

モルディブ・アネモネフィッシュについては、手元に写真が無いので以下のサイトやYouTubeを参照してほしい。

水族館魚図鑑-モルディブアネモネフィッシュ(Amphiprion nigripes)

ハナビラクマノミの観察方法

琉球列島では、特に沖縄本島中心に個体数が減っている印象がある。
もちろん、開発により海沿いのリーフに影響が出ているためであると考えられるが、それだけではなく、海水魚飼育用にイソギンチャク類が狙われているためでもあると筆者は考えている。

沖縄産イソギンチャク類は、年々取引価格が高騰している。
最近では沖縄本島からフェリーで渡る周辺の島々でも、岸から入れるリーフでは乱獲によりイソギンチャク類が減っているという話を聞く。

映画『ファインディング・ニモ』のヒット以降この様な現象が起きている。
クマノミ類のほとんどは養殖で供給されているが、イソギンチャク類の繫殖は水族館など一部で、なおかつ一部の種で成功しているに過ぎないからである。

乱獲を行う業者がイソギンチャクの生息場所を聞き出そうとする事例があとを絶たない。
沖縄本島のダイビングショップも心得ており、最近は電話問い合わせなどには詳しく答えない様になっているが、ダイビングの申し込みを装って情報を聞き出そうとする悪質な業者までが登場しているそうだ。

そのため今回は、あまり詳しく書いてヒントにならないようにしたいと思う。

ダイビングに関わる皆様業界人各位様へ

近年、日本産センジュイソギンチャクが姿を消しています。
日本産センジュイソギンチャクは特に高価な値段で取引されるためです。
そして、このイソギンチャクと共に暮らす、クマノミ類が姿を消しています。
情報の取り扱いには、十分にお気をつけください。

観察時期

棲んでいるイソギンチャクの場所がわかっていれば、一年を通して見られる。

生息場所

本来は、岸から続くサンゴ礁の縁リーフエッジで潮通しが良い場所の、触手が長いタイプのシライトイソギンチャクやセンジュイソギンチャクに群がりを作っているのが見られる。
最近は、陸からのエントリーが不可能な場所(ガケ下)のリーフ(サンゴ礁)や、リーフから離れている根の上で見られる事が多い。

また、近年の沖縄本島では触手が長いタイプのシライトイソギンチャクで見る事が多く、センジュイソギンチャクに群がりを形成している事は稀である。

幼魚タイプ(小さいから全て幼魚とは言えない)は、群がりの中でごく稀に見つかる程度で、日本では6月から9月に見られる場合が多いと言われている。
ただし、筆者はハナビラクマノミの群がりの中にいる幼魚タイプこの情報のタイプの幼魚を観察した事が無い。

沖縄本島では6月位から、クマノミ(Amphiprion clarkii)が群がりを形成する触手が長いタイプのシライトイソギンチャクに、着底したばかりのハナビラクマノミの幼魚を見つける事があるが、成長前に姿を消してしまう事が多い。

屋久島でも、夏場から無効分散として流れ着いた個体が見つかるが、冬期に姿が見られなくなってしまう。
和歌山県串本での発見は、同じように無効分散の幼魚では無いかと考えられる。

繁殖できる限界地域は判っていない。

生態行動

繁殖賞は国営沖縄記念公園水族館(現・沖縄美ら海水族館)が、昭和56年に受賞している。

繁殖賞:日本動物園水族館協会による表彰の1つで、飼育下で日本で初めて繁殖に成功し、6ヶ月間以上飼育に成功した施設へ送られる。

ハナビラクマノミは日本産クマノミ属6種の中で、イソギンチャクへの依存度が高い方に入る。

沖縄国際海洋博覧会が行われる前に行われた海洋生物の調査に参加した、東海大学海洋博物館の研究職員は、当時日本に分布が確認されていなかったハナビラクマノミを採集して、東海大学海洋博物館内の研究棟で繁殖実験をするために輸送を試みたが、全て失敗している。
当時の輸送方法では、最先端のメンバーでも運ぶことができなかった。

死んでしまったハナビラクマノミが水底にその落ちる姿が、まるでソメイヨシノの花びらが散るが如くで、体色ともマッチしていたので、ハナビラと呼んでいたそうである。
それが標準和名の由来だと教えていただいた。

また、当時日本産クマノミ属6種全ての繁殖を目指していた東海大学海洋博物館の田中洋一二先生は、ハナビラクマノミ・セジロクマノミの繁殖を、国営沖縄記念公園水族館に勤める卒業生に先を越された事を、笑いながら悔やんでいた。

実際に筆者も卒業した後、状態が良いと判断したハナビラクマノミを手に入れて飼育実験してみたが、とても弱く、少しでもストレスがかかると、簡単に桜の花びらの様に落ちてしまった。

以上から、水族館でイソギンチャクと共に飼育しているのは、いかに相当の熟練と知識の上で成り立っているかを考えよう。

現在、養殖の個体は出回っていない様である。

同グループの近縁他種との生殖分離等も全く調べられていない様である。

クマノミ類共通の性変換の仕組みとして、『クマノミガイドブック』p104~105に記載されている通りの生態を持っていると思われるが、それを踏まえた本種の詳しい調査と言えるレベルの研究はない。
性変換の事実が判明する以前の古い調査があるだけである。

本種を観察していると、ひとつのイソギンチャクに生活する個体数は3個体までの事が多く、それ以上の個体が一緒に暮らすのを見つけた記憶がない。

センジュイソギンチャクに生活するハナビラクマノミ(撮影地:ロッシュリーフ・水深5m)

サイズ別に行動を見ていると、最大が雌、2番目のサイズが雄で、3匹目は未成熟であると思われる行動をとっている。

群がりの基本構成。大きい順番に雌・雄・未成熟(成長を抑制されている個体)(撮影地:沖縄本島眞栄田岬)

この様な、安定した群がりでは、それより小さい個体を見つけた事が無い。

稀にクマノミ(Amphiprion clarkii)の群がりに、成長を始めたばかりのハナビラクマノミがいるケースがある。

この数年の観察では、段々にクマノミの個体数が減ってきている。
セジロクマノミの様に、クマノミの幼魚がイソギンチャクへ着底するのを妨害をして、「乗っ取り行動」をしているのではないかと想定して観察を続けている。
その様な行動がまさに始まろうとしていると考えている場所から、ハナビラクマノミの幼魚を発見している。

セジロクマノミにみられる、クマノミ(Amphiprion clarkii)とのハイブリッド(雑種)と思われる事例は、ハナビラクマノミでは現在まで全く報告が無い。

センジュイソギンチャクにカクレクマノミが生活している場所で、ハナビラクマノミの幼魚を見つけた事はない。
センジュイソギンチャクにおいては、カクレクマノミの方が優占種であると思われる。
ただし、今後も継続観察が必要だと考えている。

観察方法

国内では、観察される場所が限られている。
奄美大島から沖縄本島、八重山諸島まで分布が確認されているので、ダイビングサービス・インストラクターに、存在の有無を確認してリクエストしてほしい。

幼魚と思われる物は、屋久島で無効分散、沖縄本島では特殊な環境に見つかるので、現地サービスの情報から近日に見に行かないと中々見られないだろう。

東南アジアでは、センジュイソギンチャクで生活する個体が多く見られ、日本産より見やすい事が多い。

観察の注意点

生活しているイソギンチャクに依存性が特に強い種で、一気に近づかず、よく行動を観察してから距離をつめよう。
イソギンチャクのフチからこちらを見ているのなら、危険を察知している最中と考えよう。
それ以上刺激すると、イソギンチャク内を逃げ回ってしまう。
一度驚かせると、中々落ち着いてくれない。

東南アジアのセンジュイソギンチャクで生活する個体は、警戒心の薄い個体が多いように感じる。

観察ができるダイビングポイント

奄美大島から八重山諸島までの、潮通しの良い場所にあるダイビングポイントから見つかっている。
それより北部にも、安定した成育環境となる、触手が長いタイプのシライトイソギンチャクが分布しているので、北限(繁殖限界)はもっと北側にある可能性がある。

【WANTED】日本産クマノミの北限を知りたい〜クマノミの仲間の写真&情報求ム!〜』で、情報を募集させていただいている。

奄美大島より北の情報をお待ちしています。

生態を撮影するには

触手が長いタイプのシライトイソギンチャクに生活するハナビラクマノミは、一度驚くと中々撮影させてくれない。
最初の1枚目の撮影が肝心である。

離れた所からなるべく大きく綺麗に写すなら、35m換算で100mm程度のマクロレンズが良いだろう。
コンパクトデジカメでは、T側にズームをして撮影するのが良いだろう。

センジュイソギンチャク上で生活する個体は、シライトイソギンチャクで生活する個体より警戒の弱い個体が多い。
そういう環境が日本には少ないが、海外では多いのでそれを狙うのも成功のコツである。

『クマノミガイドブック』に掲載された映像が、センジュイソギンチャクで生活している個体なのはその為である。

参考文献

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